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第207話 視察の旅 その11 三村までの道普請

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 僕達は、アンドル達移住者を受け入れるための準備を進めることにした。二村は、とにかく広大な平地が広がっており、農地に適した場所がここかしこにある。アウーディア石の効果も出始めているのか、砂地のような土地がしっとりとした豊かな土壌へと生まれ変わっていた。

 会議の翌朝にマッシュから急ぎの報告がやってきた。どうやら船着き場の候補が決まったようだ。街道から南に数キロメートル逸れる場所にあるようだ。二村からすると、少し距離が離れてしまうな。とにかく、僕達はその場所に向かうことにした。今回の目的は、船着き場の整備をする際の用地の確保だ。それに併せて、居住区の確保もやっていく。僕は、用地が確保でき次第、街道から道を敷設する工事をするつもりだ。道の有無で、開発の速度は全く変わってくる。

 朝食を済まし、僕とルド、マッシュ、マルゲルと自警団を引き連れて、出発することにした。ミヤとシェラは相変わらず馬車での旅を希望していたのだった。目的地に到着すると、先行していた村人がこちらに手を振って待ち構えていた。船着き場の設置場所を探すのに相当苦労したのだろうな。なにせ、海に潜って水深を確認しながらの作業だからな。それを短期間で終わらせてしまうとは。

 村人からここです!! と言われた場所は、岩礁がむき出しになっている、とても開発に適さないような場所だった。ここに船着き場を作るのに何年掛けるつもりなんだ? といっても、僕には土魔法があるからすぐに出来てしまうのだが。本当に有能だよ、魔法は。まずは、岩礁地帯を均すところから始める。

 岩礁地帯に一旦、海水が入らないように遮断するようにぐるりと囲むような壁を作った。今日は波が穏やかで、少しの時間だけ持てばいいから、薄い壁でもなんとかなるだろう。海水の流入を防げたことを確認したら、岩礁に入っている海水を全て取り出す作業だ。といっても、海水を直接取り出すことは出来ないので、水魔法で水だけを取り出していく。すると、辺り一面は真っ白い岩礁地帯となった。

 次は岩礁地帯に大小の石や岩を入れていき、隙間がなく平たくなるように造成していった。ここまでの作業が三時間ほどだ。まだ、均した岩礁地帯は水面より少し高いくらいだ。もう少し高くするために、切り出した石を岩礁地帯に並べていき、隙間を砂でぎっちりと埋めた。これで、海水で侵食される心配もないだろう。あとは、この岩礁地帯から船着き場を設置していけば、とりあえず完成だ。ここは確かに水深はかなりあるな。これなら、岩礁地帯の岸壁に直接、船を停留できそうだな。この調子で、あと数百メートルくらいを同じように工事していけば、どんなに大型船でも数隻は停泊することが出来るだろう。もっと、船が増えるようだったら桟橋を作ればいいだろう。

 僕が作業をしている間に、ルド達は周囲を探索し、居住区と農地の大まかな予定地を決めてきたと言う。ここには少なくとも五千人は住むことになるからな。そういえば、ここは二村とは随分と離れてしまっているから、同じ村とするのには無理があるかもしれないな。とりあえず、ここの三村としておくことにしよう。

 夕方になってしまったので、僕達は一旦二村に引き上げることにした。次の日は僕とミヤとシェラだけ別行動を取る。道の整備をするためだ。自警団の半分だけ付いてきてもらい、街道を東に進んでいくことになった。そこから南に向かって一気に道を作っていく。ここも新村と同様に幅をたっぷりと取った道にしていく。三村から大量の物資が運ばれていく様を想像しながら、土魔法を使っていったので、疲れを感じることなく一気に進むことが出来た。

 三村まで間近というところで、昼食となったのでミヤとシェラと食事を摂ることにした。ミヤが心配そうな口調で話しかけてきたのだ。

 「ねぇ、ロッシュ。最近、村を離れて、こっちに来ることが増えているじゃない? ロッシュは、将来、この辺りに住むつもりなの?」

 ミヤの質問がどういう意味を持っているのか分からなかったが、僕が考えていることを話すことにした。

 「そうだね。まだ分からないけど、この周辺は農業をやるのに適しているし、大勢を養うっていう意味では、この周辺を拠点として活動していくのも面白いと思っているよ。どうして、そんなことを聞くんだ?」

 「正直に言えば、あまり村から離れたくないのよ。やっぱり、私は魔族だから、魔素の薄い土地に長期間いるのは心配なのよ。だから、ここにロッシュが永住するんじゃないかって不安なのよ」

 そうだったのか。ミヤがそんな不安を抱いていたなんて知らなかったな。種族の違いに無頓着だったが、そういう心配をするのも考えなければいけなかったな。

 「そんな心配をしているなんて気付かなくて、済まなかった。ここに拠点を構える話は、まだ本決まりした話ではないんだ。だから、心配しなくてもいいぞ。僕は、公国に住む民を大切に思っているが、家族が一番だ。ミヤが不安に思うようなことは僕はしないから安心して欲しいんだ」

 「ありがとう、ロッシュ」

 そういうと、ミヤは微笑んでくれた。こういう機会だ。シェラも不安に感じていることがあるのだろうか?

 「私はですね。暖かい布団とお酒があれば、どこへだって旦那様に付いていきますよ。それこそ、天界だって魔界だってね。ミヤさんの話は杞憂だと思いますよ。ただ、魔族は魔素がない場所では子供ができにくいかもしれませんね」

 え!? なにそれ。初めて聞いたんですけど。まぁ、知らないのは当然なんだけど。そういう大事な話は、もっと早く言ってほしいんだけど。ただ、僕はそれぐらいの感想だったけど、ミヤの態度は尋常ではない。シェラに飛びかかりそうなくらい近づき、声を低くして、もっと詳細に教えなさい!! と鬼気迫るものがあった。

 「ミヤさんが知らないなんて。魔族の子供が生まれる時、大量の魔力を必要とします。魔力そのものが魔族の形を為す力そのものですから。それが足りないと、どうしても子供が産まれにくいというのがあるんです。魔の森のような魔素が濃い場所ですと問題ないのですが、村のような魔素がない場所ですと難しくなりますよ。もちろん、相手が魔力の高い旦那様ですから、可能性がないわけではないですが」

 シェラの話を聞いて、ミヤは愕然とした表情をしていた。ミヤが、小さな声で、私の今までの努力は……と呟いているのが聞こえた。聞かなかったことにしたほうがいいだろうが、落ち込んでいるミヤを見るとかわいそうになってくる。僕がミヤの方に手をやり、慰めようとした。しかし、ミヤがこっちを振り向いた。

 「ロッシュ。話は聞いたわね。シェラの言ったことを前向きに考えることにしましょう。私の子供が出来る光が見えたわ。魔の森に私とロッシュの別荘を作りましょう。きっと、ロッシュはこれからも魔族と契を結ぶはずよ。そのためにも絶対必要だわ!!」

 まぁ、ミヤとは別に魔族と契を結ぶ気はないが、ミヤの鬼気迫る表情を見て、首を横に振ることは出来なかった。僕が頷くと、何を思ったのか急に立ち上がって、行ってくるわ、と言い残して街道を東に向かって消えていった。まさに消えたという言葉にふさわしいほどの早さだった。底知れないミヤの実力に僕がただ、呆然と東の方角を眺めるだけだった。ちなみに、ミヤが最後に護衛の吸血鬼を寄越すとだけ言っていたな。別に必要はなさそうだが。

 「あら、私、余計なことを言ってしまいましたか? あんなに必死なミヤさんを見るのは初めてですね。今夜から一緒に飲んでくれる人がいなくて寂しくなってしまいます」

 こんな時も酒の心配か。まぁ、護衛に来てくれる吸血鬼も酒豪だろうから満足の行く相手となるのは間違いないだろう。そのことをいうと、これ以上ないほど安堵した表情を浮かべていた。どんだけ、憂いてたんだよ。

 変な感じで終わった昼食後も道普請を続け、夕方にはなんとか三村まで結ぶことが出来た。これで、物資運搬用の船が完成すれば、公国の物流は一変することは間違いないな。そうなると、物流を任せているリックにも相談しなければな。
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