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第200話 視察の旅 その4

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 ライルが宿を用意していてくれたおかげで快適な朝を迎えることが出来た。久しぶりに酒を飲んで、ゆっくりと眠ることが出来たので、ミヤとシェラは朝から機嫌がいい。しかも、用意された朝食も村からの物資で作られているので、とても満足する内容だった。僕達がゆっくりと食事をしていると、ロドリスが宿に訪れた。

 「ロッシュ公。おはようございます。ゆっくり休めたでしょうか。昨夜は顔をお見せ出来ずに申し訳ありませんでした。私が街に戻ってきたのは、夜遅くでございましたから、夜分に挨拶は失礼と思い、朝になってしまいました」
 「おはよう。ロドリス。久しぶりだな。随分と仕事をしているようだな。ライルから聞いたぞ。とりあえず、中に入ってくれ。聞きたいことが色々とあるんでな。ライルはもう砦の方に向かったのか?」

 ライル様は早朝から発っています、と返してきた。昨日の深酒でよく動けるものだな。僕は、まだ昨日の酒が抜け切れていないぞ。僕は頭痛がする頭を押さえながら、ロドリスを中に招き入れ、接客室として使えそうな部屋に向かっていった。部屋には、ソファーとテーブルが置いてあるだけの簡単なものだったが、今は開発の初期だ。このような部屋があるだけで十分だ。僕はロドリスをソファーに座るように促し、二人で対面する形となった。

 「さて、ロドリス。まずは、この街の開発に尽力してくれていることに感謝をしよう。この辺りの地理感があり、人望を集めているロドリスだからこそ、出来る仕事だろう。ライルもロドリスに感謝していたぞ」

 「滅相もございません。私、いや、私達の命を救ってくださったロッシュ公と公国には感謝してもしきれません。ご恩返しと思い、日夜頑張らせてもらっております。しかし、この街は良くなってきましたが、まだまだ、これからですな」

 こういう人物が公国を支えてくれるのは本当に有り難いことだ。しかも、現状に満足することなく、さらに発展を望んでくれる。そうなれば、救っていける人は増やすことが出来るのだ。この素晴らしい循環を維持していかなければならないな。そのためにも、公国のために自らを犠牲にしてまでも尽くしてくれる者を大事にしてやらねばならないな。

 「ハハッ。あまり気張るなよ。長くは持たなくなるぞ」

 「なぁに、まだ耄碌はしてないつもりですぞ。これから明るい未来が待っているんですから、もっと長生きさせてもらいますぞ」

 元気な爺さんだ。そろそろ、場が温まってきたところで本題に移ろうとしよう。まずは、街の状況についてだ。昨夜、ライルの大まかな話は聞いたが、ライルは砦建設付きっきりで、街の開発については報告のみで把握しているのだろう。それでは、どうしても分からないことが出てきてしまうものだ。それよりも実際に開発の陣頭に立っているものから話を聞くほうがいいだろう。

 ロドリスは、少し考えならがらゆっくりと話し始めた。ロドリスは、まず街の概要から説明してくれた。人口が約2万五千人、若干名を除き、皆亜人だ。亜人達は皆、この辺りの街や村に属していた者たちなので地理感はあるものがほとんどらしい。移住してからは、居住区の建設を最優先に進めていたのだが、村や新村からの木材の提供が間に合わず、慢性的な不足状態になっていたらしい。そのため、近隣の廃村などから家屋を潰し、建材を改修して間に合わせたと言う。

 現在では、目標の四割ほどが完成しており、年内にはすべてが終わる予定みたいだ。住民たちは、皆現状には満足しているようで、不満を漏らすものはほとんどいないみたいだ。ロドリスの話を聞いて、それを鵜呑みには出来ないと思った。食料が少ない状況を経験している者は、食料のある暮らしと言うだけで満足してしまうものだ。しかし、ラエルの街でもそうだが、最初は不満が出来ないもだが、人は慣れるとそれが当り前に感じてしまうものだ。ラエルの街でも少しずつ生活面でも不満が出てきているとルドが嘆いていたのを思い出してしまった。不満が出ないと思いこんでは危険だな。

 農地については、川沿いを中心に開拓していく予定のようだ。この街は、西と北側は山で囲まれているため、どうしても農地として利用できる土地が限られてしまう。もっとも、この街は物流の拠点と砦のためにあるため、農地を広さは大して重要ではないが。ここは、なるべく穀物を生産することにしたほうがいいだろう。戦地にもっとも近いことを考えると、それがいいと思うのだ。

 「穀物ですか。米を作るということですかな。あれは良い食べ物ですな。しかし、そうなると川付近は水田のために畑を作らないほうが良さそうですな」

 そうなるな。穀物は保存性にも優れているため、もし戦になったとしても安定的に食料を供給することが出来るだろう。それから、春からの作付けの計画を聞き、所々修正を加えながら、あとは現場判断ということで一旦話が終わった。朝から話をしていたが、すでに昼になっていたのだ。食事をしながら、再び話を聞くことになった。

 鉱山の話になった。鉱山は、街より北の山の少し先にあるようだ。地元の人間が王国に隠れて採掘を続けていた場所で、埋蔵量も相当あるという話だ。本来であれば、王国のときと同じく秘密にしておくことが出来たものだが、住民が進んで情報を提供してくれたようだ。ロドリスは最初は半信半疑だったと言う。地元であるロドリスが聞いたこともない話だったからだ。しかし、調べていくうちに真実味を帯び、しかもかなり優良だと知ると、すぐに調べに行ったみたいだ。それが昨日のことらしい。

 坑道は深く掘り進められており、住民に話では鉄の採掘量は相当なもので、まだ大量に眠っている可能性が高いという話だ。なるほど。ロドリスの話は有用だ。しかも、話を聞く限りでは、採掘に関わっていたものが大勢いそうな感じだな。

 「その通りです。村ぐるみで隠し鉱山を管理していたようですから。そこの男衆は皆、採掘の経験があるとかで。私としては、是非その者たちを使って、鉱山の採掘を進めたいと考えているのですが、どう思われますか」

 そう言われてもな。賛成するしか思い浮かべられないが。ロドリスが念押しするというのはどういうことだ? もしかして、ロドリスはその者たちを疑っているとか? 確かに過去に村ぐるみで隠していたとなると、鉱山開発を任せれば、いくらでも採掘量をいじることができるだろう。しかし、それをやる利点は、その者たちには少ないだろうと思う。鉄は需要が高い金属だ。いくらでも換金する方法はあるだろうが、公国内では難しいだろうな。精々、鉄と交換して食料をもらう程度だ。それだけのために、公国から居場所をなくす危険を冒すだろうか?

 僕は考え抜いた結果、その者たちに鉱山開発を委ねることを許可することにした。それと他の鉱山開発の人員を確保するために、多めの人員を鉱山に入れることを要請しておいた。とにかく、採掘の技術者を養うことが重要だ。その者たちに、教えてもらえば、より多くの採掘をすることが出来るだろう。

 ロドリスはすぐに了承して、鉱山開発を始められるように準備をします、と言った。これで課題の一つであった鉱山開発の人員を確保することできそうだな。ロドリスからの話はこれで終わりだ。とても有意義な話を聞けたな。
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