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第196話 物流を変えてみよう

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 職人養成のための学校建設が動き始めたという報告をゴードンが持ってきた。僕はすぐにゴードンを捕まえて、酒の相手をしてもらうことにした。僕もそろそろ休暇は終わりに差し掛かってきて、仕事がしたくてウズウズしていた頃だ。ゴードンから何か問題が出てないか、それを聞くのが最近の楽しみでもある。

 「ロッシュ村長。すでに随分と相談して問題はかなり解決しているので、なかなか思いつかないのですが……そういえば」

 なにやら、面白そうな話が聞けそうだな。今日もいい暇つぶしができそうだ。

 「村から物資を輸送しているのですが、荷車が方々に散っているため、うまく運ぶことが出来ていないのです。今は村から食料や木材を大量に運搬しているのですが、ラエルの街や新村からも物資を運んだりしていますからな。荷車が村に戻ってこないことも多いのです。そのため、運ぶべき物資が山積みになることが多くて、不満が出ているんですよ。なんとか、荷車を増やすことで対応しているのですが、なかなか改善する見込みがないのです」

 なるほど。それは由々しき問題だ。公国では、西方の開発が行われているため、村やラエルの街、新村から物資が西方に大量に運ばれている。建築材料である木材が多くを占めているが、食料もかなり運び込まれている。西方では、木材の入手は生産量は少ないものの、材料は豊富にあるのでなんとかなるが、食料はそうはいかない。今まで、よく問題が起きなかったと不思議なくらいだ。

 なんとか、ゴードンが頑張ってくれたというだな。しかし、この問題を放置していいものではないな。なにか、方法を考えなくては。まずは現状について、ゴードンから話を聞いてみよう。

 ゴードンの話によると、まず、各地の取り扱う物資が少し異なるというのだ。新村は木材、ラエルの街は食料、村は食料、木材に加え、鉄、農具等が物資の項目となる。村はすべてを調達できるが、木材や食料の量としては、新村とラエルの街に劣るのだ。

 各地から西方に向かった荷車は、戻ってくる時に西方の要望を聞いて、行き先を決めているようだ。例えば、木材が不足していれば、新村に向かうという感じになる。それで過不足なく物資が運ばれているならば、問題はないが、運送にはかなりの時間を要する。荷車で約10日ほどかかってしまうのだ。その間にも大量の荷車が行ったり来たりしているため、木材ばかり運んでしまったり、食料ばかり運んでしまったりすることがあるのだ。

 つまり、西方が不足が生じた物資の要望を伝えるだけで、荷車は要望に沿って行動している。一方で、物資を送る側もやってきた荷車に物資を積み込むだけの作業になっているということだ。たしかに、これでは荷車が勝手に動いているのと同じだ。今までは、村から物資を送り届けるだけで良かったのに、三ヶ所になったことで問題が生じてしまったのだろう

 「なるほど。話が見えてきたな。問題は、荷車の管理が出来ていないということだな。しかし、管理をするためには、西方の町や村の在庫を把握して、逐一知る事ができる仕組みを作らなければならないということだな」

 僕とゴードンは何かいい解決策はないか、二人で考えていた。すると、ゴードンが何かを思いついたようだ。

 「物資の必要量をこちらで決めて、それの応じて物資を輸送するというのはどうでしょう」

 ん? どういうことだ?

 「つまり、今は開発を現地に任せています。この利点は、臨機応変に対応が出来るということですが、必要となる物資がどれほど必要となるかを計算することが難しいのです。そのため、計画書を提出してもらい、街作りを計画的に行ってもらうのです。その計画書に基づいて、こちらで物資の輸送の手順や量を決めていくのです。そうすれば、荷車を効率的に動かせないでしょうか」

 なるほど。確かに輸送する側が管理できれば、言うことはないな。計画も事前にわかっていれば、それも可能になるということか。しかし、今はいつ戦争になってもおかしくない状況だ。必要なものを必要な時期に作れなければ、それも問題になるのではないか?

 「ごもっともです。それが心配であれば、大まかな計画を出してもらい、変更があればその都度出してもらうということにしましょう。重要なのは、こちらがどれほどの物資が必要かを把握することですから」

 たしかに、そうすれば把握できそうだ。これなら、荷車が無駄に動き回ることも少なくなるということか。そうなると問題は、各地の物資量の把握、荷車の手配、輸送量の決定をする者が必要となってくる。これはなかなか出来る者がいないのではないだろうか。こちらで管理するところまではいいが、実施する人なり組織がないことには意味がないな。それについては、ゴードンには考えがあるようだ。

 「それについては、私の息子であるゴーダに聞いてみるといいでしょう。何か、妙案があるかもしれません」

 ほお。それは面白そうだな。僕は、ゴーダを早速呼ぶことにした。と言ってもすぐに来れるわけではなく、屋敷を訪れたのは、それから数日後のことだった。
 
 「ロッシュ様。呼び出しに応じて、参りました。それで、本日のご用件は?」

 ゴードンが僕との会話をゴーダに説明し、意見を聞くことにした。ゴーダはしばらく、目を瞑り、考え事をしていた。問題が問題だけに難しいだろうか。

 「私の考えとしましては、元集落の者たちを使うのがよろしいかと思います。かの者たちの中には、イルス領の経理をしていた者や商人がおります。軍需物資等を取り扱っておりましたから、誰よりも詳しく知っていると思います」

 なるほど。確かにそういった者がいるというのは聞いたことがあるな。まずは、話を聞いてみないことにはな。すぐに、イルス領の経理をしていた者と商人を呼ぶことにした。呼び出しでやってきたのは、十数名にもなる。その代表者らしい男が、僕と話をするらしい。

 「私は、リックと申します。今回は物資の輸送についてと伺っております。かつては、イルス領の御用商人をやっておりました。イルス領への物資の輸送全般を任せられておりましたので、なんなりとお聞きください」

 今回もゴードンが物資の輸送の構想を説明することになった。リックは、コクコクと頷きながら静かに話を聞いていた。

 「それはいい考えだと思います。そういうことでしたら、私におまかせください。きっと、ロッシュ様の期待に添えるように成果を出してご覧に入れます。ただ、そのために、この私の後ろにいる者たちに手伝ってもらいたいのです。また、各地に物流の拠点を作りたいのです。拠点の目的は、その地の生産状況や物資の在庫の調査、荷車の発着場という機能を備えさせたいのです」

 なるほど、それはいい考えだ。各地の物資の状況を把握できれば、作物の生産予定も作りやすくなる。今まで、どうしてやってこなかったんだろうと思ってしまうほどだな。考えてみると、過剰に物があるという状況が作り出せなかったのだから、なくて当然か。僕は、リックを物流の責任者にし、各地から上がってきた計画書から物資の量を導き、それをリックに伝えて、物資を手配輸送することを業務内容とすることで決まった。

 計画書から物資の量を決めるのはゴードンに任せることにしている。以前、王国との戦争をする際に、組織した輸送隊が、まさにその機能をもっているので、そのまま使わせてもらうことにしたのだ。こうして、公国内の物流は徐々に改善の兆しを見せ、各地に過不足なく物資が届けられるようになったのだった。
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