爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第195話 職人養成学校

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 公国内の各地での不満を解消するために学校を設立することがいいのではないかと、僕はゴードンに提案したのだ。

 「分からないのですが。今の職人のもとで修行をするのと、学校で職人になるための勉強をするのとでは違いが分かりません」

 そうだろうな。学校の大きな利点は、教えるための人がいるということだ。言ってみれば、四六時中、技術を教えることが出来るわけだ。そのため、個人差はあるが生徒の育成はかなり早くなるだろう。言ってみれば、職人を量産する場所だ。問題があるとすれば、実戦経験の不足と習得する技術が低くなりやすいという点だ。ただ、人手不足の現状では、技術よりも職人の頭数が重要だ。学校こそが、理にかなった施設だろう。

 「なるほど。それはいい考えですな。是非、動き出しましょう。こういうのは早いほうがいいでしょうから。先生役は、各職人の弟子から出してもらうことにしましょう。生徒は、公国内から公募という形でよろしいでしょう。それで動き出しても構いませんか?」

 僕は、もちろんだ、と快諾した。ゴードンはすぐに職人と名の付く者たちを集めてくれた。そこに顔を出したのは、大工のレイヤ、鍛冶のカーゴ、服飾のトール、服生地のメトレー、綿糸製造のスノ、製塩のマリー、製材のモスコ、木材伐採のクラッカー、造船のテド、操船のチカカ、酒造のスイとルドット、樽作りのハナ、製薬のマグ姉、診療所のココが集まってくれた。

 更には、各地で公募をするために、ラエルの街を任せているルド、新村のクレイ、元ガムド子爵領のガムド、それにゴードン、ゴーダを呼んで、公国の重要な人物を一堂に集めた。ここにいる人達で、公国が回っていると思うと感慨深いものがある。もちろん、農業をやっている者たちがいることも忘れない。ここにはいないが魔牛牧場で働く者たちやライルも忘れてはいけないな。

 「皆のもの、集まってくれて助かった。この場にいる者たちは、公国の土台を支える者たちだ。しかし、公国の現状は、拡大の一途を辿っている。このままでは、いずれ皆の許容を超え、公国民の不満を招くことになるだろう。そうなれば、皆を餓えから救うという目標から遠のいてしまうだろう。そのためにも、皆の技術や知識を広く教え、人材の確保を急がなければならない」

 そこまで話したが、皆はゴードンからある程度説明はされているのか、特に意見らしいものは出てこなかった。

 「皆の中には、すでに弟子を多く抱え、職人を育てているのは承知している。しかし、残念ながら、公国の急成長にその弟子の育成がついていけてないのは事実なのだ。そのため、このままでは粗悪品が流通する危険性があるのだ。特に粗悪な住居は取り返しの付かない事態になる。そこで、職人を育てるためだけの組織を作りたいと考えているのだ」

 僕は、意見が出てこないか待つように、一呼吸おいてから話を続ける。

 「それが職人養成学校だ。以前より学校という話はあがっていたのだ。ただ、それは文字や計算を教えるためのものであるのに対して、今回考えている学校は、職人を育て上げるためだけの学校だ。生徒は在学中、つねに技術を磨くために時間を割くことが求められる。あとは、習得度に応じて、一年か二年で世に出そうと考えている。その後は、皆のもとで修行という形で実践的な技術を教えてもらいたいのだ」

 そこから、色々と質問が飛んできた。一番の問題は誰が教えるのかという点だ。ただでさえ、人手不足なのに人を割く余裕がないということだ。たしかに、その通りだ。しかし、今、変革しなければ、今以上に状況は悪化するだろう。そうなれば、手を出すことが難しくなりかねない。農業も、土を一度ダメにしたら十年は作物を育てることが出来ないということがある。そうなる前に例え、今の仕事を犠牲にしてでも、手を打つことが重要なのだ。

 今回集まってもらったのは、まさに弟子や部下のうち一人でも学校の教師役として出てもらえないかを頼むためなのだ。もちろん、僕も学校の教師役として出来る範囲でやるつもりだ。とにかく、工夫しながら技術を教えていく必要がある。さすがに、難色を示している人が多くいたが、前向きに考えてくれている印象はあった。次に問題となったのは場所だ。学校と言ってもどういった場所でやるか、全く想像がつかないようだ。

 「基本的には、村に学校を作り、そこで技術を習得してもらう予定だ。当然、実地での講義もあるが。皆の技術は生産がほとんどだ。そうなると、資材の確保、設計、製造までを学んでもらうことになる。十分に村でも出来る内容だろう」

 すると、大工のレイヤから質問が来た。

 「私は、ロッシュ村長の意見には賛成だな。弟子たちも頑張って、いろんなところで建物を作っているけど、やっぱり教える前に知識があるのとないのとでは、こっちの負担も大きく変わってくる。だから、学校で基本的なことを教えてくれるって言うなら文句はないな。ただ、気になることがあるんだ。私の弟子は、私を含めてみんな亜人だ。亜人が人間に教えることだってあるだろ? まだ、人間を怖がる亜人は少なくないんだ。その点は大丈夫なのか?」

 やはり、まだまだ根強いようだな。亜人と人間は、以前は支配者と被支配者の関係だ。簡単に変わらないことは僕でも理解できるが、随分と緩和はされていると思っていたが。心配するなというのは簡単だし、僕が権力を使って、差別する人間に制裁を課すことは簡単だが、それでいいのだろうか? 意識を変えていくことこそ重要だと思う。そのために交流が必要で、その場が学校であるべきだとも思う。特に若いうちは意識が変わりやすい。そういう時に、亜人と対等に付き合うことを覚えてくれれば、公国内の雰囲気は時間がかかるかもしれないが変わるのではないだろうか。

 僕は、自分の考えを素直に皆に伝えることにした。僕の考えはある意味、理想論だろう。しかし、公国は出来たばかりで、支配構造がまだ決まっていない状況だからこそ出来る最善の策ではないかと思っている。僕は公国民には未だに所有権を認めていない。すべての財産は公国に帰属している。亜人と人間と魔族が互いに助け合いが出来る世代が出来上がった時に、僕は財産を民に帰属させることを認めようと思っている。三つの種族が、当り前にいる社会こそ公国が目指すべき未来だ。

 僕がそういうと、皆から拍手が鳴り響いた。ゴードンなんて涙を流している。ルドも頷いていてくれるから、問題はなかったのだろう。いや、問題だらけの考えだからこそ、皆で知恵を出して乗り越えていかねばならないだろう。

 その後の会議は、至って順調だった。職人は各人一人ずつ弟子か部下を出すことで決まった。レイヤだけは自分が出来ると言ってきかなかった。

 「レイヤがいなくなったら、現場は困るだろう」

 僕が、当り前の疑問をレイヤにぶつけると、レイヤは少し顔を赤らめて、身ごもったことを僕に伝えてきたのだ。なんと、ライルとの間の子供が出来たようなのだ。だから、現場には出られないからちょうどいいんだ、と笑っていた。僕は、そういうことならと了承し、無理をしないことだけを約束してもらった。

 めでたい話が聞けて、僕は嬉しくなったな。しかし、ライルも遠隔地にいるのは可愛そうだな。知っているのだろうか? 今度、会ったときにでも祝いの酒でも一緒に飲んでやるか。

 ついに、公国で初めての学校が誕生した。村の中心地から北に位置する場所で、いまだ建物らしいものは何もない場所のため、大きな敷地の学校を建てるのに都合が良かったのだ。この学校建設も授業の一環とするのも面白いかもしれないということで、学校が出来る前から公募が始まったのだった。

 村に出来た学校は、それからも拡大を続け、公国で最大の学園都市を形成し、公国の若者は皆、村の学園にいくと言われるくらいに周知されることになった。初代校長になったのは、ロッシュ村長だった。村は人種の坩堝。ここに通う学生は皆、差別とは無縁の暮らしが出来ていたという。だが、それは別の話。
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