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第186話 ドワーフの里 その1

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 僕達はついに、ドワーフに会うことが出来た。大人のドワーフは、僕と身長は変わらず、170センチメートル位か。子供と同じく毛むくじゃらであるのは変わらないが、考えられないほど太く強靭な腕を持ち、腰蓑だけの野性味あふれる格好をしていた。僕の第一印象は原始人だ。

 「お前さん達、どこから、どうやって、ここまで来なすった? ここまでには罠があったはず。それを乗り越えてきたのか?」

 「僕はロッシュという。ゴブリンに案内してもらって、魔の森の外からやってきたのだ。罠は、木の文字で回避することが出来たから、然程大変ではなかったぞ」

 僕がゴブリンという言葉を使うと、顔を歪めたような感じがした。毛が多くて表情を読むのが難しい。

 「ゴブリンか……数十年前に争ったばかりだったな。また、争いに来たというのか? ん? それにしても、ゴブリンの姿が見えないが」

 僕はこれまれの経緯を説明し、ゴブリンは山中で分かれたこと、木の文字はミヤが読めたことなどを理解してもらった。

 「なるほどな。魔族までいたとはな。しかも、吸血鬼と言えば、我らにとっては仇敵。あまり会いたくない種族ではあるが。とりあえず、用向きを聞こう」

 吸血鬼と仇敵? どういうことだ? 僕はミヤの方に顔を向けると、吸血鬼は酒飲みが多いから、といったので、僕はすぐに話が分かった。きっと、吸血鬼とドワーフで酒の強さでも競っていたのだろう。あまり、関係のある話ではなさそうなので、聞かなかったことにしよう。僕は、ドワーフの鍛冶の能力を見たいために来たと伝えると、ドワーフは不機嫌になり帰るように怒鳴り始めたのだ。ドワーフと言えば、魔界でも随一の鍛冶職人とミヤが言っていた。その腕を見たいと言って怒鳴るとはどういったことだ? なるほど。たやすく技術を見せてはくれないということだな。それならばと、僕は鞄からあるものを取り出した。

 それを見て、ドワーフの顔色が変わった。気がした。

 「これは、また随分と懐かしいものだ。古びて入るが、儂の親父が作ったもので間違いない。こんなものが残っているなんてな」

 「これは、僕の村に昔から保管されていたものだ。どういう経緯で入手したかは正確なところはわからないが、僕の父上が手に入れたようだ。しかし、見ての通り、魔鉄のところが劣化していてな使い物にならない。これをどうにか直してもらえないだろうか?」

 ドワーフは腕を組み、ううう、と唸っている。その後出てきた言葉は、僕を失望させるものだった。

 「やっぱり、帰ってくれ。儂にはこれを直す気はない。やる気が起きないのだ。すまないがな」

 どういうことだ。鍛冶の仕事が生きがいとかではないのか? やる気が起きないとは一体。僕は、ドワーフから話を聞こうとしたのだが、なかなか答えようとせず、ようやく答えたと思ったら、なんともドワーフらしいという感じがした。

 「お前らに言っても仕方ないことじゃが。酒じゃ。酒がないんじゃ。儂らドワーフは、日中鉄を打ち、夜は酒を飲むことで、明日の英気を養っていたのだ。しかし、数年前から酒が手に入らなくなってな。楽しみがなくては、やる気も起きんのだ。ここ何年も工房に火をおこしておらん。もう、儂の工房は終わりかもしれん。だから、その油絞り器も諦めてくれ」

 その言葉を聞いて、僕は鞄に手を入れると、すかさずミヤが止めに入ってきた。しかし、僕は止めに入ったミヤを制止し、鞄の中から酒樽を出した。しかし、これはドワーフにとっては、毒にもなる酒になるかもしれない。僕がいれば酒を出すことも出来るだろうが、さすがにここまで運ぶことは難しい。つまり、今回っきりになるかもしれないのだ。今まで、なんとか酒を断つことが出来ていたのに、今更飲めば、その反動はものすごいものだろう。

 「これは魔酒の酒樽だ。これをあげてもいいが、どうする? これを飲めば、酒への欲求は強まるだろう。しかし、酒が手に入れることは難しいのだろ? 僕はここまで運ぶのは正直、気乗りはしないから、飲まないという選択もあると思うが」

 しかし、僕の言葉は愚問だったようだ。ふらふらとドワーフは酒樽に近づき、栓を開け、直接口を付けてガブガブと飲みだしたのだ。こんな度数の高い酒をよくこんなに飲めるものだ。ようやく口を離し、深い呼吸をしていた。

 「なんと旨い酒なんじゃ。久しぶりに飲んだというのもあるが、それを置いても旨い!! ロッシュと言ったな。何者なんだ? これほど旨い酒をもっているなんて、只者ではないな。この酒はロッシュの側にいれば、いつでも飲めるのか?」

 ん? なんだか、話が飛んだような気がしたが。まぁ、村にいけば酒は手に入るだろうが。僕は頷くと、ドワーフは急に立ち上がった。

 「よし!! ロッシュに付いていくぞ。儂はこんなに旨い酒が飲めるんだったら、どこへだって付いていくぞ。よし、そうと決まれば支度をせねば」

 ドワーフが身軽に建物に戻ろうとしたところを僕は慌てて止めた。止められたドワーフは明らかに不満そうな顔をしていたが、勝手に話を進められても困る。もちろん、ドワーフが村に来てくれることは有り難いと思うが、その前に確認しておかねばならないことがある。

 「まずは、落ち着いてくれ。酒は逃げもしないし、僕達もすぐにいなくなるわけではない。とりあえず、貴方の名前を教えてくれ」

 「それもそうだな。せっかくだから、酒を飲みながら話をしよう。儂の名前はギガンスだ。この里を父より受け継ぎ代表をやっている」

 それから、この里について話をすることになった。この里は、30名程度で構成されており、全てがギガンスの血縁もしくはその配偶者のようだ。鍛冶をやるのは男のドワーフのみ。女は、男のドワーフをサポートするように教育を受けるようだ。男のドワーフは成人になると里を出て、一人前の腕と配偶者を見つけると里に必ず戻ってくるという習慣がある。この里には、ギガンスの弟、息子、孫までいるようだ。僕は、ドワーフは皆、酒好きなのか? と聞くとギガンスはニヤリと笑った。

 「当り前だろ!! 男も女も酒なしでは生きていけぬ体よ。ロッシュは気付いていないようだが、これだけ酒の匂いを辺りに撒き散らしていれば、ほれ、後ろを見てみろ」

 僕はギガンスに言われた通り、後ろを振り向くと酒樽に視線を一点に集中している群衆が僕達の周りを囲むように陣取っていた。なぜ、今まで気付かなかったんだ。しかし、驚いたの僕だけだったから、皆は気付いていたのか? 再び、ギガンスに話しかけら、僕は顔を再び元に戻した。どうやら、酒を里の者たちにも振る舞って欲しいというのだ。僕は鞄から酒樽を取り出し、ドワーフ達に差し上げると、その場で飲み会が始まったのだ。といっても僕が差し出した量では全く足りなかったみたいで、かなり不服そうな顔をしていたので、すこし申し訳ない気持ちになった。

 「ギガンス。面白い話を聞けて、僕は満足している。ギガンスが僕の村に来てくれるというのなら、歓迎したいと思っているが、その前にドワーフの鍛冶の腕を見てみたい。もちろん、腕を疑っているわけではない。ドワーフの鍛冶の能力は高いことは既に証明されていると思っているが、僕自身の目で見てみたいのだ。どうか、見せてくれないか」

 「ふん。まぁいいだろう。酒のお礼も兼ねて、一仕事してみるか。さっきの油絞り器を直してくれるわ。久しぶりすぎて、窯に火を起こすところから始めねばなるまい。そうすると、完成はどうしても明日になってしまうがいいか?」

 僕は頷き、適当な場所で野営を張るからと言うと、好きな場所で構わないと一応の許可をもらうことが出来た。僕はついでに工房の方を見学したい旨を伝えると、意外そうな顔をされたが、それも許可をもらうことが出来た。僕とギガンス、それに手伝うために何人かのドワーフが工房に向かうことになった。
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