上 下
182 / 408

第181話 ロドリスとの会合 その1

しおりを挟む
 亜人達の受け入れの相談が終わり、ルドには街と村作りに必要な技術者をラエルの街に戻って集めてもらい、ゴードンには資材の量産と運搬の準備をいてもらい、ライルには亜人の代表者であるロドリスの仲介と自警団の再編成をしてもらい、新たに作られる街や村に駐屯してもらう人員を選抜してもらい、クレイには新村から現在常駐している技術者を村や街作りに割いてもらうための調整を各々行ってもらうことにした。

 僕は、魔の森の畑の管理やフェンリルのハヤブサと遊んだりして、ロドリスとの会合までの間、時間を潰すことになった。その間に気付いたこと、というか確信したことがある。やはり、ハヤブサは僕の言葉を完全に理解しているようだ。僕が指示した方向にしっかりと向かっていくし、何かを話しかけると返事をするのだ。それに、僕の空耳と思っていた言葉を度々聞くようになっていた。フェンリルの調教を任せているククルもハヤブサが話している声を聞いてかなり興奮していたが、なぜ話すのか全くわからないらしい。

 それに答えが出ないまま、ロドリスとの会合の日となった。会う場所は、ラエルの街の壁の中にある会議室だ。やはり、雪の中を無理して出てきただけあって、初老のロドリスはかなり疲労している様子だった。数日、休憩をしてから会議をしようという話にはなったのだが、ロドリスはすぐにでも、というのでロドリスが到着した日に会談を行うことにした。今回は、ロドリスの他に、若い男女の亜人が二人従ってきたようだ。

 「ロドリス。雪の中、よく来てくれた。分かってはいたが、早く伝えたほうが良いだろうと思ってな。ところで、その二人は護衛か?」

 僕の言葉にロドリスは恐縮しきった様子で、恭しく頭を下げた。後ろに控えている若い亜人二人もロドリスのマネをするように頭を下げた。しばらくして、ロドリスは頭を上げ、寒くて口が動きにくいのか、ゆっくりとした口調で話し始めた。

 「この度は遅くなってしまって申し訳ありませんでした。お呼びして頂きまして、これ以上の喜びはありません。最後までロッシュ公を信じて本当に良かった。この二人は、私の友人の子供です。今回は謝罪に来たいといいまして連れてきた次第です」

 遅くなったとは感じなかったが。それにしても、謝罪? お礼というなら話は分からなくはないが。僕が首を傾げていると、二人は前に出てきて、先程よりも深く頭を下げ、申し訳ありませんできた、と声を揃えて謝罪してきた。確かに、謝罪だな。しかし、まずは何についてかを説明してもらいたいものだ。僕はロドリスに視線を送ると、理解したのか説明を始めた。

 「実は、私達の恥ずかしい部分をお聞かせするのですが。私がロッシュ公より話を頂いて、皆にそのことを伝えたのです。ところが、この二人の父親が、私の古くからの親友なのですが、ロッシュ公を信用できないと言い出しまして。それが、私達を二分するほどの騒ぎになったのです」

 当然そうなるだろうな。私も逆の立場なら、疑う方に回っている気がするな。ロドリスのほうが変わっていると言えるだろう。しかし、それが謝罪ということか? それならば、何の問題もない気がするが。

 「続きがありまして、この二人はロッシュ公からの狼煙に我々の中で唯一気付いたのですが、あろうことか父親と相談した上で秘密にしようとしたのです。なんでも、自分たちの間違いを認めることが出来なかったようです。私が、親友の態度がおかしかったので、問い詰めたら、そう吐いたのです。私はそれから急に出発する準備をして、遅らせならばやって参ってきた次第です。この二人は秘密にしたことでロッシュ公の下に到着が遅れたことを謝罪に参ったのです」

 「なるほどな。話がやっと見えてきたぞ。そういうことであるならば、僕が二人の謝罪を受け入れるつもりはないぞ」

 僕がそう言うと、二人の顔色が一気に悪くなっていった。どうやら、僕が二人を許さないのではないかと思ったのだろう。

 「言い方が悪かったな。僕から二人に言えるのは気にするなということだけだ。疑うのも理解できるし、この二人が秘密にしたのも、それは君たちの問題であって僕の知るところではないと思う。それに、遅れたのが問題ならば、僕は聞かされるまでそれに気付いていなかったから、謝罪されるいわれはないということだ。二人はどうやら無駄足になってしまったようだな」

 僕が笑い、二人はキョトンとしたような顔をしていたが、僕が言ったことを理解することが出来たのか、ぱっと明るくなった。しかし、その直後にまた暗い顔に戻っとしまった。全く、忙しい二人だな。僕は、他に何か心配事があるのかと聞くと、男の方が答えた。

 「実は、僕の父が責任を感じまして、私達の前から姿を消してしまったのです。おそらく、自責の念に耐えられなかったのでしょう。私達には何も相談もしませんでしたから。ロッシュ公がここまで寛大な心を持っていてくださっているとわかっていれば、父もいなくなることはなかったのですが」

 父親が来ないのに疑問を持っていたが、それで子供の二人がここに来たというわけか。それは心配にもなろう。僕は、二人に父親を捜索するための人をできるだけ出すことを約束し、ロドリスにも亜人たちから捜索に当たるように頼んだ。ロドリスは、僕を疑った者を助けに行くことに躊躇していたらしく、僕が指示を出したことをとても喜んでくれた。これで話は終わ……ってないな。何も終わってなかった。

 「さて、ロドリス。話がかなり脱線してしまったが、本題に移ろうと思う。今回呼び出したのは、食料の目処が立ったからだ」

 その言葉を聞いて、ロドリスはもとより付き添いの二人も驚ききっている表情だ。それもそうだろう。外は大雪が降り、とても作物を作るなんて出来る時期ではない。それ故に、疑うものも出てきたのであろうな。

 「どうやって食料を用意したかは、追々話していくことにしよう。今大事なのは、食料が用意できたことで、お前たち亜人を受け入れることが出来るということだ」

 すると、ロドリスが僕の言葉に割り込むような感じで話し始めた。かなり思い詰めたような表情だったので、僕は話を聞くことにした。

 「それで、ロッシュ公が受け入れてくださるのは、何人なんでしょうか? 私達は未来のある子供だけでも受け入れてくれれば本望でございます。老人達はなんとか森で暮らしてみせますよ」

 そういうことか。やはり、色々と考え、悩んでいたのだろうな。僕もロドリスと会った時、確信があることが何一つなかったから曖昧な表現をしてしまったのだ。それが、この表情に繋がっているのか。

 「僕の言葉が至らなかったせいで、悩ませてしまったようだな。心配するな。全員だ。全員を受け入れよう。確か三万人いるといっていたが、間違いないか?」

 「た、たしかに三万人と言いました。信じられません。まだ、あれから一月くらいしか経っていないのに、三万人を養えるだけの食料を用意できるというのですか。ロッシュ公は一体、何者なんですか」

 何者と言われてもな。ただのロッシュとしか答えようがないな。ただ、ロドリスは勘違いをしているので訂正をしておかなければ。

 「ロドリス。間違っているぞ。正直にいえば、まだ用意は出来ていない。収穫が見込めるところまで来ているというところか。それに三万人分ではなく、五万人分を見込んでいる。だから、もう少し増えても問題がないだろうな」

 ロドリスは開いた口が塞がらないのか、呆然とした顔でこちらを見ていたが、ふと、我に返って、急に涙を流し始めた。これで救われると、何度も何度も口にしていた。付き添いの二人も相当な苦労があったのか、必死に涙を我慢している様子だった。僕は、彼らに飲み物を出すように会議室にいる自警団の団員に頼んだ。それから、お茶を飲みながら、彼らが落ち着くのを待った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

処理中です...