爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

文字の大きさ
上 下
177 / 408

第176話 四年目の新年会①

しおりを挟む
 四年目の新年を迎えた。やはり、どの地域でもこの新年を祝うという習慣はないようだ。僕の屋敷内だけでひっそりと新年を祝う行事を行うことにした。といっても、何をするというわけではないが。とりあえず、酒を酌み交わして、去年を振り返り、一年の目標を立てるということをするつもりだ。ミヤは、最初の言葉だけ聞いて、朝から飲めるの? と目を輝かせて聞いてくるので、僕が頷くと、すぐに居間で飲み始めたのだ。当然、マグ姉とシェラ、クレイも参加して、酒盛りが始まってしまった。これでは、いつもと変わらないだろうに。エリスとリードは、少しお腹が大きくなってきていたが、まだ、動くのに支障はないと言って、酒飲み組のツマミを作ったりして、キッチンにずっといたりする。

 僕は、去年のうちにやっておきたかった私物の整理をすることにした。昨日まで、魔の森の畑での作業をしていたので、出来なかったのだ。魔の森の畑では、麦の種まきやジャガイモの定植も終わり、昨日の段階で、チラチラ麦の発芽しているのを確認でき、ジャガイモも順調に芽が伸びているのを見ることが出来た。もう少し、順調に推移していけば、収穫の目処はあらかた付いてくるだろう。本当に村人の協力があって、本当に助かった。これで、多くの亜人が助かればいいが。

 そんな考え事をしていると、時間だけが経ってしまう。僕は、居間の広い場所に私物を並べることにした。自室はちょっと寒いからね。早速、魔法の鞄から、物を取り出していく。王都?に出向いた時にたくさん詰め込んだものだから、戦闘に関するものが多かった。武器の替えやクロスボウの矢が多く出てくる。弁当もいくつか入っていた。僕は恐る恐る弁当の中を覗くと、全く傷んでいる様子がなかった。どうやら、魔法の鞄の中は時間が経過しないのだろうか? あまり考えたことがないが、この鞄はかなり不思議なものだな。これで、食料保管庫って作れるんじゃないか? 今度、スタシャに相談してみるか。僕は、小腹が空いたので、それをつまみながら作業を続ける。

 メモが大量に出てきたり、作物の種なんかも入ってたりした。そんな中、僕が鞄に手を入れ、取り出したものを誤って、床に転がしてしまった。ごろりと転がるものは、赤い宝石のようなものだった。こんなものをいつ手に入れたのだろうか? 思い返しても、赤い宝石が記憶から出てこない。こんなものを鞄に入れたのなら、絶対に覚えているはずなんだが。

 そこに、リードがコーヒーを持ってきてくれた。ちょうど、作業も一区切り付いていた頃なので、飲みたいと思っていたのだ。僕はコーヒを受け取り、リードが興味深めに僕が広げた私物を見ていたので、どれか興味があるものはあるか? と聞いた。どうせ、僕には必要のないものばかりだったので、欲しいものがあればと思ったのだ。リードが順に物色していくが、どれも村で簡単に手に入るものなので、手にとっては置いていくを繰り返していたが、赤い宝石だけは扱いが違った。

 まず、すぐに手を取らずに、宝石をじっと眺めているだけだったのだ。僕は、リードの様子の変化に気づき、赤い宝石を取り上げ、リードに手渡した。

 「この宝石に興味があるのか? 僕はこれをどこで手に入れたのか、全く覚えていないんだよ。もしかしたら、前の採掘をしていた時に出し忘れたものが入っていただけなのかもしれない。宝石も然程大きくないし、欲しければ持って聞くと良いぞ」

 リードは、僕から受け取った宝石を見続け、何かを確信したと思うと、僕に突き返してきた。そして、僕に顔を寄せて、小さな声で囁くように話しかけてきた。

 「これをどこで手に入れたのですか? いや、それは分かっているので、どうやって手に入れたのですか? これ、魔石ですよね?」

 魔石? 魔石……どこかで聞いたことがあったな。あっ!! エルフの秘術だ。そうか、思い出したぞ。僕の魔力から作った魔石の結晶だ。その後、記憶をなくしたから、魔石のことをすっかり忘れていたが、ここに入っていたのか。これを、リードに見せるのはまずかっただろうか。リリに知られたら、どうなってしまうのか。僕は、嫌な汗を背中に感じ始めていた。それを察したのか、リードが優しく、大丈夫ですよ、と声をかけてくれた。

 「これを持っているということは、リリ様がロッシュ殿に秘術の事をお話になったということでしょう。だとすれば、私だけに知られる分には問題ありません。エルフである私は知っていることですから、リリ様の怒りを買うことはないでしょう。それにしても、リリ様にそれほど認めてもらっている殿方というは初めて見ましたよ」

 良かった。リードだけに見られるだけで済んだのは本当に運が良かった。でも、これを僕が持っていたところで、使い途がないんだけど、やっぱり、リードが受け取ってくれないかな?

 「いいえ。それは受け取りません。私には、魔石を使って家具を作る資格を里以外では許されていないのです。もし、魔石で家具を作れば、私はエルフの里を追放されてしまうでしょう。そうすれば、新しい技術を得る方法がなくなってしまうのです。魔石はエルフにとっては、とても魅力的なものですから……欲しくなってしまうので、どうか、私に魔石を近づけないでください。それに、その魔石は色々な使い途があると聞いたことがあります。必ずやロッシュ殿の助けとなるでしょうから、持っていたほうがいいと思いますよ」

 僕にはわからない、エルフの家具職人としての葛藤みたいのがあるようだ。話を終わらすと、そそくさとキッチンの方に向かっていった。僕は、誰にも見られないように魔石だけをカバンにしまいこんだ。これが、どんな使い途があるのか、全く分からないが、リードが言うのだから、いつかは役に立つときが来るのだろう。その時は、リリに感謝しなければな。

 さて、私物の整理は大体終わったぞ。次は資材置き部屋に移動だ。ここには、採掘で掘り出した金属を多く保管している。金や銀、オリハルコン、ミスリルやアダマンタイトが代表的だ。去年の採掘で随分と在庫を持つことが出来たと思っていたが、予想よりかなり少ない気がするな。僕がいない時は、エリスにこの部屋を任せているんだよな。確認だけしおくか。ないとは思うが、泥棒が入っているという可能性も。

 僕は一旦、居間に戻り、エリスに資材置き部屋の金属が少なくなっていることを聞くと、僕の許可を得ていると言ってスタシャが何度も屋敷にやってきて持っていきましたよ、と気にするようもなく言ってきた。僕が考え込んだ素振りをすると、エリスが悪いことをしたと勘違いをしてしまい、謝罪をしてきたのだ。

 「すまない、エリス。別にエリスを責めているわけではないんだ。スタシャには、金属を渡す約束もしてあるし、村に役に立つならいくらでも使っていいと言ってあるから、減っているのは良いんだ。ただ、思ったより減りが早いから確認しただけなんだ」

 そういうと、エリスが何を考えていたんですか? と聞いてきた。

 「減りが早いから、また、採掘に行かなければならないと思ってね。いつ、行くかそれだけを考えていたんだ。最近は、一度潜るとなかなか帰ってこれないからな。時間を調整するだけでも大変なんだ」

 僕が採掘へ行くという話をすると、エリスは少し暗い顔になった。そういえば、去年は騒がしい出来事ばかりで、あまりエリスとの時間を持つことが出来なかったな。今日は、年の始めの日だ。こういう時こそ、エリスのために時間を作るのがいいだろう。それに、もう少しで僕とエリスの子供が生まれる。その相談もしておきたいからな。

 「エリス。少し時間あるか? ちょっと、二人で話さないか?」

 そういうと、エリスは嬉しそうに、はい、と答えて、飲み物を持ってくるので、あっちのソファーに座っていてください、と僕に言ってきた。僕はソファーでエリスを待つことにしたのだ。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

処理中です...