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第176話 四年目の新年会①

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 四年目の新年を迎えた。やはり、どの地域でもこの新年を祝うという習慣はないようだ。僕の屋敷内だけでひっそりと新年を祝う行事を行うことにした。といっても、何をするというわけではないが。とりあえず、酒を酌み交わして、去年を振り返り、一年の目標を立てるということをするつもりだ。ミヤは、最初の言葉だけ聞いて、朝から飲めるの? と目を輝かせて聞いてくるので、僕が頷くと、すぐに居間で飲み始めたのだ。当然、マグ姉とシェラ、クレイも参加して、酒盛りが始まってしまった。これでは、いつもと変わらないだろうに。エリスとリードは、少しお腹が大きくなってきていたが、まだ、動くのに支障はないと言って、酒飲み組のツマミを作ったりして、キッチンにずっといたりする。

 僕は、去年のうちにやっておきたかった私物の整理をすることにした。昨日まで、魔の森の畑での作業をしていたので、出来なかったのだ。魔の森の畑では、麦の種まきやジャガイモの定植も終わり、昨日の段階で、チラチラ麦の発芽しているのを確認でき、ジャガイモも順調に芽が伸びているのを見ることが出来た。もう少し、順調に推移していけば、収穫の目処はあらかた付いてくるだろう。本当に村人の協力があって、本当に助かった。これで、多くの亜人が助かればいいが。

 そんな考え事をしていると、時間だけが経ってしまう。僕は、居間の広い場所に私物を並べることにした。自室はちょっと寒いからね。早速、魔法の鞄から、物を取り出していく。王都?に出向いた時にたくさん詰め込んだものだから、戦闘に関するものが多かった。武器の替えやクロスボウの矢が多く出てくる。弁当もいくつか入っていた。僕は恐る恐る弁当の中を覗くと、全く傷んでいる様子がなかった。どうやら、魔法の鞄の中は時間が経過しないのだろうか? あまり考えたことがないが、この鞄はかなり不思議なものだな。これで、食料保管庫って作れるんじゃないか? 今度、スタシャに相談してみるか。僕は、小腹が空いたので、それをつまみながら作業を続ける。

 メモが大量に出てきたり、作物の種なんかも入ってたりした。そんな中、僕が鞄に手を入れ、取り出したものを誤って、床に転がしてしまった。ごろりと転がるものは、赤い宝石のようなものだった。こんなものをいつ手に入れたのだろうか? 思い返しても、赤い宝石が記憶から出てこない。こんなものを鞄に入れたのなら、絶対に覚えているはずなんだが。

 そこに、リードがコーヒーを持ってきてくれた。ちょうど、作業も一区切り付いていた頃なので、飲みたいと思っていたのだ。僕はコーヒを受け取り、リードが興味深めに僕が広げた私物を見ていたので、どれか興味があるものはあるか? と聞いた。どうせ、僕には必要のないものばかりだったので、欲しいものがあればと思ったのだ。リードが順に物色していくが、どれも村で簡単に手に入るものなので、手にとっては置いていくを繰り返していたが、赤い宝石だけは扱いが違った。

 まず、すぐに手を取らずに、宝石をじっと眺めているだけだったのだ。僕は、リードの様子の変化に気づき、赤い宝石を取り上げ、リードに手渡した。

 「この宝石に興味があるのか? 僕はこれをどこで手に入れたのか、全く覚えていないんだよ。もしかしたら、前の採掘をしていた時に出し忘れたものが入っていただけなのかもしれない。宝石も然程大きくないし、欲しければ持って聞くと良いぞ」

 リードは、僕から受け取った宝石を見続け、何かを確信したと思うと、僕に突き返してきた。そして、僕に顔を寄せて、小さな声で囁くように話しかけてきた。

 「これをどこで手に入れたのですか? いや、それは分かっているので、どうやって手に入れたのですか? これ、魔石ですよね?」

 魔石? 魔石……どこかで聞いたことがあったな。あっ!! エルフの秘術だ。そうか、思い出したぞ。僕の魔力から作った魔石の結晶だ。その後、記憶をなくしたから、魔石のことをすっかり忘れていたが、ここに入っていたのか。これを、リードに見せるのはまずかっただろうか。リリに知られたら、どうなってしまうのか。僕は、嫌な汗を背中に感じ始めていた。それを察したのか、リードが優しく、大丈夫ですよ、と声をかけてくれた。

 「これを持っているということは、リリ様がロッシュ殿に秘術の事をお話になったということでしょう。だとすれば、私だけに知られる分には問題ありません。エルフである私は知っていることですから、リリ様の怒りを買うことはないでしょう。それにしても、リリ様にそれほど認めてもらっている殿方というは初めて見ましたよ」

 良かった。リードだけに見られるだけで済んだのは本当に運が良かった。でも、これを僕が持っていたところで、使い途がないんだけど、やっぱり、リードが受け取ってくれないかな?

 「いいえ。それは受け取りません。私には、魔石を使って家具を作る資格を里以外では許されていないのです。もし、魔石で家具を作れば、私はエルフの里を追放されてしまうでしょう。そうすれば、新しい技術を得る方法がなくなってしまうのです。魔石はエルフにとっては、とても魅力的なものですから……欲しくなってしまうので、どうか、私に魔石を近づけないでください。それに、その魔石は色々な使い途があると聞いたことがあります。必ずやロッシュ殿の助けとなるでしょうから、持っていたほうがいいと思いますよ」

 僕にはわからない、エルフの家具職人としての葛藤みたいのがあるようだ。話を終わらすと、そそくさとキッチンの方に向かっていった。僕は、誰にも見られないように魔石だけをカバンにしまいこんだ。これが、どんな使い途があるのか、全く分からないが、リードが言うのだから、いつかは役に立つときが来るのだろう。その時は、リリに感謝しなければな。

 さて、私物の整理は大体終わったぞ。次は資材置き部屋に移動だ。ここには、採掘で掘り出した金属を多く保管している。金や銀、オリハルコン、ミスリルやアダマンタイトが代表的だ。去年の採掘で随分と在庫を持つことが出来たと思っていたが、予想よりかなり少ない気がするな。僕がいない時は、エリスにこの部屋を任せているんだよな。確認だけしおくか。ないとは思うが、泥棒が入っているという可能性も。

 僕は一旦、居間に戻り、エリスに資材置き部屋の金属が少なくなっていることを聞くと、僕の許可を得ていると言ってスタシャが何度も屋敷にやってきて持っていきましたよ、と気にするようもなく言ってきた。僕が考え込んだ素振りをすると、エリスが悪いことをしたと勘違いをしてしまい、謝罪をしてきたのだ。

 「すまない、エリス。別にエリスを責めているわけではないんだ。スタシャには、金属を渡す約束もしてあるし、村に役に立つならいくらでも使っていいと言ってあるから、減っているのは良いんだ。ただ、思ったより減りが早いから確認しただけなんだ」

 そういうと、エリスが何を考えていたんですか? と聞いてきた。

 「減りが早いから、また、採掘に行かなければならないと思ってね。いつ、行くかそれだけを考えていたんだ。最近は、一度潜るとなかなか帰ってこれないからな。時間を調整するだけでも大変なんだ」

 僕が採掘へ行くという話をすると、エリスは少し暗い顔になった。そういえば、去年は騒がしい出来事ばかりで、あまりエリスとの時間を持つことが出来なかったな。今日は、年の始めの日だ。こういう時こそ、エリスのために時間を作るのがいいだろう。それに、もう少しで僕とエリスの子供が生まれる。その相談もしておきたいからな。

 「エリス。少し時間あるか? ちょっと、二人で話さないか?」

 そういうと、エリスは嬉しそうに、はい、と答えて、飲み物を持ってくるので、あっちのソファーに座っていてください、と僕に言ってきた。僕はソファーでエリスを待つことにしたのだ。
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