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第170話 帰還と会議

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 僕達は、ついにラエルの街が見えるところまでやってきたのだ。すでに、街の外は荒涼としたような風景が見られるようになってきており、土地のやせ衰えているのが誰の目にも明らかだった。街までこの景色になっていたのではないかと思うとゾッとする。

 公国軍とガルム子爵軍の五千人の兵と一万五千人の王都から解放した奴隷亜人は、街に向かって進んでいた。すると、街の外れで一団と遭遇した。ルドやゴードンなど、街の主要なメンバーだった。彼らは僕達の姿を見て、大いに喜んでくれた。僕も再会を喜び、積もる話は後にしようということになった。なんと、街の人たちが総出で僕達を祝福するために集まっているというのだ。僕は喜びと共に恥ずかしさに襲われたが、この救出するために命をかけ、頑張ってくれた者に少しでも報いるためにも、堂々と街に入り、祝福を受けようと思った。

 先導は、ルドとゴーゴンが務め、僕達を誘導する。総勢二万人が行列を作って、歩いているのだ。それだけでも壮観だ。兵士たちは皆誇らしげな表情をし、沿道に家族や知り合いを見つけたものは、手を振り、自分の無事を伝えたりしていた。それは、凄まじい熱狂ぶりで、祭りのような騒ぎとなっていた。これが祭りだったら、僕は行列から飛び出し、踊りたい気分だが、そうはいかなそうだ。先導しているゴードンもワナワナとしているところを見ると、同じような気持ちのようだ。

 僕は、皆に手を振り、僕達の作戦の成功と安全をそれを持って報告する形にした。こういうのは恥ずかしいものだと思っていたが、なんとも気分の良いものなんだと気付かされた。沿道に出ている数万の人たちから、一斉に、ロッシュ公!! という歓声が起こった。

 僕達は壁の前まで来て、一旦はその場で待機とすることにした。今後の方針を決定しなければならない。それと、ゴードンと街道の途中で出会った亜人の受け入れについて相談しなければならない。僕はルド、ゴードン、クレイ、ガムドを壁の中の会議室に集めることにした。

 僕達が席に着くと、マリーヌがコーヒーを持って来て、目の前に置いていく。僕は一口、コーヒーを口にした。やはり、マリーヌの淹れたコーヒーは最高だ。一体、何が違うんだろうか? と思い悩んでいると、まっ先に声を出したものがいた。ガムド子爵だ。ガバッと、椅子から立ち上がり、深々と皆に礼をした。

 「この度は、私の妻と娘を窮地から救っていただいて、言葉もありません。これほどの恩をどのように返してよいか分からぬほどです。ですから、私の足りぬ頭で考えたのは、この公国に一生かけて忠誠を尽くすという以外ありません。どうか、私をロッシュ様の正式な部下として認めてはくださいませんでしょうか」

 僕は、正直ガムド子爵の言葉をよく理解していなかった。忠誠? っていうのはどういう事なのだ。僕は、餓えから皆を救うために進んで行動しているに過ぎない。その理想の実現のために、皆と共に行動しているに過ぎない。いわば、仲間であり、対等な関係のつもりだ。その関係で重要なのは、信頼関係だ。敵同士であったとしても、信頼関係を構築できれば、仲間になれる。しかし、僕には忠誠という言葉の意味がわからない。僕が、腕を組んで悩んでいるのを見て、ガムド子爵は不安そうな顔をし出した。それを察したのか、ゴードンが口を挟んできた。

 「ロッシュ公。何も悩むことではないではないですか。ガムド子爵と言えば、将軍を代々排出した名家。それが、公国に付いてくれるというのです。しかも、独立した勢力としてではなく、部下としです。これほど、心強いことはありませんよ。是非、ライルさんとガムド子爵で、公国軍を盛り立てていただきたいもんですな」

 ふむ。僕が受け入れを拒否しそうな雰囲気だと受け取られてしまったか。確かに、ガムド子爵の言う忠誠という言葉は置いておいて、信頼関係がないかと言えば、そうではない。僕はガムド子爵を信頼しているし、彼もそうだろう。だとすると、ゴードンの言う通り、ガムド子爵が仲間になれば、これ程心強いものはないな。

 「ガムド子爵、ではなく、ガムド!! これからも公国の軍を支え、公国を守ってくれ。よろしく頼むぞ」

 ガムドは、ははっ!! と胸に手を当て敬礼した。僕も頷き、議題に元ガムド子爵領の取扱というのが増えた。自分の領土がなくなるので、ガムドが少しは落ち込んでいるのかと思ったら、そんなことはなかった。むしろ、晴れ晴れとした顔になっていたのだ。ガムドは、最愛の妻が側にいるだけで、良いのかもしれないな。

 まず議題に上がったのは、当然、一万五千人の元奴隷亜人達の扱いだ。レントーク王国出身者ばかりなので、素直に考えれば、新村にそのまま移住という形を取るのが良いだろう。新村はこれからどんどんと大きくなる。それこそ、ラエルの街より大きく発展する潜在力を秘めている。僕が、新村に移住と言うと、特に反対もなく、この議題は終わった。

 次に今後の目標だ。公国は王国を完全に敵に回した形だ。敵の動きが全くわからない以上、常に戦争に突入しても良い状態を維持しなければならない。ただ、公国にはまだ戦争を継続するだけの力が備わっていない。食料や物資、練度の高い兵士、軍を統率する将軍、新兵器、どれをとっても満足に備わっているものがないのだ。僕は、各々の事柄について、軍担当のライル、物資担当のゴードンに話を聞き、ルドに諸侯への働きかけについて意見を聞いた。まずは、ライル。

 「現状、公国軍は五千人の兵を抱えているが、王国軍は少なくとも十万人の兵はいると見たほうが良いだろう。当面は、一万人くらいの規模に軍を大きくしたいと考えている。新村から更に二千人、元ガムド子爵領から千人、ラエルの街から二千人を徴募する予定だ。士官候補の育成、新兵器の開発、砦の構築を急ぐつもりだ。特に砦の構築は急ぎたいと思っている。やはり、街の近くを戦場にするのは望ましくないからな。オレからは以上だ」

 なるほど。ライルの軍に任せておけば問題なさそうだな。しかも、今後はガムドも付くから、公国軍はより強くなるだろう。しかし、王国軍は十万人もいるのか。一万人の軍でも凄いと思うが、なんとかなるのか不安は未だ拭えないな。次に、ゴードンだ。

 「私の方からは、特に食料についてですね。現状、食料は冬を越すだけで精一杯と言った状態です。ここから、備蓄を増やそうと思うと、来年の作付けは、大胆に畑や水田を増やす他ありません。村では、整備がされておりますから、容易に増やすことは可能です。ただ、人手が不足するかもしれないので、他から移住者を集めるしかないですが。ラエルの街や新村では、畑はともかく、水田の整備は不十分です。これはロッシュ公にお願いをして、貯水池の設置をして頂けなければなりません。武器などの物資は、鍛冶工房の増設を検討しております。職人の数を今より多くしなければなりませんので、すぐにというわけにはいきませんが。とりあえず、私からは以上です」

 やはり、食糧事情はかなり苦しいようだな。それもそうか。むしろ、よくやっていると思うくらいだ。僕がすべきことは、貯水池の設置か。それなら、なんとか冬の間か、春に出来ればいいと思っている。しかし、分かってはいたが、新規の移住希望者が大量にいることをゴードンには非常にいいづらい環境になったな。最後にルドが話した。

 「諸侯の動向ですが、王都の北側の諸侯を直ちに攻略するべきだと思います。ただ、こちらが動いても、北側の諸侯は態度を決めかねるでしょう。なぜなら、公国の影響力が低いからです。二度勝利を収めてはいますが、王国の力はまだまだ健在です。しかし、こちらが北側の諸侯と接触しているという事実が重要だと思っています。このせいで、迂闊に王都を空にするということが出来ないでしょうから。今は、これで時間稼ぎをし、軍備を整えるのが良いかと思います」

 なるほど。王都を疑心暗鬼に陥れるという作戦か。ガムドからの話を聞く限り、王都と北方の諸侯との間には信頼関係はなさそうだ。これは非常に効果的のような気がするな。そうすると、問題は誰がやるかということだが。

 「それでしたら、私の部下だったものに任せてみましょう。彼らは、元王都住まいの貴族たちです。きっと、上手く潜り込めるでしょう。それから、王都にそれとなく、北の諸侯が公国と関係を持とうとしていると噂を流しましょう」

 僕はすぐに了承して、その作戦をすすめるようにルドに指示した。さて、大方の目標を決めることが出来たな。あとは、元ガムド子爵領の扱いか。これについては、ゴードンの方から、まずは調査をしてみないとわからないということで話が一旦保留となった。ガムドもそれで了承し、すぐに統治官を送ると約束し、しばらくはガムドに統治を任せることにした。ガムド子爵領は、子爵領ながら広大な土地を有しているが、その大半が山岳地帯と森に覆われている未開の地だ。街道に接している領都のみが大きく栄えているという。ただ、水が豊富で、以前は肥沃な大地が広がっていたと聞く。一度は見に行きたいものだな。
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