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第164話 出陣

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 出発の当日、僕とミヤ、シェラは留守を頼むマグ姉、エリス、リードとしばらくの別れを告げた。僕達はこれからどんな状況に巻き込まれるのか、全く予想が付かない。しかし、そんなことも気にしないかのように、空は晴れ渡り、穏やかな風が吹いていた。僕は空を見上げ、日向ぼっこでもしたいなと思ってから、気を引き締めた。屋敷を出ると、ゴードンと数名の村人が僕らの見送りに来ていた。

 「ロッシュ村長、物資は滞りなく、先に出発させております。おそらく、数日内には追いつくと思います。今回は、ロッシュ村長が初めての遠征となります。どうか、ご武運を。無事のお帰りをお待ちいたしております。ロッシュ村長不在の間、ルドベックさんと私で、村や街を命を賭してお守りいたします。どうか、ご安心してください」

 僕はゴードンの手を握り、よろしくたのむぞ、と声を掛け、馬上の人となった。ラエルの街に到着したが、中心地は静かなものだった。ゴーダが迎えにやってきて、ルドベックさんはすでに郊外の軍が集結している場所に赴きました、と報告してきた。僕は礼を言って、その場所に向かった。遠目からでも分かるほど、人馬が集結しているようだ。

 僕らが集結場所に行くと、すぐに出迎えのものがやってきて、ルド達がいる場所に案内してくれた。そこには、軍を指揮する者たちがいた。ライル、クレイと付き人のドゥア、それに士官候補の教官であるフィリムだ。ルドは、見送りに来てくれたのだ。僕が近づくと、皆が立ち上がり、敬礼をしてきた。手を胸に当てる仕草なのだが、こんな敬礼、見たことがないそ。すると、ライルが小さな声で、最近決めたと言っていた。なるほど、軍だから敬礼があってもいいか。僕は敬礼を承認し、公国軍の正式なものとした。となると、軍服も欲しくなるが、今は考えるのをやめよう。

 作戦の最終確認を行い、出発の時間を今より一時間と決めた。この一時間後に、僕は初めて、公国外の空気を吸うことになるのだ。一体、どんな世界が広がっているのだろうか。ワクワクとする気持ちで、胸の高鳴りを抑えられない。もちろん、これから向かうのは、戦場となる場所かもしれないが、新たな発見をする可能性の前では、自分の危機すらも霞んで見えてしまうのは、僕の悪い癖なのだろう。

 ライルが、僕にスタシャから譲ってもらった新兵器の確認をしてほしいと言ってきたので、僕は頷き、新兵器を装備した新設の部隊のところに向かった。スタシャの道具は戦場の常識が覆るほどの品物だが、なにせ、数がかなり少ないため、それを扱う部隊を作った。この新兵器は使いどころが非常に重要になる。だからこそ、部隊はライルの直属とし、命令をすぐに実行できるようにしてある。新兵器の優れたところは、既存の武器に使用できることだ。稲妻を出す輪っかはどんな剣にも装着できるし、矢はクロスボウに装填可能だ。瓶も手でも投げられるし、矢の先端に装着することで、より遠距離を飛ばすことが出来る。使いどころはライルに一任だ。

 救護班のところにも顔を出した。ここには、マグ姉の薬を大量に保管されている。荷車だけでも相当の数に登る。ここが、僕の主戦場となる予定だ。シェラのことも紹介し、常に連携し合えるように、話し合いをし、認識を深めた。

 ついに、出発の時がやってきた。僕が兵の前に立った。

 「皆のもの。今回は、人を救助する大事な任務だ。救助対象者の中には、君たちの家族や友人もいることだろう。しかし、自らの意志を優先せず、ライルや自分の隊長の指示に従って行動して欲しい。我らの乱れが、救助を困難にするものと各々自覚を持って欲しい。僕も皆と共に行動する。よいか。かならず、救助隊勝者と共に、公国へと帰ろう!! 皆のもの、出陣だ!!」

 この合図と共に、ライルが号令を上げ、続けて、隊長格の人たちもライルの言葉を復唱し、全軍が静かに動き始めた。僕はライルに、僕達が出陣をしたことをガムド子爵に伝えるように命令をした。すぐに、ライルは部下に伝令に行くように指示を出していた。その光景を見て、この軍も軍らしくなったものだと感心した。そんなことを考えていたら、僕の背中から寝息が聞こえてきた。僕の背中にくっついているシェラからだった。あいかわらず、緊張感のないやつだ。

 僕達は、ラエルの街から西の街道をひたすら王都に向かって進んでいく。これは、おそらくだが、王国軍が公国を攻撃した時に使った道だろう。この道は、西の王都と東の主要都市を結ぶ重要な街道のため、道幅は広く、馬車が数台横並びでも通れるほどだ。ただ、整備は十分とは言えないため、沿道には草が生え、道幅を狭くする。それでも、僕達の軍は、滞ることなく進んでいく。

 主要道路だけあって、街の景色を残す廃墟の数々を目にすることが多かった。昔は、栄えていたのだろうと思える町並みだ。しかし、今は誰もおらず、野生の動物が家から家へと素早く移動するだけだった。その街々には必ず畑が存在するのだが、どの畑も荒れ果て、土地が痩せているのか、少しの風で砂煙が起こるほどだ。これでは、良い作物は作れまい。

 人も見えず、荒れた廃墟ばかりを目にしながら、僕達は進んでいく。新たな発見と言えば、峠道を登っている時に、火山だろうか、煙を吹いている山を見つけることが出来た。さらに、遠目ながら山肌から湯気が立ち上っているのを目撃した。あれは、まさか、温泉が近い証ではないだろうか。気になる。しかし、あの場所に行くためには、かなりの時間を食ってしまう。諦めるしかないか。しかし、温泉か。いいな。エリスたちと温泉に入る光景を思い浮かべ、少し興奮してしまった。

 峠を降り、ついに遠目に王都の影を見ることができる場所にたどり着いた。目的の場所まで、あと一日と言ったところか。実に予定通りの進軍だ。ライルの行軍の指揮の高さを改めて感心させられた。

 到着を次の日に控えた夜。いつものようにテントを張り、そこで一晩を明かす。僕のテントは、特注で、会議も行えるように大人数を収容できるように出来ている。また、機密の話も行われる関係から、狭い空間だけ完全とは言えないが防音にしてあるのだ。その部屋で、僕とライル、クレイで最終の調整を行った。特にガムド子爵との連携だ。向こうからは、一度だけ連絡があり、作戦を開始したとだけ書かれた文が届けられたのだ。これで、王都が北へ大きく動いてくれると良いが。

 会議が終わり、その部屋で僕は明日の事をコーヒーを飲みながら考えていた。エリス達を考え、必ず生きて帰るのだと決意し、腰を上げると、ミヤとシェラが中には行ってきた。しかも、クレイも一緒だ。なぜだか、クレイはもじもじとしている。先程の気高さはどこへ。あっ、武器を持っていないのね。すると、ミヤが、僕の方に近づいてきて、もう我慢できない、と言ってそのまま押し倒され、ミヤとシェラ、そしてクレイと共に夜を明かした。

 ついに朝を迎えた。気分は爽快だ……少し寝不足気味だけど。だけど、緊張のおかげか、眠気を全く感じない。さて、合流地点まであと少しだ。僕達は朝食をとってから、ゆっくりと目的地に向かっていった。
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