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第158話 明日の準備

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 僕達はエルフの里から戻ってきた。道中、リリと同衾したと勘違いしているミヤから冷たい目線を終始送られていたのが、かなり気まずかった。一応は否定したが、正直に言えば、エルフの秘術に触れることになるので言えず、結局は、ミヤの勘違いを認める形になってしまったのだ。

 屋敷に戻ると、ミヤは皆に言い触らし、僕はしばらく肩身の狭い思いをすることになるのだが、唯一、リードだけは察してくれて、僕を慰めてくれた。秘密を持つのがこれほど辛いこととは。いっそ、聞かなければよかったのか。でも、聞かなければドラゴンの話も聞けなかったし、巨大な食料保管庫も夢に終わっていたかもしれないんだよな。今だけと思っているが、その今が辛い……。

 ドラゴンって秘密に入らないよな? 僕は、ミヤに魔の森のドラゴンについて聞いてみた。まだ、冷たい視線は変わらないままか。

 「ドラゴン? 知らないわよ。私、魔の森のこと詳しくないもの。でも、魔界にいたドラゴンなら見たことがあるわよ。すごく巨大で、火を吹くのよ。魔王が何度が興味本位で討伐に行ったんだけど、一度も勝てなかったのよ。すごいわよね。わたしはあの時子供だったけど、今だったら結構いい勝負が出来ると思うのよね。もし、ドラゴンが魔の森にいるのなら、是非お相手してもらいたいものね」

 おお、意外と食いついてきたぞ。ドラゴンの性質で知っていることを聞いてみた。

 「そうね。私も詳しくは知らないけど、宝飾品を集めることが多いって聞いたことがあるわ。その方法はわからないけど、魔王が戦利品だと言って、いくつか宝石を持ってきたのを覚えているわ。中に貴重な金属もあったから、嘘はついてないと思うんだけど。それとドラゴンは一度住み着くと、そこを終生離れないらしいわよ。そのドラゴンも魔王城近くの山に巣を構えたものだから、大騒ぎしたものよ。もっとも、危害を加えなければ、何もしてこないんだけどね」

 ほお。ドラゴンとは面白い生態をしているのだな。もっと知りたくなるな。ゴブリンの女王あたりなら何か知っているかもしれないな。まぁ、冬になったら、魔の森の探索をしてみるのも面白いかもしれない。

 そういえば、と思いリードに、食料保管庫はエルフの里で完成させると言っていたことを告げると喜んでいた。やはり、自分の作品が完成することは嬉しいんだな。

 参謀をエルフの里に送ることについて、リリから了承をもらったことをルドに伝えるのは明日にすることにし、明日も新村開拓の手伝いに行くことにした。そうなると、また、大量の魔力回復薬が必要になるな。錬金工房のスタシャのところに顔を出すか。僕は、昨日、エルフの里に持っていくために作ったお菓子が余っていたので、それをもって、錬金工房に向かった。マグ姉が、肥料の開発の事で相談がしたいと言うので、一緒に行くことにした。

 錬金工房も久しぶりに来る気がするが、隣接する倉庫からいろいろと物が溢れているように見えるな。一体、何をしているか本当にわからない場所だ。しかし、錬金工房は村にとっては既になくてはならない存在になりつつあるからな。ホムンクルスが僕達を発見し、中に知らせに行ってくれた。ホムンクルスが増えていないことだけが、ホッとする瞬間だ。

 中から、ホムンクルスのアルビノが僕達を迎えてくれた。僕達を屋敷内に案内してくれるのだが、怪しげな液体が入った瓶が壁いっぱいに飾られているのが目に入ってくる。かなり不気味な屋敷になってきたな。マグ姉は、かなり興味津々と言った様子で、瓶の中を覗き込んだり、アルビノに質問したりしていた。その度に、動きが止まるのでなかなか先に進めないのだ。僕は、アルビノにスタシャの場所を聞き出し、二人を置いて、先に向かうことにした。

 教えてもらった部屋に入ると、スタシャが優雅に紅茶を飲んでいた。うん、ここもかなり不気味な部屋になっているな。

 「公衆浴場は繁盛しているようだな。私の錬金がお役に立てて、嬉しい限りだ。今日は何しに来たのだ? まさか、私も嫁にしたくなってきたのではあるまい?」

 僕はいつからそんなに節操なしの男だと思われるようになったのだ。しかし、思い返してみると、15歳という年齢ですでに嫁が五人と婚約者一人だ。思われても仕方がないのか? とりあえず、スタシャの話を無視して、今日の用である魔力回復薬を調達したいことを告げると、スタシャはすぐに了承してくれた。いつもなら、交換条件を言ってくるのだが、妙に素直で気味が悪いな。スタシャは、手元の鈴を鳴らすと、ホムンクルスが要件を伺いにやってきた。

 「ロッシュが魔力回復薬をお望みだ。たしか、まだ倉庫に在庫があったはずだ。あるだけ持っていってもらえ」

 スタシャがそういうと、ホムンクルスはすぐに倉庫の方に向かっていった。ここに来ると、ホムンクルスは便利そうでいつも欲しくなるな。エリス達に相談して、スタシャに一体作ってもらうかな。でも、ミヤあたりは変なことを勘ぐりそうなのが容易に想像着くな。

 「何を考えているんだ? ホムンクルスなら、ロッシュのためならばいつでも作ってやるぞ。ロッシュには世話になりっぱなしだからな。この村に来てから、錬金の材料で困ったことは一度もないし、オリハルコンやアダマンタイトも融通してくれるからな。これほど錬金術師として居心地のいい場所はそうはない。もし、王国が村まで進行してきたら、私の持っている錬金術の知識を使って、やつらに恐怖と絶望を与えてやろうと考えてな、いろいろと作り込んでしまった。ロッシュも倉庫をちょっと見ただろ? あれが、その末路だ」

 まさか、スタシャから村を守る意志があるという言葉が聞けると思わなかった。しかも、準備までしていただと? 僕はスタシャを勘違いしていたのかもしれない。僕は、スタシャの手を握り、感謝を告げた。スタシャは僕が握っている手をじっと見つめていた。

 「そこまで感謝してもらえると私も嬉しいものだな。だた、言葉ではなく、オリハルコンを少しばかり融通してくれる方が私は嬉しいがな」

 スタシャらしいな。僕は笑って、オリハルコンはまた今度だ、と言って断った。スタシャには、何かと理由を付けてオリハルコンを搾取されているから既に在庫が枯渇しそうだったのだ。新たに調達しない限り、渡すことは厳しそうだな。それが分かっているからか、スタシャは少し落ち込んだが、すぐに諦めてくれた。代わりに、ミスリルを譲ることを言うと、一瞬で機嫌が良くなった。本当にわかりやすいやつだな。スタシャが100歳を越えた婆さんとは思えないな。もしかして、スタシャも肉体に引っ張られて、精神も幼児化しているのではないか? その時、スタシャが盛大なくしゃみをした……そんなこともないか。

 そうだ。最後にもう一つだけ頼みごとがあったんだ。以前、睡眠を誘発する薬を使ったことがあるが、その在庫がないか確認したかったのだ。参謀は、魔法が使える人間だけに、エルフの里に運び込む方法が今ないのだ。そうなると、寝かせて連れて行くのがもっとも簡単な方法だろう。

 僕が頼むと、スタシャがスっと立ちあがり、壁の棚に並んでいる瓶の一つを僕に手渡してきた。

 「それは、以前見せた睡眠の煙が出るものを改良したものだ。粉にしてあるから、料理に混ぜるなり、飲み物に混ぜて飲ませると良いぞ。改良したのはそれだけではない。無味無臭、混入しても絶対に気付かれん、優れ物だ。誰に使うかなんて興味はないが、無闇に使うのではないぞ。その瓶だけで、大人を一週間は眠らせるだけ入っているから、量に気をつけるだぞ」

 僕は、帰り際に大箱一杯の魔力回復薬をホムンクルスから受け取った。探し出すのにかなり苦労したようで、髪にいろんなものが絡みついて、服に何かが付着していた。顔は澄ましていたけどさ。僕は魔法の鞄にそれをしまい、入らない分はホムンクルスに持ってきてもらうことにした。

 これで、明日から新村開拓を進めることができそうだな。僕はすっかり参謀のことが頭から抜けていた。
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