上 下
149 / 408

第148話 クレイ①

しおりを挟む
 僕、クレイ、ゴードン達を交えたレントーク王国の亜人達の処遇についての話し合いは次の日に持ち越しとなった。といっても、ほとんどの話し合いは終わっているので、確認程度しか残っていない。街の外に駐留している亜人たちには、テントと食料を供給を開始しているという報告が入ってきている。外は既に暗くなっている。冬も近いため、寒さが肌を刺すようになってきた。

 僕達は、その場で明日の昼にここに集まるという約束をし、解散という話になった。僕は、ふと部屋から外を覗くと、亜人達が炊事をしているのか、方々から煙が上がっているのが見えた。自警団の団員に火事にならないように注意を亜人達に促すように命令をして、再びに外に目を向けていると後ろの方からマグ姉の声が聞こえてきた。おや? 先程、部屋を出ていったのではなかったかな? と思い、声のする方向に目を向けた。そこには、部屋を出ようとするクレイを入り口で待ち構えているマグ姉という光景が目に入ってきた。どうやら、マグ姉は僕ではなく、クレイに話しかけているようだった。

 「クレイさん。お久しぶりですね。先程は挨拶も出来ず申し訳ありませんでした。ちょっと、お時間をよろしいですか?」

 マグ姉が人と接するときの優雅さというのは、ほんとうに素敵だと思う。でも、普段の甘えてくる態度もそれはそれでいいのだが……と僕はつい顔が緩んでしまう。

 「マーガレット姫。お久しぶりです。先程、お目見えした時は、マーガレット姫がここにいるとは信じられず、こちらも挨拶が遅れてしまいました。ルドベック王子もですが、マーガレット姫もどうしてここにいらっしゃるのですか?」

 「私は、もう姫ではありません。今は、ロッシュ公の妻となっています。ルドのこともそうですが、その辺りを説明したいと思いますし、ロッシュ公の妻となった方々がクレイさんの話を聞きたがっていると思います。ですから、これから村の屋敷の方に向かおうと思うのですが……ロッシュ公の婚約者となったのですから、当然、来て頂けますよね?」

 マグ姉が僕の妻だと言った瞬間、ずっと表情を笑顔のままにしていたクレイがちょっと驚いたような顔をしたが、さすがに王室の人間だ。すぐに表情を戻していた。マグ姉も表情だけだと分からないが、クレイでちょっと楽しんでいる感じがなんとなくした。

 「と、当然です。村? の屋敷に行きたいと思います。ドゥア、準備をしなさい。」

 クレイが行くと聞いて、マグ姉がニコっと笑って、従者はここに置いていってくださいと言った。クレイは、マグ姉のなんと言えない迫力に押されて、了承していた。マグ姉は僕の方に顔を向けて、村に帰りましょう、と行ってきた。僕は、完全に他人事だと思って聞いていたのに、僕も行くの? だって、明日の昼に……あっ、クレイも一緒か。屋敷に帰りましょう!!

 僕は、マグ姉の提案で今晩中に屋敷に戻ることになった。共に帰るのは、クレイとミヤとマグ姉、それとシェラだ。護衛としてライルと自警団、それにミヤの眷族達が付いてくることになった。ルドとゴードンに後のことを頼みんだ後、治療院に寄ってシェラと合流し、街を後にした。移動は馬での移動となった。ミヤの眷族達が同行してくれるので、魔の森を抜ける最短で行くことにした。クレイは、魔の森を抜けていくと聞いた時はかなり怖がっていたな。というか、魔の森ってどのくらい知られているんだろうか?

 幸い、魔獣達に出会うことなく、村にたどり着くことが出来た。昨日の早朝に出発したのに、随分と長い時間が経ったような気分だ。すでに暗くなっていたため、村人の姿はなかったが、遠目に見える公衆浴場の光に沢山の人が群がっているのが見えた。その姿を見て、僕はいつもの日常に戻ったのだと思いながら、屋敷へと進んでいった。クレイは、村の情景を見て、何を思っているのか、涙を流していた。僕はクレイに話しかけた。

 「クレイ。どうかしたか?」

 「申し訳ありません。なんだか、随分前の王国を思い出してしまって。以前の王国もこのように豊かな国でした。これほどの畑が広がっていたわけではありませんが、雰囲気がとても似ていたので。まさか、このような場所がまだこの世界に残っていたなんて、ロッシュ公は本当に何者なのですか?」

 何者と言われてもな……僕はただのロッシュ以外何者でもないんだけど。強いて言うなら、僕の背中に抱きついているシェラから世界を救うように頼まれたくらいかな。といっても、説明しても信用してもらえないだろうな。ぼくは、クレイの問いには何も答えることはなかった。ただ、村を褒められたことは嬉しかったので、ありがとう、と一言言ったくらいだ。

 屋敷に到着した僕達は、すぐに居間に行くことにした。エリスとリードは僕達を出迎えてくれ、エリスは涙ぐんで僕に抱きついてきた。リードもすっと僕の手を取り、おかえりなさい、と小さな声で言ってくれた。僕は、二人にただいま、と言った。ようやく帰ってきたんだな。エリスが僕からすっと離れて、人数分のコーヒーを用意するためにキッチンに向かった。リードもエリスに付いていった。

 とりあえず、外から帰ってきた僕達は着替えをするために各自の部屋に戻っていった。クレイは、リードと体型が似ているので、リードから服を借りることにし、マグ姉と共に部屋に向かっていった。僕は、着替えを済ませ、居間に戻った。まだ、皆は部屋から戻ってきていないが、テーブルにはコーヒーが用意されていたので、先に飲むことにした。相変わらず、旨いな。

 エリスとリードには、昨日と今日の出来事を簡単に話した。特に二人が興味を示したのは、クレイが僕と婚約した話だ。二人は特に反対している様子はなかったが、しきりとクレイと話がしたいと言っていた。まぁ、こうゆう話は女性同士で話したほうがいいのだろう。今夜は僕は静かにしていようと心に決めたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

処理中です...