爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第127話 何気ない会話

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 公衆浴場が完成してから、村人が明らかに清潔になっている気がした。風呂という文化は、少しずつだが浸透し始めていた。魔牛牧場の方でも話題に上がったみたいで、わざわざ牧場長のサヤが屋敷に出向いて、公衆浴場を牧場にも作って欲しいとお願いにやってきた。ミヤの眷族にはかなり世話になっている。是非とも願いを叶えてやりたいが、牧場周辺に大量の水場を確保することが難しい。公衆浴場を作っても、水を井戸から汲んでくるのは大変だろう。

 僕が腕を組んで悩んでいると、ミヤがドワーフに頼んでみてはどう? と軽い気持ちで僕に言ってきた。ドワーフ? 僕はその言葉が何なのか、全く分からなかったが、しばらくして思い出した。ドワーフ!! 小さな巨人か!! 完全に忘れていたな。なるほど、ドワーフは名工と名高いと聞く。もしかしたら、いい道具を持っているかもしれない。しかし、どうやって会えるんだ?

 ミヤに聞いても、場所は全くわからないらしい。魔の森のことだから、エルフに聞いたほうが良いだろうか。リードが丁度その場にいたので聞くと、物凄く嫌な顔をしていた。どうやら、エルフ族とドワーフはかなり仲が悪いらしい。お互いに職人気質でライバル意識が強いようだ。そのため、ドワーフの場所はエルフは知らないだろうということらしい。困った。完全に知る手立てを失ってしまった。

 サヤには申し訳ないが、公衆浴場は難しいといい帰ってもらうことにした。魔牛牧場か……ん? 待てよ。僕は帰る間際だったサヤを呼び戻し、牧場に宝石類はまだ届けられているか聞くと、量は少なくなったがまだ続いていると言う。そうか、ゴブリンはまだ牧場を訪ねてきているんだな。もしかしたら、彼らなら詳しく知っているかもしれない。サヤには、ゴブリンにドワーフの居場所を聞くようにお願いした。いい方向に行けばいいが。

 ドワーフに会うことが出来れば、いろいろと知識を得られるかもしれないな。きっと、村の経営に役に立つだろうな。ドワーフとエルフが対立しているとは意外だったな。ミヤも確か酒のことで恨んでいたっけな。

 僕は、徐々に上達するマグ姉の料理を食べ、ゴードンを呼ぶ出すように頼んだ。リードと何気ない話をしていた時に、ふと、エルフの家具として食料の保管庫を作るとどうなるんだ? と聞いてみた。リードは頭を傾げて、考え込んでいた。こうやって、考え込んでいるリードを見ていると体型が丸くなったなと感じた。お腹はまだ目立つほど大きくはなっていないが、着実に子供が生まれる準備が出来上がっているんだなぁと思っていると、リードがこちらを見つめているのに気付いた。

 「ロッシュ殿。そんなにお腹が気になりますか。見つめられるとちょっと恥ずかしいですね。先程の問いですが、もし作ることができたならという話になりますが、よろしいですか?」

 もし? 作ったことがないということなのかな。僕は頷いた。

 「もし出来たなら、保管庫内に入っている食物は腐らずに、新鮮な状態を維持し続けると思いますよ」
 
 何だそれは!? そんなのがあったら凄いことじゃないか。なぜ、エルフは作らなかったんだ? もっとも実用性がある家具ではないか。そんな事を考えているのをリードは察したようだ。
 
 「エルフの里で保管庫を作ったことはないのには理由があるんです。作っても実用性がないのです。おそらく、作ったとしてもジャガイモが数個入る程度でしょう。そんな保管庫は必要となりますか? それが実用化されなかった理由なんです」

 たしかに、その程度しか作れないのでは、作る価値は乏しいだろう。僕もほしいかと言われたら、手に入れたいが、どうしてもという物ではない。ならば、大きく出来ない理由という何だろうか? と思っていると、リードからは当然の返事があった。それはエルフの秘密に触れることになるのでお教えできませんということだ。気になるな。それに巨大な保管庫が実用化されれば、収穫期ではない時期に野菜を新鮮な状態で食べれるということではないか。これほど凄いものはない。ただ、これ以上、リードに頼んでも無理だろう。やはり、ハイエルフのリリに相談するしかないか。

 そんな会話をしていると、ゴードンがやって来た。

 「ロッシュ村長。おはようございます。公衆浴場の評判は凄いものですぞ。連日長蛇の列が並んで大変な騒ぎですよ。そのうち、ルールを作って、皆がすぐに入れるようにしないといけませんな。それで、本日の御用は?」

 僕は、農業関連で冬が来る前にやっておかなければならないことをゴードンに確認するために呼んだことを説明すると、すぐに返答が来た。

 「すぐに必要となるものがあります。それは塩田と養魚場の拡張です。特に、養魚場の不足は深刻です。まだ立ち上げて間もないですから、数自体が少ないというのもあるのですが、なによりも保管が出来ないというのが厳しさを増していますな」

 塩田と養魚場か。この二つは無くてはならない食料だ。とりあえず、現地にいかなければならないな。僕はミヤを誘おうとしたが、どうやらやることがあるようで断られてしまった。そうなると、シェラしか誘う人がいないか。シェラは二つ返事で付いてきてくれることになったので、すぐに現地に向かった。丁度、屋敷に馬が繋がれていたので、馬で行くことになった。

 シェラが僕の背中に密着しながら、僕は、背中の感触に全意識を集中させながら馬を走らせていく。今年の夏は、地下にずっと潜っていたから、今年は海に行くことが出来なかったな。さすがに今は寒いだろうから、皆の水着姿を拝むのは来年になるのか。そういえば、来年はシェラもいるんだよな。シェラの水着姿か……すごく楽しみだな。僕が、シェラの体を想像していると、なんか変なこと考えていませんか、とシェラに急に言われてしまったのでビックリしてしまった。

 「そ、それよりも、シェラは海を知っているか?」

 「海ですか? 海の底まで誰よりも知っていますが、実際に見たことも触ったこともありませんね」

 「そうか。夏になると、屋敷の皆で海に行くことになっているんだが、シェラも来年は一緒に行かないか? 村では水着はかなり充実しているから、それも楽しみにしていいぞ」

 「ああ。水着ですか。さっきからそれを考えていたんですね……。まぁ、楽しそうですから、一緒に参加させてもらいますよ。一度、海というのを体験してみたかったですしね」

 シェラの水着姿を想像しながら、楽しく塩田のある海岸まで馬で駆けていった。
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