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第125話 公衆浴場 前半

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 ゴードンが提案してくれた風呂はたしかに魅力的だ。たしかに各家庭にあれば、それだけ衛生面を確保でき、病気が蔓延するのを防ぐ効果があるだろう。しかし、お湯を作るのにも大量の燃料が必要となる。各家庭でそれを負担するのは難しいだろうな。ふむ。ん? 待てよ。何も各家庭に置くのは理想だが、それにこだわる必要はない。

 「ゴードン。風呂は出来るかもしれないぞ。ただ、やっぱり水をキレイにする方法を考えなければな。それが出来れば、楽しいことになるぞ」

 僕はとりあえずゴードンに大量の鉄を手配してもらうことにした。貯水池までの坑道を鉄で覆うためだ。ゴードンは、すぐに取り掛かります、と言って屋敷を去った。

 後日、多くの村人を使って鉄を坑道に運び込み、鉄で覆っていった。あとは、坑道を貯水池と接続すれば、水は村に向かって流れ出すだろう。水量は村側の坑道出口で調整することにした。貯水池に水が半分以上溜まった時、水の開通式を行ったのだが、水の勢いが想像以上だったため、坑道出口が大水で大変なことになってしまった。幸い、作物には影響はなかったが、かなり焦った。

 一旦水を止め、出口に深い貯水池を作り、そこに貯めることにした。あんな勢いで水田に水が流れ込んだら、一発で水田がダメになってしまうところだった。開通を再開すると勢い良く貯水池に水が溜まり、満水になる寸前で水を止めた。これは凄いぞ。これなら来年の水田はかなり広げることができそうだ。しかし、想像した通り、水がかなり濁っているな。どうしたものかな。浄化の魔法とかあったら嬉しいがそれはなさそうだ。

 僕が貯水池の前で腕を組んで考え込んでいると、後ろから聞いたことのある声が聞こえていた。スタシャの声だ。

 「ロッシュ。何をしているんだ? おお、これは良いものを作ったな。しかし、濁っているのは気に食わないな。どうせ、ロッシュのことだから、この水を村でも使えるようにしたいのだろ?」

 相変わらず、理解が早いな。僕が頷くと、スタシャが共に来ていたホムンクルスが持っていた荷物を受け取り、中から小さな小石のようなものを手に取った。そして、その小石を貯水池の中に放り込んだ。

 僕は、スタシャが貯水池にゴミを捨てたと思って、注意をしようとしたが、スタシャが貯水池を指差していた。僕は不審がりながら貯水池の方を覗くと、特に何もないな。もう一度スタシャを見ると、もっと底の方と言うので、見ると、さっきの小石を中心にゴミが寄り集まっていっているのが見て取れた。

 「スタシャ、これはなんだ⁉ ゴミが集まっているように見えるが」

 「ようではない。集まっているのだ。あれはなぜだか知らないが、周囲のゴミを集める習性があるのだ。ある程度の大きさになると、集まるのが止まってしまうが」

 「そんな凄いものをどうして持ち歩いているのだ? まさに僕が探していた物だぞ」

 「別に持ち歩くつもりはない。偶々だ。あれは錬金をするときの失敗作だ。最初は、掃除に使えると思っていたが、何でも吸着するものだから使い物にならなくなったのだ。まぁ、この池の掃除くらいには使えそうだな。どうせ、欲しいのだろ? 屋敷にいくらでもあるから持っていくが良い。ロッシュには世話になっているからな」

 まさか、こんなところで手に入るとは思わなかった。これで、村に水が引けるぞ。すぐにゴードンを呼び出た。

 「ロッシュ村長。急ぎということですが、いかがいたしましたか。何か問題でもありましたか」

 僕は水をキレイにする方法を発見したことを教え、公衆浴場の建設を相談した。家庭に風呂を設置するのは現状では難しいが、村人が入れるような施設を作ることが出来れば、風呂を共有することが出来る。特にこれからは冬になるので風呂の需要は大きくなってくるだろう。とはいえ、この村には風呂に入る文化がないので、どこまで浸透するかは未知数だが。

 僕とゴードンは、公衆浴場の建設をするための予定地を探すことにした。排水のことを考えると川近くで、貯水池よりも低地が望ましい。そうなると、水田予定地の一角に作るのが良さそうだ。ここなら西の居住区の近くで使い勝手が良さそうだ。僕は、簡単な建物を作ってもらうために、レイヤを呼んでくるよう、ゴードンに頼んだ。その間に、25メートル四方になるように地面をくぼませ、砂利と石を使って、表面と覆っていった。プールみたいな大きさになってしまったが、人数を考えるとこれくらいは必要になってくるだろう、と思う。少しやりすぎてしまったかな? これをあと一つ作って、男女別の風呂が完成だ。あとは、レイヤに境に壁を作ってもらい、雨よけを付けてもらいば、公衆浴場として使えるだろう。

 あとは、お湯の確保が必要になってくるな。鉄を大量に用意し、巨大な鉄釜を作り、薪で湯を沸かすようにした。その湯と貯水池の水が混ざるようにして、風呂に流し込めばいいだろう。ただ、これだけ巨大な鉄釜に入った水を沸かすのにどれくらいの時間がかかるか未知数だ。とりあえず、やってみて、ダメならもう一度考え直そう。

 そんなことをしている時にゴードンとレイヤがやってきた。。それも、大人数と大量の木材を持ってきてきてくれた。どうやら、ゴードンがレイヤに公衆浴場の説明した時に、僕が考えているような建物を作る必要があると思い準備までしてきてくれたらしい。ライルもすっかりレイヤにこき使われているのか、レイヤの指示によく反応していた。

 「村長。やっとこの村に風呂がやってくるんだね。私は、村長の屋敷になる風呂に何度入りたいと思ったか。特に夏に汗をたくさん出した日なんて最高だろうね。まぁ、これから寒くなるから暖かい湯というのも良さそうだ。とにかく、一生懸命作らせてもらうよ」

 レイヤがそういうと、早速作業に取り掛かっていた。テキパキとする作業は見ていて気持ちが良いもんだな。女性目線だからなんだろか、男女の境界線の壁が異常に高く、それでいてかなり頑丈そうな造りになっている。絶対に覗きをさせないという職人魂を感じさせるものだった。それ以外は、拍子抜けするくらい簡単なものになったが、それでも僕が想像していたものより遥かに素晴らしい建物になった。

 建物を建設している間に、ずっと釜で湯を沸かしているのだが、なかなか沸く様子がない。これは失敗だったかな? 薪を使っているの失敗なのか? 僕が釜の前で悩んでいると、再びスタシャが現れた。

 「また、悩みごとか? と言ってもだいたい分かるような気もするが。この大釜で湯を沸かしたいのが、時間がかかりすぎるというところか。さっき、風呂を拝見したが、なるほど、あの大きさだと湯も大量に必要となろう。その湯をこの大釜だけに頼るというのは、いささか無謀ではないか? ロッシュも残念な頭をしているんだな」

 くっ……悔しいが何も言い返せない。大量の湯を沸かす事を考えたら、大釜くらいしか思いつかないだろう。僕は言い返せない代わりに、スタシャを睨みつけた。

 「まぁ、そう落ち込むな。何も考えもなしにロッシュをいじめているわけではない」

 さっきと同じ光景が広がった。スタシャは鞄から宝石のようなきれいな赤い石を取り出し、僕に手渡そうとした。僕はとっさに手を出すと、スタシャがすっと引っ込めた。くっ……地味な嫌がらせを。

 「さっきは失敗作故、ただであげたが、これは別だ。燃焼石と言って、作るにも錬金術で高度な技術を必要とするのだ。これは私の趣味で作ったものだから私物だ。これを譲ってもいいし、作ってやっても良い。その代わり、交換条件だ。オリハルコンとアダマンタイトを私個人用として譲って欲しいのだ」

 これで分かったぞ。今日はやたらとスタシャに会うと思ったら、この要求を通すために僕の周りをウロウロしていたんだな。アダマンタイトはともかく、オリハルコンは厳しいな。でも前に渡した時、これが全てと言っておいたはず。それを理由にすれば……
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