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第122話 シェラ

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 「ロッシュ村長。相当深く掘りましたな。しかし、地下室とは良いものですな。食料に保管するのにちょうど良さっそうです。地上だとどうしても気温に影響を受けて、腐りも多く出てしまいますからな。少し検討してみてはいかがでしょうか? それにしても、石が丁度収まりましたな。ますます魔法の腕が上がったのではないですか」

 ほお。ゴードンは面白いことを言うな。地下室に食料を保管するという考えは思いつかなかった。そういえば、昔は地下に室《むろ》を作って、種や野菜を保管していたというのがあったな。それは一考する価値はありそうだ。
 ちなみに、村の地下に村がすっぽり入るほどの地下室があることを村人に知られると不安を感じさせかねないので、壁を作って見せないようにしたのだ。

 ゴードンには、後でそのことを説明するとして、村人たちには地上に戻ってもらうことにした。女神様の力をあまり見せないほうが良いだろうと思ったからだ。どうせ、今回が最初で最後だ。神の奇跡は知らないほうが良いだろう。僕は女神様にお願いをして結界を張ってもらうことにした。これで、石の効果が制御され、村に効果が限定される。石の消費も少なくなるだろう。

 女神様は、目を瞑り、意識を集中しているように見えた。女神様は何かをしてのだろうか、澄まし顔をして、終わりましたと一言言った。その顔は寂しそうで、少し後悔をしているのではと心配になる、そんな顔をしていた。僕は、その顔を忘れることは出来なかった。空間には何も変化は見られず、当然、アウーディア石にも変化はなかった。女神様は神の力を失ったのか、フッと力が抜けたように気絶した。

 僕は女神様を抱えて、屋敷に戻って数日経ってから、驚くような報告がやってきた。街の畑の土が急速に衰え始めてきたというのだ。この村の土は相変わらず、いい状態を維持していたので、安心していたのが。その報告を聞いて、僕は完全に失念していたことに気付いた。女神様は、この村に効果を制限すると言っていた。つまり、街まで効果が及ばないということだ。僕は、勝手に街までを村と勘違いしていたのだ。

 すぐに、女神様の部屋に向かい、女神様を起こそうとしたが、一向に目覚める気配がなかった。そうだ、回復魔法をかければ、もしかしたら。そう思い、回復魔法を掛けると、女神様は少し目を覚ましてくれた。それでもかなり衰弱しているようだ。まるで、僕が魔力を失ったような状態だ。それでも、なんとか少しの会話程度はできそうだ。

 「女神様。助けてほしいことが起きた。村から離れた場所に街があるんだが、石の効力が及ばなくなったせいで土地が枯れ始めているんだ。なんとか、石の効力を街に及ぼすことは出来ないか?」

 女神様は、うつろな瞳でこちらをじっと見つめていた。僕を手招きをしてくるので、口元の方に耳を近づけた。女神様の吐息は妙に色っぽく恥ずかしい思いをしたが、我慢をして女神様の声に耳を傾けた。

 「その街の中心に石のかけらを設置しなさい。あの石は石同士で共鳴し合う特徴があります。共鳴をすれば、その効果は街にも及ぶでしょう。ただ、石同士の距離が離れすぎると共鳴しづらいので、あまり離してはいけませんよ」

 僕は、すぐにアウーディア石のカケラを持って、街に向かうことにした。ライルにも同行してもらい、急行した。ルドの小屋に向かい、すぐに会うことにした。ルドも急速な土地の衰えにどうしていいかわからない様子で、緊張したような表情をして僕と対面していた。僕は、持ってきた石のかけらを見せ、このかけらを街の中心に設置すれば土地が再び豊かになると説明した。しかし、半信半疑と言った様子だったが、他に取るべき手段もないということで、かけらを設置することに決まった。街の中心と言うと……考えてみたら、今いる小屋がそうだ。僕は、適当な場所を作ってもらい、かけらを設置した。これで効果が出ると良いが。すると、ルドが疑問に思ったことを口にした。

 「なあ、ロッシュ。一つ疑問に思うんだが。石のかけらというのは、マリーヌの指輪ではダメなのか? あれもアウーディア石のかけらだろ?」

 そのとおりだ。考えてみれば、すでにこの街には、かけらがあったではないか。それで共鳴していないということは、距離が遠すぎるということか。早く気付いて良かった。少しでも遅くなれば、今栽培している作物に影響が出かねない。まだ、大丈夫なようだが。

 僕は、ルドとライルを連れて、街と村にある壁に向かった。そこなら、かけらの設置をするのに適しているだろう。すぐにかけらを設置すると、キラッと輝いたような気がした。ここに常駐している自警団員にはかけらを保管しておくことを説明し、これも警備対象であることを頼み、街に戻った。

 効果はすぐに顕れたようで、土の状態はみるみる回復していったみたいだ。それが判明したときには、すっかり暗くなっていたので、街で一泊した。夜は、ウイスキーと米の酒で大盛り上がりした。この街でも、酒が浸透するようになっていて、街の人でも少しだが口にすることが出来るみたいだ。

 次の日の朝にライルと共に村に戻ることにした。一旦、石のかけらの様子を見て、異常がないことにホッとしてから、屋敷へと帰っていった。屋敷に戻ると、女神様の意識は戻っていたようで、遅い朝食だったが食べていた。

 「目覚めていたか。あれほど衰弱しているように見えたが、女神様ともなると回復が早いようだな」

 「おはよう。ロッシュ。貴方が回復魔法を掛けてくれたみたいで助かったわ。あのまま、神力がない状態が続いたら消えていたかもしれなかったわ。あなたの魔力がすごく暖かく私を包んでくれましたわ。神力の代わりにあなたの魔力が体に入ったおかげで、今はとても気分は良いですわ。ある意味、貴方は命の恩人ということになりますね」

 そういって、僕に微笑を向けてから、朝食を美味しそうに食べていた。

 「そういえば、今回のことで少し疑問に思ったんだが。アウーディア石を採掘してから土が豊かになることは理解できた。僕がしている指輪は、減ったりしていないが、これはどうゆうことだ?」

 女神様は食事の手を止め、少し考えていた。

 「正直言って、分からないわね。共鳴はしているとは思うけど、たしかに、その指輪自体から効力が出ているようには見えませんね。多分だけど、その石はロッシュの魔法で加工しているじゃないですか。それが原因かもしれませんよ」

 ふむ。要領を得ないが、女神様にわからないようだと、僕にも分からないことなんだろう。気づかなかったが、女神様がいつの間には僕の名前を呼ぶようになっていたな。そういえば、女神様の名前はないのだろうか?

 「ところで、女神様のことはなんて呼べばいいんだ? いつまでも女神様では村人の前で呼んだ時、おかしいと思われるだろ」

 「私は別に女神という名前でいいのですけど、ロッシュが呼び方を変えたほうがいいというのなら従います。といっても、女神以外の名前はないので、好きに呼んでくれてもいいですよ。いい名前を付けてくださいね」

 また、この展開か。この世界は名無しが多いのか? といっても、適当につけるわけには……僕は、女神様をシェラと呼ぶことにした。シェラは気に入ってくれたみたいで、僕がシェラと呼ぶ度に嬉しそうな顔をしていた。それにしても、随分と僕に親しむようになったな。どういう心境の変化なんだろうか?

 これで、イルス公国領はようやく土壌の荒廃から免れることが出来たようだ。今年は、来年の畑の準備が随分と遅れてしまった。秋も深まり、冬も間もなくやってくるだろう。その前に、やることをやっておかなければ。
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