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第109話 いざ、採掘へ

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 住人をしばらく街で療養することにし、僕達は村に戻り、スタシャの下を訪ねた。スタシャは相変わらず、のんびりとした様子で紅茶を飲んでいた。

 「なんだ、急に。その顔は、何かあったのか? とりあえず、紅茶でも飲むといい」

 沈黙が続く中、ホムンクルスが紅茶を差し出してきた。相変わらず旨い紅茶だ。

 「スタシャに聞きたいことがあって来た。前に、王国が出来上がる前の世界について話していたな? それについてだが、詳しく教えてくれないか?」

 僕が言った言葉に、スタシャは無言で続きを催促してきた。

 「最近まで農業が出来ていた土地が、短い時間で作物ができなくなる土地になるという話を聞いたんだが、それが人為的に起こったことではないという確信はないが、確認済みだ。この情報についてはそれなりに信頼してもいい話だと思う。そこで考えたのは、といってもマグ姉が考えたんだが、アウーディア王国の建国前の状態に戻っているのではないかということだ。そんなことが起きうると思うか?」

 スタシャはしばし無言でいたが、すっと右手を上げ、マグ姉の左手につけてある指輪を指差した。

 「アウーディア石が原因ではないかと考えられるな」

 「この指輪の?」

 「そうではない。その石より大きな石が王都にあるではないか。あくまでも仮説の域を出てないが、伝承が真実だとすると、その石の存在がこの大地を豊かにさせた最大の理由だ。どういう理屈だかわからないがな。私が、王宮に残っている石を最後に見た時は、小さな石だった。しかし、伝承な中では山のような大きさだったと記されている。そう考えるならば、長い年月で石は小さくなり、効力が切れてしまったのではないかと」

 それなら辻褄が合う気はするが、とても真に受けられる話ではない。それならば、どうしてこの村はラエルの街のように土地が枯れないのだ? 今年も大いに実って、去年以上の成果ではないか。

 「この村にはアウーディア石がある。それゆえ、豊かなままなのではないか。私にもそれ以上のことは分からないが、この村にあって、他の場所にはないものは、その石以外には考えられないからな。といっても、ロッシュ達の持っている石も小さい。仮説が正しければ、先に待っているのは地獄だな」

 そうだとすると、アウーディア石を探さなければいけなくなるな。もしかしたら、その採掘場の先にもあるかもしれない。本当にこの世界というか、少なくとも王国は衰退の一途を辿ろうとしているのだな。僕はこの村を守らなければならない責任がある。そのためにも、全力で問題を乗り越えなくては。僕は、問題を解決する方法を聞いた。

 「うむ。伝承に出てくるようなアウーディア石をすぐに見つけることは難しいだろうな。そうなると、アウーディア石から作った土壌復活剤を量産するかしかあるまい。あれがあれば、土地が枯れだしても対処はできよう。その間に石を発見する以外に方法はないな。私とて、まだやりたいことがあるからな。出来る限りの協力はしよう。採掘をする際にホムンクルスを使うといいだろう。不眠不休で働くし、力も強い。荷物持ちや運搬に大いに役に立つだろう。以前、ミスリルをもらったからな。今以上に強力なホムンクルスが作れるだろう」

 ホムンクルスの話になってから、急に興奮しだして話が止まらなくなっていた。ミスリルは最近、備蓄が豊富になってきている。というのも、魔牛牧場に定期的に送られてきているからである。ミヤの眷属に原因を探ってもらっているがまだ判明していない、謎なのである。最初は、保管していたが誰も取りに来ないので村でありがたく使わせてもらうことにした。もっとも、ミスリルを使う村人なんて、スタシャ以外にはいないのだが。

 僕とマグ姉は、屋敷に戻り今後について皆と相談することにした。ルドからもたらされた情報やラエルの街の土壌の様子などを説明すると、とても信じられないと言った様子だった。僕も街から戻ったら、この村が本当に別天地のように思えたのだから。それでも、ラエルの街は目と鼻の先にある街だ。同じような状況をこの村を襲うと考えたほうがいいだろう。僕は、最優先課題としてアウーディア石の発見ということにした。また、土壌の変化を見逃さないように、村人に周知してもらうことにし、最悪の場合、土壌復活剤の使用も認めることにした。

 エリスには、ゴードンと共に住民への説明をしてもらうことにし、マグ姉には地力を回復するための薬草を探してもらうことにし、ミヤには採掘のサポートをしてもらうことにした。皆は、これ以上のないほど真剣な眼差しで頷いた。次の日にゴードンを呼び出し、同じ説明をするとさすがに年季が入っているだけあって、取り乱したりはしない。

 「ロッシュ村長。必ずやこの危機を乗り越えてましょう。そのためには、村人は協力を一切惜しまないでしょう。私もエリスさんと協力して、村人に周知徹底させますよ。採掘は長期に渡るでしょうから、そのための物資の補給などの準備も滞り無く行っておきます。そのために、採掘坑のどこかに拠点を兼ねた集積場を作ってもらえると助かります」

 「僕がいない間は、ゴードンが村の指揮をしてくれ。エリスやマグ姉にはゴードンのサポートに付かせるつもりだ。それに、ルドの調査隊はこれからも情報や移民を送ってくるかもしれない。その時の対応もよろしく頼む。採掘場には、スタシャが作ったホムンクルスが待機していると思うから、その者に手紙を渡してくれれば、僕の届くようにしておくから適宜送ってくれ」

 僕とゴードンとの話し合いは、夜遅くまで続き、準備と調整を何度も確認しながら進めていった。その次の日から、僕は採掘をするための行動を開始した。今回は前回の採掘と違い、準備を整え、長期間を想定して行われるものだ。そのため、採掘の人員も増やし、連絡役や食料などの物資を運搬する者などが採掘坑に入ることになっている。ミヤの眷属を多く使い、村と採掘坑との間の調整や眷族の指揮をミヤに頼むことにした。

 採掘のパートナーはシラーだ。前回は彼女の嗅覚? のおかげでアウーディア石を見つけたと言っても過言ではない。今回も彼女に頼ることになるだろう。僕は、シラーに会い、今回の採掘の重要性を説明した。

 「ロッシュ様。話は分かりましたが、あの石は相当珍しい部類の石になります。前回のように見つかるという保証はまったくありませんから、発見できなさそうなら、すぐに別の場所に切り替える気持ちを持っていただきたいのです。採掘とは本来、長い時間をかけて行うものですから、今回のように短い時間で結果を出すことはかなり難しいと思ってください。その辺りを了承してもらわなければ、私は協力できません」

 なるほど。シラーの言うのももっともだ。僕は、前回簡単に見つかったから、今回も簡単に見つかるものだと、どこかで思っていたかも知らない。シラーの言葉で目が覚めた思いがした。

 「シラーの言うとおりだ。君の意見は最大限尊重するから、協力を頼む」

 「ロッシュ村長。頭を上げてください。私が言ったのは、採掘屋として当たり前のことを言ったに過ぎません。私も全力でロッシュ村長を支えますから、いい成果を上げましょう」

 二人は熱い握手をかわした。こんなに気持ちが高ぶったのは久しぶりだ。この逆境こそが、村をさらに発展させていくことが出来るだろう。それを乗り越えるためにも、採掘で成果を上げなければならず、その期待の大きさを感じ、僕はいつになく興奮していた。

 それから採掘の準備をし、採掘場に向かった。採掘場の前には、拠点が設置されており、数人が寝泊まりすることできそうな小屋が数棟建てられていた。ミヤの眷族達やゴードンは既に待機していた。

 「ロッシュ村長。いよいよですな。短い時間でしたが、ここまで準備をすることが出来ました。食料などはすでに坑道に運び込んであります。スタシャさんからはホムンクルスと思われる女性が三体ほど送られてきました。彼女らは坑道に先行して潜っていますので、合流して物資を受け取ってください」

 僕とゴードンが話をしている間にシラーは坑道に入り、周囲の匂いを嗅いでいた。ゴードンは初めて見たようで、不思議そうな顔をしていたが、あれが重要なんだと、僕が説明するとよく分からないような顔で頷いた。シラーがこちらに戻ってきて、少し首を傾げていた。

 「微かに匂いがあるように感じますが、方角が前回とは真逆の方から感じます。新たに坑を掘りながらとなりますが、どうしますか?」

 「シラーの感覚を信じよう。今回は時間を多めに取っているが、採掘をするには短い時間だ。少し無理をしながらでも掘り進めていくことにしよう」

 シラーは、はい、と返事をし、僕とシラーは坑道に向かっていった。ゴードンやミヤ達が心配そうな表情を浮かべながら僕達を見送ってくれた。
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