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第99話 成人式①

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 エルフの里から戻ったミヤ姉は、さっそくリリからもらった秘薬を自身が調合した薬に混ぜて、トール夫婦に飲ませたところ、数日もしない内に完璧に回復していた。僕もその効果を見届けるために、退院するという日に祝いに駆けつけた。しかし、体力が完全に回復と聞いていたが、どうもトールの顔に疲れが見え、やつれているように感じるが……マグ姉の方を見ると、引きつった笑いをしていた。どうやら、リリからもらった秘薬の効果が強過ぎたみたいで、処方した日から物凄かったらしい。マグ姉は、秘薬を全て使ってしまったことを少し後悔しているようだった。

 ちなみに、約一年後にトール夫婦に双子の子供が産まれた。諦めていただけに、喜びようもすごかった。トールはしばらくは子供服だけしか作らなかったが、村人から不平不満が出ることはなかった。

 薬の効果が切れたトール夫婦は、それからは仕事に専念してくれた。そのおかげで、成人式用の服を予定の日より早く納めてくれた。トールが用意した服は、色綿糸を用いたもので、上品な仕立てとなっていた。今年成人する村人は、たいへん喜んでいたが、上品すぎてすこし恥ずかしがっていた。村人の来ている服は、多少はマシになったとはいえ、基本は作業着だ。上品な服は出回っていない。つまり、上品な服を着る最初の村人ということになる。僕は、上品な服に羨むような目線を送り、自分の服に目を移す。村人のとは違い、色綿糸ではなく、魔力糸が使われていた。しかも、ただでさえ光沢があり目立つのに、七色に輝く仕様となっている

 さらに、カリスマ特性が付けられており、着ている者の魅力を高めるらしい。それだけで終わればいいが、染色担当のエマルが本業の力を発揮し、特性を改変し、カリスマ+ という訳のわからない特性にしてしまっている。魔界の王には必須のアイテムとなっているらしい。僕を皆に魅了させて何がしたいんだ?

 どうも皆の行動を観察していると、おかしなことが最近増えてきている。屋敷に人の出入りが増えてきているようなのだ。もちろん、僕は村長で村人が来るのはそれほどおかしなことではない。しかし、僕に会いに来ているのではなく、エリスやマグ姉、ミヤも目的なのだ。最初は、皆が村人に溶け込んできた証拠だと思って、一人祝い酒をしていたものだが。だが、やはりおかしい。来る客が大きな荷物を持ってくることが増えたからだ。

 僕は、エリス、マグ姉、ミヤを呼び出し、最近のことについて聞き出したのだ。最初は、はぐらかしていたが、最後には皆がそれぞれ白状をした。どうやら、成人式での出し物を考えていて、方方に相談していたとのことだ。僕はてっきり変なことを企んでいるのではないかと思っていたことを彼女たちに詫びた。そうなると、今どんなことが考えられているのかが気になってくるな。しかし、それを聞き出すことは出来なかった。当日のお楽しみだと言うので、僕はそれ以上は聞かなかった。祭りの出し物がサプライズ性を帯びているのなら、聞かないでおくものだ。僕は彼女らに当日を楽しみにしているぞと活を入れると、彼女らはなぜか引きつったような笑いをしていた。なんだ?  祭りに対する気合が足りないのではないか?

 ん? そもそも成人式とは祭りなのか? まぁ、人が集まり、酒を飲めば、その時点で祭りよ!!

 そんなある日、屋敷にコソコソと忍び込む怪しい影があった。僕は、その影を声を掛けると、その影がこちらを恐る恐る振り向くと、なんとラーナさんの食堂で働いているカイではないか。なんでもエリスに用があると言うので、エリスのいるキッチンまで案内すると、何度も頭を下げ、礼を言われた。なんで、コソコソなんてしてたんだ? 

 僕が居間の方に戻ると、すぐにエリスとカイが玄関の方に足早に向かっていった。途中、僕の方を振り向き、ちょっと出かけますと言って、焦った様子で屋敷を出ていった。エリスがあのように焦った様子を見せたのは、塩がなくなった時以来だ。カイの様子といい、まさか、一大事か? それとも何かトラブルでも巻き込まれたのか? なんにしても、後を追ったほうが良いだろう。何事もなければよいが。

 エリスとカイは中央の広場に向かっていく影が見えたが、随分と離されてしまったな。全速力で走っているところを見るとただ事ではないな。僕も彼女らに追いつくために、必死に後を追った。なんとか追いつきそうになったところで、彼女らはラーナさんの食堂に入っていく姿を見た。まだ、開店前ということもあって閑散としている。彼女らの行き先を知って、少し安堵しながら、食堂に向かっていると村人に呼び止められ、農作業について質問された。内容が少し専門的だったので、つい話し込んでしまい……しまった!! エリス達を追っているのを失念していた。僕は、村人と別れラーナの店に入った。

 ラーナの店では、開店前だと言うのに熱気に包まれ、香ばしい香りが店中に広がっていた。朝ゴハンを食べてきたというのに、食欲をそそるような匂いだ。その時、エリスの間抜けた様な悲鳴が厨房の方から聞こえてきた。やはり、トラブルだったか!? 僕は、厨房に入ると、そこには、エリスの他にカイとラーナさんがいた。トラブルのような気配は……ないな。エリスは舌を出して、涙目になっている。

 「村長かい。おはようございます。ここに来たってことは、知ってしまったんだね」

 ラーナさんが随分と意味深なことを言うじゃないか。エリスがラーナさんを止めようと必死だが、ずっと舌を出しているせいで上手く伝わっていないようだ。

 「エリスちゃん、わかってるよ。村長も隅におけないねぇ。エリスちゃんにこんなに想われてさ。ちょっと、待ってな。今出してあげるからさ」

 そういって、目の前に出されたのは、真っ赤に染まったスープのようだ。中に具が入っているが、よく分からないな。しかし、これがなんだと言うんだ?

 「この料理はあんたのために作られたんだから、あんたが名前を付けてやりな。エリスちゃんに考えてもらった時はこっちが恥ずかしくなるような名前ばっかり考えるから、却下したんだ。一応は、客の前に並ぶ料理だからね」

 話が全く分からない。
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