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第92話 染料素材集めとゴブリン①

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 錬金工房から染料液を持ち帰り、途中、服飾店のトール夫婦のところに立ち寄った。

 「ロッシュ村長。いかがなさいましたか。服の注文ですかな? それとも、水着の新調ですかな? 新しい形も色々と考えてありますから……そういえば、屋敷に新しい人が来たみたいで。大層、美しい方だと評判みたいですね。あっ! その方への水着というわけですね。分かりました。早速行きましょう!!」

 こっちは何も言っていないのに、トールが勝手に話を進めている。ミヤも心なしか冷めた目でトールを見つめていた。

 「トール。落ち着け。今回は、水着の話で来たのではない。これを見せにやってきたのだ」

 僕は、カゴに入った染料液の入った瓶をトールの目の前に並べていく。それは一体? と言うような顔をしていた。まぁ、無理もないだろう。ただの瓶なのだから。

 「これはな、染料液の入ったものだ。青・赤・緑・黄・白・黒・灰色の七色ある。これを使って、色付きの生地を作成してもらいたいのだ」

 「おお。さすがは、ロッシュ村長。よく染料なんか見つかりましたね。私も色付きの生地で縫製が出来ることを夢見ていましたが、実現できそうでとてもうれしいです。まぁ、生地については妻のメトレーが詳しいので聞いてみましょう」

 トールはメトレーに話を振る。横にいるメトレーだが、染料の話が出ても一向に明るい表情をしない。

 「ロッシュ村長。その染料ですが、難しいかもしれません。実は、私は染めものをしたことがないのです。領都の頃は染色の職人が居ましたから、その方にお願いしていたんです。もちろん、私でも出来なくはないでしょうが、キレイに染めるのは大変な技術が必要となります。貴重な染料を無駄にするわけには参りませんので、ご容赦ください」

 ここに来れば、この染料を有効利用できると思っていたが、使えないとは。せっかく手に入れても、意味がないではないか。いや、今までだってダメだと思ったことでもなんとか出来てきたではないか。ゴードンに相談すれば、意外な人が見つかるかもしれない。すでに、日が傾き始めていたが、ゴードンのところに向かうことにした。

 「おや、ロッシュ村長。急いでいる様子ですが何かありましたか?」

 ゴードンに染料の話をして、良い人材は居ないかと相談した。ゴードンは、腕を組んで、首を傾けながら考え込んでいる様子だった。しばらく経ってから、いないと思います、と寂しい回答が返ってきた。居なかったのか……あとは、職人が見つかるまで染料をお蔵入りにしてしまうか、一から練習して職人を育て上げるかしかなくなってしまったのか。選択肢としては後者しか考えられないが、当分は色付きの生地は拝めそうにもないな。

 僕は、帰路につくことにした。そうだ。もしかしたら、ミヤの眷属にそのような職人は居ないだろうか。ミヤに聞いてみたら、反応は芳しくなかった。

 「糸や生地に色を染めるってことよね? そういう職人は魔界には存在しないわ。だって、魔力糸は、生成過程で色を調整できるもの。わざわざ、色を染めるなんて……あっ!! もしかしたら、いるかも……」

 僕は諦めかけていたが、ミヤの一言で一気に希望が湧いてきた。けど、かもってなんだ? とりあえず、ミヤを連れて魔牛牧場の方に向かうことにした。向かっている途中で、さっきの、「かも」 の意味を聞き出した。

 「さっきも言ったけど、染色の職人っていうのはいないわよ。けどね、魔界には魔力糸の特性を変えたり、特性を付与したりする職人がいるのよ。私は、その作業を見たことがないけど、色を染め直す必要があるらしいのよ。その職人だったら、眷属にいるわよ。だから、かもって言ったよ。ロッシュの求めている人がその人かどうかわからないしね」

 僕には、魔界の話は全く理解できないが、染め直すという単語は非常に興味深かった。しかし、ミヤの眷属達はいろいろな人材が揃っているよな。もっと村に魔族を取り入れたいものだな。ミヤとイチャイチャしながら、魔牛牧場にたどり着いた。相変わらず、ものすごい量の魔トマトの畑だ。見渡す限りだ。見た感じ、ちゃんと収穫も行われて、管理をされているのが分かった。ミヤには、違う作物を植えたらどうだ? と言うと、露骨に嫌な顔をされた。トマトへの並々ならぬ愛情を感じ、僕はそれ以上何も言わなかった。

 ミヤが先に牧場の休憩室に入っていき、すぐに僕を手招きして、中に入るように促してきた。僕が中に入ると、多くの眷属達が出迎えてくれた。ちょっとずつだが、見分けがつくようになってきたな。その中に一緒に採掘をしたシラーがいたので、夏に採掘に行くかもしれないことを告げると、目を大いに輝かせて、力強い声で私も是非!! と売り込んできた。彼女の採掘の能力は確かで、僕はすごく助けられた。もちろんだ、というと大はしゃぎしていた。

 椅子に腰掛けると、すぐにトマトジュースが差し出された。ミヤは当たり前みたいな顔で、ぐいっと一気に飲み干して、お代わりを要求していた。僕も久しぶりに飲むと……あ~やっぱり旨い。前に比べて、より味が増してないか? ああ、肥料を多く入れたおかげか。なるほど。しかし、これほど、味が変わってしまうとは。僕もお代わりを頼んで本題に入ろうとした。

 ミヤは、きょろきょろと周りを探し出し、一人の吸血鬼がドアの方を指差すと、ミヤが立ち上がりドアの裏から一人の吸血鬼を引っ張り出してきた。この子は、派手めの多い吸血鬼の中では地味な方だな。メガネを着けて、おさげをしている。ちょっと、時代を感じる面持ちだ。ミヤに引っ張られる彼女は、おどおどとした様子で、隙があれば逃げ出そうさえしている。

 どうにか、彼女を椅子に座らせたミヤは、ため息を漏らしていた。彼女がさっき言っていた可能性のある子よと紹介してくれた。彼女は、ずっと下を俯いたまま、ちょっと小刻みに震えている。まるで小動物みたいで可愛げはあるが、少し話しにくいな。

 「僕は、ロッシュだ。君に少し聞きたいことがあるだが……いいかな?」

 彼女は、すこし僕の顔を覗き込んで、一瞬目が合うと、すぐに顔を伏せた。ダメかなと思ったが、小さな声で何でしょうか、と話を聞いてくれる姿勢を見せてくれた。その横で、ミヤが呆れた様子を見せながら、トマトジュースを催促し続けていた。何杯飲むんだよ……

 「実はな、村で、少し困ったことが出来たんだ。錬金工房に先日から頼んでいた染料液が手に入ったんだが、染色ができると当てにしていた人が出来ないということが分かったんだ。そこで困ってしまってね……そうしたら、染色のようなことが出来る者がミヤの眷属にいると聞いてね。それは、きっと君のことだと思うんだが、どうだろう? 染色ができそうかな?」

 俯いていた彼女が、染色という単語を聞いて、耳をピクリと動かし、僕が話し終えると顔をすっとあげ、僕の目をじっと見つめていた。

 「お話は大体わかりました。確かに、魔力糸の改変を行うために染色という工程はあるので、出来ると思います。ただ、その前に、染色液を見せて頂けませんか?」

 僕は頷き、染色液の入っている瓶を差し出した。彼女は、迷いなく瓶の蓋を開け、液の匂いを嗅ぎ、目を閉じて、魔力を瓶に集めるようなことをやっていた。全ての瓶で同じようなことを繰り返して、瓶を元に戻した。

 「染色液を見させてもらいましたが、七色全ては使えません。赤・青・緑・黄・黒・白・灰色のうち、青・緑・黄色が使えません。染色を行うための染色液は、魔力との相性が重要になってきます。使えない色は、残念ながら魔力との相性は皆無でした。他の色はなんとかなると思いますが、理想をいえば、素材を変えるほうがよろしいと思います。染色の職人でしたら、使えるかもしれませんが、私にはそれが限界なのです」

 用意した染色液では、満足の行く染料はできそうにないらしい。それでも、染色が出来る人が見つかったのは大きな進歩だ。
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