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第86話 スタシャ、再び
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村の中を大荷物を荷車に積んで歩いている奇妙な二人がいると報告があった。一人は20歳位の女性でもう一人は10歳位の少女という報告だ。村人ではないというので、僕はライルを従えて、報告のあった場所に向かっていった。すると、少し離れて場所でも分かるほどの大荷物を積んだ荷車を軽々と引いている女性がこちらに向かっているのが見えた。少女もその荷車を先導するようにゆっくりと歩いていた。
次第に、顔がはっきりと見えてくると、その少女は僕の見知った少女だった。錬金術師のスタシャだ。あれから三ヶ月は経っているだろうか。当初では二ヶ月前には村に来ているはずだったが……それにしても、もう一人の女性は一体? 女性は、荷車を軽々と引いているのが信じられないほど細身で、顔に表情はないが、長い銀色の髪と緑の瞳も持つ美人だった。
スタシャは僕に気付いていながらも、歩く速度を変えずにゆっくりと向かってきた。僕は歩くのを止めて、スタシャを待つことにした。僕の目の前になって、ようやくスタシャと荷車は動くのを止めた。
「やあ、ロッシュ。久しぶりだな。もう少し早く来るはずが遅くなってしまった。これから、屋敷に向かうはずだったが、どうしてお前がここにいるんだ? まさか、私を待っていたわけではあるまい?」
「本当に遅かったな。スタシャのことを忘れかけていたぞ。それよりも、この女性はスタシャの孫か?」
「本当に忘れてくれても良かったけどな。私は、アダマンタイトさえ手に入れば、ここには用はないのだ。これはなぁ、まぁ孫みたいな存在と言ってもいいかもしれないが……こいつはホムンクルスだ」
ホムンクルス? なんだそれは。ライルの方に顔を向けたが、分からなかったようだ。
「そんな事より、私の住処はどこなのだ? そこに案内してくれ」
ライルは、スタシャの態度にすこし顔をしかめたが、僕が何も言わなかったので前に出ることはなかった。僕は、スタシャを錬金工房になる予定になる建物に連れて行った。呪い騒動の反省を活かし、集落の跡地に工房を建設した。集落から村までの道を改修して大量の物資でも容易に移動できるようにしてある。
集落に着くと、そこには不釣り合いの屋敷が建てられていた。レンガ造りの家屋に倉庫が隣接されており、資材も十分な量を保管できる造りになっている。なぜ、そこまでの倉庫を構えたのかというと、スタシャには素材変化を中心に行ってもらう予定なので、大量の素材を備蓄しておくための倉庫が必要となるからだ。
屋敷の広さは、頑張れば十人程度は寝泊まりできるようになっている。これは、倉庫に合わせて建物を作ったためで、予定ではスタシャ一人が寝泊まりできるものだった。内装は、スタシャの注文に近づけてある。錬金釜を設置するための部屋や調剤部屋などが設けられている。
スタシャは、屋敷をひと通り見てから、僕の方に戻ってきて、満足した顔をしていた。
「これだけあれば十分だな。あとは、私が勝手に弄くらせてもらうぞ」
僕は頷いた。僕達が話している間を何度も横切り、荷物を屋敷に運び込んでいる女性がいる。彼女が何者で、なぜここにいるかのかが、気になって仕方がない。
「スタシャ。そろそろ教えてくれないか? 彼女は何者なんだ?」
スタシャは、首を傾げ、さっき話しただろ? みたいな顔をしていた。
「ホムンクルスって聞いただけだ。そもそも、ホムンクルスってなんだ? 彼女がここにいる理由は何だ?」
「なんだ、なんだと煩い奴だな。面倒だが、説明してやる。ホムンクルスは、人造人間のことだ。錬金術の秘技で作り上げた至高の作品だ。これを作れる者は私しかいないだろうな。ロッシュから貰ったアダマンタイトで作ることが出きたのだ。あと数体は欲しいところだから、アダマンタイトを用意してくれ。こいつには、簡単な錬金術が出来るように知識を組み込んでいるから、大抵の仕事はこいつが出来るだろう。不眠不休で働いてくれるから、便利だぞ。ロッシュも必要なら言ってくれ」
ほお、それは便利だな。これがあれば、生死に関わるような仕事などを任せることが出来るかもしれない。しかし、こんなものを簡単に作ってしまうとは……錬金術の奥がしれないな。是非、一体欲しいものだ。
「アダマンタイトのインゴット一つで、ホムンクルスが作れるとは、流石だな。資材置き部屋にまだインゴットがあったはずだから、どんどん作ってくれ。何体かこちらに回してくれると助かる」
スタシャが懐疑的な目をこちらに向けてきた。
「ホムンクルスが一つのインゴットで足りるわけないだろ。さっきも言ったが、これは錬金術の秘技なんだぞ。その十倍のインゴットが必要となるわ」
「ちょっと待てよ。スタシャが持っていったのは一つのはずだろ? なんで、そんなにアダマンタイトを持っているんだ?」
「あの部屋から持ち出したに決まっているだろ。私には、圧縮カバンがあるからな。インゴットの数十本くらい、このカバンにすっと入るんだ」
そういって、指差したカバンが肩掛けの小さなカバンだった。あの時、インゴットをカバンにしまう仕草をしていたが、そのときには大量のインゴットがあのカバンに入っていたのか。あまり気に留めていなかったから気付かなかった。今後はもう少し在庫管理を徹底しなければならないな。それは、今回は目を瞑るとして、ホムンクルスにはインゴットが十本必要となるのか。そう考えると、今の在庫だといくらも作れないことになるな。
「他にホムンクルスを作るとして、やはり錬金術の仕事をしてもらうのか?」
「違う。私の身の回りの世話をしてもらうのだ。私は、家事が苦手なのだ」
そんなことに使うとは……僕はすぐに却下し、アダマンタイトをホムンクルスに使うことを禁じた。スタシャは、家事の時間の無駄さをコンコンと僕に説いていたが、僕は聞く耳を持つつもりはなかった。この少女は、村の貴重な財産をなんだと思っているんだ。村に役に立つものでなければ、アダマンタイトを使わせるわけにはいかない。
スタシャは渋々だが了承した。僕は、ホムンクルスの名前を聞くと、名前はまだ決めてないと返事があった。折角なら、ロッシュが決めろと言ってきた。このやり取りは、どこかで聞いたことがあるな……ホムンクルスには、アルビノと名付けた。少し気になることを、スタシャに聞いてみた。
「アルビノは、スタシャに似ているが、これは偶然なのか?」
「こいつは、私の血と髪を使って体を構成させたから似ているのだろう。どうだ、美人だろ? 美人だからといって手を出すでないぞ。こいつは女のように見えるが、子を産めないし、そういう機能は付けてないからな」
余計なお世話を……少女に言われると、なんか無性に腹が立つな。
「言うのを忘れたが、僕は婚約したんだ。そういうのは気にしなくていいぞ」
スタシャは、フッと笑って、荷物の整理を始めた。僕は、特にすることがなくなってしまったので、ライルと共に屋敷に戻ることにした。本当にスタシャは村のために働いてくれるのか、疑問を感じながら……
屋敷に戻った僕は、すぐに資材置き部屋に行き、アダマンタイトの在庫を確認すると、奥の影になっている部分にあったのが、ごっそりとなくなっていた。量は皆目見当はつかないが、数十本はなくなっているだろう。それでも、まだ在庫はあるが、心許ないな。暇になったら、アダマンタイトの採掘に行ってみるか。
次第に、顔がはっきりと見えてくると、その少女は僕の見知った少女だった。錬金術師のスタシャだ。あれから三ヶ月は経っているだろうか。当初では二ヶ月前には村に来ているはずだったが……それにしても、もう一人の女性は一体? 女性は、荷車を軽々と引いているのが信じられないほど細身で、顔に表情はないが、長い銀色の髪と緑の瞳も持つ美人だった。
スタシャは僕に気付いていながらも、歩く速度を変えずにゆっくりと向かってきた。僕は歩くのを止めて、スタシャを待つことにした。僕の目の前になって、ようやくスタシャと荷車は動くのを止めた。
「やあ、ロッシュ。久しぶりだな。もう少し早く来るはずが遅くなってしまった。これから、屋敷に向かうはずだったが、どうしてお前がここにいるんだ? まさか、私を待っていたわけではあるまい?」
「本当に遅かったな。スタシャのことを忘れかけていたぞ。それよりも、この女性はスタシャの孫か?」
「本当に忘れてくれても良かったけどな。私は、アダマンタイトさえ手に入れば、ここには用はないのだ。これはなぁ、まぁ孫みたいな存在と言ってもいいかもしれないが……こいつはホムンクルスだ」
ホムンクルス? なんだそれは。ライルの方に顔を向けたが、分からなかったようだ。
「そんな事より、私の住処はどこなのだ? そこに案内してくれ」
ライルは、スタシャの態度にすこし顔をしかめたが、僕が何も言わなかったので前に出ることはなかった。僕は、スタシャを錬金工房になる予定になる建物に連れて行った。呪い騒動の反省を活かし、集落の跡地に工房を建設した。集落から村までの道を改修して大量の物資でも容易に移動できるようにしてある。
集落に着くと、そこには不釣り合いの屋敷が建てられていた。レンガ造りの家屋に倉庫が隣接されており、資材も十分な量を保管できる造りになっている。なぜ、そこまでの倉庫を構えたのかというと、スタシャには素材変化を中心に行ってもらう予定なので、大量の素材を備蓄しておくための倉庫が必要となるからだ。
屋敷の広さは、頑張れば十人程度は寝泊まりできるようになっている。これは、倉庫に合わせて建物を作ったためで、予定ではスタシャ一人が寝泊まりできるものだった。内装は、スタシャの注文に近づけてある。錬金釜を設置するための部屋や調剤部屋などが設けられている。
スタシャは、屋敷をひと通り見てから、僕の方に戻ってきて、満足した顔をしていた。
「これだけあれば十分だな。あとは、私が勝手に弄くらせてもらうぞ」
僕は頷いた。僕達が話している間を何度も横切り、荷物を屋敷に運び込んでいる女性がいる。彼女が何者で、なぜここにいるかのかが、気になって仕方がない。
「スタシャ。そろそろ教えてくれないか? 彼女は何者なんだ?」
スタシャは、首を傾げ、さっき話しただろ? みたいな顔をしていた。
「ホムンクルスって聞いただけだ。そもそも、ホムンクルスってなんだ? 彼女がここにいる理由は何だ?」
「なんだ、なんだと煩い奴だな。面倒だが、説明してやる。ホムンクルスは、人造人間のことだ。錬金術の秘技で作り上げた至高の作品だ。これを作れる者は私しかいないだろうな。ロッシュから貰ったアダマンタイトで作ることが出きたのだ。あと数体は欲しいところだから、アダマンタイトを用意してくれ。こいつには、簡単な錬金術が出来るように知識を組み込んでいるから、大抵の仕事はこいつが出来るだろう。不眠不休で働いてくれるから、便利だぞ。ロッシュも必要なら言ってくれ」
ほお、それは便利だな。これがあれば、生死に関わるような仕事などを任せることが出来るかもしれない。しかし、こんなものを簡単に作ってしまうとは……錬金術の奥がしれないな。是非、一体欲しいものだ。
「アダマンタイトのインゴット一つで、ホムンクルスが作れるとは、流石だな。資材置き部屋にまだインゴットがあったはずだから、どんどん作ってくれ。何体かこちらに回してくれると助かる」
スタシャが懐疑的な目をこちらに向けてきた。
「ホムンクルスが一つのインゴットで足りるわけないだろ。さっきも言ったが、これは錬金術の秘技なんだぞ。その十倍のインゴットが必要となるわ」
「ちょっと待てよ。スタシャが持っていったのは一つのはずだろ? なんで、そんなにアダマンタイトを持っているんだ?」
「あの部屋から持ち出したに決まっているだろ。私には、圧縮カバンがあるからな。インゴットの数十本くらい、このカバンにすっと入るんだ」
そういって、指差したカバンが肩掛けの小さなカバンだった。あの時、インゴットをカバンにしまう仕草をしていたが、そのときには大量のインゴットがあのカバンに入っていたのか。あまり気に留めていなかったから気付かなかった。今後はもう少し在庫管理を徹底しなければならないな。それは、今回は目を瞑るとして、ホムンクルスにはインゴットが十本必要となるのか。そう考えると、今の在庫だといくらも作れないことになるな。
「他にホムンクルスを作るとして、やはり錬金術の仕事をしてもらうのか?」
「違う。私の身の回りの世話をしてもらうのだ。私は、家事が苦手なのだ」
そんなことに使うとは……僕はすぐに却下し、アダマンタイトをホムンクルスに使うことを禁じた。スタシャは、家事の時間の無駄さをコンコンと僕に説いていたが、僕は聞く耳を持つつもりはなかった。この少女は、村の貴重な財産をなんだと思っているんだ。村に役に立つものでなければ、アダマンタイトを使わせるわけにはいかない。
スタシャは渋々だが了承した。僕は、ホムンクルスの名前を聞くと、名前はまだ決めてないと返事があった。折角なら、ロッシュが決めろと言ってきた。このやり取りは、どこかで聞いたことがあるな……ホムンクルスには、アルビノと名付けた。少し気になることを、スタシャに聞いてみた。
「アルビノは、スタシャに似ているが、これは偶然なのか?」
「こいつは、私の血と髪を使って体を構成させたから似ているのだろう。どうだ、美人だろ? 美人だからといって手を出すでないぞ。こいつは女のように見えるが、子を産めないし、そういう機能は付けてないからな」
余計なお世話を……少女に言われると、なんか無性に腹が立つな。
「言うのを忘れたが、僕は婚約したんだ。そういうのは気にしなくていいぞ」
スタシャは、フッと笑って、荷物の整理を始めた。僕は、特にすることがなくなってしまったので、ライルと共に屋敷に戻ることにした。本当にスタシャは村のために働いてくれるのか、疑問を感じながら……
屋敷に戻った僕は、すぐに資材置き部屋に行き、アダマンタイトの在庫を確認すると、奥の影になっている部分にあったのが、ごっそりとなくなっていた。量は皆目見当はつかないが、数十本はなくなっているだろう。それでも、まだ在庫はあるが、心許ないな。暇になったら、アダマンタイトの採掘に行ってみるか。
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