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第75話 第一王子来訪と騒動⑤

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 ルドは、気まずそうに僕の方を向いた。
 
 「体は大丈夫か。あの時、参謀に奇襲をかけていれば……私のわがままでロッシュを傷つけてしまったな。本当にすまなかった」

 「体はもうなんともない。さっき、自分に回復魔法をかけたからな。まだ、体力が戻っていないせいか、少しだるいな。奇襲については僕も反省している。あの時、思い返してみれば、僕にも油断があった。ミヤたちと合流し、気分を良くしてしまったんだな。だから、ルドが全て悪いわけではない。だから、そんなに思いつめないでくれ。皆も、あまりルドを責めないでやってくれ」

 「そうは言っても、ロッシュが傷ついてことに変わりはないし、私が我儘を言わなければ、奇襲に賛成していたはずだ。だから……私に何か罰を与えてくれ。ロッシュは、ここの長《おさ》なのだろ? 私にけじめを付けさせてくれ」

 「罰と言われてもな……この村で罰を作るのは難しいんだぞ。ゴードン、何かいい案があるか?」 

 ゴードンは首を傾げていていた。
 それにしても、最近罰を与えるということに頭を悩ませることが多い気がする。この村に罰として与えられるものがないのだ。誰もが投げ出すような辛いことや苦しいことも、村人は率先してやってくれる。逆に、村人がやっているような仕事を罰として与えると、村人に示しがつかなくなる。そうすると、排泄物の処理など、新規事業しかないが……罰を与えるためだけに新規事業を起こすというのも、違う気がする。

 そういえば、ルドは魔族を見て驚いていたな。人間は、魔族に対して忌避感のようなものが強い。未知なるものに接しているようだから仕方がないのかもしれないが、僕が接している限り、魔族と人間に違いはないような気がする。文化や考え方に多少の差はあるが、話せば通じるし、相手を思いやる心も持ち合わせている。ただ、忌避感があるがゆえに、お互いに接点が少なすぎることに問題があると思う。

 問題については、前々から考えていたが、無理やりコミュニケーションを取らせるともしかしたら反発を招く恐れがあったため、やらないでいたことだが……この魁として、ルドには頑張ってもらうというのはいいかもしれない。人間にとっては、罰と感じられると思う。もちろん、ゆくゆくは罰と思わない関係になってもらいたいが。

 「ルドには、魔族と共に魔牛牧場で働いてもらうことにする。魔族と共に過ごし、魔族のことを村人に伝えて欲しい。それが、僕がルドに与える罰となる」

 「それが、私への罰と言うなら、それに従おう」

 僕が頷いた。その時、ライルとミヤの眷属が屋敷にやってきた。

 「村長さん。もう体は大丈夫なのか? かなりの怪我だと思ったが、さすがは村長さんだな。村長さんが意識がなかったんで、勝手に参謀の探索に当たらせてもらったぜ。自警団とミヤの譲ちゃんの眷属とでやったんだが、結果は、残念ながら奴を発見できなかった。森の方に逃げ込まれたせいで、捜索範囲を絞れずにいたのが良くなかった。もう、奴は、遠くに逃げているだろうよ」

 「そうだったのか。いや、よくやってくれた。僕も同じことを指示していただろう。後で、酒を用意しよう。それにしても、参謀はよく逃げることが出来たものだ。それに、奴が魔法を使えたとはな」

 「へへへっ。そいつはありがたいな。なによりもご褒美だ。俺も魔法が使えてたのは、驚いたぜ。それもあって、複数行動を徹底したせいで、捜索範囲を広げられなかったんだ。逃したのは、本当に悔しいぜ。村長さんと同じ傷を負わせてやりたかったぜ。それとな、村に進軍してきた100名は全員捕まえてあるぜ。自害も出来ないようにじっかりと猿轡もしてな。そいつらの処分について、村長さんに聞いておきたいんだが」

 さすがは、ライルだ。いい判断をしている。窮鼠猫を噛むだ。とにかく、自警団に被害がなかったのは良かった。しかし、また、罰を考えねばならないか。

 「その者達は、村に残る気はあるのか? 残る気がないのであれば、追放処分でいいと思っているが。この世界では、それが一番の罰になるだろうからな」

 ライルは、確認してくると言って、屋敷を出ていった。ミヤの眷属にも、労っていやり、あとでお菓子を届けさせると言って帰らせた。あとは、ラエルの街に残っている900名の兵たちの処分だ。ゴードンから聞いた話では、あの夜、900名は久々の食事と屋根付きの部屋にいたため、深い眠りに付いていたようで、進軍した者達のことは全く気付かなかったみたいだ。僕は、進軍に気付かないほど眠っていたことについて、若干の不自然さを感じたが、気にはしなかった。大切なことは、ルドを裏切っていないということだ。この者達については、ルドと話し合った条件を飲んでくれれば、村に移住してもらうことになる。

 ルドは、各人の意志を尊重するというので、面談するということになった。それについては、ゴードンとゴーダ親子を中心に任せることにした。僕も当然、参加するつもりだが、受け入れの準備もしなければならない。

 次の日。僕は、ルドとゴードン親子を連れてラエルの街に向かった。万が一に備えて、ライルは自警団を率いて僕に従ってもらった。屋敷には、ミヤとその眷属に常駐してもらうことにした。考えにくいが、参謀が未だに周囲をうろついている可能性があるからだ。

 ラエルの街に到着した。900名もの兵がいるが、全員分の部屋が用意されていた。さすがは商業都市として栄えた街だ。僕達は、適当な宿に入り、面接を開始した。900名もの人数を面接するのは大変だったが、条件を飲んで移住に同意するかどうかを聞くだけの作業だったため、特にトラブルもなく進められた。

 結局のところ、900名全員が移住をすることで決まった。ルドに従って苦しい思いをしていた者達に再び衣食住を与えられたことに、ルドはホッとした様子だった。

 移住が決定したことにより、あたらに村に住居を作らなければならない。レイヤに相談しなければな。

 次の日にレイヤが屋敷にやってきて、移住者用の住居建築の相談をした。元領都に残っていた住宅用の資材はすべて住居に使われてしまっており、ラエルの街から持ち出したレンガなどは倉庫になっているため、資材が不足しているという話だ。そのために、木を切り出し製材しなければならない。残るは、ラエルの街の住宅や宿屋などを解体して使うという方法だが、時間がものすごくかかるという。

 今後も、住宅用の建材は必要となってくる。そのためにも、製材をできる場所を作らなければならない。今回の移住で人口も2000人近くになる。製材所を作っても、農業に支障は出ないだろう。僕は、すぐに製材所を立ち上げると同時に、ラエルの街の住居解体をさせることにした。

 レイヤには、部下をもっと増やすように指示を出し、製材所を任せられる者と木の伐採を頼める者をゴードンに探してもらうことにした。製材所関連は、すぐに人が見つかった。元兵から50名ほどが希望を出してきたのだ。僕は、製材所に20名、木の伐採に30名を割り振ることにした。

 実は、最近、薪となる木材が不足していると苦情が来ていた。村民が使っている薪は、森から拾ってきている小枝を利用している。しかし、人口が増加すると共に、森の奥まで行かなければ枝を集めることが難しくなっていた。今回、木の伐採を本業とする者が誕生したため、薪不足も大幅に解消していくことだろう。

 他の兵たちには、自分の住居を作るための資材を集める作業をしてもらうことにした。
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