爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第63話 麦の種まきと米の酒造り

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 祭りが終わり、秋の最後の大仕事が、麦の種まきだ。畑を去年より大幅に広げている。100メートル × 100メートルの畑を30枚ほど用意して、麦の種を撒いていく。新規に増やしたのは15枚ほどだ。村人総出で耕し、種まきの準備をしていく。米が収穫できるおかげで、主食における麦の比率はかなり抑えることが出来るため、余った麦は、エールやウイスキー作りに回すことになっている。一応、食料に関するのことなので、村の代表者で構成される村人会《そんじんかい》で協議すると、満場一致で余剰麦の酒造は賛成とされた。

 村人総出で行っても一ヶ月かかった。それでも去年より面積も拡大しながらも、人口の増加を考慮するとかなり早く終わったと思う。麦の種まきをする前の土作りとして、作物の残渣《ざんさ》を大量に入れ、十分に土壌に馴染むようにしていたので、発芽は問題ないだろう。野菜くずなどが、土に十分に馴染まないまま、種を撒くと発芽が悪くなることがある。それは、腐敗する際に出るガスが発芽を阻害するために起こる。

 僕は、実験的に、稲作の後作として、麦を撒いてみることにした。現状では、畑作で問題なく麦は栽培できると思うが、将来的には連作障害などが起こる可能性や、病害などが発生する可能性がある。そうなれば、最悪全滅する危険性がある。それを回避するためにも、水田で麦作を導入するのも有効だと考えている。ただ、実際に水田で栽培する必要なのかは、長い年月、栽培してみないとわからないことである。それを確認するための実験である。

 ちなみに、畑の一角に、魔牛糞の肥料を入れることにした。実験的な意味合いが強いが、マグ姉の薬草畑で十分な成功を収めているので、僕として自信があった。しかし、魔牛糞の肥料を撒くだけでも、村人は恐る恐るといった感じで作業をしている。この実験を通じて、村人の理解を得ることが出来ればいいが。

 僕とエリスも農作業を手伝っていたが、村人の手際がいいために、僕達の仕事はすぐになくなってしまった。

 「ロッシュ様。二年目でこんなに大きな畑で麦が栽培できるとは思ってもいませんでした。しかも、こんなにきれいな畑で。春になったら、景色がすごく楽しみですね。その頃には、ロッシュ様も成人式を終わらせているのでしょうか? いろいろな意味で、その時期になるのが待ち遠しいです」

 僕も、二年目でここまで順調に畑を広げるとは思っていなかった。僕に魔法があるから畑をいくらでも広げることは出来たが、村人の協力がなければ管理が出来ず、結局は畑をダメにしてしまうだけだ。村人各々が真面目に働いてくれているおかげで、この畑があるのだ。

 成人式か……僕の悩みだ。酒が飲めるようになるのは楽しみなんだけど。


 麦の種まきも終わり、余剰麦について、確認するためにゴードンと酒造責任者のスイを呼び出した。

 「ゴードン。余剰麦について確認したいことがあるんだが。いかほどの量を出すことが出来るんだ? 」

 「ロッシュ村長。米が思ったより穫れましたので余剰麦はかなり出せると思います。大倉庫一つ分は可能かと。スイさん、いかほど必要となりますか? 」

 「そうですね。酒造に関しては、まだ余裕がありますから、受入はいくらでも出来ますよ。ただ、現状、消費よりも製造のほうが圧倒的に多いので、消費を増やすほうがよろしいと思います」

 酒造も軌道に乗り始めているのか。あの樽のおかげで、醸造が早まったのは嬉しい誤算だったな。一年であれほどの香りを出すことが出来るんだからな。今は、祭りなどのイベントだけ酒を振る舞っていたが、希望者には酒を分けてもいいかもしれないな。村人はとにかく酒好きが多いからな。

 「余剰麦は、その量でいいだろう。スイ、酒造の方を頼んだぞ。あと、消費だが、希望者に酒を配ることを考えてみようと思う。量はそんなに多くはないだろうが、家で飲めるのもいいだろう。なぁ、ゴードン」

 「もちろんですとも。家で飲む酒は格別ですからな。まさか、家で酒が飲めるようになる日が来ようとは……夢のようですな。村人もさぞかし驚くでしょうな。ただ、希望者よりも、報酬の一つとして渡すのはどうでしょうか。配るにしては量が心許ないので、かえって配ると、不満が出る恐れがあります。報酬にすれば、量が少なくとも満足するとおもうのですが」

 それはいい考えだ。報酬という方法は思いつかなかった。普通は、金銭や宝飾品、地位などが思いつくが、酒とはな。この世界らしい考えだ。早速、ゴードンに報酬としての条件を考えるように命じた。配るのは、もう少し先の話になってしまったな。

 「そういえば、スイ。魔酒の製造はどうなっている? 」

 「もちろん、大量生産の目処も付け、生産態勢に入っております。そのために蔵の増築をお願いしたいのですが。よろしいでしょうか? 」

 魔酒のために蔵の増築か……あれは、魔族だけしか楽しめないからな。村人の理解を得るのは難しいだろう。僕は、スイの提案に難色を示した。スイは、僕の顔を見て、ダメだと思い込み、落ち込んでしまった。

 「ミヤ様に、なんて報告したら……」

 ああ、ミヤに催促されているのか。スイがちょっとかわいそうになってきたな。

 「スイ。前に言ったと思うが、米で作る酒を作ってみないか? 麦とは違うが、美味しい酒が出来る。もちろん、最初は僕が主導して作る予定だが。そのためだったら蔵の増築は許可してもいいぞ。最初は、米の酒は量産など出来ないだろうから、空いている場所は好きに使っていいからな」

 スイは、僕の言っている意図をすぐに理解していて、喜色を浮かべた。

 「ゴードン。米を酒造りのために少し使ってしまうが、大丈夫か? 」

 「もちろんですとも。先程もいいましたが、米と麦は十分な量があります。酒造りで使うにしても、大した量でもないでしょうから、影響はないと思います。それに、酒造りに使うと知れば、村人で反対する者などいるはずもありません。かく言う私も、どういう酒が出来るか、今から楽しみですな」

 僕も、米の酒、いや、日本酒を飲めるのが楽しみでならない。

 後日、米の酒を作ることにした。米麹は米糠から採取することにした。試行錯誤をして、米麹を採取することに成功した。もろみを作るまでの工程を僕が手伝い、そこからはスイに任せることにした。多分、僕より酒作りに精通しているスイのほうが、感覚的にいい仕事をすると思う。そもそも、最初の段階から、僕がやり方を言うと、すぐに理解し、酒造りを始めているくらいだ。

 年明けには飲めるようになるだろう。楽しみだ。
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