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第61話 魔牛の肥料

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 甜菜の収穫も終わり、秋の終わりが近付いてきた頃。ミヤの眷属で、魔牛牧場長のサヤから、魔牛糞の厩肥がそろそろ完成しているのではないかと報告が入ってきた。時期を考えると、そろそろだと思っていたが、サヤの方から報告が来るとは思わなかった。この厩肥は、今後の村で肥料として使えるかどうかの試金石となる重要なものだ。魔牛から作られることから、村人からは距離を置かれてしまったからな。

 僕は、魔牛牧場に行くことにした。いつもならミヤを連れて行くところだが、魔牛牧場に入り浸っているということなので、エリスを連れて行くことにした。すると、珍しくマグ姉も連れて行ってほしいと言うので連れて行くことにした。肥料として使えるかどうかを確認したいとのことだ。

 魔牛牧場に到着した僕らを、眷属達が歓迎してくれた。サヤが、魔牛糞の厩肥を作っている場所に案内してくれた。近づくについて、山のような厩肥が眼前に広がっていく。こんなに量があったかな? と疑問に思うほど、山がでかかった。サヤも、魔牛糞で肥料を作るのは初めてで、よくわからないらしいが、厩肥の山は日に日に大きくなっていったらしい。僕も、厩肥を作ったことがあるが、増えるという経験はないから、まったく分からなかった。

 厩肥の山からは、特に臭いも感じられない。もともと魔牛の糞に臭いがあまりなかったこともあるけど。麦わらもよく混ざっており、十分に発酵も完了している様子だった。触ってみると、ほどよく水分があり、状態も素晴らしかった。僕は、色々と疑問はあったが、概ね肥料としてはいい出来だと判断した。サヤも一安心と言った様子だった。

 肥料が出来たことで、今後の農業は大きく変わろうとしている。その一歩として、この肥料を村人に認めてもらう必要がある。そのために、肥料を村の畑で実験的に使う必要がある。もちろん、牧場横の畑で使ってみることにした。マグ姉も、興味があるみたいで、薬草畑の一部で実験的に使ってみることにした。これで、ある程度、魔牛糞の厩肥の効果を知ることが出来るだろう。

 厩肥実験が始まった。すぐに効果が出てきたのは、意外にもマグ姉が管理している薬草畑だった。

 「ロッシュ。見てよ。この薬草は、育つのにすごく時間がかかっていたの。だから、肥料を使ってみたんだけど」

 僕の目の前には、草が生い茂っているようにしか見えないけど。

 「分かってないようね。いい? 肥料を撒く前は、これが植えられていたの。そして、肥料を撒いてからがこれよ」

 言われて、よく分かった。すごいことが起きていた。僕は薬草については全く詳しくはないが、ひょろっとした草だったものが、茎がしっかりとし葉が青々と生い茂っていた。なるほど、たしかにこれはすごいな。しかも、畑には数本しか苗が植えられていなかったのが、今では、畑一杯に広がっている。さらに、驚くことがあったとマグ姉が興奮している。

 「聞いてよ。この薬草を採取して、薬にしてみたのよ。例の万能薬を作ってみたのよ。作ってみて、自分の目を疑ったわ。薬が光沢があったのよ。通常考えられないことだけど、この薬草が理由だと確信はあったわ。私、最近風邪気味だったから、自分を実験台にして試しにその薬を飲んでみたんだけど……」

 マグ姉の興奮は止まることはなかった。どうやら、効能がすごく上がっているらしい。副作用もまったくなかったらしい。マグ姉はすぐにでも、肥料を導入したいと言ってきた。僕としては、あの肥料を使ってくれるのは、すごくありがたい。意外だったが、薬草と魔牛糞の厩肥との相性はすごいいいようだ。原因は全くわからないが、副作用もないとのことなので、効能が上がったのは、喜ばしいことだ。

 これで、薬草作りは軌道に乗せることができるだろう。やはり、肥料がなく栽培していたので、薬草の生育は悪かったみたいだ。効能もイマイチで、実際のところ、薬局に並べても村人に信頼が得られる薬であるか、疑問があったようだ。肥料の導入は、そんな問題を払拭できることだったみたいで、マグ姉の興奮はそれが原因だったみたいだ。

 次に魔牛糞の厩肥の効果が現れたのは、魔牛牧場横の畑だった。畑には、当然、トマトが植えられていた。サヤ達は、この肥料に対して疑問はなかったが、効果については未知数だったため、興味津々の様子だった。
 すぐに、トマトの収穫のできるようになり、実際に食べてみることにした。見た目も変わりはないし、効果はないように見えたが……

 食べてみると、ものすごい旨味が口の中いっぱいに広がった。これは……前に食べた時もうまかったが、それ以上のものだ。全身に力がみなぎってくる。これが、肥料の効果なのか。素晴らしいな。収穫をしていた眷属達も、僕の表情を見て、我慢しきれずに口にしだした。皆が皆、恍惚とした表情となり、収穫の手を止め、一心にトマトに貪り始めた。収穫したものをすべて食べてしまった後に、自分たちがトマトを食べ尽くしてしまったことに気付き、絶望した顔をしていた。そこに、ミヤが現れた。

 「帰ってくるのが遅いと思ったら、なにやってるのよ。トマト、無くなってるじゃない。あ~私のトマトが……」

 ミヤが見るからに絶望していた。僕は、絶望して地面に座り込んでいたミヤに、トマトを手渡した。僕の収穫した分は、まだ残っていたのだ。ミヤは、僕から手渡されたトマトを一口食べると、体が痙攣するように震えだし、トマトを勢い良く食べだした。確かに美味しかったけど、ミヤたちのトマトへの態度は常軌を逸している気がする。

 僕は、立てなくなったミヤを抱きかかえて、魔牛牧場に戻っていった。眷属達は、トマトの収穫の続きを開始し、収穫したトマトを魔牛牧場に持ち帰っていた。眷属達が帰ってくると、さっきまで腰が立たなかったミヤが復活し、トマトジュースを催促していた。僕も、非常に興味があった。あのトマトで作ったトマトジュースがどんな味になるのか。

 それは、表現が出来ないほど、美味かった。ちなみに、エリスにも飲ませてみたが、ミヤたちほどの感動はなかった。やはり、魔力に関係していることなのか。ということは、魔牛糞の肥料入りの畑で作った作物は魔素が増えるということなのかな? 

 村の方の畑は、まだ、効果を表れていないようだ。もう少し、様子を見ておこう。
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