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第60話 甜菜の収穫とお菓子
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米の収穫が終わり、冬の支度を始めなければならない時期になった。米の脱穀作業も村人総出で、手際よく進められている。麦で要領を得ているため、特に問題もなく進んでいると報告が来ている。精米するための道具として、杵と臼を作ってもらうようにゴードンに以前より依頼していたが、それが、間もなく完成するらしい。それが揃えば、念願の米を食べることが出来る。
日本を離れて、二年経ったが、これほど米を食べたいと思った時はなかった。僕は、米を食べたい衝動にかられながならも、なんとか、自分を抑えて、次の作物の収穫作業を急がなければならない。
この秋に初めて出来た作物が、甜菜だ。もともとは、ライルが山賊をやっていた頃の集落で見つかった作物で、父上が持ち込んだものらしい。それが、ついに収穫をする時が来たのだ。甜菜は、気候をあまり選ばずに栽培できるのが大きな特徴で、更に、砂糖の原料として使える。見た目は大根のようだが、味はひどく、食べられたものではないのだ。父上の言いつけがなければ、ライルは食べず捨てていただろう。
僕は、エリスとゴードンと共に収穫が始まっている甜菜の畑に向かった。100メートル × 100メートルの畑に甜菜が隙間なく大きくなっていた。村人は、端の方から順に収穫をしており、収穫する際に葉っぱを切って、畑に捨てておくように指示をしてある。甜菜の葉は、重量があるため、いい肥料となる。ちなみに、甜菜から砂糖を取り出すと、残りカスが出てくるのだが、それも肥料となる。甜菜は畑作物としては優秀である。
僕は、収穫したばかりの甜菜を手に取り、二つに割り、匂いを嗅いだ後に、味見をしてみた。やはり、土臭くて食べられたものではないな。エリスも興味があったのか、囓ってみたが、すぐに渋い顔をして吐き出した。
「ロッシュ様。こんな味のものから、あんなに甘い砂糖が出来るなんて信じられませんね。実際に、作っているところを見ていましたが、今でも信じられません。でも、あの甘いのがまた、食べられると思うと嬉しいですね」
「僕も実際は信じられないよ。でも、この地域で砂糖を手に入れようと思ったら、甜菜しか無いからね。サトウキビという作物は知っているか? 」
「サトウキビですか? 聞いたことないですね。それからも砂糖が作れるんですか? 」
「そうだな。サトウキビは甜菜と違って、生で囓っても甘みが口に広がるから、これから砂糖が出来ても不思議には思わないだろうな。ただ、サトウキビは、温暖な気候でしか作れないから、この辺では難しいだろうな。もっともサトウキビ自体、手に入らなければ意味はないけどね」
「少し気になりますね。そのサトウキビという作物を一度はお目にかかりたいです。生で囓っても甘いなんて、すごくいい響きですな」
エリスは結構甘いものに目がないんだな。女の子は、皆そんなものなのかなって思ってしまうけど。収穫はもうしばらく掛かりそうだな。僕も手伝うとしよう。甜菜の収穫というのは経験がないから、すごく楽しみだ。
大勢の村人が収穫に参加してくれたおかげで、収穫は一日で終わらすことが出来た。収穫して甜菜は、倉庫の方にしまわれた。今年は、僕が魔法で砂糖にすることにし、来年からは、道具等を準備して、村人で行えるようにするという話でまとまった。
僕は、倉庫にある甜菜を砂糖にするため、大釜を準備し、大量の甜菜を煮詰めることから始めた。じっくりと煮詰めた後、水魔法で水分を抜き取ることで、砂糖を取り出すことができる。この作業を、延々と繰り返す。僕は、こういった作業が本当に好きなようで、僕の横で大量に積まれていく砂糖の塊?を見て、ニヤッと笑ってしまう。
作業も一段落着いた頃、エリスがやってきて、コーヒーを持ってきてくれた。この作業の間の休憩は本当に気持ちがいい。せっかくだから、コーヒーに砂糖を入れて飲むことにした。エリスも、砂糖を入れてコーヒーの飲んでいた。すごく、幸せそうな顔だった。
そういえば、以前、砂糖を使った一品を作ると言っていた気がする。忙しくて、すっかり失念していたが、こんなに砂糖があるのだから、少しは実験用にもらっても大丈夫だろう。去年とは違い、今年は食材の種類も豊富にあるからな。いろいろな物が作れそうだ。
「エリス、前に話していたと思うが、砂糖で何かを作ってみようと思う。僕が考えているものが出来るかはわからないけど、手伝ってくれないか? 」
「ロッシュ様、もちろんです。新しい料理を知ることはすごく楽しいですから。それに砂糖を使った料理なら尚更ですよ」
僕は、甜菜から砂糖を抽出する作業は一旦、止めることにして、早速作った砂糖をいくらか屋敷に持ち帰ることにした。
今回、僕が作ろうとしているは、スポーツドリンクだ。実際は、もっと暑い時期にやるのが良かったのだが、失念してしまっていたので仕方がない。まだまだ、暑い日はあるので、そんな日に飲むのに最適だろう。材料は、砂糖と塩のみだ。至って単純だが、これを飲むことで熱中症を引き起こすき危険性を下げることが出来る。今年も、暑かったので、何人か熱中症にかかってしまったのだ。
初めて作るものだったので、イメージ通りできるか分からなかったが、量を調整しながら、作っていくと段々とイメージに近付いていった。塩と砂糖がある比率になると、かなり近付いた。ただ、それ以上、近づけることは出来なかったので、諦めることにした。
さっそく、エリスやココ、マグ姉に試飲してもらうことにした。皆、甘くて美味しいと言ってくれたが、あまり量は飲めなかった。それもそうだろうな。体が要求してない時に飲んでも、美味しいものではないからな。今度、農作業後の村人に飲んでもらおう。その方が、このスポーツドリンクの効果は実感できるだろう。
もう一つ、作ってみることにした。これは、エリスの協力なしでは出来ないことだ。この村では、麦を粉末にしたものと砂糖を手に入れることが出来る。それと、魔牛乳だ。これは、屋敷のものでのみ食べることが出来るお菓子となるだろう。それが、魔牛乳入りクッキーだ。
麦の粉末に砂糖と魔牛乳を加え、よく混ぜ、生地を作る。生地を作ったらしっかりと伸ばし、適当な形に取り分けていく。あとはオーブンで焼くだけだ。僕は、オーブンを使ったことがないので、エリスに任せることにした。温度はパンを焼く温度で、時間は十分程度としておいた。あとは、実際に様子を見ながら時間を調整することにしよう。
しばらく経つと、部屋中に、甘い香りが漂い始めていた。居間にいたココとマグ姉もキッチンに集まってきた。マリーヌも我慢できなかったのか、部屋から出来てきたようだ。久しぶりに見た気がするな。ミヤは、今日はいないか。魔トマトが出来てから、屋敷に戻らない日が増えてきたのだ。
魔牛乳入りクッキーが完成した。この世界に来て初めて、甘い香りを嗅いだ気がする。遠い記憶のようだ。エリスもマグ姉もマリーヌも昔を思い出していたのか、少し涙ぐんでいた。ココは、甘いものを食べた記憶がないのだろう。本当は冷めたほうが美味しい気がするが、女子連中が許してくれなそうだ。
「ロッシュ様。こんな美味しいものを食べたことがありません。クッキーというお菓子も初めて聞きましたし、本当にロッシュ様は物知りなんですね。あ~すごく幸せです」
「ロッシュ!! なんでこのお菓子を作ることが出来るの? 王都にいた頃に、人気のあるお店でこれと似たようなものを作っていると聞いたことがあるわ。まさか、ここで食べることが出来るなんて、信じられないわ。あっ、もう一枚もらうわね」
「ロッシュ様ぁ。すごくおいしいです。こんなお菓子があるなんて、すごいです。もっと、食べてもいいですか? 」
エリスもマグ姉もココも満足してくれたみたいだ。マリーヌは、感想を言うこともなく、黙々と食べてはコーヒーを飲んでご満悦の様子だ。きっと、マリーヌも気に入ってくれているのだろう。彼女たちの顔を見ていると、胸が一杯になってしまうな。ようやく、ここまでやってこれたんだな。
僕は、自分の分のクッキーに手を伸ばしたが、そこには何もなかった。彼女らの胃袋に消えてしまったようだ。僕は、その夜、クッキーをもう一度焼くことになったのだった。
日本を離れて、二年経ったが、これほど米を食べたいと思った時はなかった。僕は、米を食べたい衝動にかられながならも、なんとか、自分を抑えて、次の作物の収穫作業を急がなければならない。
この秋に初めて出来た作物が、甜菜だ。もともとは、ライルが山賊をやっていた頃の集落で見つかった作物で、父上が持ち込んだものらしい。それが、ついに収穫をする時が来たのだ。甜菜は、気候をあまり選ばずに栽培できるのが大きな特徴で、更に、砂糖の原料として使える。見た目は大根のようだが、味はひどく、食べられたものではないのだ。父上の言いつけがなければ、ライルは食べず捨てていただろう。
僕は、エリスとゴードンと共に収穫が始まっている甜菜の畑に向かった。100メートル × 100メートルの畑に甜菜が隙間なく大きくなっていた。村人は、端の方から順に収穫をしており、収穫する際に葉っぱを切って、畑に捨てておくように指示をしてある。甜菜の葉は、重量があるため、いい肥料となる。ちなみに、甜菜から砂糖を取り出すと、残りカスが出てくるのだが、それも肥料となる。甜菜は畑作物としては優秀である。
僕は、収穫したばかりの甜菜を手に取り、二つに割り、匂いを嗅いだ後に、味見をしてみた。やはり、土臭くて食べられたものではないな。エリスも興味があったのか、囓ってみたが、すぐに渋い顔をして吐き出した。
「ロッシュ様。こんな味のものから、あんなに甘い砂糖が出来るなんて信じられませんね。実際に、作っているところを見ていましたが、今でも信じられません。でも、あの甘いのがまた、食べられると思うと嬉しいですね」
「僕も実際は信じられないよ。でも、この地域で砂糖を手に入れようと思ったら、甜菜しか無いからね。サトウキビという作物は知っているか? 」
「サトウキビですか? 聞いたことないですね。それからも砂糖が作れるんですか? 」
「そうだな。サトウキビは甜菜と違って、生で囓っても甘みが口に広がるから、これから砂糖が出来ても不思議には思わないだろうな。ただ、サトウキビは、温暖な気候でしか作れないから、この辺では難しいだろうな。もっともサトウキビ自体、手に入らなければ意味はないけどね」
「少し気になりますね。そのサトウキビという作物を一度はお目にかかりたいです。生で囓っても甘いなんて、すごくいい響きですな」
エリスは結構甘いものに目がないんだな。女の子は、皆そんなものなのかなって思ってしまうけど。収穫はもうしばらく掛かりそうだな。僕も手伝うとしよう。甜菜の収穫というのは経験がないから、すごく楽しみだ。
大勢の村人が収穫に参加してくれたおかげで、収穫は一日で終わらすことが出来た。収穫して甜菜は、倉庫の方にしまわれた。今年は、僕が魔法で砂糖にすることにし、来年からは、道具等を準備して、村人で行えるようにするという話でまとまった。
僕は、倉庫にある甜菜を砂糖にするため、大釜を準備し、大量の甜菜を煮詰めることから始めた。じっくりと煮詰めた後、水魔法で水分を抜き取ることで、砂糖を取り出すことができる。この作業を、延々と繰り返す。僕は、こういった作業が本当に好きなようで、僕の横で大量に積まれていく砂糖の塊?を見て、ニヤッと笑ってしまう。
作業も一段落着いた頃、エリスがやってきて、コーヒーを持ってきてくれた。この作業の間の休憩は本当に気持ちがいい。せっかくだから、コーヒーに砂糖を入れて飲むことにした。エリスも、砂糖を入れてコーヒーの飲んでいた。すごく、幸せそうな顔だった。
そういえば、以前、砂糖を使った一品を作ると言っていた気がする。忙しくて、すっかり失念していたが、こんなに砂糖があるのだから、少しは実験用にもらっても大丈夫だろう。去年とは違い、今年は食材の種類も豊富にあるからな。いろいろな物が作れそうだ。
「エリス、前に話していたと思うが、砂糖で何かを作ってみようと思う。僕が考えているものが出来るかはわからないけど、手伝ってくれないか? 」
「ロッシュ様、もちろんです。新しい料理を知ることはすごく楽しいですから。それに砂糖を使った料理なら尚更ですよ」
僕は、甜菜から砂糖を抽出する作業は一旦、止めることにして、早速作った砂糖をいくらか屋敷に持ち帰ることにした。
今回、僕が作ろうとしているは、スポーツドリンクだ。実際は、もっと暑い時期にやるのが良かったのだが、失念してしまっていたので仕方がない。まだまだ、暑い日はあるので、そんな日に飲むのに最適だろう。材料は、砂糖と塩のみだ。至って単純だが、これを飲むことで熱中症を引き起こすき危険性を下げることが出来る。今年も、暑かったので、何人か熱中症にかかってしまったのだ。
初めて作るものだったので、イメージ通りできるか分からなかったが、量を調整しながら、作っていくと段々とイメージに近付いていった。塩と砂糖がある比率になると、かなり近付いた。ただ、それ以上、近づけることは出来なかったので、諦めることにした。
さっそく、エリスやココ、マグ姉に試飲してもらうことにした。皆、甘くて美味しいと言ってくれたが、あまり量は飲めなかった。それもそうだろうな。体が要求してない時に飲んでも、美味しいものではないからな。今度、農作業後の村人に飲んでもらおう。その方が、このスポーツドリンクの効果は実感できるだろう。
もう一つ、作ってみることにした。これは、エリスの協力なしでは出来ないことだ。この村では、麦を粉末にしたものと砂糖を手に入れることが出来る。それと、魔牛乳だ。これは、屋敷のものでのみ食べることが出来るお菓子となるだろう。それが、魔牛乳入りクッキーだ。
麦の粉末に砂糖と魔牛乳を加え、よく混ぜ、生地を作る。生地を作ったらしっかりと伸ばし、適当な形に取り分けていく。あとはオーブンで焼くだけだ。僕は、オーブンを使ったことがないので、エリスに任せることにした。温度はパンを焼く温度で、時間は十分程度としておいた。あとは、実際に様子を見ながら時間を調整することにしよう。
しばらく経つと、部屋中に、甘い香りが漂い始めていた。居間にいたココとマグ姉もキッチンに集まってきた。マリーヌも我慢できなかったのか、部屋から出来てきたようだ。久しぶりに見た気がするな。ミヤは、今日はいないか。魔トマトが出来てから、屋敷に戻らない日が増えてきたのだ。
魔牛乳入りクッキーが完成した。この世界に来て初めて、甘い香りを嗅いだ気がする。遠い記憶のようだ。エリスもマグ姉もマリーヌも昔を思い出していたのか、少し涙ぐんでいた。ココは、甘いものを食べた記憶がないのだろう。本当は冷めたほうが美味しい気がするが、女子連中が許してくれなそうだ。
「ロッシュ様。こんな美味しいものを食べたことがありません。クッキーというお菓子も初めて聞きましたし、本当にロッシュ様は物知りなんですね。あ~すごく幸せです」
「ロッシュ!! なんでこのお菓子を作ることが出来るの? 王都にいた頃に、人気のあるお店でこれと似たようなものを作っていると聞いたことがあるわ。まさか、ここで食べることが出来るなんて、信じられないわ。あっ、もう一枚もらうわね」
「ロッシュ様ぁ。すごくおいしいです。こんなお菓子があるなんて、すごいです。もっと、食べてもいいですか? 」
エリスもマグ姉もココも満足してくれたみたいだ。マリーヌは、感想を言うこともなく、黙々と食べてはコーヒーを飲んでご満悦の様子だ。きっと、マリーヌも気に入ってくれているのだろう。彼女たちの顔を見ていると、胸が一杯になってしまうな。ようやく、ここまでやってこれたんだな。
僕は、自分の分のクッキーに手を伸ばしたが、そこには何もなかった。彼女らの胃袋に消えてしまったようだ。僕は、その夜、クッキーをもう一度焼くことになったのだった。
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