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第57話 共同トイレ

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 食堂での一件の後、僕の思いついた事業を実行に移そうと思い立った。だが、その前に、村民に理解を求めるところから始めなければならない。この村のトイレ事情は、とにかく原始的だ。穴を掘って、そこで排泄をする。埋まりだすと、新たな穴を掘って……の繰り返しだ。

 衛生面でも問題があったが、解決策がなく悩みの種だったが、やっと糸口を見つけたんのだ。それが、汲み取り式の共同トイレだ。十数軒単位で一つのトイレを共有で使うのだ。従来の方法と違うのは、穴を掘り、桶を設置すること。溜まると桶を回収して、新たな桶を設置する。そうすれば、衛生面でも随分と向上するだろう。問題は、回収した桶となるが、その辺に廃棄すれば、大きな問題となりうる。臭いも酷いことになるし、病原菌の温床になってしまう。河川に流せば、水質汚染を引き起こす恐れがあるだろう。廃棄場所というのが非常に重要な問題だ。

 そこで考えたのが、厩肥化だ。厩肥とする過程で、高温の環境を作ることが出来、そこで、病原菌などを殺菌することができるため、無毒化が実現できる。肥料化出来る資源が少ない今では、有力な肥料の原料となる。ただ、これについては、村人の理解が必要となる。やはり、有効だと分かっていても、自分の排泄物が畑に撒かれることに抵抗を感じるものも多いだろうと思ったからである。

 僕は、ゴードンを呼び出した。すぐにやってきたゴードンに、冷やしたコーヒーを差し出した。最近、ゴードンも珈琲の味に慣れてきたのか、嬉しそうに飲むようになっていた。

 「ロッシュ村長。本日のお呼び出しは何でしょうか。そういえば、食堂の一件ですが、捕まえた男はロッシュ村長に言われた通り、牢に繋いでありますが、今後いかがするのでしょうか? 」

 「今日、呼び出したのはその男も関連していることだ。実はな、共同トイレを作ろうと思っている。共同トイレというのはな……」

 僕は、ゴードンに共同トイレの意味とその意義を説明した。これについては、ゴードンの賛成してくれた。やはり、今のやり方では、不衛生というのもあるが、臭いが特に問題となっていた。村の景観としても問題があったのだろう。共同トイレは、排泄物の管理まで行ってくれると言うのに文句も出るはずがない、とのことだ。

 ゴードンが問題にしたのは、誰が排泄物の管理をするかという点に絞られれた。すると、ゴードンは一人合点したように手を叩いた。ニヤリと笑った。

 「あの男を使うということですな」

 僕は、頷ずくと、それはいい考えですな、とゴードンは大いに賛成してくれた。やはり、ゴードンもあの男の亜人蔑視の考えに思うところがあったみたいだ。

 「さて、話がまとまったところで、すぐに共同トイレの設置の準備をしなくてはなりませんな。レイヤに相談すればよろしいですか? 」
 「ちょっと待て。これからが重要だと思うが」

 「はて、何か重要な点が抜け落ちていたでしょうか。私は、共同トイレについて問題はないと判断しましたが」
 
 話は、次の話に移った。排泄物の肥料化と肥料を畑に撒くことを相談することにした。

 僕にとって、だが、ゴードンの反応は意外なものだった。ゴードンは、なんの反論も出てこなかったのだ。実は、今までは排泄物を畑に撒いていたみたいだが、病気が出てしまったので、先代が排泄物を畑に撒くことを禁じてしまったという経緯があった。今でこそ、撒いてないが、撒くことに対して嫌な顔をする者はいないだろうというのがゴードンの考えのようだ。
 僕が、日本人的な発想だったから、気にしすぎていただけだったのか。

 僕は、ゴードンの賛同を得たので、すぐに村人に共同トイレの設置について伝えることにした。もちろん、異議のある者は僕かゴードンに伝えてくるようにとも伝えておいた。村人に話が行き渡ってから、一週間以上経ったが、異議は出てこなかったので、早速、設置をすることにした。

 構造そのものは至って簡単なものだ。掘っ立て小屋を建て、その中に穴を掘り、桶を設置するだけ。目隠し用の仕切り板を設置しておけば完成だ。僕は、こういうのは作ったことも考えたこともなかったので、後は、村民の意見を聞きながら改良していくことにした。

 数日して、すぐにいろいろと苦情と言うか意見が寄せられた。トイレの数が少ないため、朝に混雑してしまう点に多く批判が集まった。僕は、住居あたりの共同トイレの数を見直し、すぐに改良を加えるように、指示し、ちょっとずつ直していくようにした。一方で、臭いの方は以前に比べれば改善されたと喜びの意見もあった。

 しばらくすると、共同トイレは、村民から受け入れられ始めた。村民は、意外と順応性が高いのだと思ってしまったが、これは必要なことだと考えているので、すこしホッとした。

 桶はたまり始めてきたな。ついに、あの男を使う時が来た。男は、最初はものすごく嫌がっていた。この男は、まだ、この地が領都だった頃、貴族の子息だったようだ。このような下男のやるような仕事ができるか!! と猛抗議していたが、自警団は無理やり仕事をさせようとした。それでも抵抗するので、村を追放すると脅すと、渋々だが仕事をやり始めた。男が抵抗してくれて助かった。これは、罰なのだ。喜んでやられたのでは意味がない。

 男が仕事をサボらないように、つねに自警団に監視をしてもらい、淡々と仕事をこなしてもらった。日を追うに連れて、不思議なことだが、その男は、仕事に対して前向きになっていったのだ。とうとう、自警団からも監視は不要ではないかという意見が出てくるほどになった。僕は、不思議に思ったが、どうやら、男が仕事をしていることに対して村人から感謝の言葉を掛けられることがあったようだ。それが、すごく嬉しかったようで、それ以来、仕事を積極的に行い、村人とは良好な関係になっているらしい。もちろん、亜人との関係も良好らしい。男は、村で肩身の狭い思いをしていたことに相当不満を持っていたみたいで、食堂の一件は、それが爆発してしまったみたいだ。

 男は、感謝されることで仕事にやりがいを見出してくれたみたいだ。男のような者がこの事業の最初の人間になってくれたことは、僕にとっては運のいいことであった。これをみて、この仕事に対しての嫌悪感が少なくなり、仕事に就いてくれるものが増えてくれることは、村にとってはすごく大切なことである。

 しかし、ゴードンにこの話をしたら、この男にとっては罰になるかもしれないが、村人は、この仕事の重要性を理解していると思うので、嫌がる人はいないと思いますが…・・と言われてしまった。僕は、知らず知らず、仕事に貴賎をつけてしまっていた。

 その男が持っていく排泄物は、とある場所に集められていた。そこで、僕は肥料化するための準備をしていた。村人は約1000人。その排泄物だから量もそれなりになる。まずは、水分を減らすことから始め、その後は、魔牛の厩肥を作った工程と同じことをする。そうすれば、立派な肥料へと生まれ変わるだろう。

 これで一つ、また村に貴重な肥料が生まれることになった。
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