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第55話 食堂開店
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村の中心に新たな広場が出来た。巨石が鎮座し、父上の墓もある場所。僕は、その広場を村の中心と位置づけ、村作りを始めようと思った。僕が、まず、目をつけたのは食堂だ。現在、食堂はないが、ラーナさんの移住によってそれが可能となった。食料は、ある程度確保できるようになったが、各家庭は、あまり料理をしていない。火種の確保が難しかったり、そもそも料理をしたことがない人が非常に多いからだ。そのために食堂が必要となる。
食堂を建築するためには、ラーナさんの店をラエルの街から移築しなくてはならない。これは、ラーナさんがこの村に来てもらうための約束。この約束だけは必ず守らなければならない。それに、暇な者が多い夏の時分にやらなければ……。
僕はレイヤと相談し、移築のための人手や道具を準備し、すぐにラエルの街に向かった。レイヤの他に、集落の皆を連れて行くことにした。正直、まだ仕事が割当てられていないから、暇をしていたのだ。僕は、レイヤと共に馬車に乗りこんだ。
「レイヤは、ラエルの街に行ったことがあるか? 」
「私は、ラエルの街の生まれだよ。父ちゃんが街一番の大工でさ、先代様が誘ってくれたんだよ。それで、私も領都に出てきたんだよ。領都だって聞いていたから、どんなにすごいところなんだろうって想像していたけど、町並みだけだったら、ラエルの街のほうがすごかった気がするね。しかも、領主の館だって言うのに、すごくオンボロでね。父ちゃんが、領主がこんな家に住んでちゃいけねぇって行って、領都での初めての仕事が、村長の今住んでいる屋敷だったんだ。だから、あの屋敷に行くと、父ちゃんに会っている気がして、すごく嬉しくなるんだ。でも、あの屋敷を見ていると、父ちゃんに腕の凄さを痛感させられちゃうんだよ。本当にすごい大工だよ。私がどんなに背伸びしても、追いつける気がしないよ」
「お父さんは戦争に行ってしまったのか? 」
「戦争にはいってないよ。家を作っている時に、資材が崩れて下敷きになっちまってさ。そのまま……」
「それは、さぞや無念だっただろうな。辛いことを聞いてしまったな」
レイヤは、首を振って、昔のことだから気にしてないと、言っていた。それでも、少し暗い顔をしていた。お母さんは話に出てこないが、どうしたんだろうか。レイヤは、僕の顔を見て、察したみたいだ。
「母ちゃんは、私が5歳の時に流行病で死んじゃったって、父ちゃんが言ってた。私、その時の記憶がないから分からないけど……それから、父ちゃんが男一人で私を育てたんだよ。すごいことだよね。おかげで、私は女っ気のない性格になっちゃったけどね」
レイヤにとって、昔の記憶はそんなにいい記憶ではないのか、少し元気がないように見えた。レイヤを元気づけてやりたいと思った。
「レイヤの性格は、僕にとってはすごく魅力的に映っているよ。そんなレイヤに育ててくれたお父さんには感謝しないとな。それとな、僕がレイヤにどんどん仕事を与えてやる。そうしたら、お父さんの腕などすぐに越えてしまうだろう。そうしたら、僕の屋敷をレイヤに建て直してほしい。そのときはよろしく頼むぞ」
レイヤは、笑って、ああ、任せてくれと言った。少しは元気が出てくれただろうか。僕らが会話をしていると、すぐにラエルの街に到着した。街の中心部にあるラーナの店は、歴史を感じる古びた外見だったが、中は整理が行き届いており、整然とテーブルや椅子がおかれていた。まぁ、しばらく無人だったせいもあり、かなりホコリがかぶっていたけど。
ラーナおばさんは、すぐに集落の者を使って、テーブルや椅子、調理器具など使えそうなものすべてを屋外に出していった。僕も手伝おうとすると、レイヤに止められてしまった。どうやら、僕は、街の建物からレンガなどの資材を魔法で作って欲しいらしい。
僕は、レイヤの頼みで、倉庫街に行くことにした。中心街からレンガ街まではそれなりに距離があるため、馬で行くことにした。馬に乗り、町並みを見ながら、進んでいく。今は人っ気がないから、不気味に感じるが、人が大勢と思わせるような雰囲気があり、その時の活気を想像すると、楽しくなってくる。
レンガ街に到着した。遠くからでも分かるほど、立派なものだった。村一番の倉庫より大きいレンガ造りの建物が何棟も連なっており、本当に街のような景観をしていた。僕は土魔法を使い、建物のレンガを解体し始めた。旧領都にあった建物のレンガより大きく重量のあるものであった。それをどんどん積み上げていく作業をしていく。
作業の途中で、ある倉庫に地下室があるのを発見した。中に潜ってみると、そこには大量の金貨や銀貨、宝石のたぐいが山積みになっていた。誰かが隠していたのだろうか? 僕は、金貨や銀貨をインゴットに変えて、宝石はそのまま持ち帰ることにした。あとで何かに使えるだろう。
ふと、金貨なんかより、作物の種がほしかったなと思った。今の所、将棋の駒くらいしか使いみちが思い浮かばないな。作ったって、結局はお蔵入りだしな。
僕の作業は、休憩を入れて数時間で終わらせることが出来た。金銀のインゴットや宝石類は、重量があるため、一人で持っていくことが出来なかったので、応援を呼んで運んでもらうことにした。その人も、財宝を見て、一瞬目を惹かれていたが、すぐに覚めてしまった。その人も僕と同じように、食べ物だったら良かったのに……とつぶやいていた。
僕は、レイヤの方の手伝いをしに行くため、市街地へと戻っていった。すると、建物が会った場所は、すっかり様変わりをしていた。どうやら、解体作業が殆ど終わり、骨組みを残すのみとなっていた。こういうのって、数日掛けてやるものじゃないの? 僕は、離れたところからレイヤたちの仕事ぶりを眺めることにした。このままやれば、いくらもかからずに終わってしまうだろう。僕の出番はなさそうだ。レイヤは、集落の者たちを上手に使っていた。集落の者たちも、レイヤの指示に素直に応じている。この連携であれば、仕事が早いわけだ。
本当にレイヤの動きには無駄がない。タンクトップから零れ落ちそうなのに、落ちない……すばらしい動きだ。
さらに数時間経った頃、解体はほぼ終わり、荷造りの段階に入っていた。資材の移動なら、土移動が便利だ。木材やレンガを、荷台に積み上げていく。無事にそれらが終わると、皆で喝采が上がった。今日の仕事ぶりは、素晴らしいものだったな。僕達は、日が傾きそうだったので、すぐに村に出発した。
驚いたことに、解体作業がまる一日で終わってしまったのだ。レイヤは、人を使うのが本当にうまくなったと思う。これに関しては、すでにお父さんを越えているのではないだろうか。
ちなみに僕が解体したレンガは、倉庫街に放置してある。徐々に、手の空いた者が随時回収に来ることにした。それと、インゴットなんだけど、レイヤや集落の者に褒美として渡そうとしたら、そんなものより食い物がいいと言われてしまった。価値観が完全に崩壊した世界なんだな。
僕達は、村に戻ったらすぐに広場前に荷をおろし、その日は終わった。さすがに皆、疲れている様子だった。次の日は、早くから解体した店をもとの状態に戻していく作業だ。建物を建てる予定地を更地にしてから、建築が始まった。解体する時も早かったが、建築するのも早い。みるみる建物の外観が出来上がり、またたく間に建築が完了してしまった。
「村長。終わったよ。思ったより建物の状態が良くて助かったよ。木材なんか腐ってたら、もっと時間がかかっていたところだよ。今回は、勢いで建てたけど、まだ改良の余地がある建物だから、ラーナさんと相談して、改築をしていこうと思うよ。食堂は街の花形だからな。」
「こんなに早く終わるとは思ってなかった。これなら、思ったより早く屋敷を作ってもらうことになりそうだな。食堂にばかり熱を入れられても困るからな」
そんな会話をしていると、ラーナさんがさっそく料理を振る舞ってくれることになった。建築中、厨房をすぐに使えるようにしていてくれたおかげだ。祭りの時も食べたが、また、食堂で食べる味も格別なのだろうな。この村では、僕達はお客第一号となった。
「村長。本当にありがとうね。この店で、こんな風にみんなにもう一度料理を振る舞えるなんて、思っても見なかったよ。旦那もきっと喜んでくれると思うんだ。それに、レイヤや皆にも感謝しなきゃね。街で朽ちていってしまうしかなかった店が新しい土地で、また使われるんだからね。それに、こんなにきれいになったのは、皆のおかげだよ」
「喜んでくれて僕も嬉しい。この村に初めての食堂が出来上がったのだ。僕は、この食堂で、皆に美味しいご飯を食べて、豊かさを実感してほしいと思っている。そのための食料は、どんどん使ってくれて、構わないからな。その代わり、食いたい者がいたら、どんな者でも食わせてやってほしい。よろしく頼むぞ」
ラーナさんは、あいよと軽快に返事をした。
食堂を建築するためには、ラーナさんの店をラエルの街から移築しなくてはならない。これは、ラーナさんがこの村に来てもらうための約束。この約束だけは必ず守らなければならない。それに、暇な者が多い夏の時分にやらなければ……。
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「私は、ラエルの街の生まれだよ。父ちゃんが街一番の大工でさ、先代様が誘ってくれたんだよ。それで、私も領都に出てきたんだよ。領都だって聞いていたから、どんなにすごいところなんだろうって想像していたけど、町並みだけだったら、ラエルの街のほうがすごかった気がするね。しかも、領主の館だって言うのに、すごくオンボロでね。父ちゃんが、領主がこんな家に住んでちゃいけねぇって行って、領都での初めての仕事が、村長の今住んでいる屋敷だったんだ。だから、あの屋敷に行くと、父ちゃんに会っている気がして、すごく嬉しくなるんだ。でも、あの屋敷を見ていると、父ちゃんに腕の凄さを痛感させられちゃうんだよ。本当にすごい大工だよ。私がどんなに背伸びしても、追いつける気がしないよ」
「お父さんは戦争に行ってしまったのか? 」
「戦争にはいってないよ。家を作っている時に、資材が崩れて下敷きになっちまってさ。そのまま……」
「それは、さぞや無念だっただろうな。辛いことを聞いてしまったな」
レイヤは、首を振って、昔のことだから気にしてないと、言っていた。それでも、少し暗い顔をしていた。お母さんは話に出てこないが、どうしたんだろうか。レイヤは、僕の顔を見て、察したみたいだ。
「母ちゃんは、私が5歳の時に流行病で死んじゃったって、父ちゃんが言ってた。私、その時の記憶がないから分からないけど……それから、父ちゃんが男一人で私を育てたんだよ。すごいことだよね。おかげで、私は女っ気のない性格になっちゃったけどね」
レイヤにとって、昔の記憶はそんなにいい記憶ではないのか、少し元気がないように見えた。レイヤを元気づけてやりたいと思った。
「レイヤの性格は、僕にとってはすごく魅力的に映っているよ。そんなレイヤに育ててくれたお父さんには感謝しないとな。それとな、僕がレイヤにどんどん仕事を与えてやる。そうしたら、お父さんの腕などすぐに越えてしまうだろう。そうしたら、僕の屋敷をレイヤに建て直してほしい。そのときはよろしく頼むぞ」
レイヤは、笑って、ああ、任せてくれと言った。少しは元気が出てくれただろうか。僕らが会話をしていると、すぐにラエルの街に到着した。街の中心部にあるラーナの店は、歴史を感じる古びた外見だったが、中は整理が行き届いており、整然とテーブルや椅子がおかれていた。まぁ、しばらく無人だったせいもあり、かなりホコリがかぶっていたけど。
ラーナおばさんは、すぐに集落の者を使って、テーブルや椅子、調理器具など使えそうなものすべてを屋外に出していった。僕も手伝おうとすると、レイヤに止められてしまった。どうやら、僕は、街の建物からレンガなどの資材を魔法で作って欲しいらしい。
僕は、レイヤの頼みで、倉庫街に行くことにした。中心街からレンガ街まではそれなりに距離があるため、馬で行くことにした。馬に乗り、町並みを見ながら、進んでいく。今は人っ気がないから、不気味に感じるが、人が大勢と思わせるような雰囲気があり、その時の活気を想像すると、楽しくなってくる。
レンガ街に到着した。遠くからでも分かるほど、立派なものだった。村一番の倉庫より大きいレンガ造りの建物が何棟も連なっており、本当に街のような景観をしていた。僕は土魔法を使い、建物のレンガを解体し始めた。旧領都にあった建物のレンガより大きく重量のあるものであった。それをどんどん積み上げていく作業をしていく。
作業の途中で、ある倉庫に地下室があるのを発見した。中に潜ってみると、そこには大量の金貨や銀貨、宝石のたぐいが山積みになっていた。誰かが隠していたのだろうか? 僕は、金貨や銀貨をインゴットに変えて、宝石はそのまま持ち帰ることにした。あとで何かに使えるだろう。
ふと、金貨なんかより、作物の種がほしかったなと思った。今の所、将棋の駒くらいしか使いみちが思い浮かばないな。作ったって、結局はお蔵入りだしな。
僕の作業は、休憩を入れて数時間で終わらせることが出来た。金銀のインゴットや宝石類は、重量があるため、一人で持っていくことが出来なかったので、応援を呼んで運んでもらうことにした。その人も、財宝を見て、一瞬目を惹かれていたが、すぐに覚めてしまった。その人も僕と同じように、食べ物だったら良かったのに……とつぶやいていた。
僕は、レイヤの方の手伝いをしに行くため、市街地へと戻っていった。すると、建物が会った場所は、すっかり様変わりをしていた。どうやら、解体作業が殆ど終わり、骨組みを残すのみとなっていた。こういうのって、数日掛けてやるものじゃないの? 僕は、離れたところからレイヤたちの仕事ぶりを眺めることにした。このままやれば、いくらもかからずに終わってしまうだろう。僕の出番はなさそうだ。レイヤは、集落の者たちを上手に使っていた。集落の者たちも、レイヤの指示に素直に応じている。この連携であれば、仕事が早いわけだ。
本当にレイヤの動きには無駄がない。タンクトップから零れ落ちそうなのに、落ちない……すばらしい動きだ。
さらに数時間経った頃、解体はほぼ終わり、荷造りの段階に入っていた。資材の移動なら、土移動が便利だ。木材やレンガを、荷台に積み上げていく。無事にそれらが終わると、皆で喝采が上がった。今日の仕事ぶりは、素晴らしいものだったな。僕達は、日が傾きそうだったので、すぐに村に出発した。
驚いたことに、解体作業がまる一日で終わってしまったのだ。レイヤは、人を使うのが本当にうまくなったと思う。これに関しては、すでにお父さんを越えているのではないだろうか。
ちなみに僕が解体したレンガは、倉庫街に放置してある。徐々に、手の空いた者が随時回収に来ることにした。それと、インゴットなんだけど、レイヤや集落の者に褒美として渡そうとしたら、そんなものより食い物がいいと言われてしまった。価値観が完全に崩壊した世界なんだな。
僕達は、村に戻ったらすぐに広場前に荷をおろし、その日は終わった。さすがに皆、疲れている様子だった。次の日は、早くから解体した店をもとの状態に戻していく作業だ。建物を建てる予定地を更地にしてから、建築が始まった。解体する時も早かったが、建築するのも早い。みるみる建物の外観が出来上がり、またたく間に建築が完了してしまった。
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「こんなに早く終わるとは思ってなかった。これなら、思ったより早く屋敷を作ってもらうことになりそうだな。食堂にばかり熱を入れられても困るからな」
そんな会話をしていると、ラーナさんがさっそく料理を振る舞ってくれることになった。建築中、厨房をすぐに使えるようにしていてくれたおかげだ。祭りの時も食べたが、また、食堂で食べる味も格別なのだろうな。この村では、僕達はお客第一号となった。
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「喜んでくれて僕も嬉しい。この村に初めての食堂が出来上がったのだ。僕は、この食堂で、皆に美味しいご飯を食べて、豊かさを実感してほしいと思っている。そのための食料は、どんどん使ってくれて、構わないからな。その代わり、食いたい者がいたら、どんな者でも食わせてやってほしい。よろしく頼むぞ」
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