爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

文字の大きさ
上 下
53 / 408

第52話 ラエルの街の遺産

しおりを挟む
 ラエルの街から約500名の人が村に移り住んできた。村の人々は、村外からの人に対して不安を抱いていた。それを知ってなのか、ラエルの街の人たちの中で元気な人たちは、次の日から畑に出て、精を出していた。そのおかげで村人たちは、徐々に安心感を覚えていった。

 外の街からの流入は、村を活性化させた。依然として、女性の比率は高いものの、皆、労働には意欲的であり、不満を漏らすものがいなかった。むしろ、食事が贅沢すぎると文句が出るくらいだった。村人とラエルの街の人たちは、共通して餓えを経験しているため、苦労を分かち合うのも早かったと思う。

 そんな日々が過ぎていき、夏真っ盛りの時期になった。村では、夏に収穫物がないため、村人は当番制で夏休みを取りながら、農作業をする日々を送っていた。

 僕の屋敷に、意見があるとラエルの街の元住人の一人とラーナさんがやってきた。街の住人は、年老いた鼠系の亜人の男性だった。

 「ロッシュ村長。急に来て悪かったね。ゴール爺が村長に話があるっていうんだ。ゴール爺は、街では畑の管理を仕切っていた人なんだよ」

 「村長。ゴールと申します。お目にかかれて光栄にございます。まずは、我々を救っていただき感謝申し上げます。この度の訪問についてですが、村長に伺いたいことがあってまいりました」

 僕は身構えた。何かトラブルがあったのか、村に不満が出たのか……僕は、続きを促した。

 「この村では、夏の期間は、作物の管理に終始しておりますが、夏の作物はお作りにならないのですか? 」

 「それは僕にとって悩みの種なのだ。作りたくとも、夏の作物がないのだ」

 「そういうことでしたか。それならば、私は、トマトの種を持っております。もともとラエルの街では、トマト栽培が盛んでしたから。昔は、夏にトマト栽培を大面積で行っておりました。種が必要とあれば、一旦街に戻らねばならないのですが」

 「なぁに~~!! 」

 僕の声の大きさに皆が驚き、マグ姉、マリーヌさん、エリス、ココが一斉に部屋に集まってきた。

 「な、何事ですか? ロッシュ様。そのような大声を上げて」

 「エリスか……すまん。少し取り乱した。ゴールさんからトマトの種があると聞いていな。驚いてしまった」
 トマトという言葉に反応したのは、意外にもミヤだった。

 「トマトですか……前に食べたことがありますが、酸っぱくて、私は苦手でしたね」

 「酸っぱいだと? そんなことはない。トマトは甘いものだろ。そうだよな? ゴールさん」

 「えっ⁉ トマトって酸っぱいものではないのですか? あの酸味が美味しいものとばかり思っていおりましたが……」

 あれ? 僕だけ認識がずれているぞ。僕の知っているトマトは甘いものだ。トマトの早採りはたしかに酸っぱいが……

 「ゴールさん。トマトの収穫はどのタイミングでやっているんだ? 」

 「タイミングですか? そうですね。実が大きくなったら、すぐに収穫してしまいますね。放っておくと、段々と赤くなり、柔らかくなって腐ってしまいますから」

 そうだったのか。それは酸っぱいわけだ。熟す前に収穫してしまっていたとは。それはそれで、使いみちはあるだろうが、やはり、トマトは熟れたものを冷やして食べるのが一番美味いだろ。しかし、ここで言っても始まらないな。

 「そうか。ゴールさん、それは勿体無い事をしているかもしれないな。まぁ、栽培してみないとなんとも言えないが……しかし、時期が悪いな。今は、夏だ。これでは、苗を作るのは難しいだろう」
 
 「ロッシュ村長。それはご安心ください。街で栽培されていたトマトは夏秋に採れるように品種改良されているため、夏の盛りでも、種を撒けば栽培することは可能なのです。多少は、収量は下がってしまいますが」

 「なに~~!! 」
 本日二度目の絶叫をしてしまった。トマトが作れる⁉ いますぐ、行動だ!! 僕は、ゴールさんを連れて、すぐに街に向かっていった。馬で駆けていったので、すぐに到着することが出来た。既に廃墟然としていたが、人がいないことでますます不気味な街へと変わってしまった。

 ゴールはさっそく、種が保管されている場所に案内してくれた。僕はワクワクが止まらなかった。もしかしたら、すごいお宝に巡り合うかもしれない。トマトがあったんだ、他の作物があってもおかしくないだろう。

 街よりやや高台にある小さな小屋に案内された。ここなら、洪水の被害はなかっただろうな。僕とゴールは早速、小屋に入った。小屋の中は、ややひんやりとし、湿気が少なく、種の保存には最適そうだな。そこには、種の入っているであろう袋が置かれていた。

 袋には、内容物の札がついており、トマトと書かれた袋を見つけた。僕が見つけたのを確認して、ゴールが袋に手を入れ、種を取り出した。これが自慢のトマトの種です、と言っていた。自慢だったのか……僕は、慎重に受け取った。種だな。うん、種だな。

 「ゴールさん。さっそく、村に帰ったら植えてみようじゃないか。畑ならいくらでもあるから、任せてもいいのか? 」
 ゴールさんは、任せて頂けるのですか、と喜んで引き受けてくれた。僕の知っているトマトではないので、栽培方法をよく知らない。僕は、ゴールさんから教えてもらうつもりだ。

 さて、他の種も物色してみよう。どれどれ……そこには、一際大きな袋があった。トマトの種が入った袋は小袋だったが、その袋は小屋の一角を占めるほど大きい。すごく気になる。残念なことに、札が付いていない。僕は、袋を開け、中身を取り出した。すると、そこから出てきたのは、大豆だった。やや小さい気もするが、大豆だ。

 「ゴールさん。この大豆は一体? 」
 「ああ、それは、いい作物ですよ。播けば、よく育ちますし、大豆を収穫した後に、栽培した作物の収量が増えるんですよ。不思議なことですがね」

 もちろんだ。大豆の特性の一つだな。根粒菌の働きによるものだろう。僕が大豆を欲しがる理由の一つだ。本当に宝を見つけてしまったよ。しかし、よく大豆が残っていたな。おそらくだが、街にあるということは領都にもあったはずだ。だが、領都にはなかった。食べてしまったからだろう。

 「よく、この大豆が残っていたな。食べてしまってもおかしくなかっただろうに」
 「へ? それ、食べれるんですか? 」

 何を言っているんだ? ゴールさん、その歳でボケてしまったのか……可哀想なことに……

 「ロッシュ村長。そんなに憐れみのある目で見ないでくださいよ。本当に食べるものではないですよ。ラーナさんにも聞いてください。私は嘘を言っていませんよ。さっきもいいましたけど、それを植えると次の作物の収量が上がるので、撒いてただけですから」

 信じられない。とても信じられることではない。まさか、大豆が緑肥としてしか使われていなかったとは……しかし、考えようによっては、僥倖だ。そうでなければ、食べられて無くなっていたのだから。前向きに考えよう。

 「これは、食べることが出来るし、素晴らしい調味料の材料でもある。ゴールさん。礼をいうぞ。理由はどうあれ、大豆を残していてくれて本当に助かった。これで、村はもっと豊かになるぞ」

 「それほどのものでしたか、大豆というのは。私としては信じられませんが、ロッシュ村長が言うのなら、間違いはないのでしょう。大豆は、来年から撒くということでしょうか? 」

 大豆の播く時期は春だ。今からでは、厳しいだろうな。僕は、小屋にあった種はすべて回収して、村に運び入れた。村に戻ると、すぐにゴールさんには、トマト栽培をするように指示を出し、街の元住人を付けて、栽培に当たらせた。成果は、秋になるということだが、非常に楽しみだ。

 村に、トマトと大豆の二つの重要な作物がやってきた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...