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第49話 ラエルの街 ラーナおばさん 視点
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あたいは、イルス領ラエルの街で食堂を営んでいる、ただのおばさんだよ。あたいは、食堂を旦那と一緒に一から始めて、なんとかかんとか、街で何番目かに繁盛するまでになったんだ。けどね、戦争が始まってからは、がらっと様子が変わってしまったよ。
戦争が始まって、最初は本当に良かったよ。人がいっぱい来てくれてさ、連日大繁盛したよ。ほんと、あの時は目が回るほど忙しかった。けどね、戦争がだんだんと長引いてくると、様子が変わっていったんだよ。街には怪我をしている人が多く見かけるようになってね。食べ物もだんだんと入ってくる量が少なくなっていった。それでも、お客さんが来てくれるからなんとか頑張って、食事を提供していたんだけど……ついに、あたいの旦那にも、出兵の命令が出たんだよ。イルス辺境伯の軍は、劣勢に追い込まれていて、すぐにでも援軍が必要なんだって。そんなの知るかっていうんだ。
旦那はずっと包丁一本でやってきたんだ。人を殺すような訓練もしていないのに、戦いになんか出られるわけがない。それでも、旦那は、必ず戻ってくるよ、と言って、出ていったきり、帰ってこなかった。あたいは、旦那の言葉をずっと信じていた。旦那と作ったこの食堂を何とか守ろうと頑張ったんだよ。
だけど、駄目だった。戦争が長期化し、街に人の姿が少くなっていった。街には怪我人が溢れ、食料は少なく、食堂で出せる料理が無くなっていった。ついには、街の代表が、出奔してしまった。街の金をもって、子飼いの者たちと共に。街の人間には何も告げずにさ、夜中にこっそりとだよ。ひどいじゃないか。
それだけでは、終わらなかった。街の代表が去ったことを知った街の人間は、どんどん街を見限って、いなくなっていた。本当に早かったよ。一瞬とも言える時間で、街の人口は5000人もあったのに、500人までになっていったよ。残っているのも、子供や亜人ばかり、年寄りもいたな。あたいみたいな年齢の人なんていくらも残らなかった。皆、身寄りもなく、金もない者ばかりだった。
あたいは、皆に少ない食料だったけど食堂で振る舞ってやったよ。皆にはあたいの料理しかないんだから。しばらくして、嫌なことがわかったんだ。なんとか、街の残っている食料で、しばらくは過ごせることは分かったんだけど、それ以降が続かないってことが分かってしまったんだよ。この街は、昔は農業で栄えてたから、食料は自前で調達することが出来たんだ。だけど、戦争が始まってから、大金が街に落ちるようになって、農業で働いてた人達は皆、街で働くようになったんだ。そっちのほうが、うんと儲かるからね。それに、食料だって、軍事物資として大量に街に積み上がっていたから、金があれば、いくらだって食べられた。
そんなのが続くとね、農地が荒れ果てて、今となっては、すぐに取り戻すのが難しいほどになってしまったんだよ。それでも、なんとか、作っているけど、いつ食料が尽きてしまうか、皆ビクビクしながら過ごしているんだよ。
しばらくすると、ちょっとずつだけど農業の方も軌道に乗り始めてきてね。食料もいくらか余裕が出来るようになっていた。皆、本当に頑張ってくれたからね。
秋になり、冬になった頃、二人の女性が街に現れた。平民のような格好をしているが、高貴な雰囲気を漂わせる不思議な二人だった。金髪の子は特に感じた。二人は、あたいの食堂に入ってきて、食事を分けてほしいと言ってきた。たしかに、ここは食堂だが、見ず知らずの人に分けてやれる食料はなかった。今でさえ、ひとりひとりの食事量を削って、なんとか備蓄を増やしているところだったからね。ましてや、今は冬。尚更だよ。
「悪いね。今、食料を切らしていて、ここの街に住むものだけで精一杯の量しかないんだ。許しておくれ」
金髪の女性は、あたいの言葉を聞いても、動じる様子もなかった。おそらくだが、どこも、あたいみたいな態度を取っていたんだろうね。嫌になるよ。食堂の看板をぶら下げておきながら、食事を断るんだから。ふと思うことがある。旦那がいたら、どうしていただろうね。
「そうですか。ならば、仕方ないですね。今や、食料は命よりも貴重ですものね。でしたら、命を救える薬でしたら、食べ物と交換していただけませんか? 」
そういうと、金髪の女性は、鞄の中から小さな袋を取り出し、カウンターの上に置いた。あたいは、袋の中を見ると緑色の粉末が入っていた。金髪の女性は、その粉は万能薬として使われていると言っていた。あたいは、この緑色の粉を怪しいとしか思えなかった。嘘を付くならもっとあるだろうと……
その時、食堂にいた少年が、こちらに向かってきた。どうしたんだ? と思ったら
「この薬、オレにくれないか? 妹が病気なんだ。これがあれば、治るんだろ? 」
少年が、金髪の女性に懇願すると、女性は、少年の方に体を向け、優しい声で妹の症状を聞き出していた。少年は思いつく限り、妹の症状を言うと、女性は、それならばこの薬は効いてくれるでしょう、と答えた。
あたいは、このやり取りを聞いて、不安に感じてしまったね。だって、そうだろう。怪しい薬を少年の妹に使おうっていうんだから。あたいは、止めに入ったよ。
「そんな怪しい薬を使って、妹ちゃんがもっと悪化したらどうするんだい? 」
「ラーナおばさん。もうそんなことを言っている場合じゃないんだ。妹のやつ、どんどん体が悪くなっていくし、食事だって喉を通らなくなっているんだ!! ラーナおばさんがなんとかしてくれるの!? 」
あたいは、何も言えなくなってしまったよ。少年の言う通りだ。どうせ駄目になるなら、薬にすがりたくもなるだろうね。あたいが渋面を作っていると、
「オレの食料をお姉ちゃんたちに渡してやってくれ。オレには、それしか払えるものがないけどさ」
あたいは、頷くと、少年は薬を持って食堂を出ていった。あたいは少年に言われたように、少年の分より少し多めにして二人の女性に提供した。女性たちは、相当空腹だったのか、無言で食事を平らげた。女性たちはそのまま食堂に残っていた。どうやら、少年が戻るのを待っているようだ。すると、少年が戻ってきた。嬉しそうな表情をしているところを見ると、妹の容態は良くなったようだ。女性の持ってきた薬草は本物だったのだ。
「疑って申し訳なかったね。こんな時代だ。嘘をついて食料を奪い取っていく輩も多いから、疑り深くなっていたんだね。ごめんよ。こんなことを言うのは虫が良すぎるだろうけど、あんた達が良ければだけど、この街にずっと居てくれないかい? 」
彼女たちは、これから向かいたい場所があるという。それは、イルス領の領都だって。あたいは、心が痛くなったね。だって、領都はもうなくなっているだろうから。あたいは、正直に彼女たちに言った。この街は、領都と王都を結ぶ街道だから、領都の人の流れが分かる。戦乱が続き、この街から人が居なくなったように、領都からも大量の人がこの街を通過していったから、領都にはほとんど人は残っていないんじゃないか……と。
彼女らは、ひどく落ち込んでいた。本当に絶望したような顔だった。あたいは、見ていられなかったよ。
「あんたらなら、本当にこの街にいていいんだからね」
「少しの間、考えさせてください。申し遅れましたが、私は……」
金髪の女性がマーガレット、紫色の髪の女性はマリーヌと言っていた。マーガレットとマリーヌはしばらく、この街に滞在することになった。
彼女らが、滞在してから一週間が経った頃、街が騒然となった。街の入り口にいた者が知らせにやってきたんだよ。数十人の武装した集団が街に来たと。あたいは、すぐに街の人間を郊外の農地に逃がすようにした。あたいは、マーガレットとマリーヌにも逃げるように言った。しかし……
「それは、私達の追手かもしれません。私達が時間を稼ぎますから、すぐにお逃げになったください」
あたいは断ったよ。この二人が時間稼ぎをするんだったら、あたいだって!! と思ったが、すぐに遮られた。
「ラーナさん、あなたは、この街になくてはならない存在です。このような場所で、命を散らしてはいけません。私達は大丈夫です。それに私達が残らなければ、きっと、街の人に危害を加えるでしょう。これは、私の持っているすべての薬草です。さあ、行ってください」
マーガレットは本気だ。マリーヌも覚悟を決めた顔をしていた。あたいは、薬草を受取り、二人にお礼を言って、すぐに食堂を後にした。結局、彼女らは何者だったのか。分からず仕舞いだった。もう、あの二人には会うことはないだろう。
あたいが農地に着いた時、街の人はすべて集まっていた。あたいは街の方を見ると、さきほどの集団が移動を開始し、街を遠ざかっていくのを見ていた。マーガレットとマリーヌには助けられたね。もっと、優しくしてやればよかったよ。
それから、春が来て、夏の香りがしてきた頃、毎年のように長雨の時期となった。長雨は、ずっと続き、川の水位が上昇しだした。農地には水がたまり、排水される様子もない。あたいは、危険を感じて、すぐに農地から人を高台に避難させた。それが功を奏したのか、その直後に洪水が発生し、またたく間に農地を飲み込んでいった。
せっかく、作ってきた畑が無残な姿になってしまった。でも、あたいらは諦めなかった。また、秋に種を撒けるように頑張ろうと、街の皆で励まし合っていた。その時からだよ。川の近くに住んでいる人たちが、病気になって倒れ始めたんだ。あたいは、貰った薬草を患者に飲ませたら、効き目があったんだ。だけど、病気になる人が次々の現れて、ついに貰った薬草が無くなってしまった。
病気になった人は、徐々に悪化していって、立てなくなる者まで出始めていた。このままでは、この街は病気で全滅してしまう。あたいは、ふと、前に来たマーガレットのことを思い出していた。
そういえば、彼女はなんで領都に行きたいと思っていたんだい? 身寄りがいる? そこの出身? 薬に関係する何かがある? わからないけど、彼女の手がかりが何かあるかもしれない。そうすれば、薬を手に入れられるかもしれない。そうすれば、街の人が救われるかもしれない。そうすれば……
そううまい話があるわけがない。でも、なにか行動をしなければ、どの道、あたし達は終わりだ。あたしは、すぐに元気なものを集め、相談をした。賛否は出たものの、結局はあたいと同じ結論にたどり着く。あたいは、すぐに三人の兎系の亜人の少女たちに、街の運命を託した。
兎系の亜人は、音に敏感で、危機を回避する能力が高い。領都がどうなっているかわからない状況では、この人選は最適だと思う。あたいは、彼女らにお願いし、残り少ない食料を持たせ、街から送り出した。
信じられないことだけど、そのすぐ後、あたいらは、村長に救われた。
戦争が始まって、最初は本当に良かったよ。人がいっぱい来てくれてさ、連日大繁盛したよ。ほんと、あの時は目が回るほど忙しかった。けどね、戦争がだんだんと長引いてくると、様子が変わっていったんだよ。街には怪我をしている人が多く見かけるようになってね。食べ物もだんだんと入ってくる量が少なくなっていった。それでも、お客さんが来てくれるからなんとか頑張って、食事を提供していたんだけど……ついに、あたいの旦那にも、出兵の命令が出たんだよ。イルス辺境伯の軍は、劣勢に追い込まれていて、すぐにでも援軍が必要なんだって。そんなの知るかっていうんだ。
旦那はずっと包丁一本でやってきたんだ。人を殺すような訓練もしていないのに、戦いになんか出られるわけがない。それでも、旦那は、必ず戻ってくるよ、と言って、出ていったきり、帰ってこなかった。あたいは、旦那の言葉をずっと信じていた。旦那と作ったこの食堂を何とか守ろうと頑張ったんだよ。
だけど、駄目だった。戦争が長期化し、街に人の姿が少くなっていった。街には怪我人が溢れ、食料は少なく、食堂で出せる料理が無くなっていった。ついには、街の代表が、出奔してしまった。街の金をもって、子飼いの者たちと共に。街の人間には何も告げずにさ、夜中にこっそりとだよ。ひどいじゃないか。
それだけでは、終わらなかった。街の代表が去ったことを知った街の人間は、どんどん街を見限って、いなくなっていた。本当に早かったよ。一瞬とも言える時間で、街の人口は5000人もあったのに、500人までになっていったよ。残っているのも、子供や亜人ばかり、年寄りもいたな。あたいみたいな年齢の人なんていくらも残らなかった。皆、身寄りもなく、金もない者ばかりだった。
あたいは、皆に少ない食料だったけど食堂で振る舞ってやったよ。皆にはあたいの料理しかないんだから。しばらくして、嫌なことがわかったんだ。なんとか、街の残っている食料で、しばらくは過ごせることは分かったんだけど、それ以降が続かないってことが分かってしまったんだよ。この街は、昔は農業で栄えてたから、食料は自前で調達することが出来たんだ。だけど、戦争が始まってから、大金が街に落ちるようになって、農業で働いてた人達は皆、街で働くようになったんだ。そっちのほうが、うんと儲かるからね。それに、食料だって、軍事物資として大量に街に積み上がっていたから、金があれば、いくらだって食べられた。
そんなのが続くとね、農地が荒れ果てて、今となっては、すぐに取り戻すのが難しいほどになってしまったんだよ。それでも、なんとか、作っているけど、いつ食料が尽きてしまうか、皆ビクビクしながら過ごしているんだよ。
しばらくすると、ちょっとずつだけど農業の方も軌道に乗り始めてきてね。食料もいくらか余裕が出来るようになっていた。皆、本当に頑張ってくれたからね。
秋になり、冬になった頃、二人の女性が街に現れた。平民のような格好をしているが、高貴な雰囲気を漂わせる不思議な二人だった。金髪の子は特に感じた。二人は、あたいの食堂に入ってきて、食事を分けてほしいと言ってきた。たしかに、ここは食堂だが、見ず知らずの人に分けてやれる食料はなかった。今でさえ、ひとりひとりの食事量を削って、なんとか備蓄を増やしているところだったからね。ましてや、今は冬。尚更だよ。
「悪いね。今、食料を切らしていて、ここの街に住むものだけで精一杯の量しかないんだ。許しておくれ」
金髪の女性は、あたいの言葉を聞いても、動じる様子もなかった。おそらくだが、どこも、あたいみたいな態度を取っていたんだろうね。嫌になるよ。食堂の看板をぶら下げておきながら、食事を断るんだから。ふと思うことがある。旦那がいたら、どうしていただろうね。
「そうですか。ならば、仕方ないですね。今や、食料は命よりも貴重ですものね。でしたら、命を救える薬でしたら、食べ物と交換していただけませんか? 」
そういうと、金髪の女性は、鞄の中から小さな袋を取り出し、カウンターの上に置いた。あたいは、袋の中を見ると緑色の粉末が入っていた。金髪の女性は、その粉は万能薬として使われていると言っていた。あたいは、この緑色の粉を怪しいとしか思えなかった。嘘を付くならもっとあるだろうと……
その時、食堂にいた少年が、こちらに向かってきた。どうしたんだ? と思ったら
「この薬、オレにくれないか? 妹が病気なんだ。これがあれば、治るんだろ? 」
少年が、金髪の女性に懇願すると、女性は、少年の方に体を向け、優しい声で妹の症状を聞き出していた。少年は思いつく限り、妹の症状を言うと、女性は、それならばこの薬は効いてくれるでしょう、と答えた。
あたいは、このやり取りを聞いて、不安に感じてしまったね。だって、そうだろう。怪しい薬を少年の妹に使おうっていうんだから。あたいは、止めに入ったよ。
「そんな怪しい薬を使って、妹ちゃんがもっと悪化したらどうするんだい? 」
「ラーナおばさん。もうそんなことを言っている場合じゃないんだ。妹のやつ、どんどん体が悪くなっていくし、食事だって喉を通らなくなっているんだ!! ラーナおばさんがなんとかしてくれるの!? 」
あたいは、何も言えなくなってしまったよ。少年の言う通りだ。どうせ駄目になるなら、薬にすがりたくもなるだろうね。あたいが渋面を作っていると、
「オレの食料をお姉ちゃんたちに渡してやってくれ。オレには、それしか払えるものがないけどさ」
あたいは、頷くと、少年は薬を持って食堂を出ていった。あたいは少年に言われたように、少年の分より少し多めにして二人の女性に提供した。女性たちは、相当空腹だったのか、無言で食事を平らげた。女性たちはそのまま食堂に残っていた。どうやら、少年が戻るのを待っているようだ。すると、少年が戻ってきた。嬉しそうな表情をしているところを見ると、妹の容態は良くなったようだ。女性の持ってきた薬草は本物だったのだ。
「疑って申し訳なかったね。こんな時代だ。嘘をついて食料を奪い取っていく輩も多いから、疑り深くなっていたんだね。ごめんよ。こんなことを言うのは虫が良すぎるだろうけど、あんた達が良ければだけど、この街にずっと居てくれないかい? 」
彼女たちは、これから向かいたい場所があるという。それは、イルス領の領都だって。あたいは、心が痛くなったね。だって、領都はもうなくなっているだろうから。あたいは、正直に彼女たちに言った。この街は、領都と王都を結ぶ街道だから、領都の人の流れが分かる。戦乱が続き、この街から人が居なくなったように、領都からも大量の人がこの街を通過していったから、領都にはほとんど人は残っていないんじゃないか……と。
彼女らは、ひどく落ち込んでいた。本当に絶望したような顔だった。あたいは、見ていられなかったよ。
「あんたらなら、本当にこの街にいていいんだからね」
「少しの間、考えさせてください。申し遅れましたが、私は……」
金髪の女性がマーガレット、紫色の髪の女性はマリーヌと言っていた。マーガレットとマリーヌはしばらく、この街に滞在することになった。
彼女らが、滞在してから一週間が経った頃、街が騒然となった。街の入り口にいた者が知らせにやってきたんだよ。数十人の武装した集団が街に来たと。あたいは、すぐに街の人間を郊外の農地に逃がすようにした。あたいは、マーガレットとマリーヌにも逃げるように言った。しかし……
「それは、私達の追手かもしれません。私達が時間を稼ぎますから、すぐにお逃げになったください」
あたいは断ったよ。この二人が時間稼ぎをするんだったら、あたいだって!! と思ったが、すぐに遮られた。
「ラーナさん、あなたは、この街になくてはならない存在です。このような場所で、命を散らしてはいけません。私達は大丈夫です。それに私達が残らなければ、きっと、街の人に危害を加えるでしょう。これは、私の持っているすべての薬草です。さあ、行ってください」
マーガレットは本気だ。マリーヌも覚悟を決めた顔をしていた。あたいは、薬草を受取り、二人にお礼を言って、すぐに食堂を後にした。結局、彼女らは何者だったのか。分からず仕舞いだった。もう、あの二人には会うことはないだろう。
あたいが農地に着いた時、街の人はすべて集まっていた。あたいは街の方を見ると、さきほどの集団が移動を開始し、街を遠ざかっていくのを見ていた。マーガレットとマリーヌには助けられたね。もっと、優しくしてやればよかったよ。
それから、春が来て、夏の香りがしてきた頃、毎年のように長雨の時期となった。長雨は、ずっと続き、川の水位が上昇しだした。農地には水がたまり、排水される様子もない。あたいは、危険を感じて、すぐに農地から人を高台に避難させた。それが功を奏したのか、その直後に洪水が発生し、またたく間に農地を飲み込んでいった。
せっかく、作ってきた畑が無残な姿になってしまった。でも、あたいらは諦めなかった。また、秋に種を撒けるように頑張ろうと、街の皆で励まし合っていた。その時からだよ。川の近くに住んでいる人たちが、病気になって倒れ始めたんだ。あたいは、貰った薬草を患者に飲ませたら、効き目があったんだ。だけど、病気になる人が次々の現れて、ついに貰った薬草が無くなってしまった。
病気になった人は、徐々に悪化していって、立てなくなる者まで出始めていた。このままでは、この街は病気で全滅してしまう。あたいは、ふと、前に来たマーガレットのことを思い出していた。
そういえば、彼女はなんで領都に行きたいと思っていたんだい? 身寄りがいる? そこの出身? 薬に関係する何かがある? わからないけど、彼女の手がかりが何かあるかもしれない。そうすれば、薬を手に入れられるかもしれない。そうすれば、街の人が救われるかもしれない。そうすれば……
そううまい話があるわけがない。でも、なにか行動をしなければ、どの道、あたし達は終わりだ。あたしは、すぐに元気なものを集め、相談をした。賛否は出たものの、結局はあたいと同じ結論にたどり着く。あたいは、すぐに三人の兎系の亜人の少女たちに、街の運命を託した。
兎系の亜人は、音に敏感で、危機を回避する能力が高い。領都がどうなっているかわからない状況では、この人選は最適だと思う。あたいは、彼女らにお願いし、残り少ない食料を持たせ、街から送り出した。
信じられないことだけど、そのすぐ後、あたいらは、村長に救われた。
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