爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

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第44話 盗難事件 前半

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 養殖事業が開始され、マグ姉が急ぎ、水生薬草の採取を始め、生け簀に定植まで完了した旨の報告を受け取っていた時に、ゴードンが来た旨をエリスが伝えてきた。

 「ロッシュ村長、急に訪ねて申し訳ありません。少し不可解なことが起きまして……実は、備蓄の食料が計算よりも減っているのです。村長に報告する前に調べたのですが、原因が全く特定できませんでした。申し訳ありません。私の管理が行き届かないばかりに……」

 「ゴードンはよくやっている。むしろ、今まで問題が起きなかったのが不思議なくらいだ。その備蓄の減少は、村人に影響は出そうか? 」

 「現状ですと、問題ないと思います。秋に米が取れるでしょうから、十分量は確保できると思います。ただ、原因不明の目減りは看過することは出来ません。何か対処を考えなければなりません」

 ゴードンがここまで神経質なっているのは珍しいな。原因が分からなければ、解決策も見出だせないが……すると、エリスがコーヒーを持って来た。僕達の話を聞いていたようだ。

 「先程の話ですが、少し気がかりなことがあるんです。最近なんですが、倉庫の扉が微かに開いていることがあったんです。誰かが不注意で完全に閉め忘れていたと思って、ゴードンさんに報告したんですが、それが、しばらく続いていたんです。ゴードンさんの注意を無視するような人は村人にはいないと思って、不思議に思っていたんです。もしかしたら、それが、食料を盗んでいる者の仕業かもしれませんよ」

 「すると、エリスは村人が食料を盗んでいると思うの? 」

 「盗んでないと信じたいですが……現状からすると、それくらいしか考えられません」

 僕は、考えていた。村人が犯人である可能性がある以上、犯人探しは秘密裏にやるほうがいい。この村は閉鎖社会だ。一度、村を裏切ったものに居場所はない。その時は、村を去るしかないのだ。しかし、盗んだものにも何かしら理由があるかもしれない。それを調べてから、罰を与えても遅くはない。

 僕はすぐにライルを呼んだ。こういう仕事は自警団に任せたほうがいい。ライルはすぐに来てくれた。

 「村長さんよ。どうしたんだい? オレを呼ぶなんて珍しいな」

 ライルに事情を説明すると、事の重大性をライルはすぐに感じてくれた。

 「それは許せねぇな。村の貴重な食料を盗むやつなんているなんてな。オレだって、盗んだやつがこの村にいるなんて思っていねぇが……まず、調べてみないと分からないな。ただ、オレ達が倉庫をうろついていると犯人に怪しまれるかもしれないないから、周囲に人を配置して、監視してみるぜ。幸い、倉庫の周りには身を隠すにちょうどいい障害物も多いからな。数日見張っていれば、犯人は見つかるだろうよ」

 ライルは、犯人探しに意欲的で、すぐに自警団総出で犯人探しに当たることになった。もちろん、できるだけ内密に行うことを頼んだ。村人にも、秘密にしないといけないのは、気が引けるが……

 数日して、ライルから報告が来た。それは、信じがたいものだった。

 「村長さん。信じられないことが起こったぜ。オレ達は倉庫を見張ってから三日目の夜で犯人らしい奴を見つけることが出来た。奴と言うか、奴らだな。数人の人間の男が、食料を担いで運んでいくのを見たんだ。夜目が利くやつに聞くと、どうも村人じゃないっていうんだ。この村はそんなに大きな村じゃないから、間違えるわけがないっていうんだ。だったら、捕まえるよりも尾行していって、奴らのアジトを掴んだ方がいいと思ってな。尾行したんだ。すると、小さな集落みたいのがあって、100人位の人間が住んでたんだ」

 僕はライルの話を聞いて、驚いた。まさか、この村の近くに集落があるとは思わなかった。僕は、結構、行動範囲と思っていたが、集落を見落としていたとは。ゴードンにも確認したが、この周辺に集落はないはずだと言っていた。そうすると、最近出来た集落ということになるな。盗賊や山賊という可能性が出てきた訳か。

 「それはないと思いますぜ。オレ達も山賊をやっていたから分かるが、あいつらにそんな臭いはなかった。動きとかを見ていると、村人と変わらないような感じだったな。食料の盗み方も、どこか遠慮するような量だったしな」

 ますます分からないな。しかし、これ以上、食料が奪われ続けるのを見過ごすわけにはいかないな。すぐに、自警団を全員集め、作戦会議をした。こっちが動かせるのは、自警団の33名のみ。僕を入れれば34名。これに対して、向こうは少なくとも100名だ。ライルは、山賊や盗賊の類ではないから、武力は持っていないだろうと考えていた。ライルの報告は信頼しているが、万全の態勢を敷いて挑むのがいいだろう。すぐに、鍛冶工房のカーゴを呼び出し、武器のメンテナンスを急ぎやらせた。また、自警団には十分な休憩を与えた。

 準備に数日を要したが、おかげで今、出来る万全の態勢にすることができた。ライルの案内で、その集落に向かった。北東の方角に向かい、途中、森を抜けなければならなかったが、そこを抜けると拓けた空間があった。人為的に木が切られ、開墾された畑が点在していた。掘っ立て小屋みたいな家が所狭しと何十棟と建っており、何人かが表に出ていた。

 そこの住人を観察すると、服は相当汚れ、擦れてはいるが元はそこそこまともな服であることが分かる。元はどこかの領民だったが、ここに流れ着いたと言った感じだ。体は、痩せており、食料を十分に食べていない印象を受けた。今の所、男しか見えていないが……僕は、ライルと目配せをして、表に出てきた男を急襲し、短剣で脅しながら、集落の代表のところに案内させた。幸い、誰にも発見されることなく、代表者のもとに行くことが出来た。

 代表者の家にはいると、腐臭のような臭いが漂い、前に嗅いだことのあるような臭いがした。家は狭く、そこには、向こうを向いて座っている男と藁《わら》の上に寝ている女がいた。

 「こんなに早く見つかるとは思っていなかったな。私達を捕まえに来たのか? 」
 こちらに向くことなく男が、話しかけてきた。

 「その通りだ。なぜ、村から食料を奪ったのだ? あの食料は、村人が汗水たらして作ったものだ」

 「ふっ。おかしなことを言うな。この状況を見て、わからないか? みな、飢えているんだ。本当は、盗みなんかしたくなかった。周りにある畑でなんとか食えてこれたんだ。だけど、状況が変わっちまったんだよ。わかるか? 俺の妻がこんなになっちまったんだよ。訳のわからない病気が蔓延して、この集落の半分がこの有様だ。働けないから食えない。食えないから、ますます働けない。もう、こうなったら生きるために盗むしかなかったんだ」

 「そうか……そうならば、病気が治れば、村から盗むことはもうしないのだな? 」

 「声から察するにお前はガキだな。お前のようなガキが何を言う。この病気が治るわけないだろ。妻はまだ、良い方だ。周りのやつなんて、目も当てられないほど衰弱して、腐ってきてやがる。まだ、死人は出てないが、いつ出てもおかしくない。さあ、オレ達を殺したければ勝手にしてくれ。逆らう気力もない」

 「そうか、勝手にさせてもらうぞ」
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