上 下
42 / 408

第41話 千歯扱きとドワーフ族の存在

しおりを挟む
 麦の収穫が終えて、次の日、ふと疑問に思ったことがあった。
 そういえば、この世界で、麦の脱穀の現場というものを見たことがないな……この世界ではどのようなやり方なのだろうか? ちょうど、近くにエリスがいたから聞いてみた。

 「麦の脱穀ですか? それは、千歯扱きというんですか? それを使ってやっています。私が、幼少の頃は、木で叩いて脱穀をしていたのですが、いつからか千歯扱きというのが使われるようになったのです。その時は、物凄く脱穀作業が楽になったんですよ」

 ほお。千歯扱きが既に主流になっていたか。それは、いい事を聞いた。千歯扱きも改良の余地はあるが、現状の生産量では、必要ないだろう。もっとも、作る技術がないだろうが。だた、エリスの表情が変だな。

 「話の続きがあるんです。その千歯扱き、もう使えないんです」

 え!? それは非常に困る。理由を聞くとなんてことはなかった、メンテナンスをしてこなかったせいで、故障してしまったらしい。具体的に聞いてみると、千歯扱きの鉄の櫛がボロボロになってしまったらしい。それならば、この村には鍛冶工房がある。麦の脱穀まで時間的余裕はあるだろう。

 麦の収穫現場に、鎌のメンテナンスをしてもらうために鍛冶工房のカーゴを呼んであったのだ。僕は、カーゴの下に向かった。

 「カーゴ。鎌のメンテナンスの方は、どうだ? 」

 「あ、村長。予備も用意しておいたから、十分間に合うも」

 「それはよかった。ところで、千歯扱きが壊れて動かないと聞いた。メンテナンスをしてくれないか? 」

 「もちろんだとも」

 エリスに案内をしてもらい。村の道具蔵に行った。僕は、ここに来るのは初めてだな。道具蔵とは、農機具をしまっておく倉庫だ。千歯扱きもここにあるそうだ。僕は、道具蔵を前にして楽しみな顔をしていると、エリスが残念そうな顔をしていた。

 「ロッシュ様。申し上げにくいのですが、この蔵の中にあるものは、どれもメンテナンスが出来なくなってから壊れてしまったのです。あまり期待しすぎると傷つきますよ」

 「あっはっはっ!! エリスは、おかしなことを言うな。壊れているならば、直せば良い。昔の人で、壊れたから使えない、なんて言う人はいないぞ。ここには、カーゴもいるんだぞ」

 エリスは急に笑顔になり、それもそうですね、と言って蔵を開けた。しばらくぶりに開けられたのか、ホコリが舞い上がった。中の農機具には、薄い布が掛けられており、一応は大切に扱われていたようだな。エリスは、千歯扱きにかかっている布を取ると、ホコリがかかっていないが、かなり年季の入った千歯扱きが現れた。

 僕は、カーゴと共に千歯扱きを明るい場所に移動して、入念に検査をした。千歯扱きの櫛の部分以外は問題なさそうだ。エリスに確認すると、蔵には千歯扱きが20台ほど残っているらしい。すべてを検査したが、同じ状態だった。

 僕は、千歯扱きの櫛を取り出し、カーゴに同じ物を作るように頼んだ。カーゴは、やってみるも、と息込んで工房に戻っていった。僕は、蔵には他にも色々ありそうなので物色することにした。

 主に麦の脱穀に使うものが置いてあったので、これらも補修をして大事に使わせてもらおう。

 それ以外には……ん? これは? エリスに確認すると……

 「それは、油を搾るための機械みたいです。そこのハンドルを回すと、油が搾れるみたいですね。これもやはり壊れていて使えなくなってます。修理なさるんですか? 」

 ん~これは、かなり技術が高いな。ネジ式になっていて、ハンドルを回せば、板が下がる仕組みか。このネジを作る技術は……おそらく、カーゴには難しいだろう。この国の鉄の加工技術は、思っていたより進んでいるのだろう。

 「私もよく知らないのですが、魔族が作ったという話を聞いたことがあります。なんでも、金属加工が得意な魔族がいるということらしいんですけど、ゴードンさんが私より詳しいと思いますけど……」

 油の搾り器は是非欲しいが、蔵にあったものはダメだな。今の技術ではどうしようもない。しかし、魔族にそのような者がいるとは……その者を招致できないか、いや、出来なくとも油搾り機を作ってもらえないだろうか。
 まずは、ゴードンに話を聞こう。後で、魔族のことはミヤに聞くのがいいだろう。

 僕とエリスは、倉を後にし、ゴードンを探しに畑に行ったが、既に帰宅したとのことで、もう遅いこともあったので明日、屋敷で会うことにした。

 次の日の朝、ゴードンを屋敷に呼んだ。

 「朝早く済まないな。ゴードン。麦の収穫前の仕事前に少し聞きたいことがあってな……道具蔵にある油搾り機について覚えているか? エリスから聞いたが、なんでも魔族が作ったとか」

 ゴードンは、しばらく思い出す素振りをした。

 「ええ、たしかにありましたな。油搾り機は、先代様の頃に持ち込まれたものですな。どこかの魔族が作ったものが王都に流れていたそうで、誰も見向きもしなかったので格安で買ってきたと、先代様が自慢していたのを覚えております。その魔族は、小さい巨人という名で知られる種族らしく、小さいなりをしているが巨人のような力を持っているということらしいのです。その種族が、油搾り機を作ったということだそうです」

 小さな巨人という種族か。新たな情報だな。しかし、父上もメンテナンスが出来なければ、宝の持ち腐れだろうに…・・それとも、僕に見せるために残したとか? 考え過ぎか……

 ゴードンには、畑に戻ってもらって、村人の収穫作業を指揮する様に頼んだ。僕は、ミヤの部屋に向かった。この屋敷の女性たちは、最近引きこもりがちだ。一体何をしているんだか。

 ミヤの部屋をノックすると、中から「誰? 」と声がしたので、「僕だ」と答えると、中からバタバタと音がして、扉が空いた。

 ミヤが寝癖で頭をボサボサにして、服装がすごく乱れていた。一体何をしていたんだか。

 「どうしたの? 朝から私を襲いにでも来てくれたの? 」

 僕は、ミヤをどかし、部屋に入った。部屋の中が大変なことになっていた。糸、糸、糸、糸だらけなのだ。確かにミヤには糸作りを頼んだが……これは、一体どういうことだ?

 「えへっ。なんか、糸作りをし始めたら、楽しくて……ついね。見てみて、これなんか一番の出来なんだから」

 確かに上質な糸であることは分かる。七色に輝いているように見え、これで布を作れば、さぞかし立派な布が出来るだろう。使いみちが分からないけど。僕は、ミヤの頭を撫で、たくさん褒めてやった。もっとも、身長が違うので、かなり背伸びしたけど。

 さて、本題だ。ミヤに、小さな巨人について聞いてみた。

 「小さな巨人? ああ……ドワーフ族のことね、きっと。魔界でも、魔鉄の製造に関しては右に出るものはいなかったあわよ。彼らの作る魔鉄器は、破壊されない限り壊れないので有名だったわね。でもね、ドワーフ族ってすごく酒好きなのよ。魔酒が一時で回らないときがあって、その時はドワーフ族が独占しているって噂が出てたから。あの時のことを考えると、今でも腹立つわ」

 いい情報を得られたな。しかし、魔界の物がどうして王都に流れたんだ? それに、蔵にあった油搾り機は破壊された様子もなかったが、壊れていたぞ? どういうことだ?

 「まず、どうして王都に流れたかって話だけどね……昔は魔の森に冒険者が入っていたんでしょ? 魔の森のドワーフ族が作った物を、冒険者が持ち去って王都に流れたのではないかしら。それと、ドワーフ族が扱うのは、魔鉄よ。魔鉄っていうのはね、言葉の通り、魔素を含んだ鉄なの。魔素のない土地に存在していると、魔鉄が急激に劣化してしまうのよ。だから、壊れていたと思うわ……」

 さすがは、魔族で魔王の娘だ。博識だな。魔の森にドワーフ族がいると聞けたのは僥倖だ。ドワーフ族の住む場所はどうだ?

 「さすがに、場所までは……でも、エルフ族なら分かると思うわ。同じ魔の森に住む魔族なんだから」

 なるほどな。エルフの森に行くときは、ドワーフ族の話を聞いてみるか。ドワーフ族は酒に目がないか……村の酒は気に入ってもらえるだろうか?
 ミヤから貴重な情報を聞けて、僕は満足し、ミヤの部屋を後にしようとしたが、やっぱりこの部屋の散らかり様は酷いものがある。僕は、ミヤの反対を押しのけて、掃除をすることにした。なんだかんだ、一日かかってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

ユニークスキルで異世界マイホーム ~俺と共に育つ家~

楠富 つかさ
ファンタジー
 地震で倒壊した我が家にて絶命した俺、家入竜也は自分の死因だとしても家が好きで……。  そんな俺に転生を司る女神が提案してくれたのは、俺の成長に応じて育つ異空間を創造する力。この力で俺は生まれ育った家を再び取り戻す。  できれば引きこもりたい俺と異世界の冒険者たちが織りなすソード&ソーサリー、開幕!! 第17回ファンタジー小説大賞にエントリーしました!

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

処理中です...