爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介

文字の大きさ
上 下
36 / 408

第35話 マリーヌ

しおりを挟む
 マグ姉と今後について話してから、しばらくして、マリーヌが目を覚ました。マグ姉さんは、まだ、本調子とはいかないみたいで、夕飯後すぐに、寝てしまった。その直後に、マリーヌが、僕とエリスがいる居間に現れた。まだ、寝ぼけているのか、今どこにいるかわからない様子だ。

 マリーヌは、透けそうで透けないエリスの寝間着を着ているので、少し目のやり場に困った。それを察した、エリスは、すぐさま自分の羽織っていた服をマリーヌに掛けた。なぜか、僕がエリスに睨まれたが……仕方ないじゃないか……

 マリーヌは、自分の状況がなんとなく分かってきたみたいで、自分の格好を見て、すぐにしゃがんで、自分の体を隠す仕草をした。マリーヌにも、睨まれてしまった。僕は、健全な男の子の反応をしていただけなのに、なんで、女子たちに睨まれなくてはいけないんだ……

 とりあえず、マリーヌを落ち着かせるために、ソファーに座らせた。マリーヌも流石に貴族だ。優雅な所作で、ソファーに座った。マグ姉を見てなかったら、ドキドキしていただろう。マリーヌにコーヒーを出すと、すごく喜んでくれた。一気に飲んでしまったので、エリスにお代わりを用意するように頼んだ。

 「熱くなかったか? 」
 「はしたない真似をしてしまいましたわ。わたし、コーヒーに目がないものですから……このコーヒーすごく美味しいですわ。もう飲めない味と思いまして、つい……」

 今や、コーヒーも貴重品になってしまったんだな。屋敷に大量にコーヒーがなければ、今頃は、たんぽぽコーヒーでも飲んでいたかもしれないな。
 
 お代わりを持ってきたエリスが、マリーヌに、屋敷に着いてからの事を説明すると、二日も寝ていたことにびっくりしていた。

 「そんなに寝ていたなんて、大変ご迷惑をおかけいたしましたわ。イリス辺境伯様」

 ソファーに座っていたマリーヌが、立ち上がり、頭を下げてきた。マグ姉もそうだけど、貴族だからって偉ぶることがなくて、すごく好感を持てるな。僕は、とりあえず、マリーヌをソファーに再び座らせた。彼女は、まだ体力がない状態だ。長く立たせるのは負担なはずだ。

 「マグ姉にも言ったが、気にしないでくれ。それに、イリス辺境伯と呼ばないでもらいたい、ロッシュと気軽に呼んでくれてかまわない。僕はただの村長にすぎない。それと、助けたのはライルだ、僕は何もしていない。ライルには、後で感謝を言ってもらえると助かる。因みに、ライルっていうのは、僕の部下ではないぞ」

 僕が、矢継ぎ早に言うものだから、マリーヌは、キョトンとした顔をしていたが、徐々に合点がいったのか、軽く頷いた。それより、小さな声で、マグ姉……と呟いていた。どうやら、そっちのほうが気になるようだ。

 「まだ、マリーヌは、体調が本調子ではないので、しばらくは屋敷の方に泊まってくれ。これは、マグ姉にも伝えて、了承をもらっているから……マリーヌも気兼ねしないでいいからな」

 「ご好意、感謝いたします。ただ……今は、まだ休みたくありません。お時間があれば、もうちょっと、話をしませんか? マグとは、他にはどんな話をしたのですか? 」

 僕は、マグ姉と話した内容をかいつまんで話した。主に、薬師に関することだ。その話をすると、マリーヌが悩んでいた。きっと、自分の今後の仕事について考えていたんだろう。マグ姉が仕事をすることを選んだのに、自分だけはしない訳にはいかないと思ったのかな? しばらくの時間、悩み続けていた。僕の飲んでいたコーヒーが空になるくらいに……すぐにエリスがおかわりを持ってきてくれた。ほんと、エリスってこう言うとこに気が回るな。

 「自分の仕事について考えていました。しかし、恥ずかしい話ですが、私にはマグのような特殊な技能もありません。精々、文字が書けるくらいしか能がありませんわ。マグは、将来のことを考えていたのに、本当にお恥ずかしい限りですわ」

 どうやら、悪い方向に自分を追い込んでしまったようだ。気が滅入っているときだから、尚更なんだろう。僕もマリーヌの仕事を考えていた。こう言っては何だけど、マグ姉みたいに活発な感じがないから、とても農業をするのは難しい気がする。それよりも、何かないかな……字が書けるなら……子供が読めるものを書いてもらうってのはどうだろうか。今は、生活が苦しく、子供達が勉強できる環境を作ってやることは出来ないだろうが、近い未来、もう少し、豊かになれば、子どもたちの教育に力を入れることが出来る。その時のために、本を用意しておきたいな。マリーヌに提案してみるか。

 「マリーヌ。僕からの提案だが……子供向けの本を書いてみないか? 子どもたちの識字率も上げたいし、将来のために勉強は欠かせないだろ。そのためには、本が必要不可欠だ。それを書いてもらえないか? 」

 マリーヌは、またしばらく考え……答えを出したようだ。

 「ロッシュさんの提案を受けたいと思いますわ。ただ、本と言っても、何を書いて良いものか……」
 「それは、おまかせします。この屋敷に書庫があるから、それを写本してもいいし、マリーヌが今まで学んだことを、本に書いてもいい。幸い、紙だけはたくさんあるからな、自由に使ってくれ?。どうだ? 」

 マリーヌは、頷き、わかりました、と答えた。後は、マグ姉と旅の話を聞いたりしていた。ふと、疑問に思ったことをマリーヌに聞いてみた。

 「答えづらいことだったら申し訳ないが……」

 僕がそう切り出すと、マリーヌは察してくれたようで……

 「私が牢獄に入っていたという話ですね。この話は、あまり思い出したくない話なのですが、ここでお世話になる以上、身の潔白を示さなければならないでしょう。私は……」

 話がものすごく長かった。要約してしまうが、マリーヌは、婚約関係だった第二王子を、庶民の編入生と取り合いになってしまったんだって。第二王子は、最初は、庶民の子と馬鹿にしていたんだけど、段々に惹かれ始めてしまったんだと。ついには、第二王子は、マリーヌに見向きもしなくなってしまったと。それだけで終われば、まぁ、マリーヌ可愛そうだねって感じだったんだけど、第二王子は、マリーヌに敵対的な態度に急変した、と思ったら、理由も分からず、投獄されてしまったんだって。投獄中は、すごく苦しい思いをしたみたいだが、そこには、触れたがらなかった。

 話がよく分からない。というのが、僕の率直な意見だった。それって、マリーヌの行為が第二王子の逆鱗に触れてしまったってことなのかな? マリーヌって伯爵令嬢でしょ? 王族だからって、そんなに簡単に投獄されちゃうものなの? 貴族という仕組みがよく分からない。

 とりあえず、マリーヌは、投獄されるようなことはしてないらしい。あとで、マグ姉にも確認してみるか。本人からだと、いまいち要領を得ないからな。

 この話は一旦、止めることにした。すでに、深夜をまわり、エリスも近くでウトウトしている。話は、また後でし、本の事についてだけ、確認した後に、部屋に戻ってもらった。僕は、エリスを起こし、部屋に行くように促した。

 僕も早く寝よう……

 後日、マリーヌについて、マグ姉に確認したところ、概ねマリーヌの言う通りだったらしい。ただ、貴族と庶民の常識の差が軋轢を産んでしまったみたいだ。第二王子は、庶民の娘に惚れきっているから、マリーヌが庶民の娘に手を出していることが気に食わなかったみたいだ。

 マリーヌが投獄されたのは、王の預かり知らぬことみたいだ。第二王子が勝手にやったことみたい。職権乱用も甚だしいな。それと、王家の者には、裁判を通さずに投獄できる王家侮辱罪というのがあるみたい。王家には、絶対的な力が付与されているのだな、と思った。しかし、王家はもうない。その法律で苦しむものはいなくなるだろう。

 僕は、王都に公爵が第四王子を擁立していることをすっかり忘れていた。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...