上 下
34 / 408

第33話 将棋とリバーシ

しおりを挟む
 外が雪でひどくなってきた頃。エリスが暇を持て余しており、家の掃除ばかりしているおかげで、家中がピカピカになるほど、磨かれていた。それでも、消化できない時間に苛立ち、今にもストレスで爆発しそうなのを肌で感じた僕は、娯楽を提供することを決意した。家に篭ってやれるゲームと考えると、僕には、将棋とリバーシくらいしか思いつかなかった。日本にいた頃、婆さんとよくやったな。婆さん、強くてなぁ。まったく、勝てんかったなぁ。

 僕は、早速、作ってみることにした。風魔法で、木盤をつくり、ラインを書いて、ゲーム盤はあっさり完成した。僕が、制作に夢中になっていると、エリスとココが、暇つぶしに見学にやってきた。

 「ロッシュ様、さっきから何をなさっているのですか? 」
 「エリスか……今、娯楽になるようなものを作っているんだよ。将棋とリバーシと言って、二人で遊べるゲームなんだ。今作っているのが、そのゲーム盤だよ。あとは、駒を作れば完成なんだけど……」

 よし、出来た!! 駒を作る過程で、風魔法の精度をすごく上げることができた。駒が多いだけあって、魔力を大量に消費してしまった。特に、リバーシの円形の駒を作るのに苦労した。少し歪になってしまったが、遊ぶ分には問題ないだろう。ちょっと体がだるい。

 僕は、一段落着くと、エリスとココの方に目を向けてると、エリスはこちらにずっと見ていた。ニコっと笑った顔ですごく癒やされた。ココは飽きたのか、鼻提灯だった。エリスには、ココをリビングのソファーに寝かしつけてくるように、頼んだ。

 僕は、完成したゲームを居間に持っていき、エリスと遊びに興じた。エリスは、久々に暇つぶしが出来ると、大喜びでゲームに夢中になった。エリスは、ルールが簡単なリバーシにのめり込んでいった。僕は、席を離れようとしても、もう一戦、もう一戦とループする羽目になってしまった。エリスの熱中ぶりに僕は、怯みっぱなしだった。

 だけど、勝負事。僕は、エリスに一歩も引かずに、全勝した。しかし、最後の方は、接戦となり、なんとか辛勝で出来た。一日でこれじゃあ、明日には勝てないかもしれないな。

 次の日も、その次の日も、執務の間を縫って、エリスのリバーシの相手をさせられたが、ついには、一勝も出来なくなってしまった。こんなに早く、婆さん級になってしまうとは……僕が相手にならないと分かると、エリスは外にリバーシを持ち出し、村中を駆け回りだした。おかげで、僕は、来年の農業計画をゆっくりと進めることが出来るようになった。とりあえず、エリスは当分放っておこう……

 将棋の方は、リバーシにはまったエリスにはあまり興味を示されず、ホコリをかぶる危機に直面していた。しかし、救世主が現れた。ココだ。すぐに、ルールを教えて、遊ぶことにした。ココは、ルールを覚えるのに手間取ったが、覚えると、すぐに上達していった。エリスほど上達速度は早くなかったおかげで、僕は、長くココと将棋を楽しむことが出来た。ココが色々と質問してきてくれるので、楽しい一時を過ごすことが出来た。やっぱり、ゲームって、同じ実力同士くらいが面白いんだよね。

 エリスが、村中をリバーシ片手に飛び回ったせいで、村の子供を中心にブームが起こり、冬の間、リバーシを大量生産することになってしまった。作りは簡単だが、子供では流石に作れないからな。すぐに数セット作って、エリスに手渡すと、すぐに屋敷を出ていってしまった。エリスが完全にリバーシ狂いになってしまった。

 最近は、エリスが在宅していないので、ココが客人の対応をすることが多くなった。いつの間にか、挨拶やコーヒーを入れるのがうまくなっていた。子供の成長は早いものだな。僕に、ゴードンの来訪を告げに来てくれた。そろそろ、エリスを一度、叱らないといけないな。仕事が最近蔑ろになっている。

 「ロッシュ村長、最近、エリスがリバーシというものを片手に村を飛び回っていると聞きましたが……」
 「僕も頭を痛めているよ。エリスは、メイドであることを忘れている気がするな。少し、ゲームを作ったことを後悔し始めているところだ」
 
 「私も、子供がゲームに夢中になっている姿みて、いかがなものかと思っておりましたが、子供の親からは、評判がよろしいんですよ」

 ほお。意外だな。

 「なんでも、ゲームのおかげで、生活にメリハリがついて、ゲームをしたいから、家の手伝いを早く済ませようとして、率先して仕事をしてくれるとかで……私も、それを聞いて、目からウロコでしたよ」

 娯楽の少ないこの村では、ゲームは貴重だ。そのゲームを親に奪われまいと、手伝いで歓心を買っているのだろう。親の目から見れば、率先して手伝っているように見えるかもしれないが……しかし、エリスのようなリバーシ狂いになるような子供が少ないとはな……

 「それで、相談なのですが、リバーシの他にゲームがあるということですが……それを、年寄りたちの娯楽として提供していただけないでしょうか」

 もちろん、断る理由はないが、将棋は、リバーシと違って、すぐに作れるものではないが、将棋をもっと広めてほしいと思っていた。今、使っているものを提供しても良いが、ココから取り上げるのも可愛そうだな。新品を作って、渡してもいいだろう。

 ゴードンには後日取りに来るように、命令して、その日は帰ってもらった。

 早速、前に作った物と同じように将棋盤と駒を作成した。前よりもいい出来に仕上がった。何セットか作っていたのだが、材料が足りなくなって、屋敷内にある資材置き場に取りに行った。

 そこには、木材の他に、鉄や銅、貴金属などが置かれていた。これは、鉄の採掘場から採れたもので、そこでは、鉄以外にも、銅が多く取れる。他にも、金や銀も少量ながら含まれているのだ。この世界ならではの物質も発見されている。それが、アダマンタインという物質だ。これは、見た目は銀のように見えるが、驚異的な硬度を誇っているのだ。

 前に一度、銀だと思って加工しようとしたが、歯が立たなったことがあって、エリスにそのアダマンタインを見せると、すごく驚いていた。その時、はじめて物質の名前を知り、それが伝説級の武具の素材になっていることを知った。国王であっても、微量しか手に入らず、価値は凄まじいものであるらしい。そんな物質が、この資材置き場に無造作に転がっている。

 僕が、アダマンタインの存在を知ったときから、幾度と加工を挑戦したが、無駄に終わり結局お蔵入りになってしまった。

 ちょっと、話はずれてしまったが、金や銀のインゴットを見て、これで将棋の駒を作ったらいいんではないか? と完全に魔が差してしまった。思い立つと、やってしまいたくなる。

 僕は、金と銀と木で駒を作り上げた豪勢な将棋駒が完成した。ちょっと悪趣味なような気もするが、僕としてはかっこいいと思ってしまった。
 せっかくなので、ココを呼んで、ゲームをやってみた。ココからはすこぶる評判が悪かった。触るのも恐ろしいからゲームに集中できないと言われてしまった。ココの評価は正しい気がするが、ちょっとショックだ……

 ゴードンに木製の将棋盤を手渡すと、喜んでくれた。すぐに、ココと勝負をして長い時間盛り上がっていた。僕も何回か勝負させてもらったが、なかなかいい勝負になった。

 帰り際に、金銀製の将棋盤を見せると、ゴードンがなんとも言えない顔をしていた。引いてるのかな? 真顔でこれはどうするつもりなんですかと言われたので、みんなで使えたらいいな、と返すと、それは無理ですとはっきりと……本当にはっきりと言われた。ゴードンにこれほど、はっきりと言われたのは初めてだ。そんなに変なものなのか? この将棋盤と駒はお蔵入りとなってしまった。後に、国宝として取り扱われたが、それは別の話。

 エリスがようやく戻ってきてので、僕はエリスに対して、リバーシ禁止令を出した。エリスはこの世の絶望のような顔をして、謝り続けていたが、しばらくは解くつもりはない。もう少し、仕事に集中してほしいものだ。ゲームにのめり込むのは、程々に……な。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...