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第30話 エルフの里 後半

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 リリが、さっき屋敷を案内してくれたエルフを呼び、家具工房に案内するように命令をした。
 エルフは、恭しく頷くと、付いて来るように、と僕達に合図してきた。家具工房は、屋敷を出てすぐのところにあった。それだけ、家具工房が、エルフにとって大切な場所だっていうのが分かるな。

 家具工房は、まるで、倉庫のような建物だった。奥が見えないほどだ。こんなに大きな建物は、村には存在しない。さすが、魔界では、家具で右に出る者はいないと言わしめたエルフ族の倉庫だ。

 倉庫には、巨大な扉があり、人力で動かせるのか疑わしいほどの巨大さだ。何か仕掛けがあるのか? と思っていたら、その横の小さなドアから建物に入った。少し拍子抜けしてしまった。僕達は中にはいると、職人のような格好をしたエルフたちがたくさんいた。里に入った時のエルフの反応を思い出し、僕が入ると辺りがざわめくのかと思っていたが、全く反応がなかった。各々が、真剣な表情で、様々な家具を作っていた。エルフは、各々で家具を作っているようだ。もう少し、分業制が採られているかと思ったが、そうでもないようだ。案内してくれたエルフが、一際大きな家具を作っていたエルフのところに連れて行ってくれた。

 「彼女は、このエルフの里の職人よ。名前は、リード。リリ様から、彼女の作品を見てもらうように指示されているわ。あとは頼むわよ。リード」

 リードと紹介されたエルフが、軽く頷くと、案内してくれたエルフが工房を去っていった。

 「私は、リードと申します。職人と言って頂きましたが、私なんてまだまだで。昔から、リリ様より腕はいいと言われ続けましたが、納得するものが作れたことがないんです。最近は、リリ様に見向きもされていなかったのに、なぜ私の作品を見せよ、なんて命じたのか私には分かりません。と言っても、リリ様のご命令ですので。こちらが私の作品となります。どうぞ、ご覧ください」

 リードに見せてもらったのは、ただの食器棚だった。おしゃれな食器棚だし、細かいところに十分細工も施されて、自分の腕に自信がないのは謙遜と受け取られても仕方ない技術だと思うが。しかし、この家具は、十分立派な家具ってだけだ。貴族でも使っていてもおかしくないだろうが、魔界で代替品が無い程の物とは思えなかった。

 「ふふっ。エルフの作る家具は、見た目も重視していますが、エルフの家具たらしめるものは他にあるのですよ。ちょっと待ってくださいね」

 リードが、その場を離れ、戻ってきた。その手には、汚れた皿があった。これをどうするつもりだろ? 見ていると、それを食器棚にしまった。汚れた食器をしまって、どうするっていうんだ? まさか、汚れが取れるとでも言うのか? そのまさかだった。汚れた皿は、ほのかに光ると、きれいな皿になっていた。

 信じられない光景がそこにはあった。なるほど、これは素晴らしいな。これがあれば、家事の負担がかなり減るではないか。他の家具にも物凄く興味が湧いた。すぐに、催促して見せてもらった。見せてもらった全ての家具が素晴らしい機能を備えていた。どのような仕組みなのか、気になって、リードに聞いてみたが、流石に門外不出とのことで教えてもらえなかった。僕は、拝む真似をして頼んでも無駄だった。さすがに、エリスとミヤはひいていたな。

 まぁ、僕は最初から諦めていけどね。少なくとも、僕はこれほどの技術を見たことがない。他に流出しないように細心の注意を払うのは当然のことだ。しかし、ふと思う。これほどの技術なのだ。魔界では、さぞかし重宝されただろうに。なぜ、エルフたちは、魔界を去ったのだ? これについて、ミヤに聞いても、私のほうが知りたいと言われてしまった。
 リードにも聞いてみたが、要領を得なかった。最終的には、リリ様にお尋ねくださいと言われてしまった。

 家具について十分に見させてもらった。僕的には非常に満足だ。是非とも、村に仕入れたいものだ。あとは、家具に関して交渉だな。リードに、リリに会いたい旨を告げると、その場を離れ、先程、案内してくれたエルフが再び現れた。

 また、付いて来るように合図してきた。このエルフは、口数が本当に少ないなぁ。

 リリの屋敷に戻ると、豪勢な食事の用意がされていた。テーブルには、僕らの席が用意されており、テーブルには、所狭しと料理が並んでいた。料理は、見たことのない料理や村でも食べてそうなものまであった。特に、目立つのは、違う場所に置かれた巨大な肉の塊だ。上等な肉質を思わせる色にすこし光沢のある艶。見るからに美味しそうである。

 更に、僕達は、朝食から食べてなかっただけあって、腹の虫が収まらなさそうだ。このタイミングで、この食事はありがたい。僕達の様子を見て、リリは話は後にしよう、と言って、食事をすることになった。僕は、席に着き、食事を始めようとしたところで、ミヤが止めに入った。食べる勢いが削がれて、拍子抜けしてしまった。ミヤとリリとの間で、ちょっと一悶着あった。

 なんでも、エルフは、エルフ特有の魅了の魔法が通じない相手には、食事に強力な魅了の薬を入れて、男子を虜にすることがあるらしい。そのことを思い出したミヤが、リリを疑いだしたのだ。ただ、リリは、その疑いに対して笑って答えた。

 「その必要がどこにある? それに、我が君にそんな下策はいたさぬよ。ロッシュは妾が気に入った男。嫌われたくないでな」

 その言葉を聞いて、ミヤはたじろいだ。エリスも何かを感じ取ったのか、ミヤの袖を掴み、首を横に振っている。どうやら、エリスはリリが嘘をついていないと思ったのだろう。ミヤは、エリスの態度を見て、席に座った。

 「疑って悪かったわね。リリが、ロッシュにそこまで入れ込んでるいるとは思ってもいなかったわ。とりあえず、リリの事は信じるけど、ロッシュは渡さないわよ」

 僕の話をしているはずなのに、僕は完全に置いてけぼりを食らっていた。もともと、リリがそんなことをするとは思っていなかったから、ミヤの行動が考えられなかった。けれど、ミヤが僕を心配している気持ちがすごく嬉しかった。では、いただこう!! 僕は、目の前の食事に手を付けた。
 うん、旨い!! 森で採れた物だろうか、見たことのない食材だったが、旨味が強く、食感も抜群だ。久しく忘れていたような味がした。僕は、恥ずかしながら、すごい勢いで皿を空にしていった。先程の別の場所にあった肉も頂くことにした。こんな肉の塊は村ではお目にかかれないものだった。歯ごたえがあり、肉汁が口の中に広がり、ソースが絶品だった。

 僕が食べるのを見て、エリスも続けて食べていた。一口、口に入れると、何かを考え、パクパクと食べ始めた。どうやらものすごく気に入ったみたいで、嬉しそうに食べていた。このような食事が、普段の食卓に並べられるようにしたいものだな。ミヤもエリスに続いて、口にしだした。なんか、一口、また一口と噛みしめる度に、表情が恍惚としていく。

 「ああ。久しぶりの魔界の味。ここで食べられるとは思っていなかったわ」

 「喜んでもらえたようじゃの。今日出したのは、魔界の料理を、魔の森の食材で再現したものじゃ。妾も気に入っておる。我が君も気に入っているようじゃな。妾はうれしいぞ」

 リリが年相応とは思えないような無邪気さで笑う姿は、すごく可愛らしいと思って、僕はリリを見つめた。

 そういえば、さっき疑問に思っていたことをリリに聞いてみた。こんなに優秀な家具があって、持て囃されていただろうに、なぜ魔界を去ったのかと……

 「それはの。魔王が妾達が作る家具を、たかが家具、と見下していたからよ。妾達は家具の作成に全身全霊で挑んでおる。それは、家具工房を直に見た君なら分かるであろう。それを、見下されたとあっては、妾たちの面子が立たぬ。それゆえ、魔界を飛び出したのだ」
 
 まさか、魔王に嫌気が差しただけだったとは。なんとも、リリらしいと言った感じがするな。そんな、リリにエルフが従っているのだから、エルフの本質は職人気質なんだな。

 食材について、あれこれ質問したり、料理法についてエリスが食いついていたりと、話題に絶えない食事が終わり、取引の話に移った。

 「見せてもらった家具は大変素晴らしいものだと思った。僕としては、是非とも家具を譲ってもらいたいと思っている。まずは、我が屋敷に設置するために、各家具を一セット譲って欲しい。それから、村に徐々に広め、購入規模を拡大していきたい。その対価に、まずは……僕を差し出そう。といっても、僕はまだ子供だ。あと数年は待ってほしいが……それでどうだ」

 家具は是非とも欲しいが、今すぐ、村人の男子を差し出すことは難しいだろう。現状、村人の魔族への考え方が多少軟化したとはいえ、派遣となると話は変わるだろう。そうすると、差し出せるものは、自分しかいない。僕が、自ら体を張ってやらなければ、村人は付いて来ないだろう。
 
 さすがに、ミヤとエリスは僕のセリフにびっくりしていたが、とりあえず、成り行きを見守ってくれるみたいだ。リリは僕の発言では顔色ひとつ変えなかった。

 「ほお。そなたが取引材料となるか。これは、驚いたな。自ら、危険かもしれない場所に赴くとは……そこらの領主とは違うようじゃな。我が君に免じて、今回の一セットだけは、妾からのプレゼントという事にしておく。次からは、対価をとるからの。そのときは、ロッシュよ。妾の相手をするのじゃぞ」

 リリの申し出に、僕はぞくりと背筋が冷えるような思いをしたが、流石とも思った。あのような貴重な家具を無償でくれるとはな。リリと今後付き合っていくのは、気を引き締めていかなければ、骨抜きにされてしまうよ。

 僕達は、リリの好意で、家具の一式をもらって、帰ることにした。そういえば、毎回、鈴を鳴らさないと、この村には来れないのかな?

 「実はの、この村は、魔の森に入ってすぐにあるんじゃ。帰りに分かると思うんじゃが……この村には結界が張ってあっての、村に入らねば、村を認識することが出来ないようになっているのじゃ。次からは、そのまま来れば、この村に入れるぞ。我が君ならば、妾に取引抜きで会いに来てもよいのじゃぞ」

 すごく魅惑的な表情で、誘ってきたのに僕はクラッときたが、エリスに腕をひねられて、現実に戻ってこれた。やっぱり、エルフの魅了というのはあるんだな。

 リリの言った通り、すぐに魔の森を出ることができた。最初にリリに会った湖のすぐ近くだったんだな。ここなら、なんとか一人でも来ることが出来るだろう。家具を持って、屋敷に戻ってきた。エルフの家具は、やはり優れモノで屋敷の家事が随分と減ったと、エリスとココがものすごく喜んで使っていた。
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