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第5話 堤防

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 午後となり、昼食を食べた後にコーヒーを飲んでいたら、エリスがゴードンの到着を告げてきた。

 「ゴードン、皆への説明は大変だったであろう。ご苦労だったな。さっき、レイヤが来て、スムーズに話が進んだのは、お前のおかげだ。感謝するぞ」

 「滅相もございません。皆は、ロッシュ村長の言葉に感激していました。私は、それにすこし言葉を足したに過ぎません。先程、レイヤとすれ違いましたが、なにやらやる気に溢れていた様子……流石ですな」
 
 レイヤのやる気がそれほどとはな。思ったより、仕事が早く進むといいが。それだけ、助かる命が増えるのだから。
 早速、堤防設置予定地への案内を、ゴードンに頼んだ。「来て早々にすまんな」と言葉を添えて。

 堤防設置予定地は、先程見た畑から、上流に数キロ離れた場所にあった。なるほど……ちょうど、川が曲線を描いている場所に予定地があった。大量の水の勢いが、この曲線を曲がりきれずに氾濫してしまうのだろう。一番、手っ取り早いのは、土嚢を積み上げて、堤を作ってしまうことだ。この川は、川幅がたっぷりあるから、氾濫した時の力は相当なものだろう。越水しないように堤の高さを考えなくてはな。

 高さは、三メートルで、幅十メートルの堤は欲しいな。総延長は、ざっと一キロメートルか。約ニ万立法メートル分の土嚢が必要となるのか。一袋50リットルくらいだとすると、40万袋か。これを人口500人でやるとすると……毎日27袋を30日間積み続ければできるな。とても現実的とは言えないな……

 とりあえず、土魔法を使ってやってみよう。どれくらいできるかをやってみて、計算をし直してみよう。

 先程の庭先でやったイメージで、堤防予定地に土を盛るイメージをやってみたが、反応がなかった。やはり、土を移動させるイメージじゃないと駄目か……じゃあ、堤防予定地の外側の土地から、深さ40cm、幅1メートルかつ、長さ50メートルの土を長さ1m分の堤を形成するように移動するイメージをした。
 すると、土くれが、ごごごっ、と音をたてて、移動をしていき、堤を形成していった。おおっ!! 出来たぞ!! これはいい! この要領なら、すぐにでも堤防が完成するぞ! 

 希望を持てた瞬間、急にめまいがして、立つことも出来なくなってしまった。地面に膝をつけると、ゴードンが飛んできた。

「ロッシュ村長!! 大丈夫ですか⁉ どうなさったのですか?」

「魔法を使ったら、急にめまいが……」
「それは、魔力切れではないですか?」
「魔力切れ……?」

 僕はステータス画面を見てみると、魔力が『10%』を切っていた。『0%』というのは経験がないが、10%切ってもこんな状態だとは……注意して、0%にはしないほうがいいな。上限を見極めながら、魔法を使わないといけないな。

 スキルを見てみると、魔法名の横に、『取得可』の文字が……欄下の表示が、『0/1』から、『1/2』となっていた。『10/100』から『0/100』となっていた。もしかすると、魔法を使うと経験値みたいなのが溜まって、経験値が100になると、スキルが一つ取得できるってことかな? 

 ん? 土魔法をよく見たら、『進化可』とあるな。どうゆう意味だろう。土魔法に意識すると、『大規模魔法+』、『省魔力+』となるらしい。これはいいなぞ。これなら、堤防設置が捗るだろうな。迷いなく、進化することにした。

 あとは、魔力が回復すれば作業を続行できるのだが、どうしたものか……。

 「ロッシュ村長、お加減は大丈夫でしょうか? と、とりあえず、エリスを呼んでまいりますので、ここでしばし休んでいてください」

 僕が了承すると、ゴードンは飛ぶように走っていった。ゴードンは今年で65歳と言っていたな。年の割には元気があるじゃないか。もっとも、儂が65歳のときなんて……どうしておったっけのぉ……。

 草原に横たわって、休んでいた。春風が心地よく、脱力感から、すぐに寝入ってしまった。気付いた時、頭に柔らかい感触があった。目を開けると、エリスと目があった。僕の頭は、エリスの膝の上にあるみたいだ。すごく、幸せだ……。

 さすがに恥ずかしくなってきたので体を起こした。さっきより、随分と楽になったな。エリスに聞いたら、一時間くらい眠っていたようだ。

 ステータスをチェックすると、魔力が、20%回復していた。ふむ……五時間で完全に回復する計算だな。全力で魔法ができるのは、一日四回ってとこか。といっても、魔法を使う度に、五時間寝てたら……なんか申し訳ないよな。起きていても、回復するのかな? 回復するとしたら、どれくらい回復するかを検証する必要があるな。

 今日は、もう一回くらい魔法を使ってみたいところだ。進化後の土魔法がどんなものか試してみたい。その後、エリスとゴードンで、出来たばかりの堤の上に立ち、農地の区画整備予定地を決めていった。

 ちょっと気になって、ゴードンに聞いてみた。米ってあるのかな? 

 「米ですか? どういうものでしょう? 聞いたこともないですが……」

 僕は、米のことを説明した。麦に似たような形で、水があるところで生育する作物であることを伝えると、もしかしたら……と、僕を村近くの川辺に連れてきた。そして、川辺の一部を指差していた。
 僕は指を指している方向を見ると、米があった。自生しているみたいだったけど、たしかに米だ。しかし、ロッシュの記憶にも米を食べたことがない。

 「先代様がどこかの国から手に入れた作物だそうで、水を張った畑に種を撒くだけで、実がなるという夢のような作物だとおっしゃってましたな。実験がてら栽培していたのですが、すぐに戦争が始まり、そのまま放置されてしまったのです。あれが米というものでしたか。あれをまた栽培するので?」

 僕は頷いた。米は優秀な作物だ。作物としても優れているが、なんといっても、輪作体系の中に入れると病気が駆逐されるのだ。農薬のないこの世界では、病気の蔓延を抑える有効な手段なのだ。

 「先代様もお喜びになるでしょう。この作物に将来を託していましたから」

 ゴードンは男泣きしていた。涙もろいんだな。なぜか、エリスももらい泣きしていた。父上の記憶はないけど、将来のことを見据えていた優秀な領主だと感じた。

 米が手に入ったことで、水田を短期で作り上げないといけなくなったな。しかし、そうなると先程の作戦が生きてくるな。もしかしたら米か、それに類似する作物が手に入るんじゃないかって思ってたから、水田にできるように穴を掘っておいたんだ。
 深さ40センチにしたのも妥当だな。この辺の粘土層は、概ねそれくらい掘ると露出するからね。

 夢心地の膝枕から4時間経っていた。ステータスの魔力をみると、『100%』となっていた。なるほど……寝ても起きても五時間で完全に回復するわけか。これはありがたい。

 堤防の続きを設置することにした。同じ要領で、魔法を使ってみた。一メートルの堤防を作ったつもりだが、十メートルできてしまった。暴走かと思ったが、これが『大規模魔法+』の効果のようだ。常に、『1/10』を意識しないと、大変なことになりそうだ。魔力は……たった『10%』しか減ってなかった。『省魔力+』は消費魔力を『1/10』に抑えてくれるのか。

 これはすごいぞ。進化しただけで、効率が100倍になってしまった。今の魔力で、100メートル分を一気にできる計算だ。一日、四回魔法を使うと、一キロは三日で出来てしまう。これなら、来月までに村までの堤防を延ばすことができそうだ。

 魔法のおかげで、堤防の設置に人手を割く必要が無くなったことが大きな収穫だった。

ステータス

体力 100%
魔力 10%

スキル

火魔法 取得可
水魔法 取得可
風魔法 取得可
土魔法 進化可 → 大規模魔法+ 省魔力+
回復魔法 取得可
1/2→0/2   0/100
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