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ダンジョン

第46話 フェロモン剤の使用は適切に(ざまぁ)

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ロックハニーの群れが静かに……そして確実に穴蔵から飛び出そうとしている。

逃げないと……。

僕はフェリシラ様の手を引っ張った。

「逃さないよ!!」

僕は宙を飛んでいた。

「何をなさるのですか! 一体、ライルが何をしたって言うの?」
「はぁ? こいつは私のベイドをバカにした。それだけで処刑ものなんだよ」

……何を言って。

「ベイドは言っていたよ。ライルさえいなければ、面倒にはならないってね。私にはよく分からないけど、あんたが邪魔なだけは分かったさ」

くそっ……こいつは最初っから僕を嵌めるつもりだったのか……。

「僕はウォーカー家を出ていっているんだ。関係ないだろ!!」
「違うね。ベイドが邪魔だって言ったら、邪魔なんだよ」

狂っている。

「私はやっと手に入れられるんだ。貴族の地位をね」

こいつの狙いはそれか……。

だが、本当にバカだな。

「それはベイドが王侯のコンテストで入賞したらの話だろ? あいつはきっと入賞すら出来ないぞ」
「ふん!! バカ言うんじゃないよ。この凄い剣はベイドが作ったんだ。これを作れる奴は天才さ」

ああ、そういうことか……。

僕が作った剣を奴は自分のものだと……。

なんて浅はかな。

鍛冶師のプライドさえない奴なんだな。

……とにかく、ここを逃げ出さないと。

こんなやつにかまっている暇は。

「痛い!! 何するの!?」
「何、他人事みたいな顔しているんだよ。公爵のお姫様よ」

こいつ……フェリシラ様を蹴りやがった……。

「お前も同罪なんだよ。なにが、婚約だ。ふざけやがって。お前さえいなければ……」

やっぱり、知っていたのか……。

「貴様ぁぁぁ!!」
「おお、怖い。でも、私が相手をしてやるのはこれで最後さ。あとは虫たちと一緒に楽しんでな」

なっ……。

その瞬間だった。

穴蔵から一気にロックハニーが飛び出してきた。

そして……僕とフェリシラ様に群がり始めた。

なぜ、マリアには集まらない?

「ヒャッハッハッ! お前らに使ったのはオスを引きつけるフェロモンなんだよ! 何でも信じてんじゃねぇよ!! バァカ!!」

くそっ……。

「フェリシラ様!!」
「分かっているわ」

とにかく、ここを抜け出すしかない……。

僕は剣を構え、手当たりしだいに攻撃をする。

……数が多い……。

「くっ……」

フェリシラ様も苦しそうだ。

火が弱点とは言え、フェリシラ様でも何発も魔法は使えない。

「逃げましょう!!」
「どこに?」

ここの出口は一つだけだ。

わざわざ、ここを選んだのも作戦なのだろう。

その出口にはマリアが立って、塞いでいる。

二人で勝てるか?

いや、無理だろう。

冒険者としての経験もさることながら、個人的な技能でも僕達より遥かに強い。

それは今までの動きを見ていれば、素人の僕でも分かる。

だから……

「そっちは!!」

ロックハニーの巣だ。

「アッハッハッハッ。ついに狂ったよ。でも、見えないのは面白くないねぇ」

遠くで腐ったヤツの笑い声が聞こえる。

……。

「ここまで来れば」

ロックハニーの巣は複雑な形をしていた。

そのためか、隠れる場所を探すのも簡単だった。

「これらからどうするつもり?」

……。

おそらく時間を稼げれば、イディア様とアリーシャが戻ってくるはずだ。

あの二人が戻れば、マリアの戦闘力でも勝ちきれないだろう。

だからこそ、二人を分断したんだ。

「おそらく、マリアは短期決戦を仕掛けてくるでしょう」

それは間違いない。

だからこそ、勝てないまでも負けない戦いをする必要がある。

それには……。

僕の剣を鑑定する。

■■■■剣
品質: B
耐久度 3/1500

もはや、壊れる寸前だ。

この武器はもう使えない。

もう一本の武器に手をつける。

これはロンスキーが手がけたオンボロ剣。

だが、これを……

僕は『研磨』スキルを発動した。

シュッ……シュッ……

(頼む。耐久度がもってくれ)

シュッ……シュッ……

(フェリシラ様を守りたいんだ)

……完成だ。

『鑑定』


■■■■剣
品質: B
耐久度: 299/1500
特性: 耐久度低下軽減

……なんだ、これ?

特性なんて、ついたのは初めてだ。

しかも、耐久度が下がるのが遅くなるって……。

僕が願った……願った?

そんな、バカな。

願った特性が反映された?

いや、でも、今はこれに縋るしかない。

だったら……

「フェリシラ……様?」
「ああ、私もここで終わりかしら。ねぇ、ライル。私、貴方に言いたいことがあるの」

こんな時に……

「フェリシラ様! 杖を貸して下さい!!」
「え? はい……」

僕は奪うように杖を掴むと『研磨』スキルを発動した。

杖も同じだ……。

僕の考えている通りなら……。

フェリシラ様の魔法は強いが、その反面、消費が激しい。

長時間の魔法使用が出来ない。

杖はその使用時間を長くする効果がもともとある。

それを強化すれば……。

シュッ……シュッ……

(フェリシラ様の魔法が長く使えますように……)

シュッ……シュッ……

(どうか、フェリシラ様を守って下さい)

……。

どうだ?

『鑑定』

■■■■杖
品質:A
耐久度:299/4500
特性:魔力消費量半減

やっぱりだ!

「フェリシラ様! この杖で魔法をぶっ放して下さい!!」
「へ? ええ、わかりましたわ。ライルと一緒なら……どこまでも行きますわ!!」

フェリシラ様……。

こんな場面でそんなことを言われたら……本気にしちゃいますよ?

「フェリシラ様。ここを抜け出したら……その……デートをしてくれませんか?」

僕は何を言って……。

だけど……それくらいは言ってもいいよな?

もちろん、答えは分かっているよ。

あの時の告白のように……。

「いいわよ。だから、生き延びましょう」

フェリシラ様……。

絶対に生き残ってやるぅ!!

「行きます!!」
「援護するわ」

僕達はロックハニーの巣を飛び出した。

だけど、僕達は知らなかった。

武器の性能がここまで大きく状況を変えてしまうとは……。

「ふざけるんじゃないよ! なんなのよ、あなた達は!!」
「これで終わりですよ。マリアさん」

ロックハニーの群れはフェリシラ様の一発の範囲魔法で倒してしまったのだ。

僕の出番がなかったのは、ちょっとかっこ悪いけど……。

「でも、私には勝てないわよ」

……それはどうかな?

確かに身体能力は圧倒的に僕が劣っている。

だけど、武器の性能で言えば互角……。

その互角も……

「ほら!! ほら!! どうしたの? 手も足も出ないじゃない!!」

僕はひたすら防御に徹した。

その時が来るのを待っていたんだ……。

パキンっ!

「なっ……わ、私の……ベイドからもらった剣がぁ!!!」

やっぱり……。

僕は知っていたんだ。

マリアの持っていた剣の耐久度はほとんどゼロだったんだ。

「これで形勢は逆転ですね」
「ふん。それはどうかしら? ほら、次の群れが来たわよ」

ロックハニーか……。

でも、どうだろうか?

僕は『鑑定』スキルでロックハニーを捉えた。

「どうやら、僕達はこれで帰れそうです。それでは……ロックハニーと楽しく過ごして下さい」
「は? あなた、何を言って……ど、どうして!! 私に群がってくるのよぉ」

決まっているじゃないか。

マリアに掛かっているフェロモン剤はオスを寄せ付けないんだろ?

それって、逆にメスを呼ぶんだ。

今のロックハニーの群れは全部……メスだった。

武器のないマリアはまさに手も足も出ない状態で……。

ロックハニーの餌になった。

「フェリシラ様。帰りましょうか」
「ええ。あの人は一体、なんだったのかしら?」

僕はこう、答えた。

「ざまぁみろ!!」
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