上 下
44 / 69
ダンジョン

第37話 落ち込む二人

しおりを挟む
どんよりとした空気が馬車の中に流れていた。

「アリーシャ。二人に謝りなさい」
「はい。お姉ちゃん、イディア様、ごめんなさい」

アリーシャの突然の乱入により、二人の武器は粉々になってしまった。

イディア様はそれと同時に心まで折れてしまったようだ。

「剣が……ご先祖様の剣がぁ」

「アリーシャちゃんがこんなに強いなんて……ということは、ライルの相応しいのはアリーシャちゃん!!?」

二人がブツブツと何かを言っている。

まったく……。

イディア様から剣を奪い取った。

「見せてみろ!!」
「何をする!! いくら、ライル殿でも……ライル殿?」

粉々と言っても、複数のパーツに別れただけだ。

僕は真剣な眼差しで剣をいろいろな角度から見つめる。

修復は……。

「ごめんなさい。やっぱり、無理だわ」
「うえええええん」

うん、無理。

こんなにバラバラになって剣を修復なんて無理。

ちょっと、カッコつけちゃったけど……無理なのもは無理。

でも、ちょっと可哀想だな。

「あの、短剣でもいいなら、なんとかなりますよ?」
「ホントか!? そんなことが出来るのか?」

顔、近っ!!

胸、近っ!!

もう、この人、本当に凶器だ。

「ちょっと、待っててください」

座っていた椅子を砥石台代わりにして……。

シュッ……シュッ……。

やっぱり、角度が辛いな。

シュッ……シュッ……。

集中力が途切れる……。

イディア様が背後に立ちながら、覗き込んでくるのはいいが……。

「ちょっと!! 頭に胸を乗せないでくださいよ」
「ん? ああ、すまない。ライル殿の手元を見ようと思うと、この体勢になってしまうのだ。許せ」

くっ……それ以上、強く言えない自分が悔しい。

集中だ……。

胸の感触を感じないほどの集中。

これも修行なんだ……。

シュッ……シュッ……。

形になってきたな。あとは仕上がりだな。

シュッ……シュッ……。

出来た……。

僕は手渡した。

「これは……ライル殿?」
「うん……ごめんね。ナマクラになっちゃった」

「ライル殿ぉぉぉぉ!!」

おかしい……。

研磨は完璧だったはず。

なのに、どうしてナマクラになってしまったんだ?

二度目の研磨に耐えられなかった?

前の一度目は問題はなかった。

それとも、折れてしまったことに問題が?

「ライル殿ぉぉぉ。これを……これを、どうにかしてくださいよぉ」

今は考えている途中だと言うのに。

「じゃあ、これを差し上げます」

この旅のために持ってきた剣だ。

一応、領都では一級品と言われる品物だ。

「こんなもの!」

パキンっ!!

うそ、だろ。

この人、膝で折っちゃったぞ。

なんて、バカ力なんだ。

でも、その人の武器を粉々にしたアリーシャって……。

隣でニコニコとご飯を食べている姿からはとても想像できないな。

まぁ、とりあえず……。

「金貨10枚」
「へ?」

「弁償してください。それ、領都で買うとそれくらいしますから」

自分の作品を折られて、怒らない鍛冶師はいない。

それがどんな理由でも……。

「冷静になった。許せ」

良かった……確かに僕も不用意に研磨をするべきではなかった。

出来ると過信したのは、僕の未熟さだ。

「僕の方こそ、ナマクラにしてしまってごめんなさい」
「ライル殿!! 一つ頼みがある。剣を作ってもらえないか? 私のための剣を!!」

イディア様……。

僕は正直、心が震えていた。

鍛冶師として生まれたからには、一度は聞きたい言葉だった。

その人のための剣を作る……。

もっとも熟練した職人のみが、それをすることが許される行為。

相手を熟知し、そして、それに応えることができる武具作り。

まさに鍛冶師の究極の姿なんだ。

「分かりました。でも……期待はしないでください。僕はまだ、未熟もいいところなので」
「構わないさ。さっき、折った剣で分かった。ライル殿は優秀な鍛冶師だと」

折って、分かっただと?

褒めているの?

それとも侮辱されているのか?

「じゃあ、金貨10枚、それと制作費でさらに10枚頂きますね」
「お金、取るの?」

何をおかしな事を言っているんだ?

これは遊びじゃない。

商売なんだ。

無銭でやらせようとしてくる客は客じゃない。

ただの盗人だ。

「当然!!」

僕は心の中で喜び、戦慄していた。

絶対にいい仕事をしてみせる!

「……ところで、お嬢様は大丈夫なのか? さっきから、可怪しいが?」

こんなに騒がしくしているのに、一向に参加してこないフェリシラ様……

そんなに杖が折られたことがショックだったのだろうか?

「フェリシラ様?」
「なに、かしら?」

一応、返事はしてくれるか。

「大丈夫ですか? その、怪我でも?」

フェリシラ様の体を見るが、怪我をしている様子はない。

「いいえ。どこも痛くありませんわ」

分からない。

「お嬢様はアリーシャに負けたのが悔しいのではないか?」

そうなの、かな?

「私、決めましたわ!!」

ビックリしたぁ。

急な大声にビクッとなってしまった。

「えっと……何をですか?」
「私、もっと強くなりますわ。アリーシャちゃんに負けないほどに」

何の話なんだ?

正直、最初から分からない。

なんで、フェリシラ様とイディア様は対峙していたんだっけ?

フェリシラ様の力を試すため……だよな?

でも、それは証明されたと思う。

だって、あれだけ戦えていたんだから。

途中参戦のアリーシャに二人共、武器を壊されちゃったけど。

……それでアリーシャよりも強くなりたい?

もしかして、フェリシラ様って相当な負けず嫌いなのか?

「ライル。街に着いたら、杖を探すのを手伝っていただいてもよろしいですか?」
「えっ? ええ、もちろん」

まぁいいや。

いつものフェリシラ様に戻ってくれたんだから……。

あれ?

そういえば……イディア様の剣を叩き割った、アリーシャの短剣ってもしかして、凄い剣なのか?
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...