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ダンジョン

第36話 三つ巴の戦い!? 

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僕は揺られていた。

鍛冶の街グレンコットに向かうために公爵専用の豪華な馬車だ。

窓から眺める風景にため息が漏れる。

その横でアリーシャとイディアが揉めていた……。

「何をするんですか!! これはお兄ちゃんに作ってきたから、ダメです!!」
「いいではないか!! 少しくらい。減るものではないし」

彼女たちが言い争っているのは、食事だ。

イディアはアリーシャの食事をとても気に入ってしまったみたいだ。

僕は再び、大きなため息を付いた。

ああ、鍛冶がしたい。

考えてみれば、公爵様から工房を預かったものの、何かと用事を頼まれる。

その度に鍛冶が中断される。

そして、今回も……。

僕は本当に実力をあげることが出来るんだろうか……。

漠然とした不安がのしかかっていた。

「そのため息は私のため?」

ん?

なんか、聞いたことがある声が……。

いや、ありえない。

今回の旅には彼女は……。

「フェリシラ様!?」

窓にフェリシラ様が映っていた。

「早く、中に入れて欲しいのですけど……」
「は、はい!!」

……どうして、こうなった?

僕は思い出していた……。

「ライル君。今回はフェリシラを連れては行かせられない。その理由は分かっているね?」
「はい……」

僕も仕方がないと思った。

今回はダンジョンに入るかもしれない。

そんな危険な場所には連れていけないもんな。

「フェリシラ様は?」
「うむ。どうしても行きたいと駄々をこねるからな。部屋に閉じ込めている」

やはり、妹愛の強いお兄さんだな……。

……。

……あの問答は何だったんだ?

妹さん、思いっきり脱走していますけど?

「あの……フェリシラ様? いいんですか?」
「何が、ですか?」

めちゃめちゃ怖いな。

え? 怒っているの?

「デルバート様が心配していると思いますよ。今からでも戻った方が……」
「ふん!! いいのよ。お兄様はすこし私に過保護すぎますから。それとも、ライルは私がいては不満なのかしら?」

えっと……。

正直に言えば、フェリシラ様と一緒に行動できるのはとても嬉しい……

だけど……

「今回の判断はデルバート様の方が正しいと思いますよ。これから行くのはとても危険な場所で……」

ダンジョンはモンスターが出没すると聞いている。

さすがに、そこに連れていくのは……。

「ライルもお兄様も私を甘く見すぎですわ。これを見てください」

……杖?

「杖……ですか? もしかして、フェリシラ様は魔法を?」
「ええ! これでも学園にいた頃はそれなりに優秀だったんですよ?」

そうだったのか……。

それなら、僕よりも戦闘力があるってことなのかな?

「お嬢様!」

声デカっ!

「な、なによ」
「その考えは命取りになります。ダンジョンでは経験豊富な冒険者でも命を落とす場所なのです」

……そんなに危険な場所なの?

実はなんとかなるんじゃないかなぁ、くらいのつもりだった。

女戦士もいるし、まぁ、大丈夫だろうと……。

命……落とすの?

めちゃくちゃ、怖い場所じゃん!!

なんだか、急に恐怖が湧いてきたぞ……。

「わ、分かっていますわ! ただ、ライルが私を除け者にしようとするから」

ぼ、僕のせいですか?

僕はこの件については完全に巻き込まれた方で……。

「分かりました。お嬢様の覚悟は……」

今の話のどこで?

出来れば、帰るように説得してくれたほうが助かったんだけど。

「ただし! 実力を見させてもらいます。ライル殿に相応しいかどうか……」

うん、うん。

さすがはイディア様だ。

これでフェリシラ様が諦めてくれれば……

ん?

僕に相応しい?

何、言ってんだ?

「分かったわ。これは絶対に引けないわね。馬車を止めてください!!」

なんだ、この展開は……。

風が吹く草原で、二人の美女が立つ。

エルフ女剣士と女神な公爵令嬢……。

なんて、眼福な光景なんだろうか。

「ねぇ、私も加わってもいいかな?」
「ダメだぞ。入ったら、怪我するかもしれないから」

気持ちは分かる。

なんだか、楽しそうだもんな。

だけど……。

戦いが始まると、それは壮絶なものでした。

フェリシラ様の魔法は自慢するだけはあって、凄かった。

連弾のように火の玉がイディア様を襲う。

それをなんなく避け、一気に間合いを詰めようとした。

あれは……結界魔法というやつか?

イディア様の攻撃をなにかで弾いたように見えた。

その衝撃で、イディア様が吹き飛び、攻守は逆転する。

……いい勝負だな。

「アリーシャもいつかはああいう戦いが出来るといいな」

獣人は高い身体能力を持つ。

戦闘力という点では人間やエルフを大きく凌駕するかもしれない。

「……アリーシャ?」

いない。

どこに……。

……僕は信じられない光景を目の当たりにしていた。

うそ、だろ?

「ひええええええっ!! 私の剣がぁぁぁぁぁ、折れたぁぁぁぁぁ!!」
「私の杖が砕けてしまいましたわ」

へなへなと座り込む二人の前に悠然と立つ一人の美少女獣人。

片手に短剣を持ち、もう片方には折れた杖を握っていた。

えっと……。

うそ……。

僕に近づいてくる!!?

えっ……どうしよう……。

剣……そうだ、剣を……。

なんとか、剣を持つと目の前に……美少女が。

「ちょっ!!」

襲い来る短剣での攻撃。

僕はかろうじて剣で防御はするが……。

こんなの……勝てるかぁ!

僕は剣を投げ捨てた。

「よし、来い!」

剣での戦いなんて僕に出来るかぁ!!

今まで、鍛冶でちょっと握ったくらいしか経験がないんだ。

まだ、組み合ったほうがマシだ。

再び、襲いかかってくる美少女。

今だ!

鍛冶師を舐めるなよぉぉ!

鍛え上げた、この両腕から逃げられると思うな。

一気に間合いを詰め、美少女に抱きつき、締め上げる。

「これで剣も振れまい」
「うううっ……苦しい……お兄ちゃん」

……僕もどうかしていた。

アリーシャに痛い思いをさせるなんて……。

「大丈夫か?」
「うん。お兄ちゃん、強いんだね」

そう、かな?

「でも、急にどうしたんだ?」
「えっとね……戦いを見るととても興奮するの。居ても立ってもいられなくて……」

僕は分かってしまった。

きっと、そうなんだろう。

そう、彼女は……

古より存在する戦闘狂……バーサーカーなんだと。
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