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公爵家付き工房

第20話 初めての作品

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工房の朝は早い。

窯に火を入れることから始まる。

目の前には新調した鍛冶道具が並ぶ。

武具を作る材料も揃っている。

これで全ての準備が整ったんだ……。

ついに……ついに僕は手に入れた。

自分の工房を!

そして、これが記念すべき一つ目の……

「完成だ!!」

『鍛冶師』スキルはない。

だが、僕には15年間の修行という経験があるんだ。

それなりの形にはなる。

……酷いな。

かろうじて、剣の形をしていると言うだけに過ぎないものが出来上がった。

こんなものは商品価値はゼロだ。

とはいえ……。

シュッ……シュッ……

『研磨』スキルを発動した。

研ぐべき箇所が山のように示される。

研ぐ力加減、時間、量……すべてを忠実にやっていく。

そして、出来上がったのが……。

「剣だ!!」

そこには、どこに出しても問題はない物が完成していた。

だが、これで終わりではない。

更にもう一度、『研磨』スキルを発動する。

今までは三度の研磨に耐えられた武具があった。

研磨はすればするほど、性能が上がる様に感じる。

僕の作った武器もそれくらいは……

「……やっぱり、ダメか」

二度目の研磨でナマクラへと変わってしまった。

僕は落ち込んだ……とっても……。

だって、ナマクラのほうが僕の作った剣よりも良さそうに見えるから……

「だが、僕は負けない。こうなることは分かっていたんだから!!」
「お兄ちゃん、鉄はここに置くよ」

「ああ、ありがとう。アリーシャ、すまないけど工房周りの草を取って来てくれないか?」
「うん!!」

……さて、もう一度……。

カン……カン……。

シュッ……シュッ……。

その音が工房が途絶えることはない。

僕はひたすら、剣を鍛え、研磨を続けた。

そして、その日の成果は……。

ナマクラ10本が出来上がった。

「どうして……いや、まだ初日だ。明日こそ!!」

どうしても二度目の研磨が出来ない。

きっと、僕の鍛冶師としての力不足が原因だ。

なんとか、経験で『鍛冶師』スキル持ち並になれないだろうか?

「とにかく、たくさん作るぞ」

それから連日……いや、一月以上……

僕は剣を鍛え続けた。

だが、ついに完成を見ることはなかった。

それでも満足の行く武具を作るために……。

……本当に一度の研磨しかしていない物を親父の店に卸さないとダメなのか?

そんな事が頭を過るようになってきた。

親父からの催促があまりにも凄かったから。

「商品がないなら、アリーシャちゃんを店番に借りていくぞ!!」

そんなことを言われたら、妥協の一つや二つ……

出来るかぁ!!

「アリーシャ! 店番を頼む!!」
「はい!! 行ってきます!!」

これでいい。

僕の飽くなき探究心をアリーシャも理解しているはず。

すまない……アリーシャ。

この埋め合わせは必ず……。

「やあ、ライル君。武具作りはどうかな? あまりうまく行っていないと聞いているが」

あまり顔を合わせたくない人が来たな。

出来れば、完成した武具を持って行きたかった。

「デルバート様……なかなか満足の行くものが出来なくて……」
「ん? それを見てもいいかな?」

指差していたのは、二度目の研磨をしようと思っていた剣だ。

正直、まだまだという物だけに見られるのはちょっと恥ずかしい。

「構いませんが……お見せ出来るようなものでは……」

僕が作れる武具は所詮は素人に毛が生えた程度……。

剣の形をしている、というものに過ぎない。

「ふむ……いい輝きだね。持ってもいいかな?」

そうかな?

「ええ。もちろん」

ショックを受けないといいな。

僕に工房を貸したことを後悔はされたくない。

まだまだ、ここの工房で僕の腕を磨きたいんだ……

「重さがちょうどいい。重心も素晴らしいな。振ってもいいかな?」

……随分といい評価だな。

意外だ……。

「ええ。ただ、外でお願いします」
「……それもそうだな」

やっぱり、この人が剣を握ると様になるな。

もっと、優れた剣を握らせたかったけど……。

今の僕にはこれが限界というのがなんとも歯がゆい。

刃が風を斬る音が聞こえる。

まるで華麗に舞う蝶のような動きで剣で空を斬っていた。

「ふう……で? これの何が不満なんだい?」

ん?

何がって……。

不満しかないんだけど。

「全部です。全てがまだまだ足りていないんです」

僕が夢見る武具は、それこそ究極と言われるものだ。

『研磨』で性能が上がることは分かっている。

しかも、回数を重ねるほど、性能は上がる。

何度やれば、急遽の武具になるかはまだ分からない。

とにかく、二度は研げるほどの武具作りを……。

「そうか……ちなみにこれを王都のコンテストに持っていけば……いい線いくのではないか?」

デルバート様はお優しい方だ。

きっと、失敗続きの僕を励まそうと、そんな嘘を。

いくらなんでも、鍛冶師としての能力に欠ける僕が作った武器がいい評価をもらうわけがない。

今まで、評価を受けてきた武具はすべて鍛冶師が手がけた物だからこそだ。

元が悪ければ、どんなに『研磨』してもダメなのは分かっているつもりだ。

「ありがとうございます。もっと、精進して、より品質の高いものを作り上げたいと思います!」

この優しさに甘えてはダメだ。

より自分を追い詰めないと……。

「ライル君は、この剣を他の人には見せたのかな?」
「……いえ。デルバート様が初めてです」

何がいいたいんだ?

……そうか。

僕はなんて愚かなんだ。

いつもそうだ。

僕は独りよがりになって、物事を進めようとする。

それで何度、父上に叱られたことか。

まずは周りの話しに耳を傾ける……。

その重要性をイヤと言うほど教えられたではないか。

でも、誰に見せる?

流石に親父に見せるのは……こんなナマクラみたいな剣を見せたら、傷つくかもしれないしな。

屋敷の人?

それなら……。

「これは売り物にするつもりなのかな?」
「はい。『ブーセル』という武具屋と契約をしているので」

……。

「では、これを持っていくがいい。きっと、ライル君の大きな勘違いを正してくれると思う」

大きな勘違い?

何を言っているんだろう?

この剣に大きな欠点でもあったのかな?

でも、さすがにそんな事はないと思うんだけど……

だが、デルバート様の言葉だ。

聞かなければ、工房を没取されてしまうかもしれない……

「分かりました。すぐに行ってきます」
「うむ」

なんで、こんなナマクラみたいな剣を持って行かなければならないんだ……

僕はそんな疑問をずっと持っていた。

親父に見せるまでは……

「一級品ではないですかぁ!! 我々でさえ、年に一度扱えるかどうか……」

うそ、だろ?
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