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地方コンテスト

第16話 公爵令嬢との再会

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公爵屋敷は相変わらずの大きさだ。

久しぶりに来たが、毎回、大きさに圧巻されてしまう。

「よく来たな!」
「ご無沙汰しております。デルバート様」

当主なのに、随分と身軽で。

「お嬢ちゃんも見ない間に随分と大きくなって」

親戚のおじさんか?

というか、この成長をその一言で終わらせるとは……さすがは公爵だな。

「あの……」

僕は聞きたかった。

なぜ、ここに呼ばれたのかと。

おそらく、男爵達が来るのはフェリシラ様との婚約の話をするため。

僕が男爵達に会いたくない以上に、もっとも聞きたくない話だ。

それをわざわざ馬車まで用意して、迎えに来るなんて。

どういうつもりなんだ?

「君の言いたいことは分かる。フェリシラに会いたいのだろ? いいだろう。私が許可しよう」

……えっと……

「ありがとうございます」

全然、見当違いな答えが返ってきたけど、会えるなら……

「ふむ。フェリシラはね。君が帰ってから、酷く悲しんだものだ。私もとても辛かったよ」

そんな訳がない。

僕のような庶民が……彼女の気を向けられるわけがないんだ。

「冗談はやめてください」
「おや? そう思うのかな? だが、まぁ、会えば分かるさ」

一体、何が分かるんだ。

「お嬢ちゃんはお菓子を食べているかい? 今日は客人が来るから、たくさん作ってあるんだ」
「えっ!? いや、でも……」

食い気には勝てないよな。

「行ってきていいぞ」
「本当!!? じゃあ、行ってくるぅ!!」

僕は公爵に一礼して、案内役の執事に付いていくことにした。

執事は静かにノックした。

「フェリシラお嬢様。ライル様をお連れしました」

ガタガタガタ……。

なんだろう、今の音は……

「フェリシラ様?」

思わず、声を掛けると……

「ライル? 今、開けるわ」

ドアが開き、姿を見せたのは……。

衣装に身を包んだフェリシラ様だった。

未だに包帯は取れないみたいで、全身に包帯が巻かれていた。

所々は取れてはいるが、覗かせる皮膚はとても見るに耐えないほど浅黒く変色していた。

「随分と顔を会わせていないのに、よく来れたわね。まぁ、折角だから、もてなしてあげるわ。特別にね」

やっぱり、嫌われているのだろうか?

話してくれるのも公爵の客人として招かれているから?

「ありがとうございます。フェリシラ様も元気そうで。安心しました」
「お口が上手ですこと。でも、ありがとうと言っておきましょう」

僕はやっぱり、帰ったほうがいいかもしれない。

「フェリシラ様のお顔を拝見できて、とても嬉しかったです。では、僕はこの辺で失礼します」

これでいいんだ。

僕は後ろを振り返った。

だけど、僕は歩けなかった。

袖を掴まれていたから。

「行かないで……ずっと、貴方に会いたかったから……」

……フェリシラ様。

「やっぱり、お茶でももらえないですか? なんだか、喉が乾いちゃって」
「最初からそう言いなさいよ。全く……」

彼女の体は治療の甲斐があったのか、歩けるほどには回復した。

しかし……

「私の体は長くないと思いますわ。全身に回った毒が取り切れないみたいですの」

それは彼女からの口から聞く、残酷な言葉だった。

僕は何を言えばいい?

「あの……ウォーカー家との婚約を考え直しませんか? その体で……」
「ふふっ。心配してくれているのかしら? でも、これは貴族としての勤め。当主であるお兄様に言われたら、断れませんわ」

そんな……。

何か方法が……。

「どうして、そこまで結婚に反対なさるのですか? 私なんて、何も魅力が無くなってしまいました。公爵の娘という以外は」

どうしてって……。

そんなのは決まっている。

「フェリシラ様は決して、魅力がない訳……ないじゃないですか」
「ふふっ。だったら、私と結婚してくれますか? こんな体になった私を愛してくれますか?」

それは……。

僕には無理だ。

庶民となった僕には公爵令嬢の横に立つことは出来ない。

せめて……僕が男爵の家に残っていたら……

「冗談ですよ。庶民とは羨ましいですね。好きな殿方と結ばれることが出来るんですもの。ですが、私には……」

僕はバカだ。

こんな事を言うべきではなかったんだ。

「これから、私の相手が来るみたいですね。貴方のお兄様だとか。少しでも似ているところがあれば、安心できるんですけど」

あいつと僕の似ている所?

考えても、思いつかいない。

顔だって……両親が違うんじゃないかってくらい似ていない。

性格なんて、真逆だ。

「あいつは酷いやつです。きっとフェリシラ様は後悔を……」

「それ以上は止めて下さい。仮にも将来の婚約者を侮辱することは許しません。これは貴族としての勤め。私の感情はどうでもよいのです」

……。

「今日はとても楽しかったです。最後になるかもしれませんが、お達者で」

僕は何も言えなかった。

彼女の凛とした決意に体が固まってしまった。

ふと、思ったんだ。

今、彼女を連れ出して一緒に暮らす……。

だけど、彼女はきっと、それを望まない。

彼女はどこまでいっても公爵令嬢なのだから。

少し呆然としながら、屋敷を彷徨った。

どこに行けばいいのか……分からなくなっていた。

「ライル君。こんなところにいたのか」
「デルバート様……」

僕はとても悔しかった。

何も出来ない自分に怒りすら覚えた。

つい、涙がこぼれてしまった。

「それはフェリシラのために泣いてくれているのかな?」
「いいえ。自分の不甲斐なさが悔しくて」

「ふむ。それはよく分かる。私も憎きあいつを八つ裂きにしようと思うが、公爵という地位は弱すぎる。もっと上に行かねば……」

全然、分かっていないと思う。

だけど、ちょっとは泣いて、気が晴れた。

「ありがとうございます。僕とアリーシャは帰らせてもらいます」
「何を言う。君にも同席してもらうよ。そう、フェリシラの付き人してね」

そんな勝手な……

どうして僕がフェリシラ様の……。

「内々の話には部外者は付けられんのだ。フェリシラはあの体だ。体を支えてやる者が必要だろ? もちろん、私がやってもいいが……私は話をせねばならないからなぁ」

僕も部外者だと思うが……

「その点、君は元、とはいえウォーカー家の一員だった。いても、何も問題はあるまい? それともフェリシラには一人で歩けと酷なことを言うつもりかな? 君は」

くっ……。

「分かりました!! 分かりましたよ。でも、僕は何も話しません。何も聞きません。ただ、フェリシラ様の介添をする。それだけですよ」
「それで結構!」

本当にこれで良かったのだろうか……。

「ウォーカー男爵様、お着きにございます!」

そんな声が聞こえてきた。

「さあ、頼むぞ。ライル君」
「ええ」

僕はこの後、嫌な場面に遭遇することになる……。
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