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地方コンテスト

第9話 結果発表

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ついに装飾部門が始まった。

鍛冶師部門はやはりというべきか、思った通りの人が優勝していた。

僕もあの舞台に立ってみたいな。

「お兄ちゃん。あれも食べていい?」
「ダメだぞ。そろそろ始まるんだから」

といっても、アリーシャには暇なのか。

品を説明するのも僕がいれば、事足りるし……。

「やっぱり、これをあげるよ。好きなものを食べてきていいよ」
「いいの!? 金貨一枚も。ちょっと、行ってくる!」

本当にアリーシャはかわいいな。

妹がいたら、こんな感じなんだろうか?

僕に兄弟と言えば、最低な兄しかいないからな。

せめて、アリーシャにはいい兄でいないとな。

さて……。

「これより鍛冶師コンテスト、装飾部門を始めさせていただきます!」

アナウンスが流れ、ぞろぞろと観客が集まりだす。

といっても、先程の熱気は余り感じられない。

装飾部門はどちらかというと、実用性を重視していない。

鑑賞物としての価値に重点が置かれている。

そう言う意味では僕の剣はかなり不利だ。

実用性に全振りしているようなものだから。

切れ味、耐久度、重さ……その辺りを考えて、研いでいるから。

そんな中でも人だかりが出来ている場所があった。

「やっぱり、魔道具だけは別なんだな」

誰に言うわけでもなく呟く。

魔法という不思議な力を物体に封じ込めることに成功した技術だ。

それ事態は歴史が古い。

それを武具に使うという発想はなかなかない。

まだ、新しい技術のため、荒削りではあるが将来性は凄まじいだろう。

「これ、手にしてもいいですか?」
「ええ、もちろん」

僕のところにも何人かの人がやって来る。

装飾部門では変わった……何の飾り気もない普通の剣だ。

関心が集まるわけがないな。

しかも、皆、首を傾げながら去っていく。

何か、変なところでもあったのかな?

「ほお。君も出ていたか」

誰だ?

若く、顔の整った……というか、考えられないくらいカッコイイ人だな。

着ている服も上等なものだ。

どこかの貴族かな?

といっても、面識はない……よな?

「ウォーカー家を出ていったと聞いたが……」

随分と家の事情に詳しいみたいだな。

「あの……」
「剣を見ても?」

あまり人の話は聞かなそうだな。

「どうぞ」

剣の持ち方からして、やっぱり貴族だな。

王国剣術の型が自然と出ている。

「これはいいね。でも、変だな」

やっぱり、僕の剣は変なんだ……。

でも、どこが?

今の僕が持っている全てをぶつけた作品だ。

変なところは一つもないはずなんだけど。

「これは、ここの武具屋で買ったのかい?」
「はい。それを研いで……」

「ふむ……」

その人はゆっくりと剣を置い、しばらくじっと剣を見つめていた。

「そういうことか!」

いや、何が?

だけど、それから言葉が続くことはなく、立ち去ってしまった。

あの人は一体……。

それからすぐにコンテスト終了の合図が鳴った。

終わったかな?

観客の感触もあまりいい感じではなかったし、僕の剣はどこか変みたいだから。

でも、いいんだ。

最初からコンテストでいい結果を残そうなんて、無理な話なんだ。

もっと研鑽を詰んで、また挑めばいい。

でも……入賞しないと買い取り先が……

僕のマイ工房が……。

「お兄ちゃん。ただいま」

えっと……

「口の周りを拭いてやるから、こっちに来なよ」

一体、どれだけ食べたんだ?

口の周りが大変なことになっている。

「んとね!! あっちに……」

それからしばらくはアリーシャの食レポが始まった。

どれもがツバを飲み込みたくなるほど美味しそうだった。

「でもね。お店、もう終わりだって」

……残念だ。

また、来年参加したときにでも食べてみようかな。

「お待たせしました! これより鍛冶師コンテスト、装飾部門の入賞者を発表します!」

ついにやってきたな。

装飾部門は、鍛冶師部門と違って最終選考は存在しない。

出展数が違いすぎるから。

僕は祈るような思いで発表を見守る。

入賞さえすれば……

「第三位……」

ついに入賞者の発表だ。

「ヴェルーダン工房のマーティンさんの作品です!」

たしかにあの人の装飾は凄まじかったな。

金で剣の全身を染め上げ、そのうえ宝玉が取り付けられいた。

まさに宝だ。

貴族ならば、応接室に必ず飾りたいと思わせる一品だった。

「第二位……」

一位は絶対に無理だ。

なんとか、ここに……

「ブール鍛冶協会のロンスキーさんの作品です!!」

まさか、あの人が二位だって!?

魔道具で革新的な技術を見せつけて、誰よりも観客を集めていたのに。

燃える剣……それが代名詞みたいな素晴らしい武具だった。

ということは一位は誰なんだ?

いや、その前に……

終わったな。

僕の入賞はありえない。

「第一位は……」

もう帰ろうかな。

でも、ちょっと気になるな。

「個人での参加ですね……ライルさんの作品が今回の最優秀作品となります!」

どよめきが少し起こった。

いやいやいや……

あれ? 同名ってことはないよね?

信じられない。

そんな事は……嘘だよね?

「お兄ちゃん! おめでとう!!」
「あ……うん。本当に僕なのかな?」

そういった直後に案内の人に連れて行かれた。

まだ、信じられないよ。

僕のが最優秀だって?

そんな訳が……。

壇上に立たされ、三位の人から賞を受け取っていた。

大きなメダルのようだ。

そして、僕の番だ。

……ってこの人は。

「やあ、また会ったね」

誰なんだ、一体。

「これより本コンテスト主催のスターコイド公爵家当主様よりご挨拶を賜りたいと思います。デルバート=スターコイド様、お願いします」

……うそ、だろ?

この人……あの……

デルバート兄さん!?

いや、でも……面影が微塵も……

「今回も素晴らしい作品に……」

全く話が耳に入ってこなかった。

会うのは十年振りくらいかな?

子飼いの男爵家の宿命だろうか。

親貴族に子弟の奉公人を立てるのが通例になっている。

大抵は後継者にならない次男とかに、その役目が回ってくる。

もちろん、ウォーカー家からは僕が出された。

小さい頃の話だ。

その時に、何度か話したことがあったんだ。

やたらと、自分のことをお兄さんと呼べとしつこかった記憶だけが今も残っている。

その癖でつい、デルバート兄さんと言ってしまいそうだ。

今は公爵家当主……代替わりをしたとは聞いていたけど……

まさか、デルバート兄さんがなるとはな。

所詮は男爵の次男。

こんな情報すら耳に入ってこないとは……悲しいな。

「それでは皆さん、これでコンテストは終了となります! また、来年、お会いしましょう」

これで終わったな。

いや、始まったんだ!

僕のマイ工房計画が……!

あれ?

どうして、肩を掴まれているんだろう?

「ライル君。ゆっくりと話をしようじゃないか? ん?」

どうやら、計画の前に一波乱ありそうです。

まさか、あの人と再び会うなんて……夢にも思っていなかったんだ。
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