公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介

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王都編

138 打診?

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 王からの迎えの者はしばらくしてから、やってきた。

 いつもの執事ではない。

 衛兵のような重々しい雰囲気が漂う鎧姿の男だった。

「王よりのご命令で、お迎えにあがりました!」

 おお。

 さすがは王国の兵士というか……ものすごく洗練された動きだ。

「僕がロスティ。彼女がミーチャだ。そして、もう一人がティーサだ。……って、ティーサは行かないよね?」

 今回は王の護衛だ。

 いくらメイドとは言え、戦えない者を連れていくわけにはいかない。

 いやいや、ミーチャと離れたくないのは分かるけど……

「ロスティ、なんとかならないかしら?」

 そんなことを言ってもダメだ。

 王がいつものふざけた感じを封印してまできた依頼だ。

 本当に戦闘になるかもしれない。

「じゃあ、危なくなったら……」

 折れてしまった。

 ミーチャとティーサの二人がかりだと、どうも断れない。

「あの、三人でもいいですか?」

「はっ! ロスティ様に従うように指示を受けておりますから、ご自由に。我らはロスティ様とミーチャ様を命がけで護衛させて頂きます」

 ん?

 んん?

 どういうことだ?

 僕達は王の護衛を頼まれている……そして、衛兵が僕達の護衛?

 よく分からないんだけど。

「それについては王にお尋ね下さい。我らは命令を忠実にするだけです」

 ……そうですか。

「じゃあ、二人共行こうか」

「そうね。美味しいご飯が食べられるといいわね」

 それは同意だな。

「ミーチャ様。私がしっかりとお守りしますね!」

「それは要らないわ。ロスティがいれば、十分だもの。それよりもお茶の用意は?」

「もちろん、抜かりはありません!!」

 なんだろう……ものすごく緊張感がないな。

 まるで物見遊山。

 しっかりしなければ……

 案内され、進んでいくと王宮が目の前に姿を現した。

 実はこれほど近くで王宮を見たのは初めてだ。

 普段は許可がない者は近づくことが難しく、いつも遠目で見ているだけだった。

 なるほど……素晴らしい建物だな

 巨大と言うだけではない。

 細部にまで施された……

「いつまでも上ばかり見ていないで、行くわよ!」

 おっと、今日は護衛だ。

 物見遊山気分になってどうするんだ。

「ごめん……」

 衛兵がフッと笑ったような気もしたが……気のせいか?

 王宮に入り、王のいる間に向かった。

 本来は王の部屋に直接向かう者などいない。

 例え、上級貴族であっても。

 それほど王の権威は高い。

「おお!! 来たな、二人……いや、三人共。護衛とは言ったが、まぁ、私の側に控えていてくれればそれでいい」

 ……いつもの王だった。

 あれ?

 ちょっと真面目な顔は一体何だったの?

 すでにミーチャがテーブルを借りて、お茶を楽しもうとしていた。

 王は止める気もない様子だから、いいのかな?

「あの……」

「ロスティ君」

 話を遮られてしまった。

 話を聞いたほうが良さそうだな。

「実は私は考えていたのだ」

 この言葉が出るまで、じっと僕の目を見つめていた。

 何なんだ、一体?

「ロスティ君を後継者にしようと考えている」

 ……何を言っているんでしょうか?

 この状況は本気?

 いや、全然読めない。

 ミーチャは……すでにお菓子にまで手を付けて、楽しんでいる様子だ。

 これは……僕だけで対処をしないといけないようだ。

「仰っている意味が分かりません。これが冗談で言っているといいんですけど」

「ほお。王の座だぞ? それが手に入るかもしれないというのに……変わった男だな。ロスティ君は」

 確かに王の座の話だ。

 そう思うと、なにやら話が重くなってくる。

 言葉を吐き出すのが大変だ。

「この話は本気だ。といっても、気は変わるかもしれないが。ロスティ君は実に多芸だ。これほどの者は類を見ないだろう。そのような人物を市井で眠らせておくのは惜しいのだ。考えてみる気はないか?」

 王なりの評価なのだろうか?

 嬉しいと思ってしまうが、王の後継者となるとは話は違う。

「申し出はすごく嬉しいです。王の後継者というよりも認めてくれていることにです。ただ、僕には王になるほどの器はないと思います。今までだって、ミーチャや目に見える範囲の人しか救うことが出来なかった。いや、救えなかった人もいます。自分の未熟さは公国を飛び出してから、嫌なほど痛感しました」

 王は静かに聞いていてくれる。

 いつの間にかミーチャも手を止めて、こちらを見ている。

「僕の知っている王というものは、そういうものではありません。全ての民を救う……それが王だと思っています。僕にはそれを成し遂げるだけの実力はないと思います」

 だから……この話は……

「ふむ。偽らざる気持ちのようだな。やはり、気持ちの良い男だよ。ロスティ君は。王の座というのは、権力の塊だ。これに執着するものは、今まで何度も……いや、腐るほど見てきた。ロスティ君の様な真っ直ぐな者は、正直、目にしたことがない」

 そう言われると、なにやら照れくさい。

「だが、そういう者だからこそ、王にならねばならないと思う。君の思い描く王は、本当に立派だ。だが、私は違う。君の思い描く王から見れば、本当にちっぽけな存在だ。私は君のように救えた者がいただろうか? 私が即位してやってきたことは王宮を正常に戻すだけの作業だ。それで路頭に迷った者も大勢出た。これが王として正しい行いだったのだろうかと常々思ってしまう」

 そうじゃない。

 王は立派な王だ。

 王都がこれほど栄え、民が笑顔なのは王が民を想っているからこそだ。

 公国は……。

「まぁ、今回はいいだろう。ロスティ君の正直な気持ちに触れられたことで良しとしよう。だが、どうだろうか? 後継者の一人として考えてもらっては? 実は私が後継者に指定したからと言って、簡単になれるわけではないのだ、王というのは」

 それはそうだろう。

 王には息子がいないが、王女が複数人いる。

 おそらく、その婿が王となる。

 ちなみに王国は女王を認めていない。

 婿でなければ……

「ロスティ君。何を想像しているか、大体分かるが……今からはちと難しいな」

 子供を作る気はないようだ。

「でも、話がおかしくなりませんか?」

 僕を後継者とするためには王女ミーチャの婿という身分が必要となる。

 公国の事情を聞くと、ミーチャはまだ公国にいる。

 偽物だけど。

 しかも、王も公認している。

 そうなると、話が難しいことになる。

「それについては……これから考えていくようにしよう。そもそも、これは王国の問題。公国が入っているような話ではない。ミーチャはここにいる。そして、君もここにいる。それが事実なのだ。政治上の問題は、時間が解決するものだよ」

 なんだか、はぐらかされているような気がする。

 しかし、王の後継者になる気はないのだ。

「ふむ……ミーチャ、どう思うかな?」

 王がミーチャに話を振った。

 これは……嫌な展開しか想像できない。

「論外よ。それに私はロスティの気持ちを尊重するわ」

 お?

 てっきり、王に同調するかと思ったが……

「でもね。ロスティは王国に収まるタイプじゃないと思うわ。王の後継者なんて、小さすぎてロスティが可哀相よ」

「ほお。王が小さいか。なるほど……ミーチャも言うようになったではないか。だが、ミーチャはロスティ君が人の上に立つ存在になることは否定しないのだな?」

 同意してくれるな……

「もちろんよ。ロスティはどんな人でも受け入れてくれる国を作ってくれるはずよ」

「素晴らしいな。王国では成し遂げることは無理かもしれない。ふむ……しかし、そうだとして。経験がなくば、虚しい話ではないか?」

「そうね……経験は必要かもしれないわね」

 話の流れが王の言うとおりになっているのが怖い。

 ここは話を遮ったほうが良さそうだ。

「何度もいいますが……僕は王になる気は……」

「リマールの街」

 ん?

「リマールの街だ。これをロスティ君にやろう」

 んん?

「そこで統治の勉強をするといい。気候もいいし、港町だ。食材も手に入りやすい。それにダンジョンもあるぞ。そこの統治官になれば、どんなことも出来るのだぞ」

 ……食材?

 ……ダンジョン?

「興味を持ってくれたか? さすがは勉強熱心なロスティ君だ。そういえば、希少な食材があると聞く。もちろん、市井には出回らないものだ。この意味が分かるかね?」

 市井に流れないものは貴族に回る。

 つまりは……その地位になると希少な素材が手に入りやすい?

「ロスティ君の心はほぼ決まったようだな。ミーチャはどうだ?」

「私は構わないわよ。ロスティの気持ちに従うもの。リマールの街……いいわね」

「よし!! 決まりだ。いや、話を受けてくれて、助かった。さて、これからラグスター公爵とそのリマールの街について話をしに行こうか」

 どうやら、嫌なことに巻き込まれてしまったようだ。
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