公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介

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王都編

132 勘違い?

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 ヤピンからの急な勧誘に首を傾げるしか無かった。

「ヤピン。何を言っているんだ? 教会に鞍替えってどういう意味だ?」

「どういう意味もねぇ。そのまんまの意味だ。冒険者ギルドをやめて、教会に移らねぇかって話だ。もちろん、タダとは言わねぇ。それなりの地位も保証する。どうだ? 悪い話ではないだろ?」

 ……ルーナを誘拐したのは……教会だったのか?

「ルーナを知っているのか?」

「あん? もちろん知っているに決まっているじゃねぇか。何度も会っているんだからよ」

「そうじゃない。教会は知っているのか?」

「おいおい。そんな怖い顔するなよ。あの獣人は教会の回復魔法師だったんだろ? 知っているんじゃねぇのか?」

 教会は僕とルーナの関係を知っている。

 なにせ、僕が購入したんだからな。

 ヤピンがいきなり勧誘してきたのも、背後にルーナがいるからだとしたら、話の筋は通る。

 ここでヤピンから情報をなるべく取るんだ。

 もしかしたら、色々と知っているかもしれない。

「なんで、急に勧誘なんか? サンゼロのときは、そんな話は全くしたことがなかったじゃないか」

「あ? ああ。まぁそうだな。なんというか……ロスティには教会が合っていると思うんだ。教会はなんといってもスキルの扱いでは、王国随一だ。スキルマニアのロスティにはぴったしだろ?」

 ヤピンの目だけを見つめる。

 やはり何かを隠しているな。

 いつものヤピンから感じる狡猾さが感じられない。今はただ、焦りを感じているだけだ。

 ルーナを教会が誘拐しているとすれば……。

 待てよ。

 ヤピンはよくスキル屋と教会は違うと言っていた。

 それはヤピンの矜持みたいなものだ。

 しかし、教会に勧誘するヤピンからはその矜持がないのだ。

 不自然なところがようやく分かった。

「ヤピンは教会の人間になったのか?」

「おいおい。嫌なことを聞くなよ。俺はスキル屋だ。教会の人間なんて言わないでくれ」

 どういうことだ?

 訳が分からない。

「僕が教会に所属すると、ヤピンに良いことでもあるのか?」

「まぁ……な。俺もどんな見返りが来るか、まだ半信半疑と言ったところだが……やる価値はあると思っただけだ」

 なるほど……見えてきたぞ。

 どうやら、ルーナを誘拐したのは……スキル屋だ。

 スキル屋は教会の実質的な下部組織だ。

 下部組織というのは、上部組織への上納の大きさによって立ち位置が決められる弱い存在だ。

 一方、上納が一度でも大きくあげることが出来れば、地位はそれなりに安泰となる。

 つまり、僕達のようなS級冒険者だ。

 S級冒険者の所属を教会に鞍替え……つまりは上納することでスキル屋の地位を上げる。

 そのおこぼれがヤピンにもやって来るという話なのだろう。

 半信半疑というのは、それなりの報酬を約束されているが、実際に支払われるかわからないと言ったところか。

 教会から得られる利益次第だからな。

 無理もない。

 しかし、ここまで見えてくると次の手は……

「僕はヤピンにはすごく感謝をしているんだ。出会いがなければ、今の僕はないと言っても過言ではない。だからこそ、目先の利益に惑わされないで欲しい。ヤピンはずっとスキル屋として、僕のようなものを救ってほしいんだ」

「おめぇ……そこまで俺のことを……。わかったぜ。今回は俺の負けだ。なかなかいい話だったが、お前の意思を尊重しよう」

 やはり、ヤピンは話が通じる。

 ルーナを誘拐してまで、僕達を上納するということに抵抗があったのだろう。

 しかし、心配にもなるな。

「裏切ることにならないか?」

「なに。その時はその時よ。そうだな……そうなったら、ロスティに面倒でも見てもらおうか?」

 そうだな……ヤピンは今、すべてを捨てようとしている。

 そんな男にしてやれることがあるならば、僕は何でもしよう。

 組織を裏切るというのは、それほど重たい決断なのだ。

「ありがとう。ヤピン」

「やめろや。しばらくは、あいつらも動くことはねぇから安心しろ。俺も当面は大丈夫だろう」

 スキル屋……なかなか慎重な組織なようだな。

 こういう組織はボロが出にくい。

 ……待てよ。

 ヤピンが王都にやってきているのも不自然だ。

 タイミングが良すぎる。

「ヤピン。王都でなにをやっているんだ?」

「あん? 見て分からねぇのか? スキル屋をやっているんだよ!」

 つまり、僕達を追ってきたということか。

 なるほど。

 どうやら僕達の動きは常に監視されているようだな。

 こうなると迂闊に行動をすれば、ルーナに危険が及ぶかもしれない。

 ヤピンからどうにかして、情報を聞き出そうとも思ったが、慎重に行動しなければならなそうだ。

「ヤピン。もしルーナに会うことがあったら、僕達は決して諦めない、と伝えておいたもらえないか?」

 これが今の僕が出来る精一杯のことだ。

 王やギルマスが動いてくれている。

 今は悔しいが、じっと耐えるしかない。

 ミーチャも子猫と遊んで、気を紛らわせているに違いない。

 心の中では、闘志が燃え盛っていることだろう。

「あ? ああ。まぁ、会ったらな。といっても行方不明なんだろ? 俺が会うことはないと思うぜ」

 どうやらヤピンより、もっと上層がこの件に関わっているようだ。

 ヤピンは何も知らない可能性はかなり高いな。

 下手な行動に出なくて正解だった。

「ヤピン。悪かったな。素直にヤピンの誘いに応じていれば、良かったんだけどな。だけど、教会に行くことは出来ないよ」

 教会はルーナ誘拐に関わっていないという確証がない以上は、そんな組織に入ろうとも思わない。

 それにスキル屋にはしばらく近寄らないほうがいいだろうな。

「なに、気にするな。それより、お前の言葉、嬉しかったぜ。スキル屋で働いていて、心が温まったことは初めてだ。ありがとよ。ルーナの嬢ちゃん、早く見つかるといいな。俺もなにか話が聞けたら、教えるぜ」

 なんていい人なんだ。

 自らの組織の中枢が関わる事件に首を突っ込もうというのか。

 それも僕達のために……。

「ロスティは、色々買ってくれたからな。それくらいの礼くらいはな」

 スキル屋は今回の事件で組織がなくなるかもしれない。

 しかし、その時はヤピンだけでも……なんとしても助けてやる!

 心に誓った。

 子猫に別れを告げたミーチャ。

 新しいスキルを手に入れて、悦んでいる王。

 そして、ルーナの事件をきっかけに色々な優しさに触れて、心が震えている僕。

 三人は、王宮に足を運んでいた。

「ところで、ロスティ君。先程の話だったんだが……」

「ええ。かなり核心部分まで踏む込めたと思います。まさか、スキル屋が誘拐に関わっているとは……」

「うむ。その事なんだが……スキル屋は全く関与していないんだよ。大方、ロスティ君の力が純粋にほしいと思った教会が、伝手を持っている店主に頼んだっていうのが話の筋書きなんじゃないかな?」

 ん? 

 ということは、ヤピンは本当に、ただ勧誘しただけ?

「そうだね。まぁ、店主はただで動くような男では無さそうだからね。まぁ、なにかしらの地位を約束でもされたんじゃないのかな?」

「だったら、なんで、あんなに引き際が良かったんですか? もうちょっと粘ればいいのに」

「うむ。ここはどこだ? 王都だ。そして、店主は王都に栄転だ。実は彼はそれで満足しているんじゃないかな?」

 ……どこで間違っていたんだ?
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