公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介

文字の大きさ
上 下
114 / 142
王都編

114 追われる者

しおりを挟む
 一体どうなっているんだ?

 僕とミーチャの姿を認識できていないみたいだ。

 まるで他人のように……

「ミーチャ。まさか……」

「それしかないみたいね」

 もう少し先だと思っていた魔道具の効力が無くなってしまったようだ。

 そうなるとここにいるのは、皆が知っている僕とミーチャではない。

 二人の名を騙る他人だ。

 しかも、S級を騙っている。状況はかなり悪いな。

 ここで、これ以上話を長引かせるのは不利になるだけだ。

 一旦、引き下がるしかない。

 そう思っていたが、周りは簡単に引き下がるつもりはないみたいだ。

「てめぇ、恩人であるロスティさんを騙るとはいい度胸だな! 生きてサンゼロから出ると思うなよ」

「俺達にうまい飯を作ってくれる人の物を盗むなんて……絶対に許さねぇ!」

「格好まで似せやがって。どこまでふざけてやがるんだ」

 周りから非難を浴びせられるが、僕を思ってのことと思うとなんとも複雑な気分だ。

 ただ、ガルーダだけはじっとこちらを見てくるだけで言葉を発さない。

 もしかして……

 考えようによっては姿が違う僕達のことに気づくかも知れない。

 一緒に冒険をして、苦楽を共にしたのだ。雰囲気と言うか、何かを察するところがあるかも知れない……

 するとガルーダが一歩近づいてきた。

「おめぇ……」

 やっぱり!

「不思議と惚れたぜ」

 は?

「俺が一目惚れするなんて、ありえねぇ。だが、どうも気になっちまう。おめぇ、一体なにもんだ?」

 これにどう答えればいいんだ?

 なぜか、ガルーダだけには正体を知ってほしくないと感じてしまう。

 とにかく逃げる!!

「ミーチャ!!」

「ええ!!」

 ミーチャの幻影魔法が発動し、僕の分身を無数に作り上げていく。

 ただ、人に触れた瞬間に影は消滅していってしまうため、囲まれている現状では効果が薄い。

 それでも惑わされる者は少なくない。

 その時に出来た人垣が割れるように一瞬の隙間が生まれた。

 ミーチャの手を取り、その隙間に全走力で駆け抜けた。

 目には人が止まったように動く。

 隙間を埋めようと人垣が迫ってくる。

 それでも二人が通り抜けるには十分な時間を与えてくれるようだ。

 ギルドの外まで飛び出すと一度振り向いた。

 追手はまだ来ない。

「ミーチャ。もう一度駆けるぞ」

「待って。どういうつもりよ! 腕が取れそうだったわよ!」

 何を言っているんだ?

 ちょっと引っ張ってくらいで、大袈裟な。

 痛そうな表情を浮かべたミーチャは腕を動かしてから、揉むような仕草をした。

「全く。本当に人間離れしてきたわね。ロスティは。でも、おかげで切り抜けられそうね。とにかく、全速力で町の外まで逃げましょう」

 人間離れという評価は不本意だが、今は聞かなかったことにしよう。

 ミーチャの提案に頷き、手を差し伸べたが、断られてしまった。

 ……ショックだ。

 町の外まで駆けていくのだが、さすがは街を知り尽くした冒険者だ。

 どこで回り込まれたのか、行く先々で冒険者と出会うことになった。

 相手はどこまでも僕達を追いかけてきて、捕まえようと攻撃を仕掛けてくる始末だ。

 こちらは仲間だった冒険者を傷つける気はない。

 逃げの一択だ。

 しかし、それでも徐々に追い詰められ、逃げ場を完全に塞がれてしまった。

 大通りから少し入った小道に僕達は佇んでいた。

「ロスティ、どうする?」

「こうなったら……」

 突破するために木聖剣を握りしめた。

「本気なの?」

「そうするしか……僕達のことをどうやって説明すれば。もしかしたらギルマスなら分かってくれるかも知れないけど、時間がかかりすぎる。その間にルーナが……だから……」

 こんな手段を取らなくて済むのなら、取りたくない。

 するとミーチャが手を握ってきた。

 木聖剣を握る力がふっと抜けた。

「そんなに思い込まないで。私もいるんだから。何があっても、私達は一緒よ。ロスティが力を使うなら、私も……」

 ミーチャも出来ることなら仲間を傷付けたくないと思っているはずだ。

 そんなに苦しい顔を見たくない。

「ありがとう。ミーチャ。出来るだけ最小限に、そして傷はなるべく負わせないように」

「そんな事出来るのかしらね。もし怪我を負わせたら、あとで謝りに来ないとね」

「ああ。その時はとびっきりの料理を持っていかないとな」

 冗談が言えるほどには緊張が解けてきた。

 やっぱりミーチャが側に居てくれると、何でも出来るような気がしてくる。

「行こう」

「ええ」

 ゆっくりと大通りに向かって、歩き始めた。

 大通りに出れば、冒険者に見つかるのもすぐだろう。

 そうなれば、戦闘はすぐに始まる。

 目的は町の外への脱出。相手にするのは最低限。そして、なるべく武器破壊に留める。

 ……できるかな?

 大通りに出ると、案の定、冒険者が発見のコールを鳴らす。

 笛のような音が周囲に木霊した。

 冒険者が集まってくるだろうが、そんな事を悠長に待っている必要はない。

 すぐに移動を開始したが、さっき逃げられなかったのに、今回は逃げられ……る訳がない。

 すぐさま包囲されてしまう。

「観念しろ!!」

「潔く捕まれ!!」

 周りから声が聞こえてくる。

 かつての仲間からの言葉は心が痛む。

「お前たちを攻撃したくないんだ!! 頼むから……そこを開けてくれないか」

 無駄だと思っていても、言葉を出さずにはいられなかった。

「うるせぇ!!」

「ロスティさんを騙った分際で、調子いいこと言ってんじゃねぇ」

「てめぇごときに俺達をどうにか出来ると思ってんのか?」

 やはり……

 木聖剣を握ると……何だ?

 周囲がにわかに騒ぎ出す。

「ミーチャ、何事だ?」

 ミーチャは首を傾げるだけだった。

 冒険者の視線は依然として僕達に向けられているが、大通りの奥の方から絶叫のような、大声が聞こえてきて、次第にこちらに近づいてくる。

 その正体が徐々に明らかになってくる。

「なんだ……あの馬車は」

「分からないけど……こっちに向かってきているみたいね」

 馬車は僕達の周りに出来た人垣をもろともせずに突っ込んできて、目の前で止まった。

 その異様な状況にさすがの冒険者も手出しせずに、傍観しているだけだった。

 僕もその一人だ。

 馬車がなぜ?

 扉がゆっくりと開くと……そこには仮面をかぶった人が立っていた。

「二人に問う。乗るや否や?」

 なんだ、こいつは……でも……

「逃してくれるのか?」

「無論」

 だったら……

「もちろん乗る! ミーチャ、乗るぞ」

「うん!」

 乗り込むと同時に、冒険者が事態を飲み込めたのか、すぐに馬車めがけて殺到し始めた。

 しかし、この馬車の馭者は優秀なようだ。

 そんな異常事態で興奮する馬を落ち着かせて、すぐに馬を走らせた。

 こうなると追いつける冒険者はいない。

 馬車の扉から顔を出し、遠ざかる冒険者とサンゼロの街をじっと見つめていた。

「さようなら。サンゼロの街……」

 干渉に浸っていると、後ろから咳払いが聞こえてきた。

 振り向くと仮面の者とミーチャが対面に座っていた。

 ミーチャが結構落ち着いていることに驚く。

 とにかく、僕も座ろう。

「助けてくれて、ありがとう。僕は……」

「知っている。ロスティ君だろ?」

「なんで……」

 ミーチャがフフッと笑って、仮面を勝手に剥ぎ取ってしまった。

 仮面の下には見知った顔があった。

 王だった。  
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹
ファンタジー
 初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。  一人には勇者の証が。  もう片方には証がなかった。  人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。  しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。  それが判明したのは五歳の誕生日。  証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。  これは、俺と仲間の復讐の物語だ――

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...