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ダンジョン編

109 閑話 ウエイトレスのセレス

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 私はセレスティーナ。

 ちなみにセレスティーナって貴族みたいな名前って言われるけど、孤児院出の庶民よ。

 なんで、そんな名前が付けられたかっていうのは分からないの。

 院長先生が、「あなたはこれからセレスティーナと名乗りなさい」って言われて、「はい」と答えただけ。

 セレスティーナはそれから私の名前になったの。

 といってもセレスティーナって呼ぶ人はいないけど。

 皆からはセレスって呼ばれているの。

 そして、今はサンゼロにあるギルドの食堂でウエイトレスとして働いているの。

 最初はすごく辞めたかった。

 ウエイトレスって言っても注文を受けるだけじゃなくて、力仕事も多かったから。

 それに男の人ばっかりっていうのもね。

 一応、冒険者には女の人も多いけど、なぜか食堂で食事をする人は少ないの。

 理由は多分……

 やっぱり始まった。

 男の人はなぜか、決まってお酒を飲むと裸になるのかしら。

 なんで、裸になるのかしら?

「おぃーい。持っていってくれ」

 声を掛けてきたのが料理長。

 すごく料理が得意で、食堂の一切を取り仕切っている人。

 あら? 珍しいお酒が注文されたのね。

 実は私はすごくお酒が好き。

 飲む方でなくて、知識が好き。

 だって、お酒って凄い種類があるの。

 しかも一つの種類だけでも、味が全然違う銘柄があるし、飲み方だって……

 でも、今はあまり語らないようにしましょう。お酒が温くなってしまうから。

 注文されたお酒を持っていくと、入り口のベルが静かに鳴った。

 お客様が来た合図ね。

「いらっしゃいませ!」

 どうやら来たのは二人。男女の組み合わせの冒険者のようね。

 二人はテーブルに腰掛けて、キョロキョロと周りを見渡している。

 初めて見る顔……

「何か、ご注文は?」

 男の冒険者はやっぱり初めてみたい。

 ギルドの食堂が、というよりも冒険者そのものは初めてみたい。

 おすすめメニューを教えると、すぐにそれを注文してきた。

 お連れの女性も同じものを。
 
 一応、お酒の案内もしておく。とはいえ、駆け出し冒険者でお酒を注文される方って殆どいないんですよね。

 だって、高いですからね。

 もちろん安い酒だってありますよ。ただ、酒精が弱いせいで酔えないんです。

 結局、たくさん飲むからそれなりのお値段に。

 女性の方が男性に強請っているようです。

 男性はこの女性には弱いのか、すぐに了承してしまいます。

 尻に敷かれている男性はあまり好きではありません。

「あれ……四年もの?」

 聞き間違いでしょうか?

 四年ものと言いました?

 冗談ですよね?

 火竜の酒……別名、四年もの。通の人だけが使う別名をさらっという女性。

 只者ではありません。

 しかも、破格の値段。とても駆け出し冒険者が払えるような額ではありません。

 もしかして知らない? 前金であることを説明すると、男性が値段を聞いてきた。

「百万トルグになります」

 男性の目が女性を捉えます。

 それだけで男性が惜しげもなく百万トルグを支払ってくれました。

 なんなんでしょう?

 この二人は。

 それからこの二人がロスティさんとミーチャさんという名前が分かりました。

 別に私が聞いたわけではありませんよ。

 勝手に耳に入ってきたのです。

 F級からB級に異例の出世をした冒険者。ロスティとミーチャ。

 そこで勇気をだして、話しかけることにしました。

「ミーチャさん。B級おめでとうございます」

「ありがとう。セレス」

 なんと、私の名前を……別に不思議ではありませんね。名札をつけているのですから。

「ところで、あそこにあるのは蔵元ヨムゾーじゃないかしら? しかも先代よね?」

 目眩がしそうです。

 まさか、あれに目をつけるとは。

 今でこそ蔵元の主人が代替わりし、パッとしませんが、その先代はそれはそれは素晴らしいお酒を作っていました。

 その時のお酒は非常に価値が高く、入手も困難を極めます。

 なんとか入手したのですが、蔵元ヨムゾーと聞くと誰も見向きもしません。

 作り手まで知っている人なんていませんからね。

「ミーチャさん。本当に最高ですね!!」

「ありがとう。いくら?」

「申し上げにくいのですが……200万トルグ……」

 ミーチャさんがロスティさんに目を向けただけで、代金が支払われました。

 そこでふと思いました。

 もしかして、ロスティさんはただの尻に敷かれた男性ではないのではないか、と。

 お酒に非常に理解があって、ミーチャさんを通じて知識を得ようとするお方なのではないでしょうか。

 だとすれば……

「ロスティさんは、どのようなお酒が好きなんですか?」

 この答えで全てが分かります。

 しかし、出てきた答えはかなり意外でした。

 まさかの公国産のお酒。

 外国のお酒がご専門でしたか。

 なるほど、外国の次に目をつけたのが王国産という訳ですね。

 やはり、この二人は凄い!!

 私の同志と言える方達との出会いが出来たかも知れません。

 私がロスティさんを見つめていると、ミーチャさんがなぜか殴っていました。

 もしかしたら、お酒の情報を秘匿にしていたのをうっかりバラしてしまったのを怒られているかも知れません。

 ああ、私も仲間に加わりたい。

「あの……変なことを聞くようですが、仲間に加えてもらえませんか?」

 しかし、ミーチャさんは即断でした。

「ダメよ。女は……いえ、それにセレスには別の道があると思うの」

 やはりそうですか。知識のロスティさん、味のミーチャさん。

 この二人で全てを兼ね備えているのに、私が入り込む余地なんてないですよね。

 それにしても……別の道?

 どういうことでしょう?

 もしかして……

「もし、その別の道を極めたら、そのときは仲間にしてもらえますか?」

「そうね……条件はつけさせてもらうけど、それで良ければね」

 私はどんな顔をしているでしょうか?

 こんなに嬉しいことはありません。

 お酒にこれほど理解のある方は初めてです。

「ありがとうございます!!」

「ねぇ、ロスティ。あのスキルを渡したら?」

 何を言っているのでしょう?

 なんだかんだ言っているとロスティさんから『発酵職人』というスキルを頂きました。

 本当になんなんでしょう?

 この二人は。

 でも、これで夢が実現できるかも知れません。

 『接客』スキルしかなかったから、諦めていたけど……

 でも、『発酵職人』スキルで確信しました。

 ミーチャさんとロスティさんが応援してくれているって。

「私、絶対に極めてみせますね!」

「良い心掛けね」

 この日から私の人生は大きく変わりました。

 まずは軍資金。

 とにかく働いてお金を稼ぎます。

 そして、どこかに修行に。

 そしていつか自分のお酒を作ってみせます。

 そのお酒は出来れば、自分のお店で売ってみた。

 そこでミーチャさんとロスティさんを呼んで、一緒にお酒の話を……。

 待っていて下さい!


Side ロスティ

 セレスというウエイトレスが嬉しそうに去っていった。

「ミーチャ。どうしてスキルを渡したの?」

「だって、どうせ使わないじゃない。それにあの子の料理が上達したら、仲間に入れるのも悪くないじゃない」

 別の道があるって言ったのは、断る方便と思っていたが、要らないスキルを渡す口実に使っていたのか……さすがだ。

 まぁ、料理が出来る人が多いに越したことはないけど、一応冒険者だよね?

「いいのよ」

 まぁ、いいか。

 しかし、『発酵職人』が『料理』スキルと相性が最悪だったのは意外だったな。

 『料理』スキルのほうが熟練度が高いせいなのかな?

 『発酵職人』もそれなりの熟練度になっているから売るにも売れないし、かといって相性が悪いスキルを持っているわけにもいかずに困っていたんだよな。

 渡せたのは結構嬉しかった。

「でも『発酵職人』スキルで何の料理を作るのか、楽しみだな」

「決まっているじゃない。パンよ。パン。それでロスティのサンドイッチが食べたいわ」

 ふむ。悪くないな。

「そういえば、仲間にする条件って?」

「ロスティには教えないわ」

 なんだ、それ。

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