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ダンジョン編

動かない敵

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 攻撃の手が思いつかずに立ち尽くしてしまった。

 その瞬間、背中に大きな衝撃を感じて、吹き飛ばされた。

 勢い良く吹き飛ばされたが、不思議と痛みは感じなかった。

「何が起きたんだ!?」

 ギガンテスを見ても動いた様子がない。

 立ち上がると、何かが落ちる音が聞こえた。

「これは……」

 ガルーダ石だった。

 つまり、さっきの衝撃はガルーダの魔法?

 しかし、なぜ?

 ガルーダとミーチャの方を見ると、何かを叫んでいる?

 口と手だけが大きく動いているが、声が聞こえない。

 どういうことだ?

 どうも様子が可怪しい。

 攻撃が当たらないギガンテス……

 それにミーチャ達の様子……

 とにかく、ミーチャ達のところに向かったほうが良さそうだな。

 ギガンテスの様子に注意しながら進んでいくと、再び強い衝撃に吹き飛ばされてしまった。

 また、ガルーダ石だ。

 どういうつもりなんだ?

 釈然としない気持ちでミーチャの下に向かった。

 その間にも何度も吹き飛ばされながら……

 怪我はないものの、衣類はボロボロになってしまった。

 ギガンテスは未だに動く気配はない。

「ガルーダ。どういうつもりなんだ!!」

 大声で叫んだつもりだったが、ガルーダもミーチャも首を傾げて、何かを話しているが聞こえない。

 何なんだ、この状況は。

 ミーチャが手を伸ばしてきて、僕の体を触れた瞬間、周りの霧が一気に晴れたような気がした。

「ロスティ!! 一体、何をやっているのよ!!」

「それはこっちの……」

 すると後ろから大きな足音が聞こえ、振り向くとギガンテスが側まで近づいてきていた。

 どういうことだ?

 かなりの距離があったはずなのに。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 ここから離れなければ。

 ミーチャの手を握り、僕は離した。

 すると再び霧が周りを覆い、ギガンテスの姿は遠くになった。

 ギガンテスに動きはない。

 どうなって……。

 再び、ガルーダ石によって吹き飛ばされた。

 そこでようやく分かりかけてきた。

 ガルーダは決して、僕への嫌がらせをしている訳ではないことを……

 だとすれば、やるべきことは……

「ミーチャ!!」

 ミーチャに手を伸ばし、繋がること。

 やはりだ……

 ギガンテスがすぐ近くにいる。

 ここまで来ているのに、ミーチャ達を攻撃しないところを見ると狙いは僕か?

「ミーチャ! 手短に言うぞ。これが解けるか?」

「やってみるわ」

 やはりミーチャもこの状況で分かったようだ。

「ガルーダ。どうやらギガンテスの狙いは僕だ。攻撃をされたら、さっきみたいに吹き飛ばしてくれ。僕には奴が見えない……」

「だと思ったぞ。攻撃をされているのに突っ立っているだけなんだからな。回避は任せておけ。俺のガルーダ石の……」

 ここまで話を聞けば十分だ。

 ギガンテスの攻撃は広範囲。

 ここにいてはミーチャ達にも被害が出てしまう。

 『無限収納』のポーションを確認する。

 少ないな。

 一本を取り出し、飲みながらミーチャ達と距離を取る。

「来るなら来てみろ!」

 と叫んではみたが、見ている景色はギガンテスが一歩も動かないでいるだけのものだった。

 こういう時は心の目で見ろと言われることがある。

 剣術の修行中、神経を研ぎ澄まし、あらゆる雑念を払い、空間と一体となるという修行をしたことがある。

 そして、空気のゆらぎを感じることを極意とする心眼だ。

 今こそ、それをやる時だ……。

 心を落ち着かせる……。

 ギガンテスは必ず近くに来ている。

 もしかしたら攻撃の体勢に入っているかも知れない。

 だが、ここで目を瞑ったとしても何か変わるわけではない。

 敵前で静かに目を閉じ、全神経をすべて空間の把握に傾ける。

 そして、ギガンテスの動きを……。

「ぐふぇ!!」

 ガルーダ石の容赦のない吹き飛ばし攻撃が炸裂した。

 もう一度だ……

 本来、ギガンテスは動きが遅いモンスターだ。

 次の一撃までに時間があるはずだ。

 再び、全神経を集中する……

 なるほど……『戦士』スキルは大したものだな。

 修行時代とは比べ物にならないほど、空間と一体となる感覚に襲われる。

 自分が自分でない。

 なにか違うものになったような……いや、自分の存在が空気にでもなったような感覚だ。

 ……分かる……何となくだが……

 大きな空気の乱れが目の前に迫っている。

 遠くにも乱れがある……ミーチャ達か?

 まずはギガンテスだ。

 木聖剣を握り、駆け出した。

 目を瞑りながら戦う。

 本来であれば、自殺行為にも等しい行為だが、どうせ目を開いていても目の前にはギガンテスなどいないのだ。

 ならば感覚だけが頼り。

 空気の乱れが更に大きくなった。

 攻撃の体勢に移ったのか?

 だとしても、今の僕のほうが早いはずだ。

 乱れに対して、斬撃を繰り出した。

 切っ先に何かが触れたような気がした。

「手応えあったな」

 しかし、これだけではギガンテスにダメージが与えられたとは思えない。

 だったら……何度でもやってやる。

 再び、全神経を集中して攻撃を繰り出す。

 何度も……何度も……

 しかし、致命的なダメージを与えることが出来ない。

 心眼をもってしても、ギガンテスの細かい動きまで察知することは出来ないのだ。

 僕が未熟だからだ。

 待てよ。何か目印でもあれば……

 やれそうなことを考えるが……これをするためには今のままでは絶対に出来ない。

 目を見開き、ガルーダに近づき、手を取った。

 ミーチャは今、何かをやろうとしている。邪魔をするわけにはいかない。

「ガルーダ。一撃だけは回避をさせなくていい」

「さっきまでとは打って変わって、いい動きだったな。なんとかなりそうだな」

「分からない。僕にはギガンテスは見えていないんだ。だけど、次で決めてみせる!!」

「一体、どうやって、や……」

 話は十分だ。

 ガルーダの手を振り払い、ギガンテスがいると思う場所に近づく。

「お前の存在だけは手に取るように分かるよ。さあ、攻撃をしてくるんだ」

 言葉に反応したかどうかは分からないが、空気の揺らぎが大きくなった気がした。

 木聖剣を地面に突き刺し、身を屈めた。

 大きな衝撃に備えるために……

 次の瞬間、大きな衝撃が横からやってきた。

 なんとか吹き飛ばされなかったな……かなり痛いが、防御にすべてを傾けていたおかげでダメージは少ない。

 見えないが……確実に正面にギガンテスがいるはずだ。

 木聖剣を地面から抜き、一気にギガンテスとの距離を詰め、全力で突きを繰り出した。

「いけぇ!!」

 木聖剣から、なにかを突き刺したような感触が手に伝わり、手を離した。

「ぐぇぇぇ!!」

 目を見開き、虚空の先から雄叫びのような声が発せられていた。

「上手くいった」

 何もない空間だが、木聖剣だけがぷらぷらと動いているのがハッキリと見えた。

 残るは……ミーチャから預かった魔法剣を取り出し、魔力を流し込む。

 イメージは公国初代様が使ったと言われる聖剣……

 公国でずっと見てきた聖剣が光を帯びて、手の中にあった。

 やれる……

 ギガンテスを一刀両断した。

 それだけはハッキリと分かった。

 小さな断末魔が聞こえ、ギガンテスを葬ることが出来た……と思う。

 未だにギガンテスが遠くで突っ立っているけど……。

 ……なぜ、幻覚が解けないんだ!?
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