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ダンジョン編

81 牢屋の階層

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 階層を降りると岩場から牢屋へと変わった。

 城の地下牢と言う感じが広がっている。

 かなり不気味だ。

「どうやら牢屋の階層のようだな。こういう所ではアンデッド系のモンスターが出やすい。とにかく物理攻撃で倒すのは難しいぞ」

 アンデッド、つまりは不死の存在ということか。

 たしかアンデッドは生命がない代わりに、核と言われるものがあるという。

 そこを攻撃すれば、朽ちてしまう。

 つまりアンデッドを倒すためには核を見つけ出し、それを破壊する。

「核はどこにあるんだ?」

「モンスターごとに核の場所は違うが、まぁあまり気にするな。俺が知っている範囲なら教えてやる」

 本当に有り難いな。

「お? 早速お出ましだな。あれはスケルトンだ」

 歩く骸骨だ。

 スケルトンには生者の怨念が宿っていると言われるが、ダンジョンに出てくるモンスターでもそういうものがあるのだろうか?

「あの淡く光っている物が見えるか? あれが核だ。どれ、見本を見せてやる」

 目の前には十数体のスケルトン。

 ガルーダは土魔法の詠唱をする。

「むう……ストーンバレッド!!」

 無数の石つぶてがスケルトン達の股間に炸裂する。

 ちなみにスケルトンの核は股間にある。

 股間を撃ち抜いていく様は、相手が骸骨だろうが痛々しく感じてしまう。

 もし怨念というものがあるとしたら、こんな倒され方をされたら、ますます怨念が深まりそうな気もするが……

 核を撃ち抜かれたスケルトンはもろくも崩れ去り、ドロップ品だけになった。

 しかし、疑問がある。

「ガルーダ。なぜ、全員を攻撃しないのだ?」

「見て分からないのか?」

 全く分からない……

「男だ……あの中には男がいる。人型と思ってしまうとなぁ、それを攻撃するのはな……」

 聞いても、全く分からない。

 えっ!? つまり、どういうこと?

 男スケルトンは助けて、女スケルトンだけは股間を撃ち抜くってこと?

 ない!! それはないだろ!

 しかし、こういう風に言い出すと、絶対に曲げないのがガルーダだ。

 仕方がない……核の位置が分かれば、なんてことはない。

 スケルトンは動きも遅く、攻撃さえ回避できれば恐れるような相手ではない。

「ミーチャ、頼む」

 ミーチャの幻影魔法が発動する。

 分身体は軽く30体は超える。

 このダンジョンで闇魔法の精度は格段に上がっている。

 剣の形になった木聖剣でスケルトンの股間めがけて水平斬りをしていく。

 その度に後ろからガルーダの呻き声みたいのが聞こえてくるが、気にしないようにしよう。

 ドロップ品を回収して、次に向かうことにした。

 ちなみにドロップ品は骨だった。

 正直、スケルトンの骨と言われても、得体の知れない骨だけに触るのを躊躇してしまった。

 『料理』スキルがこの骨からいい出汁が取れると教えてくれるのだが……なんか嫌だな。

 人型のモンスターの骨……かなりの葛藤だった。

 次々に出てくるアンデッド系モンスターだったが、ガルーダのアドバイスとミーチャの幻影魔法で難なく倒すことが出来た。

 それにしても、木聖剣の威力がかなり上がっている。

 打撃武器だったのが、斬撃武器になっただけでこれほど違うとは……

 木剣とは思えない切れ味と耐久性。

 この武器ならば不安は一切ない。

「ロスティ、何か変よ」

 急に話しかけられて、驚いてしまった。

 アンデッドとの連戦で若干戦いにのめり込んでしまっていたようだ。

「どういうこと? 僕には分からないけど……」

 アンデッドの姿は周りにはない。

 見えるのは廃墟前とした牢屋が広がっているだけだ。

「俺もなにやら違和感を感じるな……人の気配がある」

「どういうことだ? まさか、失踪した冒険者か?」

「ありうるかもな……しかし、どうも可怪しい。気配からするに、かなりの人数のような気がする」

 確か、失踪した原因はダンジョンのトラップか、モンスターと考えられている。

 となると、この階層には冒険者を囲い込むようなトラップがあるということか?

 それともモンスターか……しかし、その気配は感じられないな。

「ガルーダ。トラップだったとして、対処はあるのか?」

「分からん。正直、トラップに対して俺はそこまで知っているわけではない。大抵は突き破るだけだ。とにかく、人の気配のある方に向かってみよう」

 トラップがどこにあるか分からないが、とにかく冒険者の安否を確認する必要はあるだろう。

 ゆっくりと慎重に、人の気配がする方向に足を向けた。

 天井から水滴が落ちる度に、ビクついてしまう。

 そんな時、ミーチャが僕の手を握ってきた。

「ありがとう。ミーチャ。落ち着くよ」

「ええ」

 手から伝わってくるのは温もりだけではなく、震えも伝わってきた。

 ミーチャもこの状況に少なからず恐怖を感じているみたいだ。

「ガルーダ。どうだ?」

「もう少しのはずだ」

 ガルーダの言うことは当たっていた。

 殆どの牢屋は施錠なんかされていないのだが、その一角だけは施錠がされた牢屋が並んでいた。

 そして、その中には……

「お前たち、無事だったのか!!」

 ガルーダが声を階層に響き渡った。

 冒険者たちが身ぐるみを剥がされ、衰弱している姿で牢屋に閉じ込められていた。

 その中でガルーダと面識があるであろう一人が鉄格子に近づいてきた。

「ガ、ガルーダさん……助けに来てくれたのか!?」

「ああ、もちろんだ。小僧……ロスティとミーチャも一緒だ。とにかく、ここを出してやるが……その前に聞きたいことがある。お前たちはトラップでここに閉じ込められているのか?」

「違う!! オレ達はトラップなんかで閉じ込められたんじゃない。あいつらに……」

 トラップじゃないことにホッとしたが、あいつら、とは?

 複数のモンスターでもいるというのか?

 周囲を警戒するが、やはり気配はない。

 今はいないだけなのか?

「違うんだ!! そうじゃないんだ!! オレ達は……くそ、なんて言えばいいんだ。影だ……影にやられたんだ。とても太刀打ちできない。霧に囲まれたと思ったら、牢屋にいたんだ。その時、最後に見たのが影だったんだ」

 要領を得ないが、モンスターがいない間に冒険者たちを牢屋から出したほうがいいだろう。

 牢屋の施錠は大したことはない。

 木聖剣でも十分だ。

「そこをどいていろ!! 鍵を壊す」

「ああ。ありがてぇ」

 渾身の一撃を加えると鍵は簡単に壊れ、牢屋の扉が倒れた。

「何人いるんだ?」

「全部で30人だ」

 そんなに……。

 まずはポーションだ。人数分のポーションを用意し、すぐに手渡していった。

 空腹を訴えるものにはサンドイッチを与えた。

 これで逃げるのに最低限の体力は回復したはずだろう。

 そんな中に見知った者が居た。

 A級冒険者『オルフェンズ』のニーダだ。

 まさか、こんな上級者が捕まるとは……

「お前はB級の……こんな姿を見られちまうとは。いいか? ここから先は気をつけろ。訳の分からねぇ術を使う敵がいる。モンスターとは違う何かだ。俺も行きてぇが、武器も何もかも失くしちまったからな」

 そう言いながら、渡したサンドイッチをむしゃむしゃと食べていた。

 ミーチャは少し苛ついた目でニーダを見つめていたが、裸同然の姿だけに何も言えないようだ。

 ようやく冒険者たちの体調が戻ったところで、全員が立ち上がり牢屋から出始めた。

 そこでようやくニーダがこちらを振り向いた。

「美味かった。この礼は……いや、なんでもねぇ。助けてくれて、ありがとな」

 意外だった。

 まさか、お礼を言われるとは……。

「ミーチャ。ガルーダ。僕達も一旦引き上げよう。とりあえずの目標は達成した」

「そうね」

「ああ」

 だが、その時だった……辺り一面が霧のようなものに覆われた。
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