上 下
46 / 142
冒険者編

46 変化

しおりを挟む
 『スキル授与』と言うスキルを保有している人とのめぐり合わせは本当に偶然だ。

 ドブ攫いに感謝を……

 だが、ローズさんの表情は明るいものではなかった。

「こんなものを手にして、どうするっていうんだい? 誰かに自分のスキルを渡すくらいしか使い途がないんだよ?」

 まぁ、確かにその通りなんだけど……

「いやまぁ……」

「それとも教会かスキル屋にでも働こうって思っているのかい? だったら、止めておきな!! 神官長の奴……今度会ったら、年貢の納めどきだからね」

 だから、何があったって言うの?

 いや、それよりもなにか良い言い訳を考えないと……。

「ローズさんにだけ打ち明けますね……実は……」

「あんた……ふっ。負けたよ。そう言われたら、断るわけにはいかないね。いいよ。どうせ、譲る相手もいないんだ。墓場に持っていくくらいなら、ちょっとでもお金にしたほうが良いね。それで? いくらだい?」

 打ち明けただけで、売ってもらえるとは思ってもいなかった。

 意外とローズさんもスキルを手放したかったのかも知れないな。

 あれ? ローズさんの目つきが急に鋭くなったんだけど。

 お金が絡んでいるから?

「実は、相場が分からないんですよ」

 ゴミスキルって言われた『買い物』スキルは熟練度が最低なもので500万トルグだったはず。

 ローズさんのスキルもゴミスキルって言われているんだから……。

「3000万なら、どうだい?」

 急に吹っかけられたぞ。

 まずは値引きを……

「まぁ、聞きな。ゴミスキルって言っても、これでも教会では日夜、寝る間も惜しんで仕事をやったもんだよ。おかげで熟練度は☆3だ。これなら……」

 『スキル授与』スキルの熟練度は、授与する熟練度に影響するようだ。

 例えば、『A』スキル☆4を授与する場合、『スキル授与』☆1の人がやると……☆4が☆1になってしまう。

 同じように、『スキル授与』☆3の人がやると……☆4が☆3になる。

 ちなみに『スキル授与』☆5の人がやっても、☆4が☆5になることはない。☆4のままだ。

 つまり、ローズさんのスキルの場合、☆3以下のスキルを授与する場合なら問題は全く無いということだ。

 ローズさんみたいに、教会でどんどん授与の仕事を出来る環境ではないので、いくら『錬成師』で熟練度が上達しやすいからと言っても、熟練度を上げるのは難しいかも知れない。

 そうなると、最初から☆3はかなり有り難いかも知れないな。

 3000万か……高いのや、安いのか分からないな……

「まぁ、ゆっくりとお考え。どうせ、教会かスキル屋がいないと譲ることも出来ないんだから」

 へ? 出来ないの?

「当たり前だよ。『スキル授与』スキルがあるから、授与できるんだから」

 ……そういえば、ギルマスが近々、教会かスキル屋が来るみたいなことを言っていたな。

「分かりました。それまでには結論を。でも、値上げはしないで下さいよ」

「ふふっ。どうかねぇ」

 お金が絡むと人格が変わったような気もするが……。

 とりあえず、ドブ攫いの終了のサインだけをもらって、切り上げることにした。

 ドブ攫いでまさかの収穫があったな。

 運が良いぞ。

 まずはギルドへ。

「お疲れ様でした。誰もやってくれないのではないかと心配していたんで、ロスティさんが受けてくれて有難かったですよ」

 受付のお姉さんがにこやかな顔で対応してくれる。

 鼻を摘んでいるのが、すごく気になる……。

 いや、そうじゃない。

 僕の周囲にいる人、全員が鼻を摘んでいる。

 えっ!? そんなに臭い?

「あの、一日と思っていたんですけど……一週間って話、教えてくれましたっけ?」

「……じゃあ、これが報酬ですね。五万ドルグです。お受け取り下さい」

「ちょ、無視しないで下さいよ。教えてくれましたっけ?」

「はい!! じゃあ、次の方ぁ」

 追い払われるように、受付から追い出された。

 絶対に知ってて、わざと言わなかった?

 一週間と言ったら、僕が受けないと思っていたから?

 ……策士だな。

 今度からはしっかりと依頼書は見ようと心に誓った。

 五万トルグか……ローズさん、結構奮発してくれただな。

 折角だから、これで買い物でもしようかな。

 欲しかった小袋がいいかな。ミーチャもお揃いの物を着けてくれると嬉しいんだけどな。

 ギルドの人に売っているような場所を聞いてみるか。

「すみません。小袋を売っているような場所は……」

 数人の職員に聞いても返事は同じだった。

 すると頼もしい人がやって来た。ギルマスだ。

「小袋を探しているだって? だったら、裏の倉庫に……」

「いえ、それは遠慮しておきます」

 どうせ、碌なやつじゃないのに決まっている。

「なんだ、折角ゴミの処分をしてくれると思ったんだけどな」

「……」

「まぁ、もう少し待て。商業ギルドの連中と少し揉めてはいるが、武器、防具、雑貨を取り扱う店を近々、開く予定だ。そこではダンジョンのモンスターからのドロップ品から装備品を作ることが……F級の小僧に言っても意味ないか……まぁ、なんにしても待っていると良いぞ」

 途中でバカにされたような気もするけど。

 なるほど。店が開くというのなら、待ってみるのもいいか。

 そうなると……

 ギルド併設の食堂に赴き、お持ち帰りのお弁当を用意してもらった。

 さすがに臭いを放ちながら、食堂で食べる勇気は僕にはない!!

 僕とミーチャの分のお弁当とお酒を買った。

 予算は1万トルグというと、店員は喜んでお酒を持ってきてくれた。

「前に火龍の酒を買ってくれたお客様ですよね? でしたら、これがおすすめですよ。火龍の酒を作っている酒蔵の新作!! お手頃な値段ながら、味は保証付きですからね」

 ほお。店員がそれほど薦めてくるんだったら、きっといいものなんだろうな。

 ミーチャの嬉しそうな顔を想像すると、笑みがこぼれてしまう。

「そんな風に想ってくれる男性に私も巡り会いたいです」

 そんなに惚けていたかな?

 食堂を後にして、宿に真っ直ぐ向かった。

 途中でキレイな野草があったので、一輪だけ持ち帰ることにした。

「ただいまぁ」

 ミーチャはすぐに玄関の方に走ってきて、ジェスチャーで風呂に行くように指示してきた。

 息を止めているみたいで、凄く苦しそうだ。

 四日間で慣れたこの扱いも、考えてみればいいものだ。

 だって、ミーチャに体を洗ってもらえるんだ。

 荒々しいけど、丁寧にやってくれる。

「ふぅん。そんなことがあったんだ。私の方は収穫はないかな。なによ、その目は。ちゃんと、やってたんだからね。あっ、そういえば、お店が開くみた……あっ、知っているのね」

 ミーチャから得ることは何一つなかった。

「そういえば、ローズって人になんて言ったの? まさか、本当に本当のことを話したんじゃないでしょうね?」

「まさか!! ちゃんと誤魔化したよ」

 スキルが欲しい理由…・・それは趣味だ、ってね。

「それ信じたの? 言う方も言う方だけど、聞く方も聞く方ね。私なら、ふざけていると思って怒っちゃうけどね」

 会心の嘘だと思っていたのに……。

 ……明日もドブ攫いか……。

 早く抜け出したいけど、この日々に少し楽しさが分かってきた気がするんだ。

 でも、そんな日常は呆気なく壊れた。

 ダンジョンのモンスターが暴走を始めたのだ。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

裏切られ追放という名の処刑宣告を受けた俺が、人族を助けるために勇者になるはずないだろ

井藤 美樹
ファンタジー
 初代勇者が建国したエルヴァン聖王国で双子の王子が生まれた。  一人には勇者の証が。  もう片方には証がなかった。  人々は勇者の誕生を心から喜ぶ。人と魔族との争いが漸く終結すると――。  しかし、勇者の証を持つ王子は魔力がなかった。それに比べ、持たない王子は莫大な魔力を有していた。  それが判明したのは五歳の誕生日。  証を奪って生まれてきた大罪人として、王子は右手を斬り落とされ魔獣が棲む森へと捨てられた。  これは、俺と仲間の復讐の物語だ――

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

処理中です...