公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介

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新スキル編

27 一攫千金

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 一トルグも入っていない袋を覗いて、そっと溜息を漏らす。こんな姿はミーチャには見せられない。

 今までの利益率の高い物を頭に浮かべながら、どうやって金を増やすか考えていた。

 ミーチャから少し借りるしか無いかな?

 それでも、昨日までの金を戻すのに最低でも2ヶ月位は掛かるよな。

「仕方がないよな……。ああ、僕はなんで、あそこで見栄を切ってしまったんだ!!」

 朝からその後悔ばかりが頭の中に渦巻いている。

「ちょっとロスティ!! いつまでトイレに入っているのよ。朝ゴハンが冷めちゃうわよ」

 今日も朝から元気なミーチャが羨ましい。

 トイレから出ると、昨日買った黒装束を身にまとったミーチャが椅子に座って待っていた。

 胸元にはネックレスが輝き、すごく機嫌が良さそうだ。

 席に着くと、食事が始まった。

「私、考えたんだけど……やっぱり冒険者を続けるわ。ロスティが買ってくれたこの服、すごく良い物だったわ。なんというか、力が湧くと言うか……だから頑張ってみようと思うの」
 
 たしかに黒装束は、あの店の中でもそこそこのものだ。

 でも問題はそこじゃないよね?

「大丈夫? 他の冒険者に変な事言われることを気にしていたじゃないか」

「それも頑張って、みんなに認めてもらうつもりよ。なんだかんだでロスティが稼いでくれるから甘えていたんだと思うの。これからは本腰を入れてやってみるわ」

 そんなに気張る必要はないんだけど……いや、僕も文無し。

 大丈夫!! なんて、簡単に言えないのが悲しい。

「そっか……じゃあ、僕も頑張らないとな。ここで当面の資金を稼いでから、王都に行きたいからね」

「ねぇ。別に王都にいかなくてもさ、ここでいいんじゃないかしら?」

 首を傾げた。

 考えてみれば、王都を目指していた理由って……なんだっけ。

 目指すことが当たり前だと思ってたな。

「ここにずっと住むっていうのかい?」

「うん」

 ミーチャは僕と居られればって言ってくれる。

 けど、僕はタラスとフェーイに復讐するために旅をしているつもりだ。

「僕はなんとしてでも復讐するための力を得なければならない。ここでそれが叶うんだったら、それでも構わないと思うよ」

「そうね!!」

 そんな会話をしていると、ふいに扉がノックされた。

「誰だろう?」

「ここの場所を知っている人なんていないんじゃないかな?」
 
 警戒をしながら、ドアを開けると……そこには十歳前半位の少年が立っていた。

「あのぉ。ここにロスティ様という方はいらっしゃいますか?」

 僕に用があるのか……なんだろ?

「僕がそうだけど?」

「良かった!! 私はトワール商会のものです。ライアン店長がお呼びになっています。例の生地の話とおっしゃっていましたが」

 例の生地? もしかして、あの価格不明のやつのことか? それよりライアン……店長?

 あの人、店長だったの?

 僕みたいな駆け出しを相手にしているから、てっきり下っ端かと……

 これからは気をつけよう。

「すぐに行くよ」

「それでは先にライアン店長に告げに行ってきますね。それでは後程」

 少年は足早に去っていってしまった。

 少年は商人の見習いか何かなのだろうか? 機敏な動き、利発そうな受け答え。

 なかなか出来るものじゃないよな。

「どうしたの? ロスティ」

「ん? 実は……」

 特殊な生地の話をすると、ミーチャは結構食いついてきた。

「なにそれ。ちょっと面白そう。私も見に行っていいかしら?」

「えっ? だって冒険者の方が……」

 正直、どういう話になるかわからないから、ミーチャにはあまり聞かれたくないと思ってしまった。

「いいの!! 行くって決めたんだから」

「そう、ですか」

 ミーチャは洗濯した普段着に着替え直して、トワール商会に向かうことにした。

 僕は相変わらずに汚い服だ。

 服屋で買おうとしていたけど、あんなことになったからね。

 しばらくは買えそうにないな。次の休みの日にでも洗おう。

 相変わらずトワール商会は大きな店だな。

 いつものように裏に回り、ライアンさん……いや、ライアン店長を呼び出すとすぐにやってきてくれた。

「ロスティさん。おはようございます」

「ライアン店長。一体どうしたんですか?」

「店長? ああ、ポポが言ったんですか。その件ですが……あれ? こちらの方は?」

 ライアン店長がミーチャの姿に気付き、じっと見つめている。

「お初に目にかかります。私はミーチャ。ロスティの妻です」

 ああ、その設定で行くのね。

 前は食堂のおばちゃんが勘違いをしてくれたけど……

「その若さで夫婦とは……なかなか苦労なさっていますね」

 信じてくれた!! すごいな。

「失礼。実は、以前ロスティさんから預かった反物なのですが……王都で非常な人気になってしまいまして、オークションに掛けられるほどで」

 なんだって……いや、その前に……

「オークションって何ですか?」

「ああ。そうですね。オークションは競り合って買い手を決めるものです。反物を手に入れたいという方が多かったものですから、オークションという形式を取った次第で」

「あの生地が……それでオークションというやつの結果はどうだったのですか?」

 ちょっと前のめりになりながらライアン店長に詰め寄った。

 オークションという知らない単語はともかく、あの反物の価値が凄いということだけわかったんだ。

 そうなれば、当然買い取りの上乗せ分が期待できるということだ。

 無一文にはこれほど関心のある話はない!!
 
「ロッシュさんから預かった反物は四つで、一つは商人に譲り、三つをオークションに掛けさせてもらいました。それでこれが上乗せ分となります。ご確認を」

 ライアン店長から金貨の入った大袋を受け取った。

 ずっとりとした重さに体の重心が狂うほどだ。

 ミーチャがとっさに支えてくれなかったら倒れていたかも知れない。

「こんなに、ですか?」
「こんな商売をしていると時々、こういうことが起きるんですよ。オークションでは一つあたり500万の値が付きましたから、こちらの儲けを差し引いた額を入れさせてもらいました」

 数えてみると1000枚の金貨が入っていた。

 つまり……1000万トルグだ。

 200万トルグで買った反物が最初の買い取り値と合計で1160万トルグになってしまった。

 こんなことってあるのか?

 ミーチャも呆然とした様子でこちらの様子を伺うばかりだった。

 あの生地……凄すぎるぞ!!
 
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