公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介

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新スキル編

26 赤き翼

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 男の一人がミーチャを見て、声を掛けてきたようだ。

 一見すると戦士風の冒険者という感じだ。

 長髪で、鍛え上げられた肉体をさらけ出すように上半身はほぼ裸だ。

 腰にはロングソードと思われる鞘をぶら下げている。

 まぁ、男としては嫌いな顔だが、女性には人気がある顔かも知れないな。

 そんな奴がミーチャに何の用だ?

 まさか……ナンパか?

「たしか、最近ギルドで見かける闇魔法使いだよな?」

 ミーチャはただ男を睨むだけだった。

 状況が全く分からないな。でも、どうやらナンパという感じではないようだ。

 後ろにいるのは、こいつの仲間か? 

 どいつも下卑たような笑いを受けべて……気持ち悪い連中だ。

「お前、店を間違えてるんじゃないか? ここはFランクが来るような店じゃないぜ? それとも値段が読めないのか?」

 急に話しかけておいて、こいつは何を言っているんだ?

 どう考えても、お前には関係ないだろうに。

「すみませんが、おたくらは?」

「ああん? 俺達を知らないのか? 見たところ、冒険者でもなさそうだな。ひゃははは。Fランクの女にはぴったりだな。いいか? 俺達はBランクの赤き翼のレオンだ。覚えておけ!!」

 赤き翼? ああ、たしかに剣にそんな刻印があるな。

「Bランクの赤き翼さんが何をいいたいのか、よく分からないのですが?」

「お前はバカか? ここは貧乏な雑魚が来るところじゃねぇって言ってるんだ!! さっさと俺達の前から消えろ。目障りなんだよ。それに店も迷惑してるだろ? なあ?」

 男が目を向けた先には、騒ぎを聞きつけてやってきたであろう店員が立っていた。

 しかし、事態を収集するということはせず、本当に突っ立っているだけだった。

「いや、私達は商品を購入していただけるお客様でしたら、階級など関係なく、どなたでも大歓迎ですが……」

「Fランクがこの店の物を買えるわけねぇだろ!! 大方、こいつらは冷やかしだぜ。もしかしたら盗みに来たのかも知れないぜ。さっさと追い出したほうがいいぜ」

 なんだ、こいつは。ミーチャをFランクと呼び、僕達を泥棒扱いするとは。

 Bランクの冒険者がそんなに偉いのか? 
 
 むちゃくちゃ頭にくる奴だな。

「あの……お客様」

 店員が僕達の方に目を向けてくる。

 レオンとかいう男に恐れているような様子だ。

「お気を悪くしないで欲しいのですが、お連れの方が着ている服を買っていただけるのでしょうか?」

 店員も店員だ。こんな男を追い出せばいいのに。

 どっちが店に迷惑をかけているか明白だろうに。

 ミーチャはどうしていいか分からなく、黙っているだけだ。

 ミーチャは僕の袖をぎゅっと握りしめている。

 こんな奴に好き勝手なこと言われてたまるか!!

「買う!! それでいいんだろ?」

「おいおい。無理するなよ。お前らには手も足もでない値段だろうよ」

 うるさい奴だ。

「店員。いくらだ?」
 
 店員はミーチャの着ている服を眺めただけで計算できたようだ。

「二百二十万トルグになります」

 二百二十? ちょっと増えてない? 

 いやしかし、ここで値引きなんて真似が出来るか!!

 それに引き下がるわけにも当然いかないんだ!!

「ダメだよ。ロスティ。そのお金が無くなったら……」

「そうだぜ。Fランクなんて、その辺にあるボロ布で十分なんだよ」
 
 ミーチャは弱々しい声だが、このふざけた男に舐められっぱなしは金がなくなる以上に我慢が出来ない。

 持っている全財産が入っている袋を店員に手渡した。

 店員は恐る恐ると言った感じで受け取り、中身を確認する。

 中身は当然、金貨が詰まっている。

 店員はホッとしたような表情を浮かべ、こちらに笑顔を向けるようになった。

「ありがとうございます。お召し物は着て行かれますか? それとも袋にお入れしましょうか?」

「このまま着ていくから気にしないで。でも、さっきまで着てた服を入れる袋だけ頂戴」

「畏まりました」

 赤き翼の男を無視しながら、店員が会話を進めていく。

 レオンがどんな顔をしているか見ものだったけど、無視するのが一番だと思い、相手にしないようにした。

「ぐぬぬぬ……ちっ!! 覚えておけよ」

 男は盛大な舌打ちと捨て台詞をして、店を離れていった。

 心の中では僕は小躍りしていたが、流石にここで踊り出す訳にはいかない。

 冷静を装いながら、店を離れた。

 そして二人で爆笑してしまった。

「見たか? さっきに男の顔。悔しさに染まった顔なんて滅多に見れるものじゃないよ。ああ、面白かった」

「私もすごくスッキリしたわ。でも、ロスティ。ごめんなさい。お金、いっぱい使わせちゃって。私、冒険者になったのに全然うまくいかなくて……ギルドにいる人達からすごくバカにされていたの」

 初めて聞くことに僕はどう返事をしていいか分からなかった。

 さっきの男に絡まれている時のミーチャはいつものミーチャじゃなかった。

 分かるのはそれだけだ。

「ミーチャは冒険者を続けたくない?」

「分からないわ。でも、私にはそれくらいしか出来ることがないから」

「そんな事ないよ。ミーチャがいなかったら、僕は関所すら突破できなかった。冒険者がダメでも、他に出来ることがあるかも知れないよ。それを一緒に探そうよ」

 本音を言えば、ミーチャの稼ぎが無くなることが不安だ。

 でも、それ以上にミーチャの悲しい顔は見たくないんだ。

「ロスティ……でも、冒険者の稼ぎが減っちゃうよ。それに元手もほとんど使っちゃったでしょ?」

 忘れていた。そういえば、全財産使っちゃったんだっけ……困ったな。

 でもさ、ミーチャ。一人じゃないんだ。二人でいるんだから……

「なんとか……なるさ!!」

「頼りないわね。ロスティ」

 折角カッコつけたのに……すごく格好悪くなってしまった。

「タイミングを逃してしまったんだけど、これをミーチャに受け取って欲しいんだ」

「なぁに?」

「いつものお礼さ。こんな形でしか返せないのは心苦しいんだけど」

 ミーチャは箱からネックレスを取り出して、頭上にかかげた。ネックレスの宝石がキラリと輝いた。

「素敵……でもいいの? これ、高かったでしょ?」

「ぐっ……いいんだ。受け取ってくれ」

 ミーチャの首に掛けると、宝石が胸元でキラリと輝いた。

 ネックレスもミーチャにつけてもらって、喜んでいるような気がした。

「ありがとう!! ロスティ。大事にするね!!」

 ネックレスの値段は30万トルグ。

 所持金はない。無一文になってしまった。
 
 明日からの金稼ぎに頭を悩ましたが、今日は考えないようにしよう。

 ミーチャの笑顔が見れれば、僕は満足だ。
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