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見つけてくれなかった普通じゃないところ
3.開演
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宿泊者は案内役の酒村を先頭に館までの道を歩いていた
冬ということもあり草木は枯れきっており、実に殺風景である
宿泊者が地面を踏むと枯葉が潰れる音が続けて鳴る
何よりもくるぶしまで積もった雪が足を重たくする
さらに道が狭いため16人はほぼ一列に並んでおり、歩幅の違いで前の人の靴を踏みかねない
列の真ん中あたりで倉宮親子と亜久里が並んでいる
輝人の後ろを歩く亜久里が煩わしく口を開く
「おいガキ 歩くの遅ぇな 私に足踏まれたいのか」
「それはすいません 僕はほかの方々よりも足が長くないので 最後尾に回りましょうか?」
「ふっ生意気なガキだ」
「落ち着きがあると言って欲しいですね」
「くくっ」と笑う亜久里にその後ろを歩く真部が肩に手をおく
「児童を脅すのはよくないな」
「は?本人なんとも思ってなさそうだけどな」
「さっきも言ったが何かあれば俺が貴様を…」
次は倉宮親子の前を歩く三鷹が真部を遮るように声を上げる
「それも脅しだと思うわよ捜査一課」
そこに付き人が注意をする
「お嬢様 挑発的な発言はおやめください」
「挑発?事実を言っているだけよ」
真部の神経を逆撫でする
「貴様もか本当に怪しい奴らしかいないな」
「そんな感覚でいるならこの会は楽しめませんわよ」
この一連の会話を列の前方で聞いていた凑が静かにため息をつく
2日間しんどいだろうな…
同年代を狙っての参加し、実際に同年代は何人かいるが千雛の様子から野暮な期待は消え失せていた
「ミナミンっ」
と後ろから背筋を叩いた千雛
かなり勢い良かったのだろう背中にヒリヒリする感覚を感じる
「浮かない顔してんじゃねぇよ」
「そっちからじゃ僕の顔は見えないはずなんだけど…」
「んー」
と人差し指を顎に当ててわざとらしく考える動作をする
「なんか背中にそう書いてた」
そんなに僕ってわかりやすいのか
「逆になんでそんな明るいんだよ」
「ノリと勢いで生きてるからだよんっ」
なんて無茶苦茶な…
そう呆れながらも彼女と話すことにも慣れてきているようで敬語が外れている
「ミナミンってそんなに静かにしてて人生楽しいの?」
彼女の無意識な質問が彼の核心を刺した
瞳孔が細くなるように目を見開き、かつての光景が脳によぎる
自身の腕の中で涙を流しながらも笑っている同い年の男子の姿
目元から血の気は引いており、活力はみられない
それでも腕を上げて凑の胸に握った拳を打ちつける
「凑…俺はここにいる…!」
その言葉を聞いた瞬間に目の前の景色はこちらを覗く千雛にかわる
「しーつーもーんにー こたえて!」
かなり間を置いてしまったようだ
「人生を楽しいとか楽しくないとかいう価値観で見てないからわかんないかな」
曖昧でぎこちない返答を何の変哲もない顔で歩く速さも変えずに話した
「ふーん…」
とつまらなさそうに視線を最後尾に移す
そこには隆明の座る車椅子を押している詩音と横並びになって歩く姉の千鶴がいた
千鶴と同じクラスの子だっけ…
名前忘れたな てか教えられてたっけ
その最後尾の2人が眠る隆明を気にかけるように声量を落として話す
「千鶴ちゃん妹さんのとこ行ってもいいよ」
「あれの面倒見るのも疲れたよ~ 仲良い子と話して休憩」
「ふふっ大変だね」
「大変って…詩音の方が大変じゃない?」
「私は小学生の頃からこんな感じだから慣れてるよ」
「16年と少し、妹と生活してるのに未だに扱いに慣れてない私とは正反対だ」
「妹さんも千鶴ちゃんにそう思ってるかもね」
「そりゃないでしょー」
と2人で見つめ合って可愛らしく笑う
そこで先頭から爽やかな酒村の声が聞こえた
「みなさーん!!館に到着致しましたー!」
最後尾からは見えないし、千鶴たちの立ち位置ではまだ道が続いているので細い道から抜けると館がある場所が広がっているのだろう
一方、酒村のすぐ後ろを着いていた黒木と豊代が「おお」と見上げた
洋式でレトロな三階建ての雰囲気の良い外観である
正面からは見えない奥行きがあるような敷地の広さ
周囲に取り囲む枯れ木がその良さを引き立てている
「中の3階には客室がございますので皆さんはまずそこに荷物を置いてください」
酒村はそう言って館の玄関を開いた
そこにはかなり広めの靴置き場と人数分並べられたスリッパがあり、それぞれがそれを履いてから目の前の階段を上る
3階まで止まることなく上り終わるとそこから二手に別れるようになっていた
全員が階段を上り終えて通路に出ると酒村は左奥の扉を指す
「あちらが01番の部屋でそこからまっすぐ右奥までいくと07番、そして01番の正面に08番、同じく右奥にいきますと15番の部屋となっております」
そして何やら懐から金属がぶつかり合う音を鳴らしながら出されたものがあった
鍵である
それぞれ数字が掘られており、部屋の番号と一致しているようだ
「私が名前を呼びましたら鍵を取ってください そこに振られた番号がご自身の部屋になりますので間違えないようお気をつけください
部屋に荷物を起き終えたら1階の食堂へいらしてください」
最初に凑の名前が呼ばれ、[No.01]と掘られた鍵を手にした
次々に鍵を渡され、それぞれの部屋へ入っていった
部屋割り
01 最上 凑 08 真部 仁一
02 小波 千鶴 09 塩崎 隆明
03 小波 千雛 10 塩崎 詩音
04 倉宮 日向美 11 杉沢 遥
05 倉宮 輝人 12 三鷹 瑠愛
06 遠藤 新次郎 13 市島 一郎
07 亜久里 刹那 14 黒木 渡
15 豊代 竜司
杉沢は11番室の構造を確認していた
窓を開けば、枯れ木が並ぶ表の風景が現れ、冷たい風が吹き通る
あとは部屋の隅につけられた押し入れつきの小机があり、その反対側の壁には鏡が貼り付けられているベッドは1人分で毛布の上に掛け布団が乗せられている
先程、船の上で読んでいた親友が描いた小説を小机の上に置く
酒村の指示通り、1階に降りるために部屋を出て、鍵をかける
すると向かいの6番室から出てきた遠藤とはち会う
「あ、どーも」とぎこちない声で頭を下げる
「初めまして 今から向かうところですか」
「はい あなたも?」
「ええ」
と2人は階段を一段一段降りていく
「ご挨拶が遅れました 私 杉沢と申します」
「僕は遠藤というものです2日間よろしくお願いします」
1階まで下り終えると劈くような声がした
「お父さん!!」
詩音の声だ
声の張り上げ方からして父の隆明になにかあったのだろう
彼が海に落ちたことを知っている遠藤は声の元に走った
それを杉沢も追う
食堂の扉は開いたままになっており、そこから身を乗り出すように遠藤が食堂の中に入る
そこには車椅子から落ちたように倒れて苦しんでいる隆明とそれを見て膝を床に着けて泣き叫んでいる詩音がいた
「お父さん!!」
「詩音ちゃん どうしたんだ!」
遠藤が慌てて寄り添う
「お父さんが!!急に倒れちゃって!!」
食堂の外から人が走る音が聞こえ、即座に白衣の男が食堂に駆け込み詩音の反対側に座り込む
豊代だ
即座に右手を隆明の首にあてる
「冷たいな」と呟き、詩音と遠藤の方へ視線を移す
「この方 ここに来るまでに何かありましたか」
遠藤が即座に答える
「船に乗っている時に一度海に落ちてしまって、すぐに引き上げたんですが、、」
「なるほど、、どなたかこの方のお部屋から掛け布団と毛布を、湯たんぽやカイロなどを持っている方はいらっしゃいませんか」
迅速で冷静な対応
仕事柄やり慣れているのだろう
そこにいち早く食堂にやって来ていた倉宮親子が歩いてくる
「私 電子カイロを持ってきているのですが、」
「構いません すぐに持ってきてください」
日向美が食堂から自室へ向かう
「娘さん」と豊代が詩音に声をかけるが戸惑いで反応がない
「娘さん!!」
「は、はい!!」
「今すぐにこの方の部屋から布団と毛布を!」
「わ、わかりました!!」
立ち上がって食堂から走りでる所を杉沢は戸惑って眺めることしかできない
廊下で千雛からからかわれている最上と詩音がすれ違う
「なんだろ」
「わからん 何かあったのか」
2人も食堂へ入った
千雛が震え驚いた声で言う
「え、えええ!何があったの!!」
横にいる杉沢がすぐに答える
「あの男性が突然倒れたようで、、」
「それって大丈夫なんですか!」
「えと、えと、えと!私にはさっぱり!」
その落ち着きのない会話に豊代が睨んだ
「落ち着け ただの低体温症だ そんなに酷い状況じゃない 君たちが慌てていると患者が不安になるだろ!」
カチンッと3人の動きと言葉が固まる
一方、3階の隆明の部屋である9番室で詩音が毛布と掛け布団を同時に持とうとして体制を崩し転ぶ
「あ、痛た…」
ゆっくりと持ち上げようとするが掛け布団が大きく、重たいためバランスが取れない
そこに倒れた音を聞き付けたのか黒木が部屋のドアから顔を覗かせる
「ど、どうしたの?」
「えっと、これを1階まで持ち運びたくて、、」
「そんなことか 任せて」
すぐに掛け布団と毛布を持ち上げ、部屋から出る
「あ、ありがとうございます!」
その後、食堂のコンセント付近に車椅子に座らせた隆明を移動させ、掛け布団と毛布を包むように被せ、コンセントを繋いだ電子カイロを隆明の腹に当てる
隆明はまだ目覚めていないが倒れていた時よりも安らかな表情をしている
食堂には大きく広い机が中央に置かれ、それを囲うように15人分の席が並べられている
隆明の席を開け、そのほかの人達は自身の部屋番号が書かれた立て札の置かれた席に着席している
全員の視線が集まる場所に酒村が立った
「えー皆さん 部屋はどうでしたか?先程トラブルもあったようですが何とかなりそうな様子で何よりです」
目を瞑る隆明をしとやかな目で見つめる
「では早速、今回の会の目的はクリスマスを通して関わりを広げることです」
これまで頑なに伏せていた目的を説明し始める
「なのでギスギスされては困るのです」
自分が乗っていたクルーザーでは互いに疑い合うような関係になってしまった
それ以上の仲間割れをごめんとするということを伝えた
真部が亜久里を静かに睨んだ
気づかれていないと思ったが、それに亜久里がウインクで返してきたので小さな舌打ちを打つ
「ということで!まずは自己紹介を部屋番号順にしていきましょう!!」
最上から自己紹介が始まった
何の変哲もない自己紹介を全員が続ける
特に変わったことをはなかったが、遠藤が自己紹介を済ませた時に着席する直前、黒木を静かな恨みのような視線を送った
千雛と亜久里な軽薄な言葉遣いにプライドの高い真部と三鷹が怪訝になったり、隆明の紹介を詩音が行ったりしたが関係が良好にならないような不安はそれぞれの中になかった
しかし、その漂白な気持ちは数分の出来事で黒ずみに塗れる
酒村が参加者の前にワイングラスを置いた
「皆さんで乾杯と行きましょう」
とシャンパンの栓を抜く
最上が「僕まだ未成年なんですけど」と飲むことを遠慮すると
「ノンアルです!」と元気よく瓶を掲げ、グラスに注ぎ始める
小声で「うーわ」と不安げにするのを無視して全員にノンアルコールのシャンパンを注ぎ終える
「それでは皆さん 立ってください!」
それぞれの席で立ち上がり、グラスを天井へ掲げる
慣れていない未成年は大人たちをそれをするのを見て空気を読み見様見真似でぎこちなくしている
酒村の「かんぱーい!!!」という掛け声でグラスをさらに上に持ち上げて口に含んだ
瞬間だった
千鶴の脳が揺らいだ
「うっ…」
急な偏頭痛…!
意識が飛びそう…!
なんで? アルコールは入ってないはずなのに…
掠れる視界の中、周囲を見渡すと成年を迎えている人々も立ちくらみを起こしたり不安定な体勢になっている
大人の人たちも…?ってことは…これはアルコールじゃなくて…睡眠や…?
そこで意識が途切れた
千鶴だけでなく他の参加者も床に倒れたり机にうつ伏せとなり倒れた
シャンパンを口に含むフリをした酒村はグラスを机に置いた
「さぁて私の仕事はこれで終わりだね」
と懐から持ち手の着いた黒いものを取り出した
手よりも少し大きいその先端が細長いものを横頭に当てる
親指で小さな突起部分をカチッと下に押した
「それでは皆さん 永遠の夜をお楽しみ下さい」
今までの優しくもあり、全く違う冷たさもある目付きで倒れている参加者を眺めた
館内に響き渡った高い弾ける音
それとは裏腹に食堂にいても気づかないような液体がゆっくりと流れ出る音
その場に人がいれば絶叫し、むせかえるその有様が開演の合図のようだ
Merry Xmas
今、この瞬間をもって罪人を処する処刑人は目覚めた
さぁ、 参加者の狩場は整った狩り尽くされるか狩り返すか、、
どちらかの命全て絶えるまで狩場は閉じられない
このゲームをInfinity nightと称する
君たちに聖夜の日を迎えられることはできるかな?
By招待者
冬ということもあり草木は枯れきっており、実に殺風景である
宿泊者が地面を踏むと枯葉が潰れる音が続けて鳴る
何よりもくるぶしまで積もった雪が足を重たくする
さらに道が狭いため16人はほぼ一列に並んでおり、歩幅の違いで前の人の靴を踏みかねない
列の真ん中あたりで倉宮親子と亜久里が並んでいる
輝人の後ろを歩く亜久里が煩わしく口を開く
「おいガキ 歩くの遅ぇな 私に足踏まれたいのか」
「それはすいません 僕はほかの方々よりも足が長くないので 最後尾に回りましょうか?」
「ふっ生意気なガキだ」
「落ち着きがあると言って欲しいですね」
「くくっ」と笑う亜久里にその後ろを歩く真部が肩に手をおく
「児童を脅すのはよくないな」
「は?本人なんとも思ってなさそうだけどな」
「さっきも言ったが何かあれば俺が貴様を…」
次は倉宮親子の前を歩く三鷹が真部を遮るように声を上げる
「それも脅しだと思うわよ捜査一課」
そこに付き人が注意をする
「お嬢様 挑発的な発言はおやめください」
「挑発?事実を言っているだけよ」
真部の神経を逆撫でする
「貴様もか本当に怪しい奴らしかいないな」
「そんな感覚でいるならこの会は楽しめませんわよ」
この一連の会話を列の前方で聞いていた凑が静かにため息をつく
2日間しんどいだろうな…
同年代を狙っての参加し、実際に同年代は何人かいるが千雛の様子から野暮な期待は消え失せていた
「ミナミンっ」
と後ろから背筋を叩いた千雛
かなり勢い良かったのだろう背中にヒリヒリする感覚を感じる
「浮かない顔してんじゃねぇよ」
「そっちからじゃ僕の顔は見えないはずなんだけど…」
「んー」
と人差し指を顎に当ててわざとらしく考える動作をする
「なんか背中にそう書いてた」
そんなに僕ってわかりやすいのか
「逆になんでそんな明るいんだよ」
「ノリと勢いで生きてるからだよんっ」
なんて無茶苦茶な…
そう呆れながらも彼女と話すことにも慣れてきているようで敬語が外れている
「ミナミンってそんなに静かにしてて人生楽しいの?」
彼女の無意識な質問が彼の核心を刺した
瞳孔が細くなるように目を見開き、かつての光景が脳によぎる
自身の腕の中で涙を流しながらも笑っている同い年の男子の姿
目元から血の気は引いており、活力はみられない
それでも腕を上げて凑の胸に握った拳を打ちつける
「凑…俺はここにいる…!」
その言葉を聞いた瞬間に目の前の景色はこちらを覗く千雛にかわる
「しーつーもーんにー こたえて!」
かなり間を置いてしまったようだ
「人生を楽しいとか楽しくないとかいう価値観で見てないからわかんないかな」
曖昧でぎこちない返答を何の変哲もない顔で歩く速さも変えずに話した
「ふーん…」
とつまらなさそうに視線を最後尾に移す
そこには隆明の座る車椅子を押している詩音と横並びになって歩く姉の千鶴がいた
千鶴と同じクラスの子だっけ…
名前忘れたな てか教えられてたっけ
その最後尾の2人が眠る隆明を気にかけるように声量を落として話す
「千鶴ちゃん妹さんのとこ行ってもいいよ」
「あれの面倒見るのも疲れたよ~ 仲良い子と話して休憩」
「ふふっ大変だね」
「大変って…詩音の方が大変じゃない?」
「私は小学生の頃からこんな感じだから慣れてるよ」
「16年と少し、妹と生活してるのに未だに扱いに慣れてない私とは正反対だ」
「妹さんも千鶴ちゃんにそう思ってるかもね」
「そりゃないでしょー」
と2人で見つめ合って可愛らしく笑う
そこで先頭から爽やかな酒村の声が聞こえた
「みなさーん!!館に到着致しましたー!」
最後尾からは見えないし、千鶴たちの立ち位置ではまだ道が続いているので細い道から抜けると館がある場所が広がっているのだろう
一方、酒村のすぐ後ろを着いていた黒木と豊代が「おお」と見上げた
洋式でレトロな三階建ての雰囲気の良い外観である
正面からは見えない奥行きがあるような敷地の広さ
周囲に取り囲む枯れ木がその良さを引き立てている
「中の3階には客室がございますので皆さんはまずそこに荷物を置いてください」
酒村はそう言って館の玄関を開いた
そこにはかなり広めの靴置き場と人数分並べられたスリッパがあり、それぞれがそれを履いてから目の前の階段を上る
3階まで止まることなく上り終わるとそこから二手に別れるようになっていた
全員が階段を上り終えて通路に出ると酒村は左奥の扉を指す
「あちらが01番の部屋でそこからまっすぐ右奥までいくと07番、そして01番の正面に08番、同じく右奥にいきますと15番の部屋となっております」
そして何やら懐から金属がぶつかり合う音を鳴らしながら出されたものがあった
鍵である
それぞれ数字が掘られており、部屋の番号と一致しているようだ
「私が名前を呼びましたら鍵を取ってください そこに振られた番号がご自身の部屋になりますので間違えないようお気をつけください
部屋に荷物を起き終えたら1階の食堂へいらしてください」
最初に凑の名前が呼ばれ、[No.01]と掘られた鍵を手にした
次々に鍵を渡され、それぞれの部屋へ入っていった
部屋割り
01 最上 凑 08 真部 仁一
02 小波 千鶴 09 塩崎 隆明
03 小波 千雛 10 塩崎 詩音
04 倉宮 日向美 11 杉沢 遥
05 倉宮 輝人 12 三鷹 瑠愛
06 遠藤 新次郎 13 市島 一郎
07 亜久里 刹那 14 黒木 渡
15 豊代 竜司
杉沢は11番室の構造を確認していた
窓を開けば、枯れ木が並ぶ表の風景が現れ、冷たい風が吹き通る
あとは部屋の隅につけられた押し入れつきの小机があり、その反対側の壁には鏡が貼り付けられているベッドは1人分で毛布の上に掛け布団が乗せられている
先程、船の上で読んでいた親友が描いた小説を小机の上に置く
酒村の指示通り、1階に降りるために部屋を出て、鍵をかける
すると向かいの6番室から出てきた遠藤とはち会う
「あ、どーも」とぎこちない声で頭を下げる
「初めまして 今から向かうところですか」
「はい あなたも?」
「ええ」
と2人は階段を一段一段降りていく
「ご挨拶が遅れました 私 杉沢と申します」
「僕は遠藤というものです2日間よろしくお願いします」
1階まで下り終えると劈くような声がした
「お父さん!!」
詩音の声だ
声の張り上げ方からして父の隆明になにかあったのだろう
彼が海に落ちたことを知っている遠藤は声の元に走った
それを杉沢も追う
食堂の扉は開いたままになっており、そこから身を乗り出すように遠藤が食堂の中に入る
そこには車椅子から落ちたように倒れて苦しんでいる隆明とそれを見て膝を床に着けて泣き叫んでいる詩音がいた
「お父さん!!」
「詩音ちゃん どうしたんだ!」
遠藤が慌てて寄り添う
「お父さんが!!急に倒れちゃって!!」
食堂の外から人が走る音が聞こえ、即座に白衣の男が食堂に駆け込み詩音の反対側に座り込む
豊代だ
即座に右手を隆明の首にあてる
「冷たいな」と呟き、詩音と遠藤の方へ視線を移す
「この方 ここに来るまでに何かありましたか」
遠藤が即座に答える
「船に乗っている時に一度海に落ちてしまって、すぐに引き上げたんですが、、」
「なるほど、、どなたかこの方のお部屋から掛け布団と毛布を、湯たんぽやカイロなどを持っている方はいらっしゃいませんか」
迅速で冷静な対応
仕事柄やり慣れているのだろう
そこにいち早く食堂にやって来ていた倉宮親子が歩いてくる
「私 電子カイロを持ってきているのですが、」
「構いません すぐに持ってきてください」
日向美が食堂から自室へ向かう
「娘さん」と豊代が詩音に声をかけるが戸惑いで反応がない
「娘さん!!」
「は、はい!!」
「今すぐにこの方の部屋から布団と毛布を!」
「わ、わかりました!!」
立ち上がって食堂から走りでる所を杉沢は戸惑って眺めることしかできない
廊下で千雛からからかわれている最上と詩音がすれ違う
「なんだろ」
「わからん 何かあったのか」
2人も食堂へ入った
千雛が震え驚いた声で言う
「え、えええ!何があったの!!」
横にいる杉沢がすぐに答える
「あの男性が突然倒れたようで、、」
「それって大丈夫なんですか!」
「えと、えと、えと!私にはさっぱり!」
その落ち着きのない会話に豊代が睨んだ
「落ち着け ただの低体温症だ そんなに酷い状況じゃない 君たちが慌てていると患者が不安になるだろ!」
カチンッと3人の動きと言葉が固まる
一方、3階の隆明の部屋である9番室で詩音が毛布と掛け布団を同時に持とうとして体制を崩し転ぶ
「あ、痛た…」
ゆっくりと持ち上げようとするが掛け布団が大きく、重たいためバランスが取れない
そこに倒れた音を聞き付けたのか黒木が部屋のドアから顔を覗かせる
「ど、どうしたの?」
「えっと、これを1階まで持ち運びたくて、、」
「そんなことか 任せて」
すぐに掛け布団と毛布を持ち上げ、部屋から出る
「あ、ありがとうございます!」
その後、食堂のコンセント付近に車椅子に座らせた隆明を移動させ、掛け布団と毛布を包むように被せ、コンセントを繋いだ電子カイロを隆明の腹に当てる
隆明はまだ目覚めていないが倒れていた時よりも安らかな表情をしている
食堂には大きく広い机が中央に置かれ、それを囲うように15人分の席が並べられている
隆明の席を開け、そのほかの人達は自身の部屋番号が書かれた立て札の置かれた席に着席している
全員の視線が集まる場所に酒村が立った
「えー皆さん 部屋はどうでしたか?先程トラブルもあったようですが何とかなりそうな様子で何よりです」
目を瞑る隆明をしとやかな目で見つめる
「では早速、今回の会の目的はクリスマスを通して関わりを広げることです」
これまで頑なに伏せていた目的を説明し始める
「なのでギスギスされては困るのです」
自分が乗っていたクルーザーでは互いに疑い合うような関係になってしまった
それ以上の仲間割れをごめんとするということを伝えた
真部が亜久里を静かに睨んだ
気づかれていないと思ったが、それに亜久里がウインクで返してきたので小さな舌打ちを打つ
「ということで!まずは自己紹介を部屋番号順にしていきましょう!!」
最上から自己紹介が始まった
何の変哲もない自己紹介を全員が続ける
特に変わったことをはなかったが、遠藤が自己紹介を済ませた時に着席する直前、黒木を静かな恨みのような視線を送った
千雛と亜久里な軽薄な言葉遣いにプライドの高い真部と三鷹が怪訝になったり、隆明の紹介を詩音が行ったりしたが関係が良好にならないような不安はそれぞれの中になかった
しかし、その漂白な気持ちは数分の出来事で黒ずみに塗れる
酒村が参加者の前にワイングラスを置いた
「皆さんで乾杯と行きましょう」
とシャンパンの栓を抜く
最上が「僕まだ未成年なんですけど」と飲むことを遠慮すると
「ノンアルです!」と元気よく瓶を掲げ、グラスに注ぎ始める
小声で「うーわ」と不安げにするのを無視して全員にノンアルコールのシャンパンを注ぎ終える
「それでは皆さん 立ってください!」
それぞれの席で立ち上がり、グラスを天井へ掲げる
慣れていない未成年は大人たちをそれをするのを見て空気を読み見様見真似でぎこちなくしている
酒村の「かんぱーい!!!」という掛け声でグラスをさらに上に持ち上げて口に含んだ
瞬間だった
千鶴の脳が揺らいだ
「うっ…」
急な偏頭痛…!
意識が飛びそう…!
なんで? アルコールは入ってないはずなのに…
掠れる視界の中、周囲を見渡すと成年を迎えている人々も立ちくらみを起こしたり不安定な体勢になっている
大人の人たちも…?ってことは…これはアルコールじゃなくて…睡眠や…?
そこで意識が途切れた
千鶴だけでなく他の参加者も床に倒れたり机にうつ伏せとなり倒れた
シャンパンを口に含むフリをした酒村はグラスを机に置いた
「さぁて私の仕事はこれで終わりだね」
と懐から持ち手の着いた黒いものを取り出した
手よりも少し大きいその先端が細長いものを横頭に当てる
親指で小さな突起部分をカチッと下に押した
「それでは皆さん 永遠の夜をお楽しみ下さい」
今までの優しくもあり、全く違う冷たさもある目付きで倒れている参加者を眺めた
館内に響き渡った高い弾ける音
それとは裏腹に食堂にいても気づかないような液体がゆっくりと流れ出る音
その場に人がいれば絶叫し、むせかえるその有様が開演の合図のようだ
Merry Xmas
今、この瞬間をもって罪人を処する処刑人は目覚めた
さぁ、 参加者の狩場は整った狩り尽くされるか狩り返すか、、
どちらかの命全て絶えるまで狩場は閉じられない
このゲームをInfinity nightと称する
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