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本編
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しおりを挟む「木原様が、我が社エトワールを選んでくださって、本当に良かった」
「はい、それはもう!ここしかないと思ってました!」
世の中には、月々数百円の支払いで済むマッチングアプリも多くある。けど、手軽な分、本気じゃない人や学生もたくさんいるそうで、俺はそんな恋はしたくない。
「ええ。あなたに似合うのは真実の愛だけです」
鶴矢さんもそう言ってくれた。
「私がお側にいるからには、くだらない虫は寄せ付けませんのでご安心下さい」
なんて頼もしいんだろう。鶴矢さんなら信じられる。
「木原様のことをもっと知りたいです……」
鶴矢さんが熱い眼差しで俺を見てる。タブレット端末をテーブルのスタンドに戻すと、テーブル越しの俺にぐっと近づいた。
「教えていただけますか?」
「はっ、はい!」
緊張しながらうなずいた。
「休日はどのように過ごされていますか?」
「たいてい昼まで寝てますね……」
「ふふっ、やっぱりお仕事でお疲れですか?」
口もとに手を当てて笑う仕草にキュン。カッコいいのに笑顔は可愛いなんて、絶対にモテるだろうな~。
「そうなんです。平日の仕事がキツすぎて。昼過ぎに起きても、ネットゲームとかしてダラダラしてます。あとはラーメン食べに行ったりとか。でも、最近仕事の付き合いでゴルフを始めて、意外と楽しいなって。ウェアも可愛いし」
「ちょうど僕もゴルフ始めたばかりです」
「へー! 鶴矢さんも!」
「ええ。いつかご一緒しましょう。透くんの可愛いウェア見せて下さい」
「ぜひ! よろしくお願いします!」
嬉しい。社交辞令だとしても、こんなに優しく話を聞いてもらうのはいつぶりだろう。鶴矢さんなら、気がねなく相談できそう。
一時間後、他のスタッフが呼びにくるまで、鶴矢さんは俺の話を聞き続けてくれた。
「本日はお話ありがとうございました。木原様はとても素直でピュアな方ですね。お話しできて、とっても楽しかったです。つい時間を忘れてしまったくらい」
「お、俺もです。浮かれちゃって、話しすぎたかも……」
だって鶴矢さんが褒め上手で……ちやほやされてつい、いい気になってしまった感がある。
「フフ。赤くなって恥ずかしがってるのも、可愛い」
「あはは……」
本気にしないようにしないと。きっと自信を持たせるために、誰にでも言ってるんだよね。
「これから木原様にはまだまだたくさんの申し込みが届くでしょう。ですが、運命の相手はたった一人です。木原様に本当にふさわしいのは誰か、一緒に考えていきましょう。不安なこと、困っていることがあれば婚活に関わらず、なんでも私に相談してくださいね」
「あ、ありがとうございます……」
実はすでに困ってるとは言えない。
だって、これから結婚相手を探すというのに鶴矢さん以上に素敵な人なんて見つかる気がしないなんて言ったら鶴矢さんこそ困っちゃうでしょ!!?
ぐっとこらえて頭を下げた。
「それじゃ……今日はありがとうございました」
名残惜しいけど、出口まで見送ってもらったし、そろそろ行かなくちゃ。
だけど鶴矢さんが俺を引き留めた。
「お近づきのしるしに……何か私にお願いしたいことはありませんか?」
「え……?」
驚いたけど、鶴矢さんが「何でも叶えます」と言ってくれたので勇気を出した。
「じゃあ……木原じゃなくて、透って呼んで貰うってできますか?」
「はい、透様」
「それもいいんですが……」
ここまできたら引くまい。もう一声、と頼んだらクスッと鶴矢さんが笑った。
「上目遣いは反則ですよ、透くん?」
「ああっ、はい!! ぜひそれでっ」
鶴矢さんのおかげで、俺の人生をかけた婚活は、最高のスタートを切ったのだった。
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