56 / 57
番外編・高成バースデー記念SS・『真END』
2
しおりを挟む○2○ ○
駅前の木陰にぽつんと一人、心細そうに立っていた。落ち着かない様子でしきりにあたりを見回して、俺のことを探している。
久しぶりに見た高成さんは相変わらずハンサムで、姿勢の良い立ち姿が人混みの中でよく目立っている。
男の人からも女の人からも頻繁に声をかけられて、断るのが大変そうだ。全く相手にされていないのにいつまでもしつこく立ち去らない人もいる。ようやく追い払って一人になると、またキョロキョロと周囲に目を配っている。今日はすごく暑いんだからさっさと帰ればいいのに……。
「正真くん!」
不意に後ろから肩を掴まれ、息を呑んだ。よく知ったグレーの制服と黒髪。まさかこんなに早く要一に見つかるなんて。でもすぐに勘違いだと気づく。俺を見下ろしている彼は、要一より背が高くて銀縁の眼鏡をしている。
「生徒会長……」
「まぁそれも間違っていないけどさ、俺の名前は葵川(あおいがわ)だよ。ていうかこのセリフ、何度目だよ」
苦笑して名乗った葵川くんは、要一と同じ文系クラスの生徒で、中・高と生徒会長をしている学内の有名人だ。委員会の活動中にときどき話すことがあるけど、それほど親しくない。こうして学校の外でまで声をかけてくるなんて意外だった。
驚いている俺に、葵川くんはごく自然に話しかけてくる。
「こんなところで会うなんて偶然だね。買い物かな? 俺は生徒会の後輩たちに暑中見舞いのあと、そこの本屋に寄ってたんだけど」
アゴで示したのは、駅ナカの大型書店。参考書や文具がひととおり揃っているので俺もよく利用している。生徒会長が開いて見せてくれた紙袋には、何冊かの過去問題集が入っていた。
志望先は俺と同じ国立大学で、葵川くんは文学部を目指しているそうだ。そう自分のことだけ告げて、俺にはとくに聞いてこなかった。俺が病院の跡継ぎで医学部を目指しているのは、同級生の誰もが知っていることだからだろう。
「正真くんの方はどう、勉強は順調に進んでる?」
その質問には曖昧に笑って交わす。先週の模試の結果が最悪で要一を怒らせたばかり。思い出してまた胸が痛くなってきた。俺にとって、誰よりも俺のことを考えてくれる要一に幻滅されるのが何よりも辛い。
「あのさ……俺、実はいま塾をサボってここにいるんだ。その、ちょっとだけ気分転換のつもりで……。だから、このことは要一に言わないでくれる?」
切実な思いで葵川くんに頼んだ。
「そうだったんだ、どおりでずっとそわそわしてると思った。了解、二人の秘密にしよう。そもそも正真くんと一緒にいたなんて、わざわざ要一くんに言わないよ。絶対めんどくさいじゃん」
「それもそうだね」
自意識過剰だったと恥ずかしくなる。葵川くんが俺なんかを気にするわけがない。
「そのかわりって言ったらなんだけど……」
ほっと緊張を解いたところで、葵川くんにぐっと肩を捕まえられた。
「正真くんはお昼ごはんはもう食べたの。もしまだなら一緒にどう? 最近この近くにハワイのハンバーガー店がオープンしたんだけど行ったことある? インスタとかで話題になってるらしいよ」
「ううん、全然知らない……」
「俺ずっと看板メニューのパイナップル入りバーガーが気になってたんだ。せっかくだから付き合ってよ」
「…………」
そっと後ろを振り返る。高成さんはまたナンパにあっているところだった。プレゼントだけ渡して帰ってもらうつもりで来たけれど、いざ目の前にすると怖気づいて話しかけられなかった。
「…………じゃあ、行く」
「嬉しいな。誘ってみるもんだね」
葵川くんに案内されるまま交差点を渡り、俺は駅前を後にした。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
[急募]三十路で童貞処女なウザ可愛い上司の落とし方
ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
\下ネタ上等!/ これは、そんな馬鹿な貴方を好きな、馬鹿な俺の話 / 不器用な部下×天真爛漫な上司
*表紙*
題字&イラスト:木樫 様
( Twitter → @kigashi_san )
( アルファポリス → https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/266628978 )
※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください
(拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!)
営業課で業績最下位を記録し続けていた 鳴戸怜雄(なるどれお) は四月、企画開発課へと左遷させられた。
異動に対し文句も不満も抱いていなかった鳴戸だが、そこで運命的な出会いを果たす。
『お前が四月から異動してきたクソ童貞だな?』
どう見ても、小学生。口を開けば下ネタばかり。……なのに、天才。
企画開発課課長、井合俊太(いあいしゅんた) に対し、鳴戸は真っ逆さまに恋をした。
真面目で堅物な部下と、三十路で童顔且つ天才だけどおバカな上司のお話です!!
※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※ 2022.10.10 レイアウトを変更いたしました!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる