ひみつは指で潰してしまえ

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番外編・高成バースデー記念SS・『真END』

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○2○ ○


 駅前の木陰にぽつんと一人、心細そうに立っていた。落ち着かない様子でしきりにあたりを見回して、俺のことを探している。


 久しぶりに見た高成さんは相変わらずハンサムで、姿勢の良い立ち姿が人混みの中でよく目立っている。


 男の人からも女の人からも頻繁に声をかけられて、断るのが大変そうだ。全く相手にされていないのにいつまでもしつこく立ち去らない人もいる。ようやく追い払って一人になると、またキョロキョロと周囲に目を配っている。今日はすごく暑いんだからさっさと帰ればいいのに……。


「正真くん!」


 不意に後ろから肩を掴まれ、息を呑んだ。よく知ったグレーの制服と黒髪。まさかこんなに早く要一に見つかるなんて。でもすぐに勘違いだと気づく。俺を見下ろしている彼は、要一より背が高くて銀縁の眼鏡をしている。


「生徒会長……」


「まぁそれも間違っていないけどさ、俺の名前は葵川(あおいがわ)だよ。ていうかこのセリフ、何度目だよ」


 苦笑して名乗った葵川くんは、要一と同じ文系クラスの生徒で、中・高と生徒会長をしている学内の有名人だ。委員会の活動中にときどき話すことがあるけど、それほど親しくない。こうして学校の外でまで声をかけてくるなんて意外だった。


 驚いている俺に、葵川くんはごく自然に話しかけてくる。


「こんなところで会うなんて偶然だね。買い物かな? 俺は生徒会の後輩たちに暑中見舞いのあと、そこの本屋に寄ってたんだけど」


 アゴで示したのは、駅ナカの大型書店。参考書や文具がひととおり揃っているので俺もよく利用している。生徒会長が開いて見せてくれた紙袋には、何冊かの過去問題集が入っていた。


 志望先は俺と同じ国立大学で、葵川くんは文学部を目指しているそうだ。そう自分のことだけ告げて、俺にはとくに聞いてこなかった。俺が病院の跡継ぎで医学部を目指しているのは、同級生の誰もが知っていることだからだろう。


「正真くんの方はどう、勉強は順調に進んでる?」


 その質問には曖昧に笑って交わす。先週の模試の結果が最悪で要一を怒らせたばかり。思い出してまた胸が痛くなってきた。俺にとって、誰よりも俺のことを考えてくれる要一に幻滅されるのが何よりも辛い。


「あのさ……俺、実はいま塾をサボってここにいるんだ。その、ちょっとだけ気分転換のつもりで……。だから、このことは要一に言わないでくれる?」


 切実な思いで葵川くんに頼んだ。


「そうだったんだ、どおりでずっとそわそわしてると思った。了解、二人の秘密にしよう。そもそも正真くんと一緒にいたなんて、わざわざ要一くんに言わないよ。絶対めんどくさいじゃん」


「それもそうだね」


 自意識過剰だったと恥ずかしくなる。葵川くんが俺なんかを気にするわけがない。


「そのかわりって言ったらなんだけど……」


 ほっと緊張を解いたところで、葵川くんにぐっと肩を捕まえられた。


「正真くんはお昼ごはんはもう食べたの。もしまだなら一緒にどう? 最近この近くにハワイのハンバーガー店がオープンしたんだけど行ったことある? インスタとかで話題になってるらしいよ」


「ううん、全然知らない……」


「俺ずっと看板メニューのパイナップル入りバーガーが気になってたんだ。せっかくだから付き合ってよ」


「…………」


 そっと後ろを振り返る。高成さんはまたナンパにあっているところだった。プレゼントだけ渡して帰ってもらうつもりで来たけれど、いざ目の前にすると怖気づいて話しかけられなかった。


「…………じゃあ、行く」


「嬉しいな。誘ってみるもんだね」


 葵川くんに案内されるまま交差点を渡り、俺は駅前を後にした。



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